データセンターの「間取り」は光ファイバーで変わるのか?キオクシアの光SSD
これは私のメルマガ「週刊Life is beautiful」で紹介している記事の要約・解説です。要約をこちらに書き、リンクを貼った上で私のコメントを書くというスタイルで、メルマガ本体のボリュームを減らして読みやすくすることを目的としています。
キオクシアの光SSDとは?PCIeをそのまま光に変える技術のすごさを元キオクシア研究開発者がわかりやすく解説
サーバーとSSD(半導体を使った記憶装置。ハードディスクの代わりに使われる)をつなぐ配線を、銅線から光ファイバーに置き換えるキオクシアの技術を、ソニーとキオクシア(旧・東芝メモリ)で16年間、半導体の研究開発に携わった筆者が解説した記事です。AIデータセンターの設計そのものを変える可能性があるため、紹介します。
まず前提として、パソコンやサーバーの中でCPUとSSDやグラフィックボードをつなぐ規格がPCIe(ピーシーアイ・エクスプレス。機器同士を高速につなぐ標準的な配線規格)です。これは電気信号を銅の配線で送る仕組みのため、信号を速くすればするほど途中での減衰が激しくなり、実用的に届く距離は数十センチ程度しかありません。だから今のデータセンターでは、SSDをCPUのすぐ隣、同じ筐体の中に詰め込むしかありません。
この「詰め込むしかない」ことが、三つの無駄を生みます。
・灼熱のCPUやGPUと、それほど熱くないSSDが同じ箱に同居し、部屋全体をいちばん熱い部品に合わせて冷やすことになる(SSDは冷やしすぎ)
・高速な電気配線は太くて硬く、本数も多いため、配線だらけで空気の流れが悪くなる
・故障したSSDを交換するのにも、熱いサーバールームに人が入らなければならない
光ファイバーなら、長い距離を走らせても信号がほとんど劣化せず、ケーブルは細くて柔らかく、電磁ノイズの影響も受けません。キオクシアの説明は「速さはそのままに、距離の制約だけを外す」というものです。
ここで「それならすでにあるのでは」と思う方もいるはずです。光ファイバーを使うストレージ(SANやNASと呼ばれるネットワーク上の記憶装置)は昔からありますが、あれはPCIeの信号をいったんEthernet(イーサネット。一般的なネットワークの規格)などの別の通信方式に変換して運んでいます。変換のたびに遅れが積み重なり、SSD本来の速度は出ません。キオクシアの光SSDが決定的に違うのは、PCIeの信号を別の方式に変換せず、そのまま光に載せている点です。
仕組みとしては、SSDとサーバーの間に「光電変換ブリッジボード」という基板を挟み、電気のPCIe信号を光に変えてファイバーで飛ばし、向こう側でまた電気に戻します。サーバーから見れば、ごく普通のPCIe接続のSSDにしか見えません。だからOSもドライバ(機器を動かすための基本ソフト)もアプリケーションも、NVMe(エヌブイエムイー。SSDをつなぐための標準の作法)も、一切変更が要りません。ソフトウェアからは、光なのか電気なのかの区別すらつかないのです。
開発はキオクシア1社ではなく、3社の連合体制です。キオクシアが光SSD本体と全体設計、光トランシーバー(電気と光を相互に変換する部品)を手がけるアイオーコアがその心臓部、京セラが光の部品を基板に高密度に載せる光電気集積モジュールを担当しています。この開発はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のグリーンイノベーション基金事業「次世代グリーンデータセンター技術開発」の一部で、2030年までにデータセンターの消費電力を開始時点より40%以上削減するという国家プロジェクトの目標を背負っています。
肝心の性能ですが、キオクシアは40mの光ファイバーでつないだ光SSDが、ほとんど性能を落とさずに動くことを実証しました。2025年4月8日にPCIe 5.0(32GT/s×4レーン)での動作確認を発表しており、2024年8月に発表したPCIe 4.0対応の前世代試作機から、わずか8ヶ月で帯域を2倍にしています。SNIA(ストレージ業界の標準化団体)のセミナーで公開された実測値は、次のとおりです。
・連続読み出し:光14.21GB/s に対し 電気直結14.50GB/s(差はマイナス2%)
・連続書き込み:光3.59GB/s に対し 電気直結3.58GB/s
・ランダム読み出し:光1,420KIOPS に対し 電気直結1,422KIOPS
