桜花姫第四部前篇

第四部
前篇

第一話

人工性妖女
悪霊の集合体であり悪霊の始祖とされる邪霊餓狼の完全消滅から一年後の清明の時期…。世界暦五千二十四年四月十七日十五時半の出来事である。北国に聳え立つ天神山の洞窟ではとある虚無僧集団が集結する。
「同志達よ!全員集合したな!」
虚無僧集団の首領らしき人物が頭陀袋からとある木材の破片を入手したのである。
「ん?木材の破片でしょうか?」
部下の一人が恐る恐る問い掛けると首領らしき人物は一息し始める。
「此奴は…能面の付喪神の肉片なのだよ!」
「能面の…付喪神の肉片ですと?」
能面の付喪神とは通称小面袋蜘蛛の肉片である。
「能面の付喪神って?器物の悪霊の…小面袋蜘蛛ですよね?」
「勿論だとも!」
首領らしき人物は満面の笑顔で即答する。
「えっ…」
一方周囲の者達は小面袋蜘蛛の肉片に一瞬気味悪がる。
「二年前に西国近隣の廃村で…付喪神の肉片を回収したからな…」
「頭領…付喪神の肉片を如何されるのでしょうか?」
虚無僧の一人に恐る恐る問い掛けられると虚無僧の頭領は背後に存在する物体を指差したのである。
「此奴だよ…」
「えっ?女人の…遺体でしょうか?」
頭領の背後には腐敗した小柄の女性の遺体が確認出来る。
「えっ…女人の遺体なんて気味悪いですね…」
女性の遺体は皮膚の劣化により遺体の一部は完全に白骨化した状態だったのである。
「此奴の体内に退治された小面袋蜘蛛の肉片を含有させ…一握りとされる最上級妖女をも上回るであろう…史上最強の人工性の妖女を誕生させるのだよ!所謂全知全能の姫神様とでも呼称するべきか…」
「なっ!?全知全能の…姫神様ですと!?」
「頭領…本気なのですか?頭領?」
人工性妖女を誕生させる前代未聞の大計画であるが…。周囲の者達は本当に人工性妖女が誕生するのか如何なのかを疑問視したのである。
「人工性の妖女なんて…現実的に実現出来るのでしょうか?」
「実現出来るかは断言出来ないが…一か八かの大博打だ!成功すれば神聖なる姫神様が俗界に誕生されるのだ!」
頭領は恐る恐る小面袋蜘蛛の肉片を女性の遺体の内部に混入させる。
「準備は完了したぞ!」
女性の遺体に小面袋蜘蛛の肉片を混入させた直後である。
「一体何が発生するのですかね?」
女性の遺体に小面袋蜘蛛の肉片を混入させた直後に一瞬であるが…。
「なっ!?」
女性の遺体が一瞬ピクッと身動きしたのである。
「一瞬だが…女人の遺体が身動きしたぞ!」
彼等は恐る恐る女性の遺体に近寄る。
「遺体が身動きしたって!?本当なのか!?」
「本当に女人の遺体が身動きしたのか!?」
彼等は女性の遺体が身動きするのか再確認するものの…。女性の遺体は停止した様子であり何一つとして反応しない。
「彼女は…身動きしなくなったな…」
「先程の超常現象は一体…何だったのか?」
彼等は落胆したのである。
「見間違いだろうな…」
「当然だろう…遺体が身動きするなんて現実的に…」
数秒後…。遺体の腐敗した部分が猛スピードで再生され遺体は新鮮なる生身の女体へと変化したのである。
「うわっ!現実なのか?」
「腐敗が…再生し始めたぞ!一体何が!?」
すると生身の女体は深呼吸し始める。
「此奴は本物の生身の生者みたいだな…実験は成功したのか!?」
周囲の者達は超常現象が現実の出来事なのか混乱したのである。一方頭領は実験の成功に大喜びする。
「私達の計画は大成功したのだ!俗界に全知全能の姫神様が誕生されたぞ!」
生身の女体は外見のみなら黒髪で長髪の童顔美少女であり体格は小柄であるものの…。非常に容姿端麗である。直後…。瞑目した生身の女体が恐る恐る目覚め始める。
「目覚められましたか!?姫神様!」
頭領は生身の女体に姫神と呼称する。
「頭領?彼女は…姫神様は人形みたいな女性ですね…」
生身の女体は人形みたいな容姿であり一部の部下は生身の女体を気味悪がる。一方の生身の女体は警戒した様子であり血紅色の瞳孔で恐る恐る周囲を凝視したのである。
「姫神様…別に警戒されなくても大丈夫ですよ!」
頭領は警戒し続ける生身の女体に笑顔で発言する。
「私達は姫神様である貴女様に従事したいだけなのですからね!」
すると生身の女体は緊張が緩和したのか多少強張った表情が変化し始め…。無表情に戻ったのである。
「本日より貴女様の名前は…全知全能の姫神様…姫神【ウィプセラス】様なんて如何でしょうか?」
虚無僧の頭領は誕生したばかりの人工性妖女の名前を姫神ウィプセラスと名付ける。姫神ウィプセラスとはとある古代伝統宗教…。信仰の対象である姫神ウィプセラスとしての名称である。今回誕生した人工性妖女の名前を姫神のウィプセラスから引用…。ウィプセラスを生身の女体の正式名として名付けたのである。
「彼女はウィプセラスですか!」
「ウィプセラスとは太古の大昔に存在したとされる全知全能の姫神の名称でしたね…この上なく悪くないでしょう!」
部下達はウィプセラスの名前に賛同する。一方姫神ウィプセラスと名付けられた生身の女体は無表情で頭領を凝視し始める。
「ん?一体如何されたのでしょうか?ウィプセラス様?」
すると部下の一人が恐る恐る…。
「ひょっとして彼女は…ウィプセラス様は空腹なのでは?」
「空腹か…」
一方のウィプセラスは無反応であり一言も喋らない。
「ひょっとするとウィプセラス様は人語を喋れないのでしょうか?」
直後である。先程から無表情だったウィプセラスであるが…。突如としてニコッと微笑み始める。
「えっ?」
「ウィプセラス様?」
ウィプセラスの突然の笑顔に周囲の虚無僧は動揺したのである。
「ウィプセラス様…一体何が可笑しいのでしょうか?」
ウィプセラスは微笑み始めたかと思いきや…。ウィプセラスは自身の右腕から複数の蛸足らしき触手を生成させると虚無僧集団の頭領を拘束したのである。
「うわっ!何事だ!?ウィプセラス様!?如何されるのですか!?」
頭領は触手の吸盤により皮膚が密着…。身動き出来なくなる。
「ウィプセラス様!何故…私を!?」
頭領はウィプセラスの触手によって全身が覆い包まれ…。ズルズルとウィプセラスの体内へと吸収される。
「ひっ!」
「此奴…触手で頭領を捕食しやがったぞ!」
「此奴は女体の怪物だ!」
警戒した周囲の虚無僧は即座に護身用の刀剣を抜刀したのである。
「女体の物の怪が!」
「此奴は姫神様の欠陥だ!即刻姫神様の紛い物を仕留めろ!」
彼等はウィプセラスを姫神の紛い物と呼称する。対するウィプセラスは彼等の攻撃に危惧したのか即座に両腕から無数の触手を生成し始め…。体内の触手で周囲の人間達を拘束したのである。触手の吸盤が皮膚に密着され身動き出来なくなる。
「うわっ!」
「ぎゃっ!」
彼等も先程の頭領と同様にズルズルとウィプセラスの体内へと吸収されたのである。数秒間が経過するとウィプセラスの肉体が元通りに戻ったのである。すると直後…。
「私…人間…食べたい…人肉を…食べたい…食べたい…食べたい…」
ウィプセラスは片言であるが人間の口言葉で発語し始める。ウィプセラスは恐る恐る周囲を警戒した様子で暗闇の洞窟から脱出…。ウィプセラスは全裸の状態で物静かな山道を直進したのである。暗闇の洞窟から脱出したウィプセラスであるが…。夕方の時間帯にて三人組の匪賊達と山道の道中で遭遇したのである。
「ん?彼奴は誰だ?」
「村娘の姉ちゃんみたいだな…」
匪賊達はウィプセラスに近寄り始める。
「全裸だが…あんたは誰かに襲撃されちまったのか?であれば相当不運だったな!」
匪賊達に問い掛けられたウィプセラスであるが…。ウィプセラスは無言であり一言も返答しない。
「此奴…聾者なのか?」
「如何やら此奴は本当に喋れないみたいだな…」
すると大柄の匪賊は全裸のウィプセラスにムラムラし始めたのである。
「姉ちゃんは巨乳で可愛らしいな!今直ぐ夜遊びしちまいたいぜ!」
すると大柄の匪賊がウィプセラスの乳房を弄り始める。
「此奴は饅頭みたいに柔軟だな!」
乳房を弄られたウィプセラスであるが…。
「ん?此奴は…」
一方のウィプセラスは無反応であり表情も無表情だったのである。
「此奴は人形みたいで気味悪いな…普通の女子だったら悲鳴か抵抗するだろうに…無反応だぜ…」
すると匪賊の一人が無抵抗のウィプセラスに畏怖したのか恐る恐る後退りする。
「此奴は…ヤバそうだぜ…」
「ヤバそうだって?こんな全裸の小娘相手に畏怖しやがって!あんたは小心者だな!こんな小娘の何がヤバそうだよ!?」
大柄の匪賊はウィプセラスに畏怖し始めた匪賊を揶揄したのである。直後…。
「食べたい…」
「ん?」
匪賊達は突如として食べたいと発言し始めたウィプセラスの一言に反応する。
「此奴…食べたいって…」
「食べたいって…何を食べたいのか?」
大柄の匪賊に問い掛けられたウィプセラスは満面の笑顔でニコッと微笑み始める。
「人間…食べたい♪人間♪食べたい♪私♪空腹♪空腹♪」
匪賊達は満面の笑顔でニコニコし始めるウィプセラスに気味悪くなる。
「はっ?姉ちゃんは一体何を?正気なのか?」
「如何やら脳味噌がぶっ壊れちまったみたいだな…此奴は重度の痴人なのか?」
「此奴を相手するのは面倒だ…戻ろうぜ!」
彼等はウィプセラスにドン引きし始める。すると直後である。
「えっ!?」
ウィプセラスは自身の左腕から無数の触手が生成し始めると大柄の匪賊の肉体は覆い包み…。ズルズルと大柄の肉体諸共匪賊を自身の体内へと吸収したのである。
「ひっ!」
「はっ!?此奴は女体の怪物か!?人間を捕食しやがったぞ!」
「俺達も女体の怪物に食い殺される!逃げろ!」
二人の匪賊はウィプセラスに戦慄すると一目散にウィプセラスの視界から逃走…。一方のウィプセラスは満足したのか一息し始める。
「今度は妖女♪妖女が食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
大勢の人間達を捕食した影響からかウィプセラスは先程の状態より若干大人びた雰囲気へと変貌したのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ウィプセラスは空腹の様子であり暗闇の山道を徘徊し始める。

第二話

展墓
翌日の真昼…。西国の月影桜花姫は久方振りに死去した父親の月影鉄鬼丸と母親の月影春海姫の墓参りに出掛けたのである。
『父様と…母様…』
桜花姫は恐る恐る両親の墓石に接触する。
『久し振りね…』
桜花姫は両目を瞑目し始め…。恐る恐る合掌する。
『父様…母様…』
すると直後である。突然桜花姫の背後より…。
「桜花姫ちゃんが両親の墓参りとは…非常に珍妙だね!」
「きゃっ!」
桜花姫は吃驚した様子であり即座に背後を直視したのである。
「誰かと思いきや…蛇体如夜叉婆ちゃん…吃驚させないでよね…」
「御免よ…御免よ…吃驚させちゃったね!桜花姫ちゃん!」
蛇体如夜叉は満面の笑顔で謝罪する。
「今迄の私は悪霊征伐と匪賊征伐で多忙だったからね…仕方ないわよ…時たまだけど墓参りしないと…」
桜花姫は無表情で発言したのである。
「久方振りに元気そうな桜花姫ちゃんと対面出来たからね…今頃はあんたの両親も大喜びだろうよ!」
蛇体如夜叉が満面の笑顔で発言するのだが…。
「如何だろうか?実際母様は私が手出ししちゃったのよね…こんな親不孝の私なんかと再会して母様が大喜びするのか…正直疑問だけど…」
桜花姫は無表情で返答したのである。
『桜花姫ちゃん…』
蛇体如夜叉は桜花姫の雰囲気に一瞬気まずくなる。
『桜花姫ちゃんの雰囲気…正直気まずい雰囲気だね…』
蛇体如夜叉は村里に戻ろうかと思いきや…。
「蛇体如夜叉婆ちゃん?」
すると桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。
「結局…私の父様って…どんな人物だったの?」
「えっ?あんたの父親がどんな人物だったかって?」
蛇体如夜叉は桜花姫の突然の質問に一瞬困惑するものの…。
「あんたの父親…月影鉄鬼丸はね…第一印象は優男とは程遠い印象だったかね?性格は誰よりも生真面目だけど…必要以上に厳格って印象だったかな?正直ね…」
「私の父様って…僧侶の八正道様とは正反対みたいね…」
『必要以上に生真面目で厳格って…面倒臭そうな性格だわ…』
桜花姫は蛇体如夜叉の返答に苦笑いしたのである。
「普段の彼奴は…鉄鬼丸は厳格で一匹狼だったけれども…人一倍人情味で情熱的だったかな?鉄鬼丸が誰よりも熱血漢だったのは事実だよ!」
「私の父様は熱血漢だったのね!一匹狼なのは私みたいね!」
桜花姫はニコッと微笑み始める。
「一匹狼っぽい部分は桜花姫ちゃんっぽいね!本当に親子だよ!あんた達は!」
「本当よね!私も多人数よりは一人で行動するのが大好きだからね!」
桜花姫と蛇体如夜叉は談笑したのである。

