元分科会長・尾身茂氏が語る新型コロナ…あのパンデミックの“真相”と「今も意識すべき3つのこと」
GDPの推移から見る「日本のコロナ対策の結果」
編集部: 「専門家は経済を軽視した」という批判も当時一部世論にありました。コロナ禍における日本の経済対策の結果はどうだったのでしょうか。 尾身先生: 先に述べたように日本は、医療ひっ迫等の程度に応じて、対策の強さを調整する「ハンマー&ダンス」という方法を採用し、社会経済への影響を最小限にすることを目指しました。 結果的に、我が国の死亡者数は欧米に比べてかなり低く抑えられましたが、GDP(国内総生産)の落ち込みについては、パンデミックの初年度を見ると欧州各国より小さく、米国とほぼ同じ水準でした。3年を通して見ても、欧米先進諸国並みでした。ワクチンの普及、国民の皆さんの協力に加え、先ほど述べたハンマー&ダンスなどが関係していると思われます。 ただし、良かった面ばかりではありません。医療の質は世界水準でも評価されており、死亡者数も比較的少なかったのに、なぜ4回も緊急事態宣言の発出が必要になったのか? 医療提供体制のあり方など、残された課題も同時に見えてきました。
最大の“葛藤”は東京五輪の「無観客」提言
編集部: 感染症対応には次のパンデミックに備えて解決すべき課題があるのですね。なかでも当時を振り返って、先生が一番悩まれた場面はどこでしたか。 尾身先生: 東京オリンピック(東京五輪)です。2021年3月の国会で、開催について意見を求められましたが、「開催の是非に専門家が意見を言う資格はない」と述べました。意見を述べたとしても、責任を負えないと思ったからです。 ところが6月になると、その考えを改めることになります。感染力の強いデルタ株が出現し、そのうえ、お盆や3連休、夏休みが重なる季節が到来しました。実際その頃、すでに感染は拡大傾向に入っていました。このまま放置すれば開催の有無にかかわらず、開催日(7月23日)の前後には緊急事態宣言を出さざるを得ないほど医療がひっ迫すると我々は判断していました。 スタジアム内での感染よりは、地域での急激な感染拡大、医療ひっ迫を最小限に収めるための提言が必要になってきました。実際、開会の10日前には宣言を出さざるを得なくなりました。その際、人々にステイホームを求めながら観客が五輪会場に集まるのは矛盾します。 東京五輪の中止を提言することは越権行為であり、長年努力した選手の場を奪うことはできません。それゆえに苦渋の決断として6月18日「無観客」の開催を提言したのです。