【レポート②中編】性的なネット広告の問題点(ネット利用者個人の視点)
〜無差別に表示される性的なインターネット広告のゾーニング(すみ分け)を目指して〜
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3. 性的なネット広告の問題点
前編では青少年に関わる性的なネット広告の問題点を挙げた。中編からは全年齢に関わる内容を展開する。
中編では性的なネット広告が利用者へ直接的にもたらす影響について「ネット利用者個人の視点」と題して問題を提起する。
3-2.意図せず見せられることによる精神的苦痛(ハラスメント)
現在のインターネットでは、例えば料理やニュースについてなど、非性的な言葉で検索した結果として表示されるサイトを開くと、年齢認証や警告もなく、サイトの内容とは無関係の露骨に性的な広告が含まれていることがある。それらのサイトには誰もがアクセスできるが、ネット利用者はそこに表示される性的な広告を見るかどうか選択する権利を与えられないまま一方的に見せられてしまう状態である。
前編の3-1-2でも説明した通り、性的なネット広告には性的刺激を目的としたポルノグラフィーが含まれている。ネット利用時にそれを意図せず見せられることは、視覚型の性的嫌がらせであり、ハラスメントにあたるのではないだろうか。
ハラスメントの定義は、「相手に不快感や精神的な苦痛を与える行為[1]」といわれている。
既存の考え方を例に挙げると、「職場に露出度の高いポスターを貼ったり、パソコンのスクリーンセーバーに卑猥な画像を設定したりすること」は、環境型セクシャルハラスメント[2]にあたるとされている。この例では性的な画像を見せられることは性的な嫌がらせであり、人権問題と認識されている点に留意したい。
現状では、性的なネット広告が出ることを事前に警告するサイトやアプリはなく、利用者が前もって避ける方法はない。またサイトによってはメインの内容を覆い隠すように広告が多数表示され、非表示にする方法もわかりにくいことがある。このように、広告を避けることが難しいという「強制視認性」も問題である。
武蔵野美術大学の志田陽子教授は、ゾーニングされた環境の中の表現は否定されるべきではないとする一方で「駅構内やネット広告など公共性の高い場所での、見る側の合意がないままに目に入ってしまう表現は、感受性保護のために慎重になるべき[3]」と述べている。この見解は、公共性の高い場において、利用者が望まない表現に接触させられることへの問題意識を示したものといえる。
これらの点を考慮すると、非性的なサイトやアプリにおいて警告もなく表示される性的なネット広告は、ネット利用者に対して精神的苦痛を与えるハラスメントの要素があると考えられる。
なお、一部では「性的なコンテンツを普段見ているから性的なネット広告が表示されるのだ」という自己責任論が散見されるが、その認識は誤り[4]である。また、利用者の閲覧傾向を理由に望まない広告表示を受け入れるよう求めることは、広告表示の適切性という本来検討すべき論点から逸れた主張である。広告表示の問題を利用者側の責任のみに帰することは、広告の表示方法や広告配信のあり方そのものを改善する機会を失わせるおそれがある。
3-3. 性的フィクションの「教科書化」
性的な広告の多くは、ポルノグラフィーの一場面を切り抜いたものである。ポルノグラフィーはあくまで商業的な娯楽作品であり、現実とは異なる演出や誇張が多分に含まれている。しかし現実では、性に関する十分な知識を持たない子どもや青少年だけでなく、大人であっても、フィクションと現実を十分に区別できない場合があることが指摘されている。[5]
日本の性教育は、いわゆる「歯止め規定」や過去の性教育バッシングの影響[6]から包括的性教育[7]の導入が遅れているため、本来科学的で正しい知識を学ぶべき場である学校で、実態に即した教育が行われない状況が続いている。[8]
そのため、若年層から中高年層まで、多くの人の「教科書」となってしまっているのが、アダルトビデオをはじめとする性的な娯楽コンテンツやインターネット上の真偽不明の情報[9]である。
性教育やメディアリテラシーが十分でない場合、 ネット広告という形で一般的なサイトに現れるポルノグラフィーやネット上の真偽不明な性に関する情報を、現実あるいは正しい知識として受け止めてしまう人が一定数存在することが考えられる。これには以下のような重大な懸念がある。
性的同意の軽視・加害者になるリスク
作品では、強引な行為や拒絶を無視した性交、また犯罪をテーマに描かれていることがある。これらは性的同意の概念を著しく損なうだけでなく、現実に行えば性暴力となる。