第三話

遭遇
桜花姫と蛇体如夜叉が談笑した同時刻…。
「はぁ…」
粉雪妖女の雪美姫は北国郊外の山道を通行したのである。
『最近は退屈過ぎて仕方ないわ…』
雪美姫は花魁として活動中であったが…。時たま匪賊の征伐にも尽力したのである。悪霊の始祖邪霊餓狼の消滅以後…。世の中は非常に平和であり不寝番の桜花姫の影響からか匪賊達の活動も小規模化したのである。
「其処等の匪賊達も桜花姫に畏怖しちゃったのかしら?本当に世の中は退屈だわ…」
『こんなにも世の中が平和だと…私が大活躍したくても大活躍出来ないわね…面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
雪美姫は毎日の日常が退屈であると愚痴り始めるのだが…。
「えっ!?」
十数メートルもの近距離より全裸の女性が満面の笑顔で歩行するのが確認出来る。
『彼女!?如何して全裸なの!?』
全裸状態の女性に雪美姫は驚愕したのである。
『如何して彼女は全裸なのよ!?笑顔も気味悪いし…彼女は一体何者なの!?』
全裸の女性が非常に気味悪いと感じる。雪美姫は全裸の女性を素通りするのだが…。女性は素通りする雪美姫をヘラヘラとした表情でジロジロと凝視し続ける。全裸の女性を無視したい雪美姫であるが…。
「あんたは…鬱陶しいわね!先程から何よ!?」
雪美姫は苛立った様子でありヘラヘラし続ける全裸の女性に怒号したのである。
『此奴…』
雪美姫は非常に苛立ったのか全身がピリピリし始める。
「あんたは…私を苛立たせるわね!」
雪美姫はピリピリし始めたものの…。
「あんたの名前は?」
女性に名前を問い掛ける。すると全裸の女性は満面の笑顔で…。
「私♪名前♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」
全裸の女性は自身の名前をウィプセラスと名乗り始める。
「えっ…ウィプセラスですって?ウィプセラスなんて異国の人間みたいな名前ね…あんたは異国出身の人間なのかしら?」
ウィプセラスと名乗る女性はヘラヘラした様子である。一方の雪美姫は気味悪くなったのか警戒した様子で恐る恐る後退りする。
『彼女の正体って…悪霊なの!?』
現段階ではウィプセラスと名乗る全裸の女性が何者なのかは正体が不明瞭であり雪美姫は非常に気味悪がる。
『悪霊って一年前だったかしら?桜花姫が邪霊餓狼って悪霊の親玉を浄化させちゃったから…彼女は悪霊とは完全に別物よね?彼女の肉体からは悪霊特有の霊気らしい霊気なんて感じられないし…』
ウィプセラスの肉体からは悪霊特有とされる霊気は何一つとして感じられず悪霊とは無縁の存在であると確実視したのである。
『何方にせよ…彼女が厄介なのは確実だわ…彼女の正体は一体何者なのかしら?』
雪美姫は警戒した様子でウィプセラスに睥睨し始める。
「あんたの名前はウィプセラスだったかしら?悪いけど…あんたは私の妖術で凍死しなさい!」
雪美姫は即座に粉雪妖術を発動…。ウィプセラスの両足を氷結させたのである。
「ぎゃっ!私…身動き出来ない…身動き出来ない…」
ウィプセラスは両足の凍結により身動き出来なくなる。
「ウィプセラスは身動き出来なくなったわね♪いい気味だわ♪」
雪美姫は身動き出来なくなったウィプセラスに冷笑し始める。一方氷結の妖術によって身動きを封殺されたウィプセラスであるが…。
「食べられない♪妖女♪食べられない♪」
こんな状態でもウィプセラスは余裕なのかヘラヘラし続けたのである。
「えっ…あんたは正気なの?」
ウィプセラスは異常であり雪美姫はドン引きする。
『桜花姫以上に狂気的ね…気味悪いわ…本当に彼女は何者なのかしら?』
ウィプセラスの全身を氷結させる寸前…。
「えっ!?」
ウィプセラスは両腕より蛸足を連想させる無数の触手を生成したのである。
『両腕から蛸足を!?』
ウィプセラスの体内より出現した無数の触手が雪美姫の全身に密着する。
「ひゃっ!」
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
触手の吸盤が全身の皮膚に密着すると雪美姫は気味悪くなる。
『畜生…一か八かよ!』
雪美姫は一か八か粉雪分身の妖術を発動…。皮膚の表面より無数の粉雪を地面に飛散させる。無数の触手に拘束された数秒後…。拘束された雪美姫の全身はウィプセラスの触手に覆い包まれ触手諸共ウィプセラスの体内へと吸収されたのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
雪美姫を捕食したウィプセラスは大喜びし始める。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ウィプセラスは満足したのかヘラヘラした様子で移動を再開したのである。ウィプセラスが退散した数秒後…。飛散した無数の粉雪が再度融合化すると女体を形成させる。無数の粉雪が女体を形成させた数秒後…。
「はぁ…」
粉雪妖女の雪美姫が元通りの姿形に復活したのである。
『危機一髪だったわね…もう少しで彼女に食い殺されるかと…』
雪美姫は無事でありホッとする。
『粉雪分身の妖術を発動しなかったら…私は確実にウィプセラスって怪物に食い殺されたでしょうね…』
雪美姫は再度周囲を警戒したのである。
「ウィプセラスって女体の怪物…彼女は下手すれば神出鬼没の悪霊よりも厄介かも知れないわね…」
『最上級妖女の桜花姫だったら…ウィプセラスに対抗出来るかしら?』
雪美姫はウィプセラスに対抗出来るのは桜花姫以外には存在しないと確信する。雪美姫は即座に西国の村里へと直行したのである。

第四話

入浴中
同日の夕方…。最上級妖女の月影桜花姫は毎日の日課である精霊故山の露天風呂に入浴したのである。
『極楽浄土!極楽浄土!』
桜花姫は露天風呂の適温の湯加減に満足する。
「精霊故山の露天風呂は湯加減も適温だし!」
『消耗しちゃった妖力も回復させられるから最高ね!本物の極楽浄土だわ!』
露天風呂の湯加減に満足した桜花姫であるが…。
「えっ?」
背後よりガサガサッと人気に気付いたのである。
『人気!?何かしら!?』
桜花姫は警戒した様子で背後を凝視し続ける。
「一体何者なの!?」
すると背後の岩陰より茶髪の童顔美少女が出現したのである。
「桜花姫姉ちゃん…」
「誰かと思いきや…あんたは山猫妖女の小猫姫…」
背後の人物は山猫妖女の小猫姫であり桜花姫は一安心する。
「あんたは人騒がせね…小猫姫…一瞬吃驚しちゃったわ…」
「御免ね!桜花姫姉ちゃん!」
桜花姫は小猫姫の出現に満面の笑顔で…。
「あんたは純粋無垢の女の子なのに入浴中の女性を覗き見するなんてね!助平の八正道様みたいだわ!あんたも相当の物好きみたいね!」
「助平って…私は…別に…」
小猫姫は苦笑いし始める。同時刻…。東国の寺院では八正道が突如としてクシャミしたのである。
「えっ…一体何事でしょうか?」
『誰か私の噂話でも?非常に奇妙ですね…』
八正道は彼是と思考し続ける。同時刻…。小猫姫は赤面した様子で恐る恐る着物を脱衣したのである。
「私も…久し振りに精霊故山の露天風呂に入浴したくて…」
小猫姫は恐る恐る周囲を警戒…。多少緊張した様子で石造りの露天風呂へと入浴したのである。
「小猫姫!別に警戒しなくても大丈夫よ!女同士だから気にしないの!」
「桜花姫姉ちゃんは全裸でも平気なのかも知れないけれども…私は…」
小猫姫は表情が赤面し始める。
「小猫姫!あんたは意外と処女なのね!」
桜花姫は満面の笑顔で入浴中の小猫姫へと近寄る。
「処女のあんたは!」
「えっ…何よ?桜花姫姉ちゃん…」
小猫姫は近寄り始めた桜花姫に再度警戒したのである。
「小猫姫!」
桜花姫は小猫姫の乳房を凝視し始める。
「あんたのおっぱいって…饅頭みたいで柔軟だわ!」
「えっ?おっぱいが饅頭って?」
小猫姫は珍紛漢紛だったのである。一方の桜花姫は赤面した表情で恐る恐る…。
「御免あそばせ!小猫姫!」
小猫姫の巨乳のおっぱいを力一杯弄ったのである。
「きゃっ!桜花姫姉ちゃんの助平!突然何するのよ!?」
小猫姫は桜花姫の突然の愚行に動揺し始める。
「何って?あんたのおっぱいは本当に饅頭みたいで可愛らしいわね♪」
「えっ!?饅頭って…」
小猫姫は赤面したのである。
『桜花姫姉ちゃんって…意外と変態なのね…』
小猫姫は内心桜花姫の行為に呆れ果てるものの…。
「私だって!桜花姫姉ちゃんに仕返ししちゃうからね!」
小猫姫も桜花姫に仕返ししたのである。
「如何なの?桜花姫姉ちゃん!」
小猫姫も力一杯桜花姫の乳房を接触し始め…。
「きゃっ!いや~ん♪小猫姫の助平♪」
桜花姫も赤面したのである。
「何が助平だよ!助平なのは桜花姫姉ちゃんも同類でしょうに!」
二人が弄り合った直後…。
「えっ?」
「桜花姫姉ちゃん?如何したの?」
「気配だわ…」
再度背後から気配を感じる。
「気配だって?」
「今度は誰かしら?」
「一体誰だろうね?」
桜花姫と小猫姫は恐る恐る背後を警戒し始め…。背後の岩陰より人気を感じる。
「あんたは…誰なの?ひょっとして覗き見かしら?」
すると岩陰から水色の着物姿の花魁が出現する。
「あんたは…粉雪妖女の雪美姫…」
「雪美姫姉ちゃんだ!」
「桜花姫と小猫姫…あんた達は此処で入浴中だったのね…」
「雪美姫?あんたも入浴したいの?」
「急用なのよ…桜花姫…」
雪美姫は深刻そうな表情であり桜花姫も表情が変化したのである。
「急用ですって?一体何かしら?」
「昼間の出来事だけど…」
雪美姫は先程の出来事を一部始終説明し始める。

