生理中の水泳授業の強制
今夏、高校の体育教師が、水泳授業の見学を申し出た女子生徒に「生理の経過日数(生理の何日目か)」を申告させていたことが明らかになり、問題視された。
また、全国各地で生理中の水泳授業の強制が問題視されているが、いずれも“問題視”されるようになったのが最近であるというだけで、同様のことは長年にわたり多くの学校で行われてきた。
これまで問題視されなかったのは、生理が語るべき対象ではなかったからだ。理不尽だと感じても、女子生徒たちは声を上げることができなかったのだ。
時代とともに月経観が少しずつ変化し、女子生徒が声を上げ、メディアが生理を取り上げるようになった。生理について語ることはタブーではなくなったのである。
それならば生理の日数くらい尋ねてもいいのではないか、と思われそうだが、それとこれとはまた別の話なのだ。
「先輩は4日目でもプールに入っていた」
今年6月、滋賀県の県立高校の体育教師が、生理を理由に水泳授業の見学を申し出た女子生徒に、生理の何日目なのかを尋ねた上に、「8日目なら水泳できるやろ。先輩は4日目でもプールに入っていた。(内申の)点数が減るだけや」と言ったことが発覚し、問題視された。
たしかに「平均値」に照らせば、8日目はほとんど出血はないため、教師が「できるやろ」と言いたくなるのもわかる。しかし、生理期間や経血量には個人差があるため、8日目だから「できる」とは限らないのだ。
この件では、教師が男性であるということで、より非難を浴びたようだが、女性教師でも同様のことを言う人はいる。生徒にとっては、同性教師の無理解の方が、より辛いかもしれない。
SNSには、「生理でお腹が痛いから、体育の授業を見学したいと言ったら、女の先生から『生理は病気じゃない』と言われ、とりあってもらえなかった」「見学を申し出たら、『運動した方が生理が軽くなる』と言われ、休ませてもらえなかった。自分が生理痛が軽いからといって、みんな同じだと思ってほしくない」といった声も上っている。
男女問わず、生理についての知識が不十分だということが、こうした齟齬を生み、生徒たちの心身に負担を強いている。
重篤な月経痛を抱えている生徒もいる
大阪市の市立中学校が、「生理中も基本的に水泳の授業に参加すること」といった半ば“強制”ともとれる内容のプリントを配布していたことも問題視された。
あくまで「基本的に」なので、生理痛が重い場合などは見学が認められるのだろうが、この文言を見て憂鬱になった女子生徒は少なくないだろう。
大阪市は、「水泳を実施することで月経に伴う諸症状が悪化することはない」という「科学的な研究」に則っているとした上で、今後、生徒や保護者に誠実に対応していくと説明している(大阪市ウェブサイト)。
しかし、「悪化」はしなくても、もともと重篤な月経痛(腹痛、頭痛、腰痛など)を抱えている生徒もいる。水に入り体が冷えることで、悪化するということもあるだろう。
したがってこの一文は、“そもそも生理中は体調が悪い生徒が少なくない”ということを踏まえて読む必要がある。
プールサイドで経血が流れ…
「生理は病気ではない」という考え方から、水泳のみならず、体育の授業一切の見学を認めないという教師もいるが、“病気でなくとも”不調のときは見学が認められるべきである。
これは、体育の授業が「教育」を目的としているのか、それとも「教化」を目的としているのかを考えれば明白だ。個々の生徒の事情を無視した独善的な指導は、「教育」とは言えない。
生理中の水泳を肯定する根拠として、「水中では水圧がかかるため、経血は出づらい」といった見解も挙げられるが、生徒たちはプールサイドで経血が流れ、人目に触れることを恐れているのである。
水圧によって押さえられていた経血が、プールサイドに上った途端、いっきに排出されるということは、想像に難くない。
もちろん、月経という生理現象は恥ずべきものではない。経血ももはや、かつてのように「不浄視」の対象とはされていない。
しかし、普段は高性能のナプキンやタンポン、サニタリーショーツなどで経血漏れを完璧にカバーしている生徒たちに、水泳授業のときだけ経血を恥ずかしがるなというのは、いくらなんでも無理がある。
タンポンを使用すれば、プールサイドでの経血漏れも防ぐことができるが、大人でもうまく挿入できない、あるいは挿入することが怖いという人が少なくない。
したがって、生理中の水泳を強制され、仕方なくタンポンを使用するといった状況を作るべきではない。
ちなみに、日本産科婦人科学会の小児・思春期問題委員会が1989年に発表した「月経期間中のスポーツ活動に関する指針」では、小中学生のタンポンの使用は好ましくないとされている。
100年以上経っても変わらない
先にも述べたが、水泳授業を「教育」として行うならば、見学を申し出た生徒に強制すべきではない。
かつて文部省(当時)が、全国の女学校に、女学生たちの生理日を把握するよう通達を出した時代があった。
「富国強兵」のスローガンのもと、将来の母体となる女学生たちの月経を管理しようとした明治時代のことである。
具体的には、「女子は頭を使うと将来の妊娠、出産に差し支えが生じる」という “医学的根拠”に基づき、生理中は数学の試験を受けさせないといった“指導”が行われた。
生理中は試験を免除されることと、生理中でも水泳授業に参加させられることは、対極にあるようで、実は似ている。
教育現場での生理の扱いが、100年以上経っても変わらないのは、長い間、生理について語ることが避けられてきたからだろう。
生理は「恥ずかしいこと」でもなければ、「隠すべきこと」でもない。しかし、「恥ずかしい」「隠したい」という気持ちも尊重しなければならない。
生理について語る語らない、生理中に泳ぐ泳がないは、女子生徒本人が決めることである。
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