AIカウンセリングに注意ーその危険性と盲点 「寄り添いすぎ」の問題と利用者の工夫
AIカウンセリングの増加
近年、AIによるカウンセリングや心理相談を利用する人が増加している。ドイツやオーストラリアの調査では、一般成人の約2〜3割がAIとの会話を通じて悩みを打ち明けた経験があり、特に若年層や高学歴層で利用率が高いことが報告されている(Lukas, 2025)。
AIによる心理支援への評価は、軽度のストレスや不安の軽減には有用とみなす一方で、深刻な心理的危機への対応力には懸念が示されている。
さらに、米国の大学生224名を対象とした実験では、共感的傾聴を行うAIチャットボットと人間カウンセラーとの対話記録を比較してどちらがAIによるものかを尋ねたところ、参加者の正答率は47.5%にとどまり、人間とAIの区別がほとんどつかず、むしろAIの方をより高く評価する傾向が示された(Kuhail et al., 2024)。
私が行った簡単な調査でも、実に4割の人が、AIに悩み相談をしたことがあると回答していた。
AI相談で自殺
近年、ChatGPTなどの対話型AIを用いた悩み相談をきっかけに、自殺や精神疾患の悪化が報じられる事例が増えている。
たとえば、米国では、AIが利用者の自殺を後押ししたとして遺族が提訴し、「AIが過剰に共感的で、依存を強めた」と主張していると報じられている。
こうした現象は、AIが利用者の感情に「寄り添いすぎる」ことによって、人間的な治療関係とは異なる危険な共感構造を形成してしまうことに起因する。
臨床心理学の観点から、その構造と留意点、そして利用者自身が安全にAIを使うための方法を整理する。
「寄り添いすぎ」が有害に転じる心理的メカニズム
AIは大量のテキストデータを基に、人間の共感的な対話を「模倣」する。
「あなたの気持ちはよくわかります」「ここにいます」といった応答は、短期的には安心感をもたらすが、臨床的には現状維持を強化し、変化への動機づけを阻む可能性がある。
とくに抑うつ・自殺念慮・孤立を抱えた人では、無条件の共感が「死の選択を理解してくれる相手」としてAIへの心理的依存を生む危険がある。
さらにAIは、危機的な兆候(希死念慮、自傷や自殺企図など)を検知しても、人間のように即時介入する機能を持たない。それどころか、こうした危機的行動に寄り添いすぎるあまり、肯定して背中を押してしまう危険すらある。
AIカウンセリングには、心理療法や専門家によるカウンセリングにおける「契約」「アセスメント」「ケースフォーミュレーション(見立て)」「介入」「終結」などの枠組みが欠けており、倫理的、専門的責任も存在しない。
そして、長時間の対話を通じて、利用者が孤立を深める構造がある。こうした「共感の持続」は、支援ではなく危機の安定化に転じることがある。
AIカウンセリングの利点と限界
AIを活用した相談にはいくつかの利点があることもたしかである。第一に、24時間いつでもアクセスでき、地理的・経済的制約を受けない。
第二に、匿名性が高く、スティグマを感じずに初期的な相談を行える。
第三に、気分のモニタリングや心理教育、簡易スクリーニングなどの定型支援には適している可能性がある。
一方で、AIは文脈理解や倫理判断に限界があり、リスクの高い利用者に対しては危険を伴う。共感的な応答を返すだけで行動変容や環境調整を促せないため、深刻な悩みを「言語化して終わる」だけの構造に陥りやすい。
また、AIとの長時間対話はAIへの心理的依存と人間関係の希薄化を生じやすい。したがって、AI相談は「専門的治療」ではなく、あくまで補助的・前段階的な支援の一助として位置づけるべきである。
専門的カウンセラーとの本質的な違い
公認心理師などの専門家、あるいは専門的カウンセラーは、非言語的サインや感情の変化を読み取りながら、変化を促す「関係性」を構築する。心理療法やカウンセリングにおいては、このような相互尊重を基盤とした信頼関係の構築や「治療同盟」が何よりも重要である。
さらに、公認心理師は国家資格であり、倫理的・法的責任を負い、危機時には介入(心理療法)や医療等との他職種連携が可能である。
一方、AIは責任や感情を持たず、危機対応能力も限定的である。AIが示す共感は模倣的であり、「変化を支える関係」にはならない。
利用者ができる安全なプロンプト設計
すでに多くの人々がAI相談をしている現実において、「AIを悩み相談に使うな」というのは現実的でない。
AIの限界を理解した上で、利用者自身がAIとの付き合い方やプロンプトを工夫することが、現時点で相談の質と安全性を高めるうえで非常に重要である。
プロンプトは、AIに「枠組み」「目的」「境界」を与える指示文であり、以下の点を押さえるとよいだろう。
(1)役割と限界を明示する