第五話

下級妖女
雪美姫が桜花姫と小猫姫に接触した同時刻…。徘徊中の人工性妖女ウィプセラスは東国の天空山頂上へと移動したのである。天空山とは東国の最高峰であり標高三キロメートル規模の巨山…。東国最大級の観光地である。数年前は悪霊の出現により登山者は減少傾向であったが邪霊餓狼の消滅以後…。再度登山者が増加し始める。天空山の頂上では鎖鎌を所持するとある童顔の美少女が武術の修行に尽力する。
『私も一生懸命修行し続けて…最上級妖女の月影桜花姫様は無理でも!妹分の小猫姫には勝利したいわね!』
彼女は妖女の【躑躅姫】…。年齢は山猫妖女の小猫姫と同年代であり躑躅姫にとって小猫姫は好敵手だったのである。躑躅姫の家系は最強の忍者一族であり躑躅姫の先祖達は戦乱時代では諜報活動は勿論…。要人の暗殺任務で大活躍したとされる。安穏時代は非常に平和であり忍者の仕事は限定的であるものの…。躑躅姫は唯一の女性忍者であり極悪非道の匪賊の諜報活動やら暗殺任務に従事したのである。余談であるが…。幼少期の寺子屋時代では躑躅姫は山猫妖女の小猫姫と同期だったのである。躑躅姫が小猫姫を好敵手として意識するのは寺子屋での小猫姫との交流も影響する。
「えいっ!」
躑躅姫は鎖鎌の大鎌を投擲しては近辺の樹木をグルグルに絡まらせる。
『雷光斬撃の妖術…発動!』
両手より雷光斬撃の妖術を発動…。体内から放電させた雷光を所持品の鎖鎌に流電させたのである。直後…。樹木が黒焦げに燃焼する。
『上出来!上出来!』
躑躅姫は修行の成果に大喜びしたのである。
「修行の成果かしら?」
『こんな私でも…山猫妖女の小猫姫になら対抗出来そうね!』
躑躅姫は自身の上達にホッとした直後…。
「えっ?」
僅少であるが突如として別の妖力が天空山頂上に接近するのを感じる。
『妖力を感じるわね…一体何かしら?』
躑躅姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。
「あんたは…一体何者よ?」
『彼女も…妖女なのかしら?』
躑躅姫の背後には全裸の女性が佇立…。女性はヘラヘラした表情で修行中の躑躅姫を凝視したのである。
『彼女は…神出鬼没の悪霊みたいな雰囲気で気味悪いわね…』
全裸の女性からは複数の妖力が同時に感じられ躑躅姫は不吉に感じる。
『彼女の体内からは複数の妖力が感じられるわね…彼女は一体何者なのかしら?』
すると全裸の女性は満面の笑顔で…。
「私♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
全裸の女性は子供っぽい口調で自身をウィプセラスと名乗り始める。
「ウィプセラスですって?あんたみたいな妖女は初耳だわ…」
『彼女の体内から僅少の妖力が複数感じられるけれども…彼女の正体は一体何者なのかしら?ひょっとすると異国出身の妖女とか?』
ウィプセラスは異質的存在であり純血の妖女なのか疑問視したのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「此奴…」
『先程から食べたい…食べたいって鬱陶しいわね…』
躑躅姫は只管食べたいと連呼し続けるウィプセラスに大層苛立ったのである。
「あんたみたいな下級妖女…即刻死になさい!」
躑躅姫は即座に鎖鎌を投擲…。ウィプセラスを捕縛したのである。身動き出来なくなったウィプセラスであるが…。ヘラヘラとした表情で躑躅姫を凝視し続ける。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
躑躅姫はヘラヘラし続けるウィプセラスに気味悪がる。
「あんたみたいな痴人と遭遇するなんてね…覚悟するのね!」
躑躅姫は妖力を発動…。
「自爆しろ…」
躑躅姫は標的のウィプセラスに自爆の妖術を発動したのである。
「えっ♪」
直後…。ウィプセラスの肉体は自爆の妖術によってバラバラに粉砕される。天空山頂上にはウィプセラスの血肉やら肉片が地面に飛散したのである。
「所詮は下級妖女…あんたみたいな下級妖女が私を食い殺すなんて無謀なのよ!」
躑躅姫は戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
飛散した周辺の肉片がピクピクッと鼓動し始めると一瞬で融合化したのである。融合化した無数の肉塊は等身大の女体を形作り…。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
元通りのウィプセラスに戻ったのである。
「なっ!?」
『彼女は…不死身なの!?』
躑躅姫は復活したウィプセラスにゾッとし始める。
「彼女…」
『肉体をバラバラに粉砕させても元通りに戻れるなんて…ウィプセラスは神出鬼没の悪霊以上に厄介そうね…』
躑躅姫はウィプセラスの生命力に驚愕したのか恐る恐る後退りしたのである。
「今度は私の出番♪私の出番♪私の出番♪」
ウィプセラスは捕食した雪美姫の氷結の妖術を発動し始め…。
「えっ!?」
躑躅姫の両足を氷結させたのである。
『氷結ですって!?』
躑躅姫は両足の氷結により身動き出来なくなる。
「ぐっ…」
『彼女は…氷結の妖術を駆使出来るの!?』
するとウィプセラスは両腕より無数の触手を生成させたかと思いきや…。生成させた無数の触手で躑躅姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
『両腕から蛸足を!?ウィプセラスは一体何者なの!?』
触手の吸盤により躑躅姫の身動きを封殺する。
「ぐっ!」
『迂闊だったわ…身動き出来なくなるなんて…』
躑躅姫の身体髪膚はウィプセラスの触手に覆い包まれる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
全身がウィプセラスの触手に覆い包まれてより数秒後…。
『私は…こんな痴人に食い殺されるなんて…無念だわ…』
無数の触手に覆い包まれた躑躅姫の肉体は無数の触手諸共ウィプセラスの体内へと吸収されたのである。一方のウィプセラスは躑躅姫の捕食に成功…。大満足の様子だったのである。
「御馳走様♪御馳走様♪」
妖女の躑躅姫を食い殺したウィプセラスは満面の笑顔で天空山から退散する。

第六話

捕食者
天空山での戦闘が終了した同時刻…。粉雪妖女の雪美姫は桜花姫の家屋敷にて真昼の出来事を一部始終告白したのである。
「あんたの粉雪の分身体が…ウィプセラスなんて名前の正体不明の怪物に捕食されちゃったのね…」
「桜花姫姉ちゃん?ウィプセラスって女人の怪物は悪霊の一種なのかな?」
小猫姫はボソッと質問する。
「ウィプセラスの正体が神出鬼没の悪霊なら悪霊特有の霊気を感じられるでしょうし…私が即刻退治するわよ…神出鬼没の悪霊は主体の邪霊餓狼が消滅しちゃったから俗界では出現したくても出現出来ないでしょうね…」
元凶の邪霊餓狼が完全消滅した影響により以後…。神出鬼没の悪霊は俗界には出現しなくなる。
「昼間に遭遇した彼女からは悪霊特有の霊気は感じられなかったわ…悪霊とは完全に別物っぽかったけれど…雰囲気的には妖女とも似ても似つかない異類の存在でしょうね…無理矢理に解釈するなら妖女の亜種かしら?」
「妖女の亜種ね…」
現段階ではウィプセラスの正体は不明瞭であり彼女達はモヤモヤしたのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「ウィプセラス…彼女の正体が神出鬼没の悪霊でも…純血の妖女にも該当しないのであれば…神族の一人である可能性とかは?」
「えっ?ウィプセラスが神族の一人ですって?」
「桜花姫姉ちゃん…神族は該当しないよ…」
小猫姫は神族の仮説に否定する。
「蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は大昔の大戦争で全滅しちゃったらしいからね…」
小猫姫の発言に雪美姫も同意したのである。
「私も小猫姫と同感だわ…ウィプセラスには神族みたいな神秘性なんて皆無だったし…彼女は小汚い無邪気の子供っぽい印象だったわね…」
「であればウィプセラスの正体って…一体何者なのかしら?」
結局…。ウィプセラスの正体が何者なのか不明瞭であり彼女達はモヤモヤした様子で解散したのである。小猫姫は帰宅途中…。
「えっ…何だろう?」
西国と南国の国境山道よりフラフラした状態で歩行し続ける正体不明の人影を発見したのである。
『人影かな?』
周囲は暗闇であり人影の正体は不明瞭であるが…。
「一体何者なの?」
『雰囲気だけなら神出鬼没の悪霊っぽいけれど…』
人影はフラフラした身動きで小猫姫の方向へと接近したのである。
『悪霊は親玉の邪霊餓狼が消滅しちゃったから出現しないし…こんな真夜中に一体何者だろう?』
正体不明の人影がフラフラした状態で小猫姫の間近へと近寄り続ける。
「えっ!?」
『女の人!?全裸だし…彼女は何者かな?』
人影の正体とは全裸の女性であり小猫姫を直視するとニコッと微笑み始める。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪」
一方の小猫姫は全裸の女性に警戒したのである。
『食べたいって…彼女!?』
小猫姫は全裸の女性の口言葉にハッとする。
『ひょっとして彼女が雪美姫姉ちゃんの粉雪分身を捕食した女人の怪物…ウィプセラスなの!?』
小猫姫は全裸の女性が女人の怪物ウィプセラスであると察知…。
『如何しましょう?』
小猫姫は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
『彼女の正体が本当に怪物のウィプセラスであれば…』
小猫姫はウィプセラスに睥睨し始める。
「あんたがウィプセラスなら!山猫妖女の私が徹底的に征伐するよ!」
小猫姫はウィプセラスとの遭遇に警戒する。
「私♪ウィプセラス♪あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
ウィプセラスは只管ヘラヘラした様子で小猫姫に近寄ったのである。
「あんたは何者よ!?私に近寄らないで!」
小猫姫は近寄り続けるウィプセラスに威嚇する。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
小猫姫に威嚇されたウィプセラスであるが…。ウィプセラスはヘラヘラした様子であり只管食べたいと連呼し続ける。
「此奴…」
『ウィプセラスは会話が通じないの?』
小猫姫は非常に苛立ったのか大声で…。
「ウィプセラス!私に近寄るな!」
小猫姫は鬼神の形相でウィプセラスに怒号したのである。
『仕方ないね!』
小猫姫は全身全霊の妖力を発揮…。変化の妖術を発動すると小猫姫は伝説の妖獣へと変化したのである。
「はっ!」
小猫姫の妖力は莫大であり近寄ったウィプセラスの肉体は一瞬で粉砕され…。周辺の地面にはバラバラに粉砕された無数の血肉やら肉片が飛散したのである。
『簡単に仕留めちゃったね…全身に妖力を放出させただけなのに…ウィプセラスは私が想像する以上に脆弱だったのかな?』
小猫姫は全身に妖力を放出させただけでありウィプセラスの肉体は非常に脆弱なのか簡単に粉砕される。
「こんな場所で長居し続けたくないし…」
『即刻戻らないと…蛇体如夜叉婆ちゃんが心配するよね?』
小猫姫は南国の自宅に戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
背後より気配を感じる。
『何だろう?』
小猫姫は背後の様子を直視したのである。するとバラバラに粉砕されたウィプセラスの血肉が融合化し始め…。
『ウィプセラス!?』
ウィプセラスは元通りの女体の姿形に戻ったのである。
「復活♪復活♪私♪不死身♪私♪不死身♪」
元通りに再生したウィプセラスに小猫姫は驚愕する。
「えっ!?」
『彼女って…肉体がバラバラでも元通りに復活出来るの!?』
小猫姫は警戒した様子で口先に妖力を凝縮させる。
「死滅しろ!ウィプセラス!」
口先より高熱の雷球を発射…。高熱の雷球はウィプセラスの肉体に直撃する。ウィプセラスの肉体は非常に脆弱であり簡単に粉砕されたのである。
『今度こそ…』
焦土化した山道には黒焦げの肉片が彼方此方に散乱する。
『今度こそ…ウィプセラスは死滅したのかな?』
小猫姫は恐る恐る警戒したのである。
『ウィプセラスは…復活しないよね?』
ウィプセラスの肉体を完膚なきまでに破壊した数秒後…。一部の小指サイズの肉片が等身大サイズへと細胞分裂し始める。細胞分裂した肉片は等身大の女体を形成させる。
「えっ!?」
小猫姫は目前の超常現象にゾッとしたのである。
『ウィプセラスは不死身なの!?』
等身大の女体はウィプセラスの肉体へと形作られる。
「私♪元通り♪復活♪復活♪復活♪」
ウィプセラスは完膚なきまでに全身の肉体を粉砕されたとしても不老不死の性質上…。肉体は何度でも復活出来る。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
ウィプセラスはヘラヘラした様子で再度小猫姫に近寄ったのである。
「死滅しろ!ウィプセラス!」
小猫姫は再度高熱の雷球を発射するのだが…。ウィプセラスは両手より無数の触手を生成させると小猫姫の高熱の雷球を吸収したのである。
「えっ…」
『私の雷球が吸収されるなんて…』
妖力の吸収能力によって小猫姫の必殺の雷球を無力化する。
「あんたの妖力♪美味しい♪妖力♪美味しい♪」
ウィプセラスは小猫姫の妖力を吸収すると大喜びしたのである。
「今度はあんた♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ウィプセラスは再度両手から無数の触手を発動…。無数の触手で妖獣形態の小猫姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
『身動き出来ない…如何すれば!?』
ウィプセラスの触手により拘束され…。小猫姫は完全に身動き出来なくなる。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ウィプセラスの触手が皮膚に密着すると全身の妖力が吸収され…。小猫姫は一瞬で元通りの少女の姿形に戻ったのである。
「ぐっ!」
『変化の妖術が解除されちゃった…私…ウィプセラスに食い殺されちゃうよ…』
小猫姫は極度の恐怖心からか涙腺から涙が零れ落ちる。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…桜花姫姉ちゃん…私は…こんな場所で死にたくないよ…』
小猫姫はウィプセラスの体内へと吸収される直前…。突如としてウィプセラスの肉体がパンッと破裂したのである。
「きゃっ!」
突然の出来事に小猫姫は吃驚する。
「えっ!?」
『ウィプセラスが…一体何が発生したの?』
直後…。何者かが小猫姫の背中をポンッと接触したのである。
「ひゃっ!」
吃驚した小猫姫は即座に背後を直視…。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん!?」
突如として小猫姫の背中を接触した人物とは誰であろう最上級妖女…。月影桜花姫だったのである。
「御免あそばせ♪小猫姫♪大丈夫かしら?」
「桜花姫姉ちゃん♪」
小猫姫は桜花姫の参戦に命拾い出来…。ホッとしたのである。
「私が参戦しなかったら…あんたは今頃彼奴に食い殺されたでしょうね…危機一髪だったわね♪小猫姫♪」
「桜花姫姉ちゃん…感謝するね…私は大丈夫だよ♪」
小猫姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何して桜花姫姉ちゃんがこんな場所に?」
「あんたの妖力は勿論だけど…複数の妖女の妖力を同時に察知したのよね♪」
「複数の妖力?」
桜花姫は南国の国境より小猫姫と数人の妖女の妖力を察知したのである。
「ひょっとして彼女が…怪物のウィプセラスかしら?」
「桜花姫姉ちゃん…彼女がウィプセラスみたいだよ…」
「ウィプセラスは外見だけなら普通の女の子っぽいけどね…」
直後…。念力の妖術でバラバラに粉砕されたウィプセラスの血肉が融合化すると元通りに戻ったのである。
「私♪元通り♪元通り♪復活♪復活♪」
復活したウィプセラスはヘラヘラした表情で桜花姫の方向を凝視し始める。
「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「ウィプセラスは私が想像する以上に厄介そうだわ…粉砕された肉体が瞬時に復活するなんてね…」
『ウィプセラスは性質上…不老不死みたいね…』
桜花姫はウィプセラスに警戒したのである。
『彼女の肉体からは小猫姫と雪美姫の妖力と…別の誰かの妖力が感じられるわね…』
現段階ではウィプセラスが何者なのかは不明瞭であるが…。ウィプセラスが妖女の妖力を複数吸収したのは確実であると認識出来る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
するとウィプセラスは雪美姫の氷結の妖術を発動したのである。氷結の妖術により桜花姫の両足が氷結され…。桜花姫は身動き出来なくなる。
『雪美姫の氷結の妖術かしら?』
氷結の妖術により身動き出来なくなった桜花姫であるが…。桜花姫は普段と同様に冷静沈着だったのである。直後…。ウィプセラスは両手から無数の触手を生成させ氷結の妖術により身動き出来なくなった桜花姫を拘束する。
「桜花姫姉ちゃんが拘束されちゃった!」
小猫姫はウィプセラスの触手によって拘束された桜花姫に冷や冷やしたのである。
「心配しなくても大丈夫よ…小猫姫…」
桜花姫はウィプセラスに捕食されても可笑しくない状態であるが…。桜花姫は普段と同様に冷静沈着であり小猫姫は非常に不思議がる。
「えっ…桜花姫姉ちゃん?」
『ウィプセラスに食い殺されちゃうかも知れない状況なのに…如何して桜花姫姉ちゃんは冷静なの?』
するとウィプセラスはヘラヘラした様子で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫の肉体はウィプセラスの触手により覆い包まれる。
「桜花姫姉ちゃん!?」
『桜花姫姉ちゃんがウィプセラスに食べられちゃう!私は如何すれば!?』
目前の光景に戦慄する小猫姫であるが…。ウィプセラスの触手に覆い包まれた桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。すると無数の触手に覆い包まれた桜花姫の肉体がポンッと完膚なきまでに消滅したのである。
『桜花姫姉ちゃんの肉体が消滅!?桜花姫姉ちゃんの本体は!?』
小猫姫は勿論…。
「えっ?妖女は?妖女は?」
ウィプセラスでさえも何が発生したのか理解出来ない。するとウィプセラスの背後より何者かがポンッとウィプセラスの背中を接触したのである。
「えっ?あんた?誰?誰?」
「残念だったわね!ウィプセラス!」
「桜花姫姉ちゃん!?」
冷や冷やした小猫姫であるが…。
『やっぱり桜花姫姉ちゃんは無事だったのね…冷や冷やしちゃったよ…』
桜花姫は健在であり小猫姫はホッとしたのである。
「妖女?妖女?妖女?」
「あんたが拘束したのは私の分身体なのよ!」
桜花姫はウィプセラスに食い殺される寸前…。分身の妖術を発動したのである。
「分身体で残念だったわね!ウィプセラス!あんたみたいなお馬鹿さんが最上級妖女である私を食い殺すなんて無謀なのよ!」
するとウィプセラスは周囲をキョロキョロし始める。
「覚悟しなさい!ウィプセラス!」
ウィプセラスは圧倒的に不利であると判断…。雷撃分身の妖術を発動したのである。雷撃分身の妖術とは自爆分身の妖術の類似妖術とされる。通常の分身の妖術を自爆攻撃用に転用させた応用型の高等妖術として知られる。雷撃分身の妖術は分身体を一時的に自爆…。同時に高火力の雷撃を発生させ相手を感電死させる自爆系統の高等妖術である。ウィプセラスの肉体が雷光に変化したかと思いきや…。
「なっ!?」
桜花姫と小猫姫を急襲したのである。
『雷光分身の妖術かしら!?』
桜花姫は自身の肉体と小猫姫に防壁の妖術を発動…。間一髪雷光分身による雷撃攻撃を無力化したのである。
「危機一髪だったわね!小猫姫!」
桜花姫は勿論…。小猫姫は一安心する。
「私は命拾い出来たけれど…結局ウィプセラス…彼女には逃げられちゃったね…」
ウィプセラスは雷撃分身の妖術を発動したと同時に逃亡したのである。
「ウィプセラスに逃げられちゃったのは残念だわ…今回ばかりは仕方ないわね…」
最早桜花姫でもウィプセラスの妖力を察知出来ず…。
「ウィプセラス…」
『今度ウィプセラスと遭遇したら確実に仕留めましょう…』
逃亡したウィプセラスを追撃するのは不可能だったのである。
『結局彼女は何者なのかしらね?ウィプセラスの体内からは複数の妖力が感じられたけれど…微妙に違和感が…彼女は純血の妖女なの?純血の妖女とは別物なのかしら?』
ウィプセラスの体内からは複数の妖女特有の妖力を感じられるのだが…。純粋無垢の妖女と比較した場合ウィプセラスは絶妙に特異的存在だったのである。すると小猫姫が恐る恐る発言する。
「桜花姫姉ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんだったらウィプセラスの正体が何者なのか判明出来るかも知れないよ!」
「であれば即刻南国の村里に直行しましょう!」
桜花姫と小猫姫は南国の村里へと直行したのである。

