事故の前。赤い血によって視野が悪いことがわかる(手術動画より。画像は加工しています)
カルテを開いたまま長時間席を離れ…
松井氏が主張していた「A医師によるカルテ改ざん疑惑」についても、当時の病院長は法廷で経緯を説明している。院内調査の結果、A医師による改ざんを疑わせる根拠は見つからなかったとしたうえで、次のように証言した。
「この事件の原因は松井医師が電子カルテに自らのID、パスコードを入力して、しかも患者さんのカルテを開いたまま長時間席を離れたことが原因であり……患者さんの生命、身体には何ら被害がなかった……松井医師には明確なアリバイがなかった」(病院長の尋問調書より)
警察への通報を見送った理由についても、患者に被害が生じていないことに加え、松井氏自身にも明確なアリバイがなく、通報すれば松井氏の自作自演が疑われかねないことなど複数の理由を挙げている。
一審判決も、警察への捜査要請等を控えたことについて「安全な職場環境を維持すべき病院長の立場にある者として不合理な判断であったとは認められない」と結論づけている。自ら原告となって起こした訴訟において、松井氏の主張はこうして地裁・高裁ともに退けられた。
松井氏は、刑事裁判の被告人質問でも「助手がいないと手術は成り立たない。チームでやっている。1人だけ悪いとなるのはおかしいと思う」などと証言していた。刑事裁判の判決でも、裁判長は松井氏の供述態度について「一部指導医に責任転嫁するような発言もしており、現実に真摯に向き合えているのか疑問がないとは言えない」と苦言を呈している。
松井氏が自ら起こしたこの民事訴訟の記録もまた、赤穂市民病院で起きた一連の医療事故を巡る問題が、単に個々の手技の巧拙にとどまらない根深さを持っていたことを示している。
(了。前編から読む)
◆取材・文/高橋ユキ(ノンフィクションライター)