韓国の「フェミニズム」ムーブメントが達成してきた、これだけのこと

女性による政党も発足した

韓国の女性が声を上げている。セクハラを告発し、女性のための政党を作り、堕胎罪に反対するデモを行う――かつては考えられなかった女性たちの行動が、いまや当たり前のものとなった。いったい韓国社会に何が起きたのか。韓国の空気をガラリと変えた「江南駅殺人事件」から4年が経った今、6人の著者が、様々な分野の「女性たちの変化」を前後編で紹介する。

※執筆者:尹怡景、すんみ、ファン・ギュンミン、宣善花、木下美絵、キム・ジュヒ。企画・翻訳協力:小山内園子。執筆者の選定は翻訳家のすんみさんの協力のもと行いました。各章の担当は記事末尾に掲載しています。

【前編はこちら】

女性の自己決定権:「堕胎罪」

2019年4月11日、韓国の憲法裁判所(憲法の解釈に関わる裁判を行う裁判所)は「堕胎罪」の違憲性を認定した。

少しややこしいが、韓国憲法裁判所が下す「決定」には「単純合憲」「限定合憲」「憲法不合致」「単純違憲」などグラデーションがある。堕胎罪については、妊娠女性の自己決定権を侵害するおそれがあるとして、裁判官9名の意見は、憲法不合致4:単純違憲3:合憲2で、「憲法不合致決定」という違憲性を宣言する決定が下された。

これによって、堕胎した本人が罰せられる「自己堕胎罪」、堕胎の措置を行った医師が罰せられる「同意堕胎罪」を定める刑法269条1項等の規定は、韓国刑法が制定された1953年から66年が経った2019年に事実上の効力を失うこととなった。

これまでも憲法裁判所は堕胎罪について2012年に一度判断をしており、胎児の生命権保護という公益を達成するため、私益である妊婦の自己決定権に対する過度な制限ではないなどを理由に、裁判官4:4の合憲判断に至った経緯がある。

韓国の憲法裁判所〔PHOTO〕Gettyimages
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堕胎罪について当時の韓国国民の意向がうかがえる一つの尺度として、「青瓦台国民請願」がある。青瓦台国民請願とは、政府に自由に請願できる国民請願掲示板のことだ。2017年秋にこの掲示板に堕胎罪の廃止を求める請願が出されると、一ヵ月という短い期間に23万もの同意が集まった。

韓国政府がこの結果を受け、社会的議論が必要であると答弁を行ったことは大きな話題となった。その関心は、当時審理中だった今回の堕胎罪についての憲法裁判に移っていった。関連団体を始め、人権団体、宗教団体などはそれぞれが望む社会を求め、意見書を提出したりデモを行うなどして社会に向けて声を発した。

そんな中、多くの女性団体は「みんなのための堕胎罪廃止共同行動」に参加し、堕胎罪の存置は女性の健康と人権に対する暴力であると主張した。国家が人口管理をするために、女性の体を統制の道具として用いようとした歴史があるなどとして、妊娠中止の全面的な非犯罪化を要求した。ほかならぬ自分の身体についての自己決定権を守るために発した女性の声は力強いものがあった。

もちろん、意見を「言わない」「言わないでおきたい」自由もある。しかし、今の韓国女性は確実に声を発している。「言わない」「言わないでおきたい」を続けた結果が、「被害者は自分だったかもしれない」社会をもたらしてしまったとするなら、いつの間にか自分の存在が消えてなくなってしまう前に声を出すべきだと思ったかもしれない。今回、堕胎罪の判決を通じて、それぞれの女性の「自分の声」がたくさん集まったことで、社会が少し変わるという大切な経験を一つ重ねることができた。

しかしまだ終わりではない。堕胎罪の規定は2020年12月31日まで効力が維持され、それまでに法改正が行われなければならない。胎児の状態、堕胎の許諾時期、社会・経済的事由による堕胎問題などの具体的立法についての議論に移っている。自分のために、みんなのために、社会のために望ましい結果となることを願う。

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デジタル性犯罪と韓国の女性たち

2020年3月、韓国では新型コロナウィルスに関するニュースと並び、ある性犯罪事件がトップで報じられ社会を震撼させた。「テレグラム」という秘匿性の高いメッセンジャーアプリに開設されたチャットルームで、女性が様々な性的行為を強制される動画や画像を推定26万人もの会員が共有していた「n番部屋事件」だ。

主犯格の20代の男は、SNS上で女性たちに「高額のアルバイトがある」と持ち掛け、巧妙に入手した個人情報を基に脅迫。猟奇的な画像を撮影して送らせ、会員らに販売していた。被害者は70人以上、うち16人は未成年者だった。

韓国のデジタル性犯罪はインターネットが急速に普及し始めた1990年代から存在し続けてきた。中でも深刻なのが、盗撮やリベンジポルノの問題だ。自分のプライベートな姿が、身近な(自分のごく近くにいる?)誰かによって同意なく撮影・流布され、不特定多数の人に見られているかもしれない。韓国の女性にとって盗撮問題は、日々の生活と常に隣り合わせの脅威と言える。

〔PHOTO〕iStock
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「n番部屋事件」の被害者に未成年が多かったと述べたが、韓国の場合、こうしたネット上の性暴力を告発して社会問題化させ、当局を動かしてきた行動主体もまた、若い世代の女性たちだった。その代表的な成果が、会員数100万人を超える韓国最大のアダルトサイト「ソラネット」の閉鎖(2016年4月)だ。フェミニスト市民団体が主導し、サイトを閉鎖に追い込んだが、この運動には、ネット・リテラシーに長けたデジタルネイティブであり、性暴力問題の当事者である10代20代の女性たちが数多く参加した。