第七話

正体
移動し始めてから数分後…。桜花姫と小猫姫は蛇体如夜叉の自宅へと無事到達したのである。
「今晩は!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
桜花姫は満面の笑顔で挨拶するのだが…。
「えっ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん?」
蛇体如夜叉は居室の床面にグッタリと横たわった状態だったのである。小猫姫は衝撃の光景にハッとした表情で蛇体如夜叉に殺到し始める。
「蛇体如夜叉婆ちゃん!?」
すると蛇体如夜叉が恐る恐る目覚めたのである。
「えっ?小猫姫かい…如何しちゃったのかな?」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なの!?」
問い掛けられた蛇体如夜叉は小声で返答する。
「私なら大丈夫だよ…常日頃の疲労が蓄積しちまっただけだから…」
「はぁ…単なる疲労だったのね…」
蛇体如夜叉の返答に小猫姫は一安心したのである。
「吃驚しちゃったわ…一瞬冷や冷やしちゃったよ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」
一方の桜花姫も…。
「本当よ…蛇体如夜叉婆ちゃんは人騒がせね…」
「二人とも本当に御免よ…あんた達には心配させちゃったね…」
蛇体如夜叉は彼女達に謝罪する。
「気にしないで!蛇体如夜叉婆ちゃん!」
「私達は大丈夫だから!」
「あんた達…」
小猫姫と桜花姫は蛇体如夜叉の様子に一安心したのである。数秒間が経過すると桜花姫は恐る恐る蛇体如夜叉に問い掛ける。
「蛇体如夜叉婆ちゃん?突然の質問なのだけど…」
「突然の質問だって?何だろうかね?」
桜花姫は先程の出来事を一部始終蛇体如夜叉に口述したのである。
「ウィプセラスと名乗る正体不明の女人とは…」
蛇体如夜叉は瞑目し始める。
「私と小猫姫は彼女の正体が純血の妖女なのか神族なのか…知りたくてね…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん?ウィプセラスは神族なの?妖女なの?」
すると蛇体如夜叉は発言する。
「神族は該当しないだろうね…俗界で私以外の神族は実質存在しないからね…」
「神族が該当しないのであれば消去法で…彼女の正体は妖女かしら?」
「微妙だけど…妖女とも無縁そうだね…」
妖女の存在も否定したのである。
「妖女とも無縁であれば…彼女は一体何者なのかしら?ひょっとすると天空世界の天女の一種とか?」
「桜花姫姉ちゃん…」
『ウィプセラスが天空世界の天女って…』
小猫姫は桜花姫の天女の発言に苦笑いする。蛇体如夜叉は一瞬沈黙するものの…。
「ひょっとするとウィプセラスの正体は…極悪非道の人間達によって生誕させられた人工性の妖女だろうね…」
「えっ!?人工性の妖女ですって!?」
桜花姫と小猫姫は蛇体如夜叉の人工性の妖女発言に驚愕する。
「人工性って…ウィプセラスは人間によって誕生させられた妖女なの!?」
「人為的に妖女なんて形作れちゃうの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
「三百年前の伝承だけれどね…」
三百年前の出来事である。とある村里の夫婦が疫病で死去した愛娘の遺体に世界樹として認識される妖星巨木の破片を愛娘の遺体に含有…。逝去した愛娘は元通りの姿形に復活したのである。愛娘の復活に大喜びした夫婦であったが…。死者蘇生によって復活した愛娘は生前とは別人だったのである。姿形こそ生前の少女であるが…。少女は悪霊以上の怪物へと変貌したのである。夫婦は本能のみの怪物へと変化した少女によって食い殺され…。只管近隣の村里で暴れ回る。一晩中暴れ回った少女の怪物は最終的に村里の妖女と僧侶によって浄化されたのである。
「所謂人間の愚行による悲劇だね…」
すると桜花姫は呆れ立てた様子で…。
「結局は人間達の自業自得ね…当然の結果だわ!所詮死去した人間を完全に復活させるなんて不可能なのよ!口寄せの妖術以外ではね!」
桜花姫は病死した愛娘を怪物として復活させた夫婦の行為を自業自得であると軽蔑したのである。
「先程の大昔の伝承からウィプセラスの正体が判明したわね…」
「ひょっとしてウィプセラスの正体って人間達の愚行によって復活させられた…女性の遺体だったのかしら?」
「ウィプセラスが…人為的に誕生させられた愚物なのは確実だね…」
結論は断言出来ないが…。ウィプセラスの大凡の正体を把握した桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。

第八話

茶店
深夜帯のウィプセラスとの戦闘から五日後…。人工性妖女のウィプセラスの行方は不明瞭でありウィプセラスは出現しなくなる。ウィプセラスとは遭遇しなかったが…。若齢の村娘が神隠しに遭遇するとの行方不明事件が合計三件も連続的に発生したのである。近隣の村人達は勿論…。各地の武士団も行方不明者である村娘達を捜索するのだが行方不明者達は誰一人として発見されない。神隠しに遭遇した三人の村娘は共通して人外の妖女だったのである。神隠しの噂話は国全体に出回り始め…。桜花姫も近辺の村人達から神隠しの噂話を熟知したのである。
『神隠しの事件ね…』
行方不明者達の噂話を熟知した当日の真昼…。桜花姫は暇潰しに東国の茶店で一休みしたのである。
『行方不明者達は三人とも純血の妖女なんて…』
桜花姫はフッとウィプセラスの存在を連想する。
『今回の事件って…恐らくだけど犯人はウィプセラス…』
「彼女の仕業なのは確実でしょうね…」
すると直後…。
「あんたは桜花姫かしら?」
「えっ?誰かと思いきや…あんたは粉雪妖女の雪美姫?」
花魁の雪美姫が同席したのである。
「こんな茶店で一休みなんて…桜花姫らしいわね!」
「和菓子屋は私にとって毎日の日課だからね!当然でしょう!」
机上には小皿と桜餅は勿論…。緑茶が確認出来る。
「雪美姫?如何してあんたはこんな場所に?」
問い掛けられた雪美姫は満面の笑顔で返答する。
「単なる気分転換よ!気分転換!」
「雪美姫も気分転換なのね…」
すると雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「如何やら桜花姫も…今回の神隠しの事件が気になるみたいね…行方不明者達は三人とも人外の妖女らしいし…」
「今回の相手は今迄に出現した悪霊よりも厄介そうだわ…」
ウィプセラスの厄介さは神出鬼没の悪霊以上であると評価する。
「最上級妖女のあんたでも厄介って感じるのであれば…今回の相手は余程手強いみたいね…凡庸の私なんて場違いだわ…」
雪美姫は強豪のウィプセラスを相手に命拾い出来た自身に愕然としたのである。
「ウィプセラスは妖女を捕食しても妖力を自由自在に制御出来るみたいだわ…彼女の妖力を感じられないのよね…正直私でもウィプセラスの妖力を察知するのは困難ね…」
「桜花姫でも察知出来ないなんて…ウィプセラスは想像以上に厄介ね…」
ウィプセラスは絶大なる妖力を保持するのだが体内の妖力を自由自在に消失させられ…。ウィプセラスの居場所を正確に特定するのは実質困難である。
「行方不明者達の妖女は無事そうなの?」
雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「恐らくは絶望的でしょうね…ウィプセラスは妖女を食べたいって連呼し続けた位だからね…気の毒だけど行方不明者達は彼女に食い殺された可能性が濃厚ね…」
行方不明者の三人の妖女はウィプセラスに捕食されたのだと予想したのである。