まず、AIに対して専門家の役割を取らないようにと明確に伝える。
例
あなたは共感的な相談相手です。カウンセラーや医師ではありません。危機が疑われる場合は、すぐに人間の専門家への相談を勧め、会話を終了してください。診断や助言は行わず、一般的情報と行動提案にとどめてください。
(2)会話の目的と時間枠を設定する
「気分の整理→選択肢の検討→今日できる1ステップ」という具体的構造を最初に提示し、会話の長さを制限する。
例
このセッションは10往復までとします。目的は気分の整理と、今日できる一歩の明確化です。最後に要約と次の行動、人間の相談先を提示してください。
(3)共感だけで終わらせず、行動変化を促す
AIには「小さな行動提案」を出すよう指示する。
例
共感は2行以内にとどめ、必ず「今日できる小さな行動」を1つ提案してください。
(4)危機語への対応を明文化する
自殺・自傷・虐待などの表現が出た際の対応を事前に定める。
例
「死にたい」「消えたい」などの言葉が出たら、安易に共感だけをせずに、私の行動に警告を発し、直ちに地域の緊急窓口や信頼できる人への連絡を促し、会話を終了してください。
(5)反芻や依存を防ぐための構造化
認知行動療法などの有効な心理療法の要素を導入し、思考の整理や行動計画に焦点を当てる。
例
「出来事→思考→感情→行動→代替思考→次の行動」を表形式で整理し、代替思考を2つ提案してください。
(6)セッションの終了を意図的に設ける
終結を明示することで「終わりのない共感依存」を防ぐ。
例
この会話の最後に、内容を3行で要約し、今日の行動計画と専門機関の連絡先を提示して終了してください。
このように、利用者が「枠組み」「時間」「目的」を先に設定しておくと、AIが過剰な感情的共鳴に陥ることを防ぎ、より安全で目的的な相談が可能になるだろう。
今後の展望と課題
AIカウンセリングは、精神保健へのアクセス拡大という利点をもつ一方、倫理・安全性・責任構造の未整備という課題を抱える。今後は次の点が求められる。
1. 実証的研究:AI相談の有効性と危険性を評価するランダム化比較試験や縦断研究の蓄積。
2. 安全基準の標準化:危機検知、専門家への自動誘導、長時間利用制限などの設計指針の確立。
3. 倫理・法制度の整備:データ利用、責任の所在、未成年保護の国際的ガイドライン化。
4. 人間支援との統合:AIをスクリーニング・教育・フォローアップに限定し、最終判断を人間専門家が担う体制の構築。
悩みとともに生きる
われわれは悩み多き存在である。それが「生きる」ということでもある。
われわれは悩みを抱えたとき、身近な信頼できる相手や専門家に相談をし、悩みを解決したり、あるいは「適応的な諦観」や「受容」によって、悩みとともに生きてきた。
悩みはゼロにできるものでなはく、悩みとともに生きることが人間の宿命なのだ。専門家によるカウンセリングでは、必ずしも「悩みをゼロにする」ことを目的とはしない。ときには「悩みを受け入れ、それとともに生きる」ことを目標にすることが少なくない。
しかし、AIに頼る人や、AI自身も「1か0」の二分思考で、「悩みがあるならなくすべき」という安易な目標を目指してしまい、真に生きることから逃げてしまおうとするのかもしれない。それが症状の悪化や自殺につながってしまうことの一因のように思えてならない。
AIは言語的には共感を再現できるが、人間関係の責任と変化促進の力を持たない。そして何よりも、寄り添おうとするあまり、「悩みを受け入れて生きる」という難しい提案を回避してしまう。それは一朝一夕にはできるものではないし、カウンセラーとの信頼関係のなかで、長い時間をかけてたどり着けるプロセスだからだ。
AIの「優しさ」を無条件に信頼するのではなく、その限界を理解し、構造的に使いこなすこと、そしてときには「悩みとともに生きる」選択をすること、それが、AI時代の心理支援における新たな自己管理能力といえるだろう。
文献
以下、文献情報を整理します。
(なお、私が先に示した論文中、「一般成人の利用率(27%)」「若年層・高学歴傾向」といったデータを報じたものも併せて記載します。)
先行研究の文献情報(APA 第7版形式)
Kuhail MA et al. (2024). Computers in Human Behavior Reports, 16, 100534.
Lukas C (2025). A Study about Distribution and Acceptance of Conversational Agents for Mental Health: Keep the Human in the Loop? arXiv. https://arxiv.org/abs/2502.00005 (arXiv)