3月に国際基督教大学を卒業したばかりの福田和子さん。大学在学中にスウェーデンに留学し、そこで日本では教わらなかった「身体を守るための当然の性教育」に直面して衝撃を受け、避妊法や性教育などが「#なんでないの」というプロジェクトを始めている。
緊急避妊薬オンライン処方などの議論が進んでいる昨今、福田さんも同世代の人たちに向けた講演会などに呼ばれることも増えてきた。先日訪れた大学は、男子学生が女子学生より多い学校だった。講演後にアンケートで生の声で福田さんがわかったのは、男性が「わかりたくてもわからない」状況だった。
「避妊のことは、女性議員に」という実情
私はこの1年、日本におけるセクシュアルリプロダクティブヘルスライツ(性と生殖に関する健康と権利)向上のために、様々な活動をしてきた。その中で他団体とともに政治家をはじめとした政策決定者に訴えかけることもしている。性教育はもちろん、それ以外に、特に避妊インプラントや避妊注射、避妊シールといった低用量ピル以外の女性が使える現代的避妊法の認可の必要性も訴えてきた。
そこでよく言われるのが、「女性議員には聞いてみた?」「女性議員に持っていくと良いんじゃない?」といったアドバイスである。そのたび私は、とても複雑な気持ちになる。女性に任せていれば良い話なのだろうか? いや、そんなはずはない。妊娠は女性だけでは成り立たない。しかも日本の女性議員は全体のたった1割で、「女性の問題はとりあえず女性議員で」という姿勢が続く限り、日本の女性の生きづらさはなかなか変わらないことが自ずと暗示されてしまう。
とはいえ、私の講演会などでは参加者の大半が女性だし、それが自然と思ってきた節がある。そんななか、先日はじめて、男子学生が大半を占める都内の某大学のクラスで性教育や避妊についての講演を行ってきた。そこから見えてきたのは、「“女性の問題”は女性へ」で完結してきた長年の蓄積がうんだ弊害の数々だった。
男性も性の情報がなくて悩んでる?
「産婦人科に行きにくいなんて思ってもみなかったし、想像も難しい」
「避妊法の選択肢やそのための値段に考えが及んだことがなかった」
講演後に寄せられた男性からのコメントを拝見していると、「そもそも女性が抱える問題に気づいていない、考えが及ばない」という現実が往々にしていることに気づいた。私たちにとっては、当たり前に抱えてきた悩みが、性別を超えて全く共有できていなかったことを思い知らされたのだ。
今まで、それら問題意識の共有を前提に話をすすめがちだった私にとってはそれなりの衝撃であり、大きく反省した。でも、よく考えてみれば私も、不妊治療の際、男性が抱きやすい自分の精子の状態を確認することへの恐怖感、うまく射精ができなかった際に起こりうる男性器の痛み等々の感覚はよく分からないし、想像するのも難しい。互いの抱える悩みを素直に言い合う、やっぱりコミュニケーションはやっぱり大切だ。
しかし、男性の反応をみていると、問題は更に根深いところにあった。いくつかアンケートで回答いただいたものから、許諾を受けて代表的な意見をまとめてみた。
・避妊の確実さを考えれば、自分のコンドーム使用に加え、彼女に低用量ピルを服用してほしい。でも服用に関して、副作用も結局よく分からない。彼女に負担をかけることは気が引けて言えない。
・避妊に関して彼女とどう話せばいいのか。そもそも話していいのか分からないし、そういった悩みをどこかに相談できるのかもわからない。
・妊娠を打ち明けられたとき、彼女の心身にどう寄り添えばいいのか、情報がなくてわからず困った。
・結局男は見守るしかできないのか……。
彼らは少なくとも「相手が悩みを抱いていること」には気づいている。その上、それを理解して寄り添いたいという思いまで垣間みられる。しかし、頼れる情報や相談先の不足によって、せっかくの寄り添いたい、理解したい、という思いは成就することなく抱え込まれてしまっているのだ。この状況、とてももったいない。
性のことは女性だけに伝えればいいの?