第九話

増殖性
桜花姫と雪美姫が和菓子屋で満喫した同時刻…。東国郊外に位置する山道にて二人の東国武士団の邏卒が巡邏する。
「近頃は悪霊も匪賊も出現しなくなったが…物騒だよな…」
大柄の邏卒が発言すると小柄の邏卒が返答したのである。
「村娘が三人も行方不明だからな…彼女達は神隠しにでも遭遇したのだろうか?」
「神隠しね…本当に神隠しだとすれば俺達では如何にも出来ないぞ!神隠しであれば西国の月影桜花姫様の出番だよな!」
「西国の月影桜花姫様だったら神隠しでも簡単に解決出来そうだからな!」
「正直今回の事件も彼女が適任だよな!凡人の俺達なんて場違いだぜ!」
彼等は談笑するのだが…。直後である。
「ん?誰だろう…」
二人の邏卒は山道の道中にて不吉の女性に遭遇する。
「彼奴は…女人かな?」
「こんな山道で女人が一人で出歩くなんて…何者だろうか?」
女性は煌びやかな紫色の着物姿であり非常に小柄の体格であるのだが…。雰囲気は非常に異質的であり身動きは緩慢である。
「ふら付きやがって…此奴は普通に歩けないのか!?」
二人の邏卒は女性の身動きに苛立ち始める。一方の彼女は只管フラフラした様子で山道を歩行したのである。彼等は女性の様子に苛立つものの…。
「此奴は悪霊みたいで気味悪いな…」
「相当可笑しな女子だな…」
二人の邏卒は女性の様子に気味悪くなったのである。すると女性は二人の邏卒を直視し始める。
「食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
女性はニコッとした表情で二人の邏卒を凝視すると食べたいと連呼したのである。
「はっ?食べたいって…何を?」
邏卒の一人に問い掛けられた女性は満面の笑顔で…。
「あんた達♪人間♪人間♪食べたい♪私♪私♪ウィプセラス♪ウィプセラス♪」
自身をウィプセラスと名乗る女性はヘラヘラした表情で二人の邏卒に近寄る。
「ウィプセラスだって!?」
「ウィプセラスとは其方の名前なのか?異国の人間みたいな名前だな…であれば其方は異国の人間なのか?」
二人の邏卒は只管にヘラヘラし続けるウィプセラスに呆れ果てる。
「此奴は…重度の痴人なのか?」
「村八分で脳味噌がぶっ壊れちまったのか?であれば此奴は相当に気の毒だな…」
すると小柄の邏卒が抜刀する。
「近寄るな!女人の痴人!近寄れば其方を斬殺するぞ!」
威嚇されたウィプセラスであるが…。ウィプセラスは只管ヘラヘラした様子であり刀剣を抜刀した彼等に近寄り続ける。
「其方は…如何やら殺されたいらしいな!」
直後である。ウィプセラスは両腕から無数の触手を生成し始め…。
「なっ!?」
無数の触手で刀剣を抜刀した邏卒を拘束したのである。
「触手だと!?」
「人間♪食べたい♪人間♪食べたい♪」
拘束された邏卒はウィプセラスの触手に覆い包まれ…。ズルズルとウィプセラスの体内へと吸収される。
「ひっ!此奴は女体の怪物だ!」
大柄の邏卒は恐怖心により一目散に逃走したのである。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
ウィプセラスは大満足した様子であり大喜びするのだが…。体内で異変が発生したのである。
「えっ?」
突如としてウィプセラスの左腕全体がモゴモゴと蠢動し始める。左腕が蠢動し始めてから数秒後…。ウィプセラスの左腕先端から数十個ものビー玉サイズの肉塊が排出されたのである。
「ん?ん?ん?」
ウィプセラスは体内から排出された無数の肉塊を凝視する。すると直後である。右腕から排出された無数の肉塊が人型を形成…。数十体もの等身大の女体を形作る。無数の肉塊は等身大の全裸の女性へと変化し始める。
「あんた達♪あんた達♪私の♪子供♪子供♪子供♪」
ウィプセラスの体内から排出された無数の肉塊はウィプセラスの分身体であり姿形はウィプセラスと瓜二つだったのである。一方のウィプセラスは無数の分身体と対面…。大喜びしたのである。すると周囲の分身体は母体であるウィプセラスを直視すると彼女達もウィプセラスと同様に大はしゃぎし始め…。満面の笑顔でヘラヘラし始めたのである。
「あんた♪母様♪母様♪私の母様♪」
「私♪空腹♪空腹♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「人間♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
彼女達は母体のウィプセラスと同様にヘラヘラした表情で只管食べたいと連呼…。各自バラバラに活動し始める。

第十話

分身
母体のウィプセラスが無数の分身体を誕生させた同時刻である。桜花姫は西国の自宅にて昼寝し続けるのだが…。
「えっ!?」
無数の妖力を察知したのである。
『何かしら!?』
突如として出現した複数の妖力が一瞬でバラバラに分裂するのを察知…。
『無数の妖力がバラバラに砕け散った様子だわ…一体何が出現したのよ?』
桜花姫は無数の妖力の正体がウィプセラスの妖力であると予想したのである。
『ひょっとして無数の妖力はウィプセラスの妖力かしら?』
桜花姫は無数の妖力が気になったのか即座に外出する。
『非常に厄介だわ…即刻移動しましょう…』
桜花姫は分裂し始めた無数の妖力の感じられる場所へと直行したのである。桜花姫が行動を開始し始めた同時刻…。各地の村里ではウィプセラスの分身体【分裂女体】が無数に出没しては遭遇した村人達を触手で食い殺したのである。当然としてウィプセラスの分裂女体は大都市部である東国の中心街にも多数出現する。
「ん?」
東国の寺院では八正道が暇潰しに昼寝中であったが…。
『何やら外部が騒然としますね…』
外部の様子が気になった八正道は二階の雨戸を開放したのである。
『一体何事でしょうか?』
恐る恐る外部の様子を直視した直後…。
「なっ!?」
八正道は外部の異様の光景に愕然とする。
『一体何が!?現実なのでしょうか!?』
逃走中の町民達は勿論…。
「えっ…彼女達は!?」
逃走中の町民達の背後には数十人もの全裸の女性がふら付いた様子で逃走中の町民達を追尾したのである。
『人外の女性なのでしょうか!?』
八正道は前代未聞の異様の光景に何が発生したのか理解出来なくなる。
『現実の出来事なのでしょうか!?』
八正道は外部の衝撃的光景に絶句したのである。すると直後…。
「えっ!?」
無数の分裂女体の両腕から真蛸を連想させる触手が無数に発生したのである。無数の触手は逃走中の町民達を容易に拘束する。拘束された町民達は全身を無数の分裂女体の触手に覆い包まれ…。無数の分裂女体に捕食されたのである。
「げっ!」
八正道は町民達が食い殺される場面を直視すると気味悪くなる。
『地獄絵だ…ひょっとして彼女達は女体の悪霊なのでしょうか!?』
一瞬分裂女体の大群を女体の悪霊と解釈するのだが…。
『ですが神出鬼没の悪霊は一年前…桜花姫様が元凶とされる邪霊餓狼を退治されたみたいなので…神出鬼没の悪霊は該当しないでしょうね…』
「であれば彼女達の正体は一体…何者なのでしょうか?」
八正道は混乱したのである。すると一体の分裂女体が二階の八正道を発見する。
「なっ!?」
分裂女体は八正道を直視し続けるとニコッと満面の笑顔で微笑み始める。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
ゾッとした八正道は即座に雨戸を密閉させたのである。
『こんな場所で長居し続ければ…私も彼女達に食い殺されるかも知れない!』
八正道は即座に自室へと移動…。
『止むを得ないですね…護身用に退魔霊剣を装備しなくては!』
屏風に装飾された退魔霊剣を護身用に所持したのである。
『先程の女人の怪物は悪霊よりも厄介かも知れませんね!』
すると直後…。
「なっ!?女人の怪物…如何してこんな場所に?」
二階の室内より一体の分裂女体が進入したのである。
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
分裂女体は満面の笑顔で八正道に接近する。一方の八正道は恐る恐る分裂女体から後退りしたのである。
「人外なのは一目瞭然ですが…貴女様は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた分裂女体はヘラヘラした様子で…。
「私♪ウィプセラスの子供♪子供♪あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪」
彼女は満面の笑顔であり只管に食べたいと連呼し続ける。
「ウィプセラスの子供ですと?」
『如何やらウィプセラスと呼称される異国の名前みたいな人物が…今回の大事件の元凶みたいですね!』
八正道は即座に退魔霊剣を抜刀したのである。
『止むを得ないですね!』
相手の姿形は人間の女性であり八正道は手出しし辛いのだが…。
『正直相手が正体不明の怪物であっても…か弱き女性の姿形では本領を発揮出来ませんが…』
分裂女体の退治を覚悟したのである。
「ウィプセラスとやらの分身体…御免!」
八正道は止むを得ず神速の身動きでスパッとウィプセラスの分裂女体を一刀両断…。分裂女体の肉体は左右に両断されたのである。
『相手が極悪非道の悪霊であれば…問答無用に仕留められるのですが…』
目前の相手は人外の怪物であるものの…。
「ウィプセラスの分身体…人外の怪物であっても…」
『姿形がか弱き人間の女性では非常に罪深いですね…』
八正道は自分自身が人間の女性を殺害した気分であり極度の罪悪感が芽生え始める。警戒した様子で恐る恐る両断された分裂女体に近寄る。
『結局…彼女は何者だったのでしょうか?人外の怪物なのは確実なのでしょうが…』
八正道は警戒した様子で分裂女体の生死を確認する。恐る恐る分裂女体の皮膚に接触すると分裂女体の感触は死没者の感触だったのである。
「彼女の肉体は…遺体の感触ですね…」
『ウィプセラスと名乗る人物は死没者なのでしょうか?』
八正道は両断された分裂女体に合掌する。
『女体の怪物…成仏されよ!』
数秒間が経過すると八正道は一息したのである。
「はぁ…」
『一体何故…こんな超常現象が突然発生したのでしょうか?』
一安心した直後…。
「なっ!?」
両断された分裂女体の双方の半身がピクピクッと身動きし始めたのである。
『身動きするなんて…』
左右両方の半身が双方とも再生され…。一体のみだった分裂女体が二体の分裂女体へと完全分離したのである。
『彼女はバラバラに砕け散ると別の個体として増殖するのでしょうか?』
二体に分裂した分裂女体は目覚め始めると目前の八正道を凝視する。
「食べたい♪食べたい♪人間♪人間♪」
「あんた♪人間♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
二体の分裂女体はヘラヘラした表情で八正道に近寄り始める。
「ウィプセラス…増殖するのであれば非常に厄介ですね…」
『彼女達を迂闊に斬撃しても増殖するのは明白…一体如何すればウィプセラスの分身体を対処出来るのか?』
八正道は混乱したのである。恐る恐る二体の分裂女体から後退りした直後…。突如として二体の分裂女体が氷結により身動き出来なくなる。
「氷結ですと!?」
『突然何が?』
すると背後より何者かがポンっと八正道の背中を接触したのである。
「えっ?」
「八正道…危機一髪だったわね…」
「貴女様は…粉雪妖女の雪美姫様でしたか!」
雪美姫は氷結の妖術によって二体の分裂女体の身動きを一時的に封殺する。
「大変感謝しますね!雪美姫様!」
八正道は大喜びした様子で雪美姫に感謝したのである。
「雪美姫様の加勢で私は命拾い出来ました!」
八正道は満面の笑顔で雪美姫に謝礼するのだが…。
「勘違いしないで!あんたを守護しないと桜花姫が心配するからね!私は仕方なく加勢しただけよ!」
八正道は桜花姫の名前にハッとした表情で反応したのである。
『桜花姫様…』
「彼女は一体?」
「桜花姫…彼奴なら今頃は…」
雪美姫は窓際から遠方の山奥を眺望し始める。