健康と安全を守る意識の欠如
作品では、避妊具の使用、望まない妊娠のリスク、性感染症対策、現実に起こる体の仕組みや痛みの知識など、健康と安全に関わる基礎知識などがしばしば省略される。
価値基準の歪み
特定の身体的特徴やパフォーマンスを強調する表現により、それが価値の基準となり、自身の体に対する過度なコンプレックスや、他者に対して過剰な期待を抱く原因となる。
職業や属性に対する偏見
作品では、看護師、教師、警察官、客室乗務員、学生など、実際に存在する職業や属性がテーマとして扱われることがある。現実には、これらの職業・属性は、性的要素とは全く無関係である。作品と混同して性的な想像に基づいた行動をとった場合、それはセクシャルハラスメントや性暴力となる。
これらの懸念を改善する考え方として、当会からは「ゾーニング」を提案している。現状では、ポルノグラフィーなどのフィクションが広告という形で日常生活に溶け込んでいるため、フィクションと現実の境界が不明確になっている。ゾーニングは、その境界を社会的に示すことが期待できるため、フィクションはあくまでフィクションであり現実とは違うという認識を持ちやすくする効果があると考える。
ただし、この問題については正しい性教育がなければ根本的な解決には繋がらないだろう。文部科学省では、2023年から「生命(いのち)の安全教育[10]」という名目で、子供たちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目的とした性教育の推進をしているが、学校現場の教育環境の整備や、包括的性教育の導入、メディアリテラシー教育の推進など、多角的に問題解決へ取り組むことも必要であると考える。
なお、当会からの具体的な解決案は、レポート③で紹介する予定である。
3-4. 性的倒錯(パラフィリア)を引き起こす懸念
性的なネット広告には明らかに未成年と思わせるようなキャラクターに対する性行為が描かれていることがある。また、同意にもとづく性行為ではなく、性暴力を受けている描写も多い。さらに言えば、性暴力を受けているのに快楽を感じている、という描写もしばしば見られる。
これらの行為は、現実社会で実行すれば犯罪となる事も含んでいる。
精神医学では「一般的な社会規範や文化的価値観から逸脱した対象や状況に対して、反復的かつ持続的に性的興奮を覚える状態[11] 」を「パラフィリア」という。その状態から「本人に苦痛を与えているか、本人の日常生活に支障をきたしているもの、もしくは他者に危害を及ぼしているか、その可能性があるもの[12]」へと発展した場合「パラフィリア症」という精神疾患となる。
冒頭の広告表現はパラフィリア症の分類ではそれぞれ児童性愛症、性的サディズム症、性的マゾヒズム症に関連する。その他、パラフィリア症には、接触性障害(痴漢)や窃視症(盗撮)など、犯罪と関わる症状が挙げられる。
パラフィリア症の原因は完全に解明されていないが、下記3つが複合的かつ複雑に絡み合って発症すると考えられている。
①生物学的要因
脳の構造や機能の異常、神経伝達物質のバランスの乱れ。
②心理的要因
幼少期のトラウマや性的体験、対人関係やストレス管理の未発達。
③社会的要因
環境の影響や社会的孤立、性的教育の欠如や不適切な情報。
https://medi-face.co.jp/mental_disorders/ds19/#htag3
当会は冒頭にあげたような広告表現を見せつけられることが、③の社会的要因に含まれると考える。
成人がポルノグラフィーを鑑賞すること自体は、趣味・嗜好の範疇であるが、パラフィリアに関連する広告を当たり前のように目にする現在の状況は、本来かなり内密的である価値観が公に許容された価値観として誤認される恐れがある。また、パラフィリアを密かに抱えている者の欲求を刺激し、犯罪に関わる行為へと後押ししてしまう可能性があることを憂慮する。
しかし、フィクションであるポルノグラフィーが実際の犯罪や疾病など社会へ与える影響を科学的に解明するための研究は、倫理的観点から不可能に近く、それは性的広告が個人に与える影響についても同様である。警鐘を鳴らす根拠は?と問われれば、現状、相関関係は様々な研究結果によって示されているが、因果関係は解明されていない、という回答になる。
一方、マーケティングの世界では心理学を応用した手法が広く採用されている。「プライミング効果[13]」は、その一例だ。あらかじめ受けた刺激が無意識のうちに行動に影響を与える心理効果とされる。例えば、スーパーでは陳列棚の目の高さにある商品が最初に目に入るため、それがプライマー(刺激)として作用し、商品を選ぶ時に、ついその商品を手に取ってしまう人が多くなる。
