【レポート】無差別に表示される性的なインターネット広告のゾーニング(すみ分け)を目指して
日本では以前より、年齢制限のないウェブサイトに突如として性的な広告が表示されることがあるため、こどもを含む多くの人が目にしている状態である。ウェブサイトの内容に関係なくそのような広告が表示されるため、ゲーム攻略サイト、ニュースサイト、料理レシピサイト、スマートフォンのアプリなどでも遭遇する。
それらの広告には、女性の胸や臀部を過度に強調させているものや、性行為の描写、時には未成年と思われるキャラクターを含む登場人物への性暴力など犯罪行為を描いたものまである。
本文書は、性的なネット広告の現状と課題を明らかにし、具体的な解決策を提示するレポート(当会作成)の要旨をまとめたものである。
■当会と署名活動「性的なネット広告ゾーニングしませんか?」について
2024年9月23日オンライン署名サイトchange.orgにて署名活動開始。
発起人:香川きょう(仮名)
その後、賛同者である一般市民の有志が参加し活動中(計10名)。
性的な作品自体の規制ではなくゾーニング(すみ分け)の必要性を訴えるもので、2025年6月2日時点で102,452筆の署名が集まる。
当初よりこの問題解決のために何より大切なことは、性的なネット広告問題を社会問題として表面化することであると考え、ゾーニングを実現するための世論形成を目指して活動を続けてきた。
■性的なネット広告の問題点
【ネット利用者の視点】
青少年の健全な育成の観点
成人であっても意図せず見せられる精神的苦痛(ハラスメント)
性的な広告を避けるためネットの使用方法に制限が生じて、知りたい情報を得られない場合がある(知る権利の侵害)
【社会への影響】
性に関して誤った知識、認識や価値観を持たせる懸念(レイプ神話を含む)
女性を公に性的な目線で見ることを社会が肯定する構造になっているために、無意識下のジェンダーバイアス(性別に基づく固定観念)や女性差別を助長する懸念
【広告媒体の視点】
サイト・アプリ側が同意していない広告が掲載されることで企業の評判低下につながるリスク(例:オレンジページに表示された意図しない性的なネット広告)
■性的な広告についてゾーニングが必要と考える理由
2023年のインターネット利用率は86.2%であり、13歳から59歳までの年齢階層では利用率は95%を超えている。インターネットはすでに一部の人のものではなく、ほとんどの人に関わるものであり、生活必需品として日常的に使用するものである。
広告は、「広く世間に告げ知らせること」(広辞苑)を目的とした宣伝の手段であり、利用者から見て受け身的に入ってくる情報である。広告が掲載されているということは不特定多数の人から見られることを
前提としており、インターネットは公共の性格を持つ場と考える。
性的な表現については他の表現とは違い、青少年の健全な育成・青少年保護の観点から18歳未満にはむやみに見せるべきではないという社会通念上の考え方がすでにあり、また成人においても既存のメディアの基準において暴力的な表現・反社会的な内容などと並び自主規制の対象とされている事実がある。後述の一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(以下JIAAと記載する)のガイドラインよりインターネット広告業界の掲載基準でも性に関する表現が露骨なものは掲載すべきではないとされており、倫理・モラルの観点からゾーニングすることが望ましいと考える。
■当会が提案する性的なネット広告のゾーニングの基準
当会は「非性的な単語で検索した結果表示されるサイトや未成年も利用できる非性的なアプリに年齢制限も警告もなく、裸や性行為の描写、R18指定作品の広告が表示されること」を問題と考えており、アダルトサイトにおける性的な広告や、性的な単語で検索した場合に表示されるリスティング広告については問題としていない。
具体的な基準については、不明確であると規制が際限なく進むことへの懸念の声もあるため、当会としては下記①R18指定の創作物の広告、裸、性行為の描写、という具体的なラインを提唱している。④テレビや新聞、公共交通機関などのメディアで掲げている基準は②③のJIAAの基準のように抽象的ではあるが、多くの人々の納得のいくラインで自主規制がなされており、現実的にはインターネット業界でも具体的な文言を必要とするものではないと考える。