第十一話

強大化
八正道と雪美姫が合流した同時刻…。桜花姫は北国の国境へと到達したのである。
「はぁ…包囲されたわね…」
北国の国境へと到達した桜花姫であるが…。六体もの分裂女体に遭遇すると彼女達に包囲されたのである。
『相手は六体ね…』
「あんた達は…ウィプセラスの分身体かしら?姿形だけなら母体のウィプセラスと瓜二つね…」
母体であるウィプセラスと同様に六体の分裂女体はヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
六体の分裂女体は只管に人外の妖女を食べたいと連呼し続ける。
「あんた達は妖女である私を食い殺したいみたいね!あんた達に出来るかしら?妖女は妖女でも…私は其処等の妖女とは別格だからね!」
「あんた♪美味しそう♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪」
「食べたい♪食べたい♪妖女♪妖女♪妖女♪」
六体の分裂女体はヘラヘラした様子で桜花姫に近寄り始める。
「あんた達も本体と同様に会話が成立しないのかしら?先程から鬱陶しい奴等ね…」
桜花姫は分裂女体の赤子みたいな言動に苛立ったのである。
「仕方ないわね…」
即座に十八番の天道天眼を発動…。半透明の血紅色であった両方の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光したのである。
「あんた達みたいな分身体でも…肩慣らしには好都合ね!」
天道天眼の影響により桜花姫の妖力が通常よりも数十倍へと急上昇する。
『念力の妖術…発動!』
桜花姫は念力の妖術を発動したのである。
「あんた達…死になさい!」
念力の妖術を発動した直後…。六体の分裂女体は念力の妖術によって全身が破裂したのである。地面には分裂女体の血肉やら肉片が一面に飛散する。
『所詮は分身体…他愛無いわね…』
桜花姫は分裂女体を相手に楽勝であると感じるものの…。地面に飛散した無数の肉片が再度等身大の女体を形成したのである。先程飛散した無数の血肉は数十体もの分裂女体へと変化し始める。
『増殖性かしら?ウィプセラスの分身体は想像以上に面倒臭いわね…』
ウィプセラスの分裂女体は一体をバラバラに粉砕しても一部分の肉片から再生出来…。無限に分裂女体の大群を増殖し続けられる。
『彼女達は肉体をバラバラに粉砕しても肉片からでも再生し続けて…無尽蔵に分身体を増殖し続けるみたいね…』
最終的に数十体へと増殖した無数の分裂女体が再度桜花姫を包囲したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
「妖女♪食べたい♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
圧倒的に不利であり周囲は絶望的光景であるものの…。一方の桜花姫は平常心であり余裕の様子だったのである。
「好都合だわ!あんた達は桜餅の材料として活用出来そうね!」
桜花姫は恐る恐る周囲の分裂女体を警戒し続けるものの…。
「あんた達は…桜餅に変化しなさい!」
今度は十八番である変化の妖術を発動したのである。すると周囲の分裂女体がポンっと白煙に覆い包まれ…。分裂女体の大群は小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「楽勝!楽勝!」
『妖力を消耗しちゃったからね…妖力を回復させないと!』
妖力の消耗により桜花姫は周囲の桜餅をパクパクと鱈腹頬張り始める。すると桜花姫の背後より…。
「彼女は桜花姫だわ!」
「桜花姫様!」
雪美姫と八正道が桜花姫に近寄ったのである。
「雪美姫と八正道様ね…」
「えっ?如何して地面に沢山の小皿が?」
雪美姫は地面の小皿を直視すると絶句し始める。
「ひょっとして地面の小皿は全部…あんたが?」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「勿論!ウィプセラスの分身体よ!」
「桜花姫…あんたは変化の妖術を駆使したのね…」
「桜花姫様らしいですね…」
雪美姫と八正道は内心呆れ果てる。
「勿論よ!雪美姫!八正道様!」
『馴染み深い光景だわ…本当に桜花姫らしいわね…』
『今更…桜花姫様の行動には驚愕しませんね…』
雪美姫と八正道は桜花姫の悪食に苦笑いしたのである。
「妖力は回復出来たし!今度は本体のウィプセラスを征伐しましょうかね!」
「桜花姫様が出陣されなければ被害が今以上に拡大しますからね!即刻怪物の母体とされるウィプセラスの征伐を急行しなくては!」
桜花姫一同は行動を開始する直後…。
「えっ?何かしら?」
桜花姫は再度警戒したのである。
「桜花姫様?一体如何されましたか?」
八正道は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「相手は一体なのに複数の妖力を感じるのよね…」
「複数の…妖力ですと?」
「雪美姫?あんたも複数の妖力を感じるでしょう?」
桜花姫は雪美姫に問い掛けたのである。
「私でも感じられるわね…彼女の妖力は非常に強力だわ…最早ウィプセラスは其処等の妖女では対処出来ない領域でしょうね…」
雪美姫も桜花姫と同様に複数の妖力を察知する。
「えっ?はぁ…」
『人間の私には何が何やら理解不能なのですが…』
人間の八正道には何一つとして妖力が察知出来ない。
「雪美姫?ひょっとすると彼女かしら?」
「恐らくは彼女でしょうね…今回の事件は彼女が元凶よ…」
雪美姫と桜花姫は会話が成立するのだが…。
「彼女ですと?彼女とは一体誰なのでしょうか?」
八正道は珍紛漢紛だったのである。
『やっぱり私には何が何やら理解出来ませんね…』
八正道は周囲をキョロキョロし始める。
「ウィプセラスとは…一体何者なのか?」
すると数秒後…。
「えっ?人影でしょうか?」
山中の自然林から人影らしき物体を発見したのである。
「彼女は城下町の…女性ですかね?」
人影の正体は女性であると認識する。
「彼女は一体?人間の女性っぽいですが…」
国境の自然林より体格は小柄であり煌びやかな紫色の着物姿の女性がフラフラした状態で三人に近寄り続ける。
「彼女は城下町の女性でしょうか?非常に不自然ですが…」
「如何やら私達が出向かなくても大丈夫そうね…」
紫色の着物姿の女性は桜花姫を直視するとニコッと微笑み始める。
「妖女♪人間♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫は恐る恐る…。
「彼女は人工性妖女…ウィプセラスだわ…」
三人の目前に出現した女性とはウィプセラスの本体だったのである。
「ウィプセラス…如何やら彼女が本体みたいね…」
「彼女がウィプセラスと名乗る女人の怪物ですか?外見のみなら城下町の小町娘っぽいのですが…」
雪美姫はウィプセラスの妖力に戦慄したのか恐る恐る後退りし始める。
「外見だけなら城下町の小町娘だけれども…ウィプセラスは妖力だけなら最上級妖女の桜花姫に拮抗するわね…」
「えっ!?ウィプセラスの妖力が桜花姫様の妖力に拮抗ですと!?ウィプセラスは桜花姫様に匹敵する規格外に強力なのですか!?」
八正道は雪美姫の発言に驚愕したのである。
「ウィプセラスは前回よりも桁外れに強大化したみたいだわ…一目瞭然ね!」
ウィプセラスは今迄に雪美姫の粉雪分身と忍者妖女の躑躅姫と山猫妖女の小猫姫の妖力は勿論…。彼女達以外にも三人の妖女を捕食したのである。多数の妖女やら妖力を捕食し続けた結果…。最上級妖女である桜花姫にも対抗出来る妖力を保持したのである。
『彼女は今迄に…何人の妖女を捕食したのかしら?』
桜花姫はウィプセラスの妖力を脅威に感じる。ウィプセラスの妖力は誕生してから数日間で最上級妖女に匹敵する領域へと到達したのである。最早強大化したウィプセラスを相手に妖力のみで対抗出来るのは一握りの最上級妖女…。実質月影桜花姫だけである。
「一体如何すればウィプセラスの暴走を阻止出来るのでしょうか?」
「ウィプセラス…一筋縄ではウィプセラスの暴走を阻止するのは無理そうね!最上級妖女の桜花姫以外では彼女に対抗出来ないわ!」
一方のウィプセラスはヘラヘラした表情で…。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪美味しそう♪美味しそう♪」
ウィプセラスはニコッとした表情で桜花姫を直視したのである。
「あんた♪美味しそう♪食べたい♪食べたい♪食べたい♪」
するとウィプセラスは右手に妖力を凝縮させ高熱の火球を発射し始める。
『火球の妖術かしら?』
桜花姫は妖力の防壁を形成…。ウィプセラスの火球攻撃を無力化したのである。
「ウィプセラス!こんな程度の妖術で私を仕留めるなんて不可能よ!」
桜花姫はウィプセラスに挑発する。一方のウィプセラスは鎌鼬の妖術を発動…。突風の白刃が桜花姫を急襲する。
『今度は鎌鼬の妖術かしら?』
桜花姫は再度妖力の防壁で鎌鼬の妖術を無力化したのである。
「あんた♪食べたい♪食べたい♪」
ウィプセラスはヘラヘラした表情で指先から冷凍閃光の妖術を発動…。指先から発射された水色の光線で地面を氷結させるが桜花姫の妖力の防壁で無力化される。
「ウィプセラス♪こんな猿真似程度の妖術では私を食い殺すなんて不可能だわ!あんたは出直しなさい!」
『所詮其処等の妖女の猿真似ばかり…不老不死の性質は厄介だけどウィプセラスは妖力が強大なだけね…』
ウィプセラスは妖力のみなら最上級妖女の桜花姫と同等程度に強力であるが…。自身の発動する単発的妖術では最上級妖女の桜花姫を仕留めるには力不足である。
『注意するべきは彼女の吸収性と触手だけね…』
ウィプセラスは体内の妖力こそ莫大であるが…。ウィプセラスを相手に注意するべきは相手を拘束出来る触手のみである。桜花姫は猿真似ばかりのウィプセラスでは手応えを感じられない。
「食べたい♪妖女♪食べたい♪妖女♪」
桜花姫に指摘されたウィプセラスであるが…。ウィプセラスはヘラヘラとした表情であり只管に妖女を食べたいと連呼し続ける。
「ウィプセラスには悪いけど…あんたは相当の痴人みたいね…」
「ウィプセラスが強力なのは体内の妖力だけだからね…恐らくだけど彼女の脳味噌は赤子同然でしょうよ…」
桜花姫と雪美姫はウィプセラスに呆れ果てる。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
桜花姫はウィプセラスに変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
ウィプセラスに変化の妖術を発動するのだが…。ウィプセラスは大好物の桜餅に変化しない。
「あんた♪妖力♪美味しい♪美味しい♪あんた♪食べたい♪食べたい♪」
桜花姫の妖力を吸収するとウィプセラスは大喜びしたのである。
「彼女…桜花姫の妖術が通用しないなんて…」
「ひょっとしてウィプセラスは桜花姫様の妖力を吸収されたのでしょうか?」
すると先程よりもウィプセラスの妖力が増幅される。
「ウィプセラス…私の妖力を吸収したみたいね…」
『彼女は面倒臭い相手だわ…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の雪美姫と八正道に逃亡を指示する。
「雪美姫…八正道様…あんた達は即刻逃げなさい!ウィプセラスは一筋縄では仕留められないわ!」
雪美姫と八正道は桜花姫の指示に一瞬動揺するものの…。
「最上級妖女の桜花姫でもウィプセラスは簡単には仕留められないのね…」
「承知しました!桜花姫様!」
直後である。
「えっ!?」
突如として桜花姫はビクッと反応する。
「桜花姫!?あんたの両足!?」
「なっ!?桜花姫様の両足に蛸足が…ウィプセラスの触手ですか!?」
何時の間にか桜花姫の両足にウィプセラスの触手が接触…。桜花姫は完全に身動きを封殺されたのである。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
ウィプセラスは満面の笑顔であり只管に妖女を食べたいと連呼し続ける。
「ぐっ!」
『迂闊だったわ!ウィプセラスなんかに拘束されるなんて!』
触手の特性からか体内の妖力がウィプセラスの触手に吸収されたのである。
『私の妖力が…彼女に吸収されるわ…』
ウィプセラスの触手により身動き出来なくなった桜花姫は触手で全身を覆い包まれ…。桜花姫はウィプセラスの体内へとズルズルと吸収されたのである。
「きゃっ!桜花姫がウィプセラスに食べられちゃったわ!」
最強の桜花姫が捕食され雪美姫は勿論…。
「桜花姫様が…ウィプセラスに食い殺されるなんて…」
『桜花姫様が捕食されるなんて現実なのか!?』
八正道は絶望したのである。八正道と雪美姫は涙腺より涙が零れ落ちる。
「桜花姫様が…」
「はぁ…桜花姫…」
『最早私達では…ウィプセラスに対抗出来ないわ…』
雪美姫と八正道は強大化したウィプセラスに絶望したのである。一方のウィプセラスは満足したのか満面の笑顔で…。
「御馳走様♪御馳走様♪満足♪満足♪」
今迄よりもウィプセラスの妖力が桁外れに強大化したのである。
『触手で桜花姫の本体を吸収した影響かしら?ウィプセラスの妖力が今迄以上に増幅されたわね…』
雪美姫は規格外に強大化したウィプセラスに戦慄する。半透明の血紅色であったウィプセラスの瞳孔が半透明の瑠璃色に発光し始め…。
「なっ!?ウィプセラスの両目が…瑠璃色に発光するなんて…一体何故!?」
八正道はウィプセラスの変化に驚愕する。一方の雪美姫は身震いした様子で…。
「彼女は…桜花姫の天道天眼を開眼したのね…」
ウィプセラスは桜花姫の肉体を吸収した影響からか桜花姫の十八番である天道天眼を容易に開眼させたのである。
「彼女は…桜花姫様の天道天眼を使用出来るなんて!」
「桜花姫を捕食した影響だわ!ウィプセラスは規格外の怪物ね!今現在の彼女は森羅万象を自由自在に翻弄出来るわ!」
最早ウィプセラスの妖力は規格外であり雪美姫はウィプセラスの強大さを実感…。戦慄したのである。
『最早私なんて場違いでしょうね…』
一方のウィプセラスは雪美姫と八正道を凝視し始めたかと思いきや…。
「今度はあんた達♪人間♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
ウィプセラスは満面の笑顔でニコッと微笑み始める。今現在のウィプセラスは最上級妖女をも容易に上回る史上最強の特異的化身へと大進化したのである。
『ウィプセラス…最早彼女は神族の領域だわ!一体誰がウィプセラスに対抗出来るのかしら?』
雪美姫はウィプセラスに対抗出来る妖女は俗界には存在しないだろうと思考する。
「八正道?」
「何でしょうか?雪美姫様?」
雪美姫は恐る恐る…。
「八正道…あんただけでも逃げなさい!」
「えっ!?ですが雪美姫様!?」
八正道は雪美姫の指示に困惑したのである。
「正直人間のあんたでは彼女には対抗出来ないわ!あんただけでも!」
「雪美姫様…」
八正道は不本意であるが…。
『仕方ないですね!非力の私では力不足でしょうし…』
「承知しました!雪美姫様!」
八正道は一目散に逃走したのである。
『私は…こんな場所で二度も殺されるのね…』
雪美姫は一息する。
『桜花姫?私は一体如何すれば?あんたがウィプセラスなんかに食い殺されちゃったから私は今度こそ地獄の世界に逆戻りだわ…あんたが捕食されちゃったし今度は二度と俗界には戻れなくなるわね…』
ウィプセラスはヘラヘラした表情で雪美姫に近寄る。
「妖女♪食べたい♪妖女♪食べたい♪」
「私は正直…」
『二度も死にたくないけれども…』
雪美姫は二度目の死期を覚悟する。ウィプセラスは両手より無数の触手を生成し始め…。雪美姫を拘束したのである。
「あんた♪妖女♪食べたい♪食べたい♪」
一方の雪美姫はウィプセラスを睥睨し始める。
「私を食い殺したければ食い殺しなさいよ!食いしん坊!」
全身がウィプセラスの触手に覆い包まれる寸前である。
「ん?あらら?あらら?」
突如としてウィプセラスは身動きしなくなる。
「えっ!?」
雪美姫は身動きしなくなったウィプセラスに驚愕したのである。
『ウィプセラス…一体何が!?』
先程はヘラヘラした表情のウィプセラスであったが…。
『様子が可笑しいわね…如何してウィプセラスは私を食い殺さないのかしら?彼女に何が?』
今現在のウィプセラスは無表情であり雪美姫は何が発生したのか理解出来ない。生成された触手がウィプセラスの体内へと戻ったのである。
『ウィプセラスは…』
「あんたは如何して私を…食い殺さないのかしら?」
雪美姫は恐る恐るウィプセラスに問い掛ける。雪美姫が問い掛けた直後…。
「えっ!?」
ウィプセラスの肉体がポンっと白煙に覆い包まれる。ウィプセラスの肉体が白煙に覆い包まれてから数秒後…。地面には小皿に配置された桜餅が出現したのである。
「桜餅かしら!?」
『一体全体何が発生したの!?如何して桜餅がこんな場所に!?』
雪美姫は恐る恐る地面の桜餅に近寄り始める。
「如何してウィプセラスは桜餅なんかに変化しちゃったのかしら?桜花姫はウィプセラスに食い殺されちゃったのよね?如何してウィプセラスが桜餅に…」
すると地面の桜餅がポンッと白煙に覆い包まれたかと思いきや…。ウィプセラスに食い殺された月影桜花姫が五体満足の状態で出現したのである。
「雪美姫?」
「えっ!?あんたは桜花姫!?」
『如何してウィプセラスに食い殺された桜花姫が!?』
雪美姫は突如として出現した桜花姫に驚愕し始め…。
「一体何が発生したの!?如何して桜花姫が!?」
目前の桜花姫が本物の月影桜花姫なのか恐る恐る問い掛ける。
「あんたは本物の月影桜花姫かしら?桜花姫は先程ウィプセラスに食い殺されたのよ!あんたは本当に桜花姫なの!?」
すると桜花姫は雪美姫の問い掛けに満面の笑顔で即答する。
「私は一時的にウィプセラスに吸収されちゃったけどね!ウィプセラスの体内で彼女を食い殺したのよ!」
「えっ…あんたはウィプセラスの体内で彼女を食い殺したの?」
『桜花姫って…寄生虫なのかしら?』
雪美姫は想像するだけで気味悪くなる。
「ウィプセラスは妖力だけが私を上回っても所詮は出来損ないなのよ!結局妖女の出来損ないが最上級妖女の私を食い殺すなんて無謀なのよね!」
桜花姫を捕食したウィプセラスは一時的に桜花姫の妖力を入手出来たものの…。桜花姫の妖力は其処等の妖女とは桁外れでありウィプセラス程度の知力では桜花姫の妖力は扱い切れず真逆に体内から吸収されたのである。
『桜花姫は捕食されても死なないなんてね…あんたは油虫かしら?』
雪美姫は捕食されても死滅しない桜花姫を油虫であると感じる。
「桜花姫は本当に不死身みたいね…何を如何すれば最上級妖女のあんたを殺せるのかしら?」
「多分私の場合寿命以外では無理でしょうね!」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「寿命だけって…」
『桜花姫の場合…寿命が妥当なのかも知れないわね…下手したら寿命さえも無意味かも知れないわね…』
雪美姫は桜花姫の返答に苦笑いしたのである。
「兎にも角にも!各地で暴れ回るウィプセラスの分身体を一掃しないとね!」
桜花姫は変化の妖術を発動…。すると各地で徘徊し続けるウィプセラスの分裂女体を桜餅に変化させたのである。
「彼女達を浄化出来たわ!ウィプセラスの分身体を一掃出来たし一安心ね!」
「一先ずは安心だわ…ウィプセラスの妖力は感じられないし…」
桜花姫と雪美姫は事件解決に一先ず安堵する。

