私の赤ちゃんが変! 妊娠・出産・育児が怖すぎる映画『Mother’s Baby』
もう、妊娠・出産・育児は怖い!と結論付けていいのではないか。
シッチェス国際ファンタスティック映画祭(2025)で見た『Mother’s Baby』はまたもやそれらを怖がる心理ホラーだった。
新しい命を宿すというのは崇高で神秘的で、男にはできない尊敬に値する行為であり、人類が今にあるのもそのおかげなのだが、反面、恐ろしい行為である。違和感があって、不快で、痛くって、体形が崩れ、夜も寝られず、仕事も娯楽も時間も犠牲にせねばならず、しかも当事者兼被害者は女性のみという一方的で不公平な、男女平等時代に相応しくない行為でもある。
男だって協力する、という反論もあろう。が、痛いのは誰ですか? 血を流したりメスを入れられるのは誰ですか? 体形や体調を崩すのは誰ですか? 母乳を出すのは誰ですか? 社交やお酒を諦めるのは誰ですか? 産休を多く取るのは誰ですか? 家に物理的に縛られるのは誰ですか?
妊娠・出産・育児には根源的な恐怖、肉体的な恐怖、社会的な恐怖(休職など)があるからこそ、これだけホラーが撮られるのだろう。
■妊娠・出産・育児ホラーの特徴
主人公は女性で孤独である
当事者兼被害者は女性なので当然こうなる。男はいろいろやるがしょせんサポートに過ぎず、ストレスから夫婦喧嘩になると「君が子供を欲しがったんだろ!」という必殺のセリフを浴びせ、あまつさえ実家の母親と共謀して駄目ママのレッテルを貼ったりして、主人公を追い込んでいく。「この赤ちゃんが変」とか「あの医者には裏の顔がある」とか「助産婦がおかしい」とか「ご近所のママが干渉しすぎる」とかを敏感に察知するのは女。鈍感な夫が「君の気のせいだよ」と済ますうちに恐怖は広がっていく……。
主人公がおかしくなっていく
妊娠・出産・育児はそれだけでストレスフルで、マタニティブルーとか産後鬱とか育児ノイローゼとかに苦しむことは普通にある。そんな時に疑わしい出来事が起き、いくら訴えても周囲(夫や担当医や夫の実家や職場の同僚やご近所のママ)の無理解が重なって主人公はどんどん孤独になり、心理的に追い込まれていく。明らかに奇妙なことが起こっているといくら訴えても、マタニティブルーとか産後鬱とか育児ノイローゼとかのレッテルを貼られて終わり。そのうち主人公自身が自分の正気を疑うことになればクライマックスは近い。
解決は主人公に丸投げ。バッドエンド多し
お話が進むにつれてどんどん孤独になっていくので、当然、クライマックスの謎解きや解決を行うのも主人公自身である。で、一人では手に負えない大事件や陰謀が隠れていたりするので、しばしばバッドエンドのまま終了する。主人公の絶望と引き換えに、見ている方は「ああ、やっぱりそうだったか」という小さな満足感を得る。
■見るべき、妊娠・出産・育児ホラー&ファンタスティック
名作『ローズマリーの赤ちゃん』(1968年)
リメイクや続編や前日譚などいろいろあるが、何と言ってもロマン・ポランスキー版が一番で、絶対に見るべき。これを見ればいろんな作品が影響を受けていることがわかる。
『ザ・ボーン・ウーマン』
肉体的な苦痛に特にフォーカスした作品。出産は「骨が砕けて体が二つに引き裂かれる思い」というセリフがあるけど、そこまで痛いのか! ホラーとしても妊娠と出産の現実としてもかなり怖いゆえに、妊婦さんは見ない方がいい。
見たらますます少子化しそう。ホラー映画『ザ・ボーン・ウーマン』
『ビバリウム』
母性は種の違いを超えるのかを問う凄いお話。女と男の役割分担についても考えさせられる。よく考えると童話『桃太郎』もそんなお話で、比較しながら見ると面白い。
見ず知らずの赤ん坊を育ててしまうのはやはり女? 映画『ビバリウム』(ややネタバレ)
『ナイトビッチ』
皮肉が効いたファンタスティックコメディ。見れば、育児についての理解と男の無理解への理解が深まる。夜中に叫んで走りたくなる気持ちがよくわかる。母であることにネガティブにもポジティブにもなれるが、最後に頼りになるのは、大変なイベントを経験した同志である女同士なのだ。
映画『ナイトビッチ』。育児してみたら、自分も動物、子供も動物だった
番外『エイリアン:ロムルス』
エイリアンシリーズの中では、オリジナルの若者版リメイク、というほどの意味合いしか見い出せず評価をしないけども、唐突な妊婦への、まるで彼女を嫌悪しているかのような残酷極まりない扱いがインパクト大。そもそも腹を喰い破って出て来るエイリアン自体が妊娠と出産への恐怖への隠喩だと言われており、『プロメテウス』でも主人公がエイリアンを“堕胎”するシーンがあった。
『エイリアン:ロムルス』が、若者版“エイリアンごっこ”になったわけ
『Mother’s Baby』80点!
最後まで持続する緊張感は◎。ラストの謎解きにもう一つ謎を持ってきて終了、というのがマイナス分
※写真提供はシッチェス映画祭