広告はこの効果を応用し、明確な意図を持った刺激から効率的に消費者の反応の獲得や行動を促すことを目的として作られている。言い換えれば、広告表現は見た者のその後の行動に意識無意識問わず影響を与えうる力が強いということが言えよう。
同じように潜在意識に働きかける手法において、現在禁止されているものがある。よく知られた存在であるサブリミナル効果は、意識しても通常見えない・聞こえないほどの微弱な刺激を与え、潜在意識に働きかける手法で、受け手の自由な意志や行動が意図せず操作される(マインドコントロールされる)懸念があるため、日本では1990年代に日本民間放送連盟において禁止された。現在、映画や広告を含むすべての放送媒体は自主規制[14]している。
このように、広告はその手法によっては人間の意識を変え得る重大な影響力があるものだというリテラシーが改めて必要であり、公共性の高い空間においてパラフィリアと関連のある広告の氾濫を放置することは、個人をいたずらにパラフィリア症へと誘い、自身の健康、果ては他者の安全を脅かす結果を招く可能性を排除できないと考える。
※引用元に基づき「児童性愛症」とした表記について、当会は厳密には「小児性暴力[15]」という表現が適切と考えます。
※近親姦はパラフィリアとは別の問題となるようですが、当会はこれについても本項の提起に含めて考えます。
3-5. 「知る権利」の観点から見た問題
これまで、性的なネット広告には青少年にとって有害な影響を及ぼす情報となるリスク、ハラスメントの要素があることや、現実との区別がつきにくくなるリスクがあることを説明した。
一部のネット利用者は、そうしたストレスやリスクを回避するために、広告ブロッカーの利用や、性的なネット広告が表示されるサイトやアプリは利用しないといった判断を余儀なくされている。ここでは、この問題を「知る権利」の観点から考えてみたい。
「知る権利」は、憲法学上、国民主権の理念を背景に表現の自由を定めた憲法第 21 条に根拠付けて主張されることが多いが、2017年の衆議院憲法審査会の記録では以下のように述べられている。
「知る権利」を支える価値としては、第一義的には、国民が広く公共的事項についての情報を受け、求めることにより、政治的な意思を形成し、民主的な政治過程への参加を確保するという参政権的性格に求められ、他方で、国民がさまざまな意見、知識、情報に接し、これを摂取する機会を持つことにより、その者が個人としてその思想・人格を発展させるという個人権的性格をも有する、という見解が有力である。
立法趣旨 (1)知る権利の法的性格 イ 参政権的性格と個人権的性格
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_kenpou.nsf/html/kenpou/1930601miki.pdf/$File/1930601miki.pdf
この見解は、「知る権利」が国政・行政情報(参政権的性格)にとどまらず、個人が思想・人格を発展させる機会(個人権的性格)として広く解釈されていることを示している。
情報の入手手段がネットに一極集中している現代[16]において、性的なネット広告が野放図に表示されている現状は、この「個人権的性格としての知る権利」を侵害している可能性がある。
例えば、性的なネット広告が表示されたことにより「今後そのサイトやアプリの利用をやめる」「広告が表示されたキーワードで検索することをやめる」といった判断をした場合、結果として個人の意に反して情報の取得可能範囲を制限された環境が作られていると言える。
また、性的な広告を避けるために広告ブロッカーを利用した場合、すべての広告が非表示になるため、性的ではない広告による未知の商品や情報と出会う機会を失うことになる。
これらはどちらも個人の知る機会を損ねており、情報収集にハンディキャップが生じていると言える。
このように、性的なネット広告を利用者が意図せず見せられることが野放しになっている現状では、利用者の自由な検索が阻まれることがある。このことは、利用者に自衛的な対策を一方的に迫る状況をもたらしている。これは、誰もが障害なく情報へアクセスし、必要な情報を得る機会を損なうものであり、「知る権利」の観点からも問題として捉えられるのではないだろうか。
次回予告
次回は後編「社会への影響・企業の視点」を公開する。
参考文献
[1] ALL DIFFERENT."ハラスメントとは?定義・種類・原因・対策を簡単にわかりやすく解説(更新日:2026.02.06)".