厚生労働省の予算で「女性の健康推進ラボ」というwebサイトがつくられた。ここには女性が生涯にわたりぶちあたる様々な心身の壁について、多くの専門家との連携のもと情報提供が行われている。
そのサイトは2018年、政府答弁の中で、「『ひとりで悩まない思春期の性と健康』等をテーマに、性に関する正しい知識の普及啓発等を行っている」と、若者の性に関する包括的情報源として紹介された。たしかに、中身をみれば、避妊、妊娠はもちろん、性感染症チェックや性自認・性的指向など、大切な情報が多く述べられている。内容もその分野の有名な先生たちが執筆していて、結構な充実ぶりだ。
しかし、気になるのはサイトの体裁だ。配色が全てピンク、サイトの名前にも“女性の~”とついている。この体裁では、男性、男子学生が当事者意識を持ってアクセスすることはまずなさそうだ。
性の健康に関わる事柄は、女性だけが知ればそれでいい情報であろうか? いや、性別関係なく、全ての人が知るべき内容のはず。それに、男性だって生涯に渡り、様々な健康上の問題を抱える可能性もある。女性たちの性問題しか扱われないのはおかしい。そもそも男女に分ける事自体が、私は、とてもナンセンスだと思う。これまで調べてきた性に関する正しい知識を包括的に扱う諸外国のサイトに見られた、見た目も中身も全ての人が対象という雰囲気と比較すると、ほど遠いものを感じる。
また、最近でこそ減ってきたが、性教育でよくいわれるエピソードに、月経の話は女の子だけが教室に集められて話をされ、男の子は別の話をされたり外で遊んだりしていた、なんてものもある。ここにも、「女の子だけが知ればいい」、いいかえれば、「男性は知らなくていい」という姿勢が垣間みられる。情報提供されるのも支援されるのも女性や性的マイノリティ。男性はあたかも悩みとは無縁かのように扱われている。
スウェーデンにはある男性に特化した相談室
そんなことを思っていたら、ふと思い出した場所がある。スウェーデンの、「メンズ・クライシスセンター」だ。
スウェーデンには、「メンズクライシスセンター(Kriscentrum för män)(リンクはヨーテボリ市の例)」という、男性に特化した相談事業がある。1980年後半以降、ジェンダー平等が進む中で戸惑いや問題を抱えた男性たちのために、全国各地で開設された。各機関、多少扱う内容に差異はあるものの、そこでは家族やパートナーとの関係性、育児への不安、暴力(加害も被害も含む)、メンタルヘルスなど、男性が抱えるあらゆる問題に対応している。中には、グループ療法を取り入れ、DV加害者同士で回復を目指したり、アンガーマネジメントを身につけるプログラムを持つ場所もあったりする。
近年では、性的被害にあった男性のみを対象にしたクリニックが世界で初めて創設されたり、暴力を抑えられない男性のためのホットラインも開始されたりと、スウェーデン国内では男性に対するケアも拡大を続けている。
自殺者の7割は男性、
でもSNS相談者の9割は女性
今回、男性の参加者が多かった大学の講演で、男性からも「女性は大変だと思った」「日本では女性が抱く不安や悩みに適切な対処がされていない」というコメントも多くいただいた。
確かに、賃金格差、性暴力への無理解、出産と仕事の両立の難しさなど、女性として日本で生きるのは楽ではないし、女性への一層の支援策は必須である。ただ、男性は男性で、これまで女性の仕事とされてきた育児や家事を自分も求められる中での知識不足や戸惑い、ハラスメントや性暴力とは何か、月経痛の大変さやサポートの仕方などを知らされないできた環境もあるだろうし、分からないこと、相談したいことが少なくないのではないか。
日本の自殺者の割合を見ると、男性が約7割(厚労省)で、女性の方が少ない。しかし現在行われているSNSを通じた相談事業では、相談者のうち約9割が女性という発表(厚労省)もなされている。ここで自殺の話を引き合いに出すのは大袈裟かもしれないが、「男性が弱音を吐くなんて」「男性が悩みを相談するなんて」そういったジェンダー規範も、男性の悩みを不可視化したり、男性が悩みを解消するための一歩を遠ざけたりしているのかもしれない。
すべてのひとが、有害なジェンダー規範に縛られず、その人らしく心身ともに健康に生きられる社会の実現には、女性へのサポートだけでは全く足りない。すべてのひとへの適切なサポートや情報提供が今、求められている。
パートナーにどれだけ言えてる?
あなたの本音
ではどうすればよいか。やはり、「コミュニケーション」だと私は思う。
講演などのアンケートでも、「普段なかなか聞けない女性の本音が聞けてよかった」という声をよくいただく。でも私は、女性の本音、普段は言えないような話を皆さんの前でぶっちゃけているつもりもない。むしろ私は個人的な話をするのは苦手なので、避妊など性に関することでも、科学的根拠のある事実や数字、一般論をお伝えすることがほとんどだ。それでも「普段は聞けない女性の本音」と男性に捉えられるというのは、性に関する話が男女間でほとんどされていない表れともとれるだろう。
性に関することはとってもプライベートで、話したいかどうかも人それぞれだ。一方で、相手とは悩みを全く共有できていないにも関わらず、「相手もわかってくれて当たり前」と無意識に思ってしまうこともある。だからこそ、ふとしたときにわかってもらえていないと感じると、傷ついたりもする。
そんなときは、私のように一般論や科学的事実、数字を使って話すのでもいいと思う。まずは、ひとりで抱え込まず、できる範囲をお互いに聞き合ってみてほしい。案外、相手も「言い出してもいいのかな?」と悶々としているかもしれない。まずは、小さな一歩でいいから踏み出してみる。お互いにとってよりよい関係性を築くためのその一歩に、私は心からのエールを送りたい。
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