①R18指定の創作物の広告、裸、性行為の描写
②一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)の「掲載基準ガイドライン」より
『性に関する表現が露骨なもの』
③同協会の「不適切な広告クリエイティブ事例集」より
『過度な肌露出があるもの、性行為を連想させるなど性に関する表現が露骨なもの』
④テレビや新聞、公共交通機関などのすでにゾーニングがされているメディアの基準
■既存の代替案とその問題点
【フィルタリング】
フィルタリングによって使用できないサービスやアプリがあり不便であるため解除されるケースがある。また、サイト・アプリ単位でのフィルタリングであるためそのサイトやアプリの内容に問題がなければフィルタリングを通過してしまう。
【広告ブロッカー】
特定の広告を避ける目的で広告ブロッカーが使用される場合、関係のない広告も併せてブロックされてしまうため、結果として広告全体の機会損失となってしまう。
広告を表示させないためのプレミアム料金を設定しているサイト・アプリなどでは不当に支払いを免れていると解釈される恐れがある。
広告の本来の役割(ユーザーにとってはお得情報を得られる・思いがけない商品と出会える、広告主にとっては自社の製品を知ってもらい購入してもらう機会を作れる)が失われてしまう可能性がある。
【ターゲティング技術の向上】
個人情報保護を目的としたサードパーティcookieの規制により閲覧履歴を利用した広告出稿は今後さらに困難となる。また、例えばGoogle adsの設定では広告主は1000個以上のカテゴリーから自社のコンテンツに合致したカテゴリーを選択できるようになっているが、性的なコンテンツに関しては設定が「男性向け(成人対象)」のみと大雑把であり、年齢によるターゲティング設定ができないようになっている。
■当会が目指すゾーニング像
年齢制限のない一般的なサイトやアプリに掲載される性的な広告について、青少年保護の観点から本来は閲覧の制限が必要な青少年(未成年)や、成人であっても見たくない人が意図せず見せられる現状を改善するため、表示される場をゾーニング(すみ分け)することを求めている。
■解決へ向けた3つのアプローチ
1. 広告媒体(サイト・アプリ)が望まない性的な広告が掲載されてしまうことへの対処
広告掲載においては、媒体側が同意した広告のみ掲載されるような仕組みが必要であると考える。
2. 性的なネット広告が掲載されていることを利用者が事前に知ることができるようにする
広告媒体側が性的なネット広告が表示されることに同意するのであれば、サイト・アプリの内容が表示される前に「性的な内容を含む可能性のある広告が表示されます。18歳以上ですか?」などの警告表示を出す。加えて、有料で広告を表示しないようにするプラン(例:YouTube、コトバンク、ゲームエイトなど)を選択できるようにする。
▼事前警告案によるメリット
ネット利用者:性的な広告を望まない場合は避けることができ、それらの表示を望む、あるいは許容する場合はこれまで通り見ることができる。
広告主:購入者になりえる人に広告を届けることができる(ターゲティング精度向上)
掲載メディア:性的な広告を望まない人からの自社のサイト・アプリに対する印象悪化を避けつつ、広告とは別の収入を得ることができる。
3. サイト・アプリとネット広告の対象年齢を一致させる(広告に対するレーティング審査の仕組みをつくる)
年齢制限のあるR18指定商品や性行為描写のある広告がアダルトサイト以外の一般サイトに掲載されており、サイト・アプリと広告の対象年齢の不一致がみられる。そのため、広告にもレーティングをつける制度をつくり、R18指定の広告はR18指定のサイト・アプリにのみ表示されるようにする。
■ゾーニングと表現の自由について
例えばレンタルDVDショップや書店などにおいて、R18コーナーを設けること(ゾーニング)により、作品の制作や表現が脅かされることはない。これはR18に限った話ではなく、テーマごとに陳列場所を分けることで、それらに興味のない人は自然と通り過ぎ、興味のある人にとっては見つけやすくなるという利点がある。