https://www.all-different.co.jp/column_report/column/harassment/hrd_column_181.html
[2] Schoo for Business."環境型セクハラとは?具体例や企業ができる対策を解説(更新日:2024.06.20)".
https://schoo.jp/biz/column/546
[3] ENCOUNT."性的表現は女性差別を助長する? 相次ぐ炎上なぜ…憲法学者が語る「表現の自由」との線引き(2023.07.19)".
https://encount.press/archives/488011/#goog_rewarded
[4] HUFFPOST."エロ広告を見るのは自業自得? 疑問に答えます。(2019.11.19)".
https://www.huffingtonpost.jp/entry/yu-koseki_jp_5dd34650e4b0263fbc998bf4
[5] imidas."性知識イミダス:ネットのアダルトコンテンツについて考えよう(前編)~「アダルトコンテンツ=性の教科書」論の何が問題なのか(2021.08.02)".
https://imidas.jp/series/l-88-023-21-08-g241/
[6] 日本大百科全書(ニッポニカ)サンプルページ."性教育".
https://japanknowledge.com/contents/nipponica/sample_koumoku.html?entryid=2921
[7] ユネスコ."国際セクシュアリティ教育ガイダンス【改訂版】(2020年8月10日 初版第1刷発行)".
https://unesdoc.unesco.org/ark:/48223/pf0000374167/PDF/374167jpn.pdf.multi
[8] 朝日新聞."性の情報が小5の息子のスマホに 「学校で性教育を」望む保護者たち(2026.05.24)".
https://www.asahi.com/articles/ASV5L2J84V5LUTIL001M.html
[9] ジョイセフ."わたしたちのSRHR 性と恋愛 2025【セクシュアル・ヘルスについて】".
https://joicfp.or.jp/srhr/data-srhr/sex-love-survey2025/2025-04/
[10] 文部科学省."生命(いのち)の安全教育".
https://www.mext.go.jp/a_menu/danjo/anzen/index2.html#materials
[11] Medi Face,Ltd."パラフィリア症".
https://medi-face.co.jp/mental_disorders/ds19/#htag0
[13] HubSpot."プライミング効果とは?マーケティングやビジネスへの活用例を解説(更新日:2024.10.01)".
https://blog.hubspot.jp/marketing/priming-effect
[14] 一般社団法人 日本民間放送連盟.”日本民間放送連盟 放送基準 8章 表現上の配慮(2023年5月24日改正 2024年4月1日施行)”.https://j-ba.or.jp/category/broadcasting/jba101032
[15] ブックマン社."「小児性愛」という病――それは、愛ではない".
https://bookman.co.jp/book/b487260.html
[16] 総務省."第Ⅰ部 特集 広がりゆく「社会基盤」としてのデジタル 第1節 社会基盤的機能を発揮するデジタル領域の拡大 (4) 情報収集手段(2025年7月)".
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/html/nd111140.html



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