兵庫県の赤穂市民病院
「彼自身がサイドステップをして、自分で落ちていきました」
階段からの転落についても、双方の言い分は法廷で真っ向から対立した。松井氏本人は尋問で、カンファレンスルームの鍵の返却を求めるA医師から追いかけられ、階段の手前で腕をつかまれて対峙し、その後「胸の正面を平手で思いっ切り後方に押された」と証言している。
一方のA医師は、鍵の返却を求めて左手を差し出したところ手が松井氏の胸に触れたことは認めつつ、押す意図はなかったと証言する。
「鍵を返してほしいという意味では故意だと思います。(中略)僕は彼を突き落としたわけでは全くなくて、彼自身がサイドステップをして、自分で、自分からの過ちで落ちていきました」(A医師の尋問調書より)
転落直後、松井氏はA医師に対し、「大事になってしまって申し訳ありません」という趣旨のLINEメッセージを送っていたが、数日後、松井氏側の弁護士が介入すると「突き落とされた」と主張し始め、刑事告訴の可能性を示唆した。
これを受けてA医師は「再三の殺人未遂レベルの暴力行使は、事実ですし否定する気も特にない」「私の暴力は、極めて悪質です」などと、暴力を自認するとも読めるLINEメッセージを送っている。しかし控訴審判決は、このメッセージについて次のように評価した。
「被控訴人(A医師)は、控訴人(松井氏)から本件転落について刑事告訴する旨の予告を受けて、自分の医師免許を剥奪されるなどの最悪の事態が頭をよぎり強く狼狽している中、半ば自暴自棄になり……又は原告に迎合してその許しを乞おうとして……本件謝罪等メッセージを送信したとも考えられる」(控訴審判決文より)
そのうえで判決は、A医師が控訴人を突き落としたと認めることはできない、としたうえで次のように結論づけている。
「本件転落について、被告(A医師)が原告(松井氏)を思い切り押して階段から突き落とした旨の原告の主張及び供述を採用することができず、本件転落は、原告がA医師の手を避けようとして身体をひねり、自らの過失で階段を踏み外したことにより生じたものである可能性を排することができない」(控訴審判決文より)