その後も江南駅殺人事件と#MeToo運動を経て、性犯罪に対抗する声は一層高まり、強固な連帯が形成されていった。2018年5月から12月にかけ、不法撮影の糾弾と警察の公正な捜査を求めてソウル中心部で行われた「不便な勇気デモ」には計34万人が参加。女性だけのデモとしては過去最大規模を記録した。

先述の「n番部屋事件」も例外ではない。テレグラム上で密かに行われてきた残忍な性搾取の実態を最初に世間に知らせたのは、2人の女子大学生からなる潜入取材チームだった。また、2020年2月にはチャットルームのモニタリングや被害者支援活動を行ってきた複数の女性団体からなる「テレグラム性搾取共同対策委員会」が発足。この委員会は「韓国サイバー性暴力対応センター」や「韓国女性の電話」など9つの女性団体が運営し、さらに24の女性団体が連帯を表明している。

「n番部屋事件」ではその概要が明らかになり国民の怒りが噴出するや、当初捜査に消極的だった警察に特別捜査チームが結成された。大法院(最高裁判所に相当)はデジタル性犯罪加害者の処罰強化に向け動き出している。そして2020年4月23日には、韓国政府が量刑の引き上げや児童・青少年の保護強化などを骨子とする「デジタル性犯罪根絶対策」を発表。29日には、これらの内容を盛り込んだ通称「n番部屋防止法」が国会で成立するに至った。

韓国でフェミニズム・ムーブメントが巻き起こってから5年が経とうとしている。江南駅殺人事件以降、「被害者は自分だったかもしれない」という多くの韓国女性たちが痛いほど胸に刻んできた思いは、ムーブメントの拡大と成熟を経るなかで今や社会を動かす原動力としてより実効的に機能するようになってきている。

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「女性議党」の発足

江南駅殺人事件以降、韓国の女性たちは、社会にはびこる女性嫌悪に怒り、街に出てきた。#MeToo運動、堕胎罪廃止デモへとつながったフェミニズムの波の中で、彼女たちは女性への差別や暴力を阻止できる法制度の整備を求めたが、関連法案の多くは国会で係留されるか、廃棄されてしまった。

女性たちはこれまでの男性中心の政治では自分たちを代弁してもらえないことに気付いた。そして政治集団を立ち上げた。誰も自分の声を代弁してくれないという切迫した思い、性差別や性暴力問題解決への念願が市井の女性たちを党の発足へと導いた。

女性たちの勇気のある行動により、「女性議党」はたったの37日で発足した。しかし「女性議党」の候補たちは、今年4月に行われた第21代国会総選挙期間中に、男性から石を投げられたり、インターネット上の書き込みによるセクハラ、誹謗中傷の被害を受けたりした。党員への殺害脅迫もあった。党員たちは女性嫌悪が蔓延した韓国社会の現実を肌で感じ、このような社会を変えていくには、女性が自ら政治に参加しなければいけないという覚悟をさらに強くした。

21回総選挙の投票の様子〔PHOTO〕Gettyimages

「女性議党」は初の選挙となる前述の国会総選挙で21万票の比例得票数を記録する快挙を成し遂げた。もっとも大きな奇跡は、女性たちが自らの「社会的自我」に確かめ、自分の中に潜在していた政治力に目覚めたことだった。今の流れを作り出した女性たちを、韓国では「政治の新人類」と言う。

このような動きの下に、「女性議党」は家父長制の限界を乗り越え、韓国社会を革新させていくつもりだ。国会での男女平等を実現し、女性たちの政治勢力を結集していくためのハブとなれるよう拍車をかけている。

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連帯の可能性を求めて

韓国の女性は連帯の輪を広げているが、もちろんすべての物事に対して一つの声を上げているわけではない。例えば、2018年から始まった「脱コルセット」運動。10〜20代を中心に広まったこのムーブメントは、社会から強いられた「女性らしさ」「美しさ」に反旗を翻すものだった。女性たちは「#脱コルセット_認証」というハッシュタグとともに、長かった髪をショートカットにした写真、使ってきた化粧品をゴミ箱に捨てた写真などをアップした。

だが、この運動には確固たる共通のルールがあったわけではなく、運動への思いや参加の仕方は人それぞれだった。彼女たちの活動を『脱コルセット』(タバブックスにて刊行予定)という一冊の本に記録したフェミニスト、イ・ミンギョンは、「脱コルセット」運動を13人の女性たちの、13通りの物語としてまとめている。大きな考えを共有しつつ、それぞれ違う相手の考えを打ち消そうとはしない。

もちろん、同じ目標を抱いているとしても、意見が違えば顔をしかめ合うこともあるだろう。女性同士で傷つけ合うこともあるはずだ。それではどのように連帯し得るだろうか。フェミニズム運動に積極的に参加してきた韓国作家ユン・イヒョンの、女性たちの連帯の可能性を模索した小説『包帯巻き』からの引用でこの記事を締めたい。

――あんたが私の考えにいつも同意じゃないってわかってるよ。でも、どこにどう同意しないか教えてくれたら、私も教わるとか、考え直すとか、反論するとか、できるよね。
――私たちがかならず同じようになる必要はないと思う。無理に合わせようとしたって、ケンカばっかりになるしね。同じようになりたいってわけじゃなくて、傷つけられる準備ができたんだ。

【各章の執筆者】
・女性の自己決定権:「堕胎罪」…宣善花(法学博士)
・デジタル性犯罪と韓国の女性たち…木下美絵(出版エージェント)
・「女性議党」の発足…キム・ジュヒ(「女性議党」党員)
・連帯の可能性を求めて…すんみ
・企画・翻訳協力…小山内園子(翻訳者)
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