第十二話

昏倒
桜花姫と雪美姫が安堵した同時刻…。八正道は逃走中にてウィプセラスの分裂女体に包囲されるも彼女達は突如として桜餅に変化したのである。
「えっ!?ウィプセラスの分身体が桜餅に変化した!?」
『如何して彼女達は桜餅に変化したのでしょうか?』
突然の超常現象に八正道は混乱するものの…。
『北国の国境に戻りましょうかね…』
八正道は即座に北国の国境へと直行したのである。
「雪美姫様!貴女様は無事だったのですね!」
「あんたは八正道…無事に戻れたのね…」
すると八正道は桜花姫を直視する。
「なっ!?桜花姫様!?」
八正道はウィプセラスによって捕食された桜花姫に驚愕したのである。
「私は桜花姫様の幽霊にでも遭遇したのでしょうか!?桜花姫様は先程ウィプセラスに捕食されたのでは!?」
八正道は一人で大騒ぎし始める。一方の桜花姫と雪美姫は大騒ぎし続ける八正道の様子に苦笑いしたのである。
「八正道…あんたは馬鹿者ね…吃驚するのは理解出来るけど彼女は本物の月影桜花姫だからね…」
雪美姫は深刻そうな表情の八正道に呆れ果てる。
「えっ?本物ですと?貴女様は本物の桜花姫様ですか?」
「私は本物の桜花姫よ♪八正道様♪」
桜花姫は満面の笑顔で自身が本物であると発言したのである。
「はぁ…貴女様は本物の桜花姫様でしたか…私は桜花姫様の幽霊と遭遇したとばかり…一安心ですね!」
八正道は目前の人物が本物の桜花姫であると認識出来…。ホッとしたのである。
「八正道様!あんたも無事だったのね!」
「桜花姫様こそ…無事で良かったですよ!」
八正道は桜花姫との再会に落涙し始め…。涙腺から涙が零れ落ちる。
「先程は桜花姫様がウィプセラスに食い殺されたとばかり…桜花姫様が無事で良かったですよ!」
「心配させちゃったわね!八正道様!御免あそばせ!」
桜花姫は満面の笑顔で謝罪したのである。
「桜花姫様が無事なのが何よりですよ!ですが桜花姫様は肉体をウィプセラスに吸収されたのに如何して無事に戻れたのですか?」
八正道に問い掛けられた桜花姫は先程ウィプセラスに捕食されてからの経緯を一部始終説明する。
「桜花姫様は体内からウィプセラスの肉体を吸収されたのですね…」
『表現が非常に失礼なのかも知れませんが…桜花姫様の生命力は油虫に匹敵する生命力ですね…桜花姫様は天道の化身なのでしょうか?』
八正道は桜花姫の生命力に苦笑いしたのである。
「気の毒だし…ウィプセラスに捕食された彼女達も解放しないとね!」
桜花姫は再度…。口寄せの妖術を発動したのである。周囲より白煙が発生するとウィプセラスによって捕食された忍者妖女の躑躅姫は勿論…。躑躅姫以外の三人の妖女が出現したのである。
「えっ?私達は一体?」
彼女達は何が発生したのか理解出来ずに混乱する。
「あんた達はね…」
桜花姫は今迄の出来事を洗い浚い彼女達に告白したのである。
「えっ?私達…ウィプセラスって怪物の妖女に食い殺されたのですか?私自身記憶が曖昧でして…」
桜花姫は動揺し始める躑躅姫に満面の笑顔で返答する。
「ウィプセラスは私の体内で熟睡中だし!安心なさい!」
「月影桜花姫様!大変感謝します!妖女の怪物に食い殺された私達を救済出来るなんて…桜花姫様は本物の女神様みたいですね!」
「こんな私が本物の女神様なんて♪あんたは大袈裟ね♪」
『私が本物の女神様ですって♪』
桜花姫は躑躅姫の発言に内心大喜びしたのである。
「感謝しますね!桜花姫様!」
彼女達は安心した様子であり解散…。各自の村里へと戻ったのである。一方の桜花姫一行もウィプセラスと分裂女体の暴走を無事解決出来…。安堵したのである。
「今回も一件落着ですね!桜花姫様!」
「兎にも角にも…ウィプセラス関連の大事件は無事に解決出来たし!私達も一先ず解散しましょう!」
「今回の大事件も無事に解決出来ましたからね!折角なので私の寺院で茶会しませんか!?桜花姫様の大好きな桜餅も用意しますよ!」
「桜餅ですって!?八正道様!」
桜花姫は八正道の桜餅の一言に笑顔で反応する。
「桜花姫…あんたは本当に桜餅が大好きね…毎回桜餅で食傷しないのかしら?」
雪美姫は苦笑いしたのである。
「早速八正道様の寺院に移動しましょう!雪美姫は如何するのかしら?」
「今回は私も参加するわ…暇潰しにね…」
一同は東国へと移動し始める直前…。背後より妖力を感じる。
「妖力だわ…」
「妖力ですと?」
一同の背後には山猫妖女の小猫姫がプルプルと身震いした様子で近寄り始める。
「はぁ…はぁ…」
「えっ?あんたは桜花姫の妹分の…小猫姫かしら?」
「小猫姫?大慌てね…如何しちゃったのよ?」
桜花姫が問い掛けると小猫姫は小声で…。
「桜花姫姉ちゃん…」
すると小猫姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
「えっ!?小猫姫!?大丈夫!?」
「一体…如何されたのでしょうか?小猫姫様…」
普段は人一倍人懐っこく笑顔の絶えない小猫姫であるが…。一同は突如として落涙し始めた小猫姫に何事かと心配したのである。
「大丈夫?小猫姫?一体如何したのよ?」
問い掛けられた小猫姫は恐る恐る桜花姫を直視する。
「桜花姫姉ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃんが…蛇体如夜叉婆ちゃんがね…」
「蛇体如夜叉婆ちゃんが…如何したのよ?」
直後である。
「蛇体如夜叉婆ちゃんが…死にそうなの…」
「えっ…」
小猫姫の発言に桜花姫は勿論…。同行者の八正道と雪美姫も沈黙する。
「蛇体如夜叉婆ちゃんが…死にそうですって?」
小猫姫は一部始終告白したのである。蛇体如夜叉は三日前以前から体調が悪化し始め…。小猫姫には秘密にするも三日前に自宅の居室で昏倒したのである。本人は平気であると言明するのだが…。本日の早朝より吐血したのである。
「病院へは?」
「蛇体如夜叉婆ちゃんは受診を拒否したの…」
「承知したわ…小猫姫…」
すると八正道は恐る恐る…。
「桜花姫様…如何されますか?」
「八正道様…御免なさいね…予定変更よ!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動すると自分自身の肉体を蛇体如夜叉の家屋敷へと瞬間移動させたのである。
「なっ!?桜花姫様…」
「彼女は…一瞬で…」
八正道と雪美姫は驚愕するものの…。
「一大事ですからね…」
「八正道…私達は一先ず解散しましょう…」
「今回ばかりは止むを得ないですね…」
八正道と雪美姫は解散したのである。一方の桜花姫は口寄せの妖術にて蛇体如夜叉の家屋敷へと一瞬で瞬間移動する。蛇体如夜叉は瀕死の状態であり居室で寝込んだ状態だったのである。
「誰かと思いきや…あんたは桜花姫ちゃんかね…」
蛇体如夜叉は寝込んだ状態であるが…。桜花姫に気付いたのである。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…」
桜花姫は恐る恐る寝転び続ける蛇体如夜叉に近寄る。
「蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫?」
問い掛けられた蛇体如夜叉は瞑目したのである。
「桜花姫ちゃん…如何やら私の寿命は…恐らくは数日間だろうね…」
「えっ…数日間なの?」
普段は誰よりも元気であり人一倍冗談の大好きな蛇体如夜叉であるが…。今回ばかりは本当であると実感する。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
桜花姫は涙腺より涙か零れ落ちる。
「桜花姫ちゃんよ…大丈夫かい?桜花姫ちゃんらしくないね…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん…蛇体如夜叉婆ちゃん!」
桜花姫は力一杯蛇体如夜叉に密着したのである。
『桜花姫ちゃん…』
蛇体如夜叉はボソッと発言する。
「あんたと小猫姫は…私にとって自慢の孫娘だよ…」
「私と小猫姫が…蛇体如夜叉婆ちゃんの自慢の孫娘?」
桜花姫は蛇体如夜叉の孫娘の一言に内心嬉しくなる。
「私は老衰で旅立つかも知れないけれども…桜花姫ちゃんは桜花姫ちゃんらしく自由に生きな♪」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
すると蛇体如夜叉はスヤスヤと熟睡したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…眠っちゃったな…』
桜花姫は物静かな様子で熟睡中の蛇体如夜叉を見守り続ける。