・ランダム書き込み:光845KIOPS に対し 電気直結843KIOPS
行きと帰りで2回も光と電気の変換を挟みながら、4項目ともほぼ誤差の範囲に収まっています。さらに、64×64ポートの光スイッチ(光信号を光のまま行き先だけ切り替える装置)を介して光SSDを8台つないだ実証でも、8台すべてが連続読み出し14.1GB/s、ランダム読み出し約1,370〜1,383KIOPSと、ほぼ同じ性能を出しています。
消費電力の差も大きいところです。離れた場所のSSDを使う既存の方法としてNVMe over Fabrics(ネットワーク越しにSSDをつなぐ方式)がありますが、こちらは信号をネットワーク用に変換するため、両側に高性能なRDMA対応NIC(ネットワークカード)と、それを処理する強力なCPUが必要で、そこが電力を食います。キオクシアがSSD4台をつなぐ構成で比較した試算では、NVMe over Fabricsが光トランシーバ10W+NIC 30W+16コアCPU 150W+SSD 100Wで合計290W、PCIeをそのまま光化する構成は光電変換モジュール12W+SSD 100Wで合計112W。帯域1Gbpsあたりでは0.725W対0.219Wと、およそ3分の1です。変換しない設計が、そのまま省エネになっているわけです。
そして距離の制約が外れると、データセンターの「間取り」を変えられます。発熱の大きいCPUやGPUは液冷を備えた専用の部屋に、SSDは最小限の冷却でよい別の部屋に置き、それぞれにちょうどいい冷やし方を選べます。さらにその先にあるのが、ディスアグリゲーテッドシステム(分解されたシステム)という考え方です。今のサーバーはCPU・GPU・メモリ・SSDを1つの箱に詰めた幕の内弁当のようなもので、どれかが余ってどれかが足りないという無駄が、データセンター全体では膨大になります。部品ごとにプールしておき、必要な分だけ組み合わせて仮想的なサーバーを仕立てられれば、その無駄が消えます。ただしそれには、プール同士を数mから数十m以上の距離で、しかも広帯域につなぐ必要があり、短距離しか飛ばない電気のPCIeには荷が重い。ここが光PCIeの本来の出番です。光スイッチを使えば、どのサーバーにどのSSDを何台つなぐかを、配線を差し替えることなく動的に組み替えられます。
いつ普及するのかについて、記事は規格の進化から説明しています。PCIeは1世代ごとに速度が2倍になり、4.0が16GT/s、5.0が32GT/s、6.0が64GT/s、7.0が128GT/sと上がっていきますが、速くするほど電気信号の届く距離は縮みます。プリント基板上の銅配線はPCIe 6.0あたりで限界、太い電気ケーブルを使ってもラック内が精一杯で、ラックをまたげるのは光だけ、という段階が来ます。キオクシア自身も「PCIe 7.0あたりから光接続方式の積極的な導入が始まる可能性がある」と見ており、当面の課題としてPCIe 6.0対応の新しい試作機の開発を挙げています。
もっとも、現時点ではまだ試作機と実証試験の段階で、製品化や量産の時期は公表されていません。キオクシアは資料の中で、小型化・低コスト化・歩留まり(不良品を除いた製造の成功率)の向上が必要だと率直に認めています。光の部品はまだ高価です。加えて、光化の主戦場はまずGPU同士の接続であり、ストレージの光化がどの順番で来るかは不確実だという指摘もあります。NEDOのプロジェクトは研究フェーズから社会実装フェーズへ移る段階にあり、3社は実証試験への適用を目指しています。
筆者は投資家としての見方も添えており、光SSDは今すぐ売上になる話ではなく「その次の世代を取りにいく未来枠」だとしています。それでも注目する理由として、AIデータセンターの最大の制約が電力になっていること、そして電気の物理限界には交渉の余地がなく、時期の早い遅いはあってもいずれ業界全体が光に向かうこと、その時に「PCIe標準のまま光化するノウハウと実績を持っているか」が大きな差になることを挙げています。なお筆者は、自分はフラッシュメモリのデバイス・プロセス側の研究開発者であり光通信の専門家ではないこと、記事は公開情報にもとづく解説であってわかりやすさを優先した表現を含むことを、冒頭で明示しています。



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