一方、ゾーニングは場所の規制であり、表現規制の一種だという考え方はある。確かに、憲法で規定されている表現の自由に対して、法律や条例など公的な規制がなされる場合は、憲法に照らして合憲か違憲か議論が起こりうると考える。
ただしテレビや新聞などのように自主規制としてゾーニングがなされるのであれば、それはあくまで自主的な取り組みであるため表現規制として憲法違反にはならない。そのため当会としては、世論形成をすることで、自主規制が進むことを目標としている。
※06/23追記
以下は当会が以前より意見交換をしている「表現の自由界隈」というコミュニティのnote「表現の自由ジャーナル」にて掲載いただいた、性的なネット広告と表現の自由について考察したコラム。
■当会のこれまでの活動
広告主や掲載サイト、仲介企業(アドネットワーク)に自主規制を求めて問い合わせ。
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)や日本広告審査機構(JARO)に自主規制を求めて問い合わせ。
こども家庭庁、総務省、デジタル庁、法務省に署名活動の報告と問い合わせ。
世論形成のためメディアの取材を受ける(NHK、Abema、その他新聞社数社)。
性的なネット広告問題の課題や対処方法に関して当会の見解をレポートとして作成中。
表現の自由を重視する、いわゆる「表現の自由派」の一団体と定期的に意見交換を行い、表現の自由を守りながらゾーニングを実現する方法を模索。
■業界団体への要望
日本インタラクティブ広告協会(JIAA):4月16日要望書提出済
①改めて全会員に対してインターネット広告倫理綱領及び掲載基準ガイドラインの周知・普及を行うこと
②貴協会において取り組まれているインターネット広告健全化運動における「不適切な広告クリエイティブ事例集」における性的な表現(一部抜粋:過度な肌露出があるもの、性行為を連想させるなど性に関する表現が露骨なもの)について、引き続き会員内外への啓発活動を行うこと
③インターネット広告掲載基準ガイドラインでは犯罪を肯定したり、美化したりするものは掲載すべきではないとしているため、不適切な広告クリエイティブ事例集に性犯罪を肯定・美化するものを不適切な広告として含めること
④会員企業の広告に対する消費者からの苦情窓口を設置し、報告のあった会員に対してフィードバックをすること
日本広告審査機構(JARO):6月9日要望書提出済
①貴機関において受け付ける意見として性的なネット広告も対象とすること
②公平な第三者機関として、性的なネット広告に関して寄せられた意見を広告主、広告制作会社、掲載サイトなどの関連する企業にフィードバックを行うこと
③全会員に対して、社会的な「倫理観」「モラル」を考慮した広告制作を行うことが重要であるとの貴機関の理念の周知・普及に努めること
④貴機関の協力のもと日本インタラクティブ広告協会において取り組まれているインターネット広告健全化運動における「不適切な広告クリエイティブ事例集」における性的な表現(一部抜粋:過度な肌露出があるもの、性行為を連想させるなど性に関する表現が露骨なもの)について、会員内外への啓発活動を行うこと
■国への要望:6月4日こども家庭庁要望書・署名提出済
①性的なネット広告問題はどこの省庁も管轄外とされているため、まずは国として改善すべき問題であるとの認識を示し、各省庁横断して取り組んでほしい。
②海外では規制できているとされる、ネット広告の仕組みと技術的な部分の調査、結果公表、日本での導入議論開始をお願いしたい。
③インターネット広告はテレビや新聞などと同様に公共性の高い広告媒体であるとし、それにふさわしい秩序をインターネット広告に関わるすべての企業が保つことが望ましいと表明してもらいたい。
表現の自由の観点から、インターネット業界の自主規制が法規制に頼ることなく、テレビや新聞、公共交通機関などのより公共性の高いものと同レベルまで進んでいくことが理想である。しかし、長年自主規制レベルの引き上げが自主的に進んでいないからこそ、JIAAやJAROなどの第三者機関、あるいはより上位の機関(国家レベル)から、性的なネット広告が年齢制限のない場において表示されることは問題と認識し、改善に向けて取り組むという姿勢を示してもらうことが必要だと考えている。
以上


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