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相次ぐ性的ディープフェイクの加害性――生成AIが拡張した「新しい性暴力」とその対策

筑波大学教授
写真:イメージマート

世界中で相次ぐ性的ディープフェイク被害

 生成AIの普及により、実在の人物を用いた性的ディープフェイク被害が世界的に拡大している。顔写真一枚があれば、本人の意思とは無関係に性的画像や動画が生成・拡散される現象は、もはや単発の例外的事件ではなく、構造的な加害の様相を帯びている。さらに問題なのは、これが単なる「画像改変」や「技術の悪用」として矮小化されやすい点にある。

 性的ディープフェイクは明確な性加害行為であり、被害者に与える影響は従来の性暴力と連続性を持つ。例えば、Henryら(2020)は、画像を用いた性的虐待(image-based sexual abuse)が、被害者に深刻な羞恥、不安、抑うつ、対人不信をもたらし、PTSD症状とも関連することを示している。重要なのは、身体的接触の有無ではなく、「性的に支配され、人格や尊厳を侵害された」という主観的体験そのものである。

 性的ディープフェイクの被害は、しばしば長期化する。なぜなら、インターネット上に一度流出した画像は完全に消去することが困難であり、被害者は「いつ再拡散されるかわからない」という慢性的恐怖にさらされるからだ。これは反復被害に近い心理状態を生み、日常生活や社会参加を著しく制限する。Citron & Franks(2014)が指摘するように、デジタル空間における性的侵害は、被害者の自己決定権と社会的存在そのものを侵食する。

加害の容易さの問題

 加害の敷居が極端に低いことも、性的ディープフェイクの特徴である。従来、性的画像を用いた加害には一定の技術やリスクが伴った。しかし生成AIは、テキスト入力という日常的行為を通じて、誰でも容易に加害に参加できる環境を作り出した。この「容易さ」は、道徳的抑制を弱める。Bandura(1999)が示した脱道徳化理論に照らせば、「AIがやった」「自分は少し指示しただけ」という認知は、加害責任の希薄化を招く典型例と言える。

 さらに見逃せないのは、被害が特定の集団に集中している点である。国際的調査では、性的ディープフェイクの被害者の大半が女性であり、特に若年層や公的発言力の弱い立場の人が標的になりやすいことが報告されている(West, 2021)。これは偶然ではなく、女性の身体を「加工・消費可能な対象」とみなすジェンダー規範が、技術によって増幅されている結果である。性的ディープフェイクは、性差別的暴力のデジタル化・自動化と位置づけるべきだろう。

 加害性を個人のモラルに帰するだけでは不十分である。プラットフォームや開発企業の設計責任も、強く指摘されている。Noble(2018)は、アルゴリズムや技術設計が社会的不平等を再生産しうることを示したが、性的ディープフェイクも同様に、安全設計の欠如が加害を構造的に促進している。生成制限、未成年保護、迅速な削除対応が不十分なまま機能が提供されれば、それ自体がリスク要因となる。

問われる法整備とAIリテラシー教育

 法的対応の遅れも被害を拡大させている。多くの国で、ディープフェイクは既存の名誉毀損やわいせつ規定では十分にカバーできず、被害者が救済にたどり着くまでに大きな負担を強いられる。Franks(2023)は、性的ディープフェイクを明確に性暴力の一形態として法的に位置づける必要性を指摘しており、日本においても同様の議論が急務である。

 教育の役割も極めて重要だ。AIリテラシー教育は、単にAIの操作方法を教えることではない。AI画像によって他者の尊厳を侵害する行為が、どのような心理的・社会的被害をもたらすのかを具体的に理解させる必要がある。特に若年層に対しては、「面白い」「バズる」といった短期的報酬の背後にある加害性を可視化する教育が不可欠である。

 性的ディープフェイクの問題は、技術そのものの是非ではない。問われているのは、私たちがどのような価値観で技術を使い、被害が生じたときに誰の尊厳を最優先するのかという社会的選択である。

 被害者の苦痛を「新しい時代の副作用」として受け流すのではなく、明確な加害として位置づけ、制度と文化の両面から対処することが、生成AI時代の人権水準を決定づけることになる。

参考文献

Bandura, A. (1999). Personality and Social Psychology Review, 3(3), 193–209.
Citron, D. K., & Franks, M. A. (2014). Wake Forest Law Review, 49, 345–391.
Franks, M. A. (2023). Fearless speech. Oxford University Press.
Henry, N., Flynn, A., & Powell, A. (2020).Trends & Issues in Crime and Criminal Justice, 600, 1–19.

Noble, S. U. (2018). Algorithms of oppression: How search engines reinforce racism. New York University Press.
West, S. M. (2021). AI Now Institute Report.

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筑波大学教授

筑波大学教授。博士(保健学)。専門は, 臨床心理学,犯罪心理学,精神保健学。法務省,国連薬物・犯罪事務所(UNODC)勤務を経て,現職。エビデンスに基づく依存症の臨床と理解,犯罪や社会問題の分析と治療がテーマです。疑似科学や根拠のない言説を排して,犯罪,依存症,社会問題などさまざまな社会的「事件」に対する科学的な理解を目指します。主な著書に「あなたもきっと依存症」(文春新書)「子どもを虐待から守る科学」(金剛出版)「痴漢外来:性犯罪と闘う科学」「サイコパスの真実」「入門 犯罪心理学」(いずれもちくま新書),「心理職のためのエビデンス・ベイスト・プラクティス入門」(金剛出版)。

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