第十三話

行動開始
とある無人島では神族の一人…。天狐如夜叉が摩訶不思議の水晶玉で桜花姫の様子を一部始終観察し続けたのである。
『月影桜花姫…天道天眼を存分に覚醒させたみたいだな…』
天狐如夜叉は冷笑する。
『彼女の天道天眼を奪取するか…』
自身の目的を達成出来ると判断…。天狐如夜叉は行動を開始したのである。
『であれば早速…桃源郷神国本土に移動するか?』
天狐如夜叉は瞬間移動の神術を発動する。
『此処が桃源郷神国か…物静かな場所だな…』
天狐如夜叉は一瞬で桃源郷神国本土へと到達したのである。
『海岸の砂浜には…人気は無さそうだな…』
天狐如夜叉は周囲を警戒し始める。
『此処に月影桜花姫が…』
天狐如夜叉が到達したのは西国の海岸の砂浜であり人気は皆無だったのである。すると遠方の砂浜より…。
「きゃっ!誰か!誰か!」
女性らしき悲鳴が響き渡る。
「ん?」
天狐如夜叉は女性らしき悲鳴が気になったのである。
『何事だろうか?』
天狐如夜叉は警戒した様子で悲鳴が響き渡った場所へと移動する。
『女人の悲鳴か?』
移動し始めてから数分後…。海岸近辺の砂浜より三人の少女達が六人の無頼漢達に拘束された状態だったのである。天狐如夜叉は遠方から様子を観察する。
『奴等は人間の匪賊達か?愚か者達が…』
天狐如夜叉は彼等の愚行に呆れ果てる。
『人間達の愚劣さは…数万年前と同様だな…』
太古の大昔から人類は進歩が皆無であると判断したのである。
『非常に不愉快だな…』
天狐如夜叉は護身用の木刀を抜刀し始め…。
『手始めに奴等を…蹴散らせるか?』
天狐如夜叉は再度瞬間移動の神術を発動したのである。一瞬で匪賊達の目前へと瞬間移動…。
「なっ!?貴様は一体何者だ!?」
匪賊達は突如として出現した天狐如夜叉に愕然とする。
「此奴!突然出現しやがるとは!」
「此奴は人間の小娘っぽい容姿だが…人外の妖女なのか!?」
一人の匪賊が妖女と発言したのである。すると天狐如夜叉は鬼神の形相でギロッと睥睨し始める。
「私が…人外の妖女だと?不愉快だな…」
天狐如夜叉の形相に匪賊達は一瞬後退りするのだが…。
「此奴…女人の物の怪みたいだが所詮相手は一人だけだ!」
「武器も木刀だけだ!女人の物の怪を打っ殺しちまえ!」
彼等は全員で天狐如夜叉に殺到したのである。
『命知らずの愚か者達が…後悔するのだな…』
天狐如夜叉は神族の身動きで反撃…。
「ぐっ!」
「ぎゃっ!」
木刀のみで自身よりも大柄の匪賊達を五人も瞬殺したのである。負傷した一人の匪賊が天狐如夜叉に畏怖し始め…。
「俺が…俺が悪かったよ!降参するから…金輪際女人には手出ししないからよ!」
匪賊は天狐如夜叉に命乞いしたのである。
「其方も命乞いか?」
天狐如夜叉は命乞いし続ける匪賊に睥睨し始める。
「私は貴様達みたいな人間が大嫌いだからな…完膚なきまでに焼失せよ!」
天狐如夜叉は無慈悲だったのである。即座に業火の神術を発動…。
「えっ…ぎゃっ!」
突如として匪賊の肉体が発火し始める。匪賊は業火の神術により一瞬で白骨化したのである。
『やっぱり人類は…死滅するべきだな…』
天狐如夜叉の介入によって命拾い出来た三人の少女達であるが…。先程の光景から天狐如夜叉の神術に畏怖したのである。
「あんたは…物の怪…」
「私達も殺されるわ!」
「逃げないと!今度は私達が物の怪に!」
少女達は一目散に逃走する。
『私が…物の怪か…』
三人の少女達も殺そうかと思いきや…。
『何方にせよ…彼女達も私の目的で死滅する運命なのだからな…』
今回だけは少女達を見逃したのである。
『再度…月影桜花姫を捜索するか?』
天狐如夜叉は桜花姫の捜索を開始する。

第十四話

気分転換
強豪のウィプセラスと無数の分裂女体との戦闘から二週間が経過…。桜花姫は自宅の居室でゴロゴロと寝転び続ける。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なのかな?』
桜花姫は四六時中寝転ぶものの…。蛇体如夜叉の様子が気になったのである。蛇体如夜叉は小猫姫により介抱されるも急速の老衰からか体調は日に日に悪化…。蛇体如夜叉の状態は虫の息だったのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
桜花姫は日に日に衰弱化し続ける蛇体如夜叉が気になり食欲も減退…。極度の不安と憂鬱からか大好きな桜餅も食べたくなくなる。
「はぁ…」
気分転換に別の場所へと移動したくなる。
「止むを得ないわね…」
『気分転換に出掛けましょう!』
桜花姫は気分転換に外出したのである。外出し始めてから一時間後…。桜花姫は西国の海辺に移動したのである。
『蛇体如夜叉婆ちゃん…大丈夫なのかな?』
桜花姫は遠方の水平線を眺望し続けるものの…。如何しても蛇体如夜叉の様子が気になったのである。すると直後…。
「はっ!」
『深海底のアクアユートピアなら…』
桜花姫は深海底地帯の人魚王国アクアユートピアに移動すれば気分転換が出来ると思考したのである。
『気分転換にアクアユートピアで暇潰ししましょう!』
桜花姫は即刻変化の妖術を発動…。
『人魚に変化よ!』
すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。
『一先ずは準備完了ね!』
再度桜花姫は妖術を発動する。
『口寄せの妖術…発動!』
自分自身の肉体に口寄せの妖術を発動させたのである。発動してから数秒後…。桜花姫は一瞬で深海底地帯の人魚王国アクアユートピアへと瞬間移動したのである。
『口寄せの妖術…成功!アクアユートピアに移動出来たわね!』
桜花姫は背後を直視し始め…。
『アクアヴィーナスの家屋敷だわ!』
桜花姫が口寄せの妖術により瞬間移動したのはアクアヴィーナスの家屋敷の玄関口正面だったのである。桜花姫はトントンッと玄関口のドアを力一杯ノックする。するとアクアヴィーナスがドアを開放したのである。
「誰かしら?えっ!?貴女はイーストユートピアの桜花姫!?」
アクアヴィーナスは突如として訪問した桜花姫に吃驚する。
「御免あそばせ!アクアヴィーナス!久し振りね!あんたは元気だったかしら?」
桜花姫は満面の笑顔でアクアヴィーナスに挨拶したのである。
「本当ね…桜花姫!久し振りね!私は元気よ!貴女とは去年のアビスエキドナスの事件以来だわ…桜花姫も元気そうで安心したわ!」
最初は吃驚したアクアヴィーナスであるものの…。桜花姫との久方振りの再会に大喜びしたのである。
「貴女…地上世界のイーストユートピアからこんな深海底に移動するのに…大変だったでしょう?」
「大丈夫よ!口寄せの妖術を発動したから一瞬でアクアユートピアに移動出来たわ!」
口寄せの妖術で肉体を移動させられ…。妖力の消耗を最小限化出来たのである。
「桜花姫はテレポート魔法を駆使したのね…」
数秒後…。アクアヴィーナスは恐る恐る問い掛ける。
「ひょっとしてアクアユートピアで大事件が発生したの?」
アクアヴィーナスは桜花姫の訪問したのが人魚王国アクアユートピアで大事件が発生したのではとビクビクしたのである。
「心配しないで!アクアヴィーナス!単なる暇潰しよ!暇潰し!あんたは本当に人一倍心配性なのね!」
「はぁ…暇潰しだったのね…」
『一瞬冷や冷やしちゃったわ…』
アクアヴィーナスは内心ホッとする。
「邪魔するわね!アクアヴィーナス!」
桜花姫はリビングルームへと移動したのである。
「あんたはアクアヴィーナスの母様ね!」
「えっ!?貴女様はイーストユートピアの月影桜花姫様ですか!?」
リビングルームでは母親であるアクアキュベレーが読書中であったが…。桜花姫の突然の訪問に驚愕する。
「読書中だったのね…御免あそばせ!」
謝罪した桜花姫であるがアクアキュベレーは満面の笑顔で…。
「気になさらないで!桜花姫様!久し振りですね!昨年は本当に感謝しますね!」
「感謝したいのは私よ!暇潰し出来たから私は大満足よ!」
すると突如としてコンコンッとドアが響き渡る。
「えっ?今度は誰なのかしら?」
アクアヴィーナスが恐る恐る玄関のドアを開放した直後…。
「ひっ!」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心により全身が膠着したのである。
「ダークスキュラン…如何してあんたが私の家屋敷に!?」
玄関のドアをノックしたのは誰であろう深海底魔女のダークスキュランでありアクアヴィーナスはダークスキュランに対する極度のトラウマからかビクビクし始める。
「あんたは…何様かしら?アクアヴィーナス…失礼しちゃうわね…」
ビクビクし続けるアクアヴィーナスにダークスキュランは一瞬苛立ったのである。すると直後…。桜花姫とアクアキュベレーも玄関口へと移動したのである。
「ひゃっ!貴女はダークスキュラン!?」
母親のアクアキュベレーもダークスキュランの訪問にビクッと反応する。
「如何して貴女がこんな場所に!?」
一方の桜花姫は満面の笑顔で…。
「誰かと思いきや…あんたはダークスキュランだったのね!如何してあんたがアクアヴィーナスの家屋敷に?」
桜花姫はヘラヘラした様子でダークスキュランに問い掛ける。
「えっ…」
『桜花姫様…ダークスキュランを相手に随分とフレンドリーよね…』
アクアキュベレーは勿論…。
『桜花姫は平気なのかしら?深海底魔女のダークスキュランを相手に近所の友達感覚みたいだわ…』
アクアヴィーナスはダークスキュランを直視しても畏怖しない桜花姫を不思議がる。するとダークスキュランは桜花姫を直視し始め…。
「月影桜花姫…アクアヴィーナスとアクアキュベレーのハウスであんたの魔力を察知したからね…」
「私の魔力ですって?」
ダークスキュランは恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?時間帯は大丈夫かしら?」
「ひょっとしてダークスキュランは私に用事とか?」
「勿論…多忙であれば無理にとは…」
問い掛けられた桜花姫は即座に返答する。
「私なら大丈夫よ!ダークスキュラン!気にしないで!ひょっとして今度も大事件発生かしら!?私は毎日の生活が退屈で憂鬱なのよね!大事件発生なら私は大歓迎よ!」
桜花姫は満面の笑顔で大事件の発生に期待したのである。
「であれば好都合よ…早速私のハウスに移動しましょう!」
するとアクアヴィーナスが恐る恐る…。
「桜花姫?大丈夫なの?相手は深海底魔女のダークスキュランよ?」
「心配しなくても私なら大丈夫よ!アクアヴィーナス!」
桜花姫は心配性のアクアヴィーナスに満面の笑顔で返答したのである。
「今現在のダークスキュランは人畜無害なのよ!彼女では私に手出し出来ないわ!」
「本当に…大丈夫なのかしら?」
桜花姫に心配するなと断言されたアクアヴィーナスであるが…。
『正直心配なのだけれど…』
内心では非常に不安に感じる。
「早速移動しましょう…桜花姫…」
「勿論よ!あんたのハウスとやらに道案内してよ!ダークスキュラン!」
桜花姫は変化の妖術で再度人魚に変化…。ダークスキュランと一緒にダークスキュランの家屋敷へと移動したのである。
「あんたも人魚王国アクアユートピアで普通に生活したのね…結局ダークスキュランはブルーデストピアの魔法城へは戻らないのかしら?」
問い掛けられたダークスキュランは小声で返答する。
「二度と戻りたくないわね…ブルーデストピアの居心地は気味悪くなるわ…」
今現在のダークスキュランにとって失楽園のブルーデストピアは居心地が最悪であり近辺に移動するだけでも気味悪くなる。桜花姫はダークスキュランの返答にニコッと微笑み始める。
「ダークスキュラン!あんたは心情も洗い浚い浄化されたみたいね!」
『口寄せの妖術で純粋無垢の彼女を復活させたのは大正解だったわね!』
桜花姫は内心ダークスキュランを復活させた口寄せの妖術の成功に大喜びする。桜花姫とダークスキュランは道中では無言で移動したのである。

第十五話

医者
海中の町道を移動し始めてから数分後…。
「到着したわよ…桜花姫…」
「此処があんたの家屋敷なのね…」
桜花姫はダークスキュランの家屋敷へと到達する。ダークスキュランの家屋敷も貝殻のデザインであり人魚王国アクアユートピアでは一般的デザインだったのである。
『ダークスキュランの家屋敷も…此処では案外普通の家屋敷みたいね…』
桜花姫は恐る恐るダークスキュランの家屋敷へと進入する。家内のリビングルームは意外にもシンプルであり小道具らしき家具は皆無である。
「室内は意外と空っぽなのね…」
「私は出来るだけ自室はシンプルにしたいのよ…」
すると桜花姫はダークスキュランに問い掛ける。
「大事件って何が発生したのかしら?」
問い掛けられたダークスキュランは即答する。
「【ダークスプライト】って人魚の深海底魔女が是非とも異国の魔法使いである桜花姫に対面したいみたいよ…」
「ダークスプライトって人魚の深海底魔女が私に対面したいですって?」
ダークスプライトとはアクアユートピア出身の深海底魔女であり魔力こそはダークスキュランより一段階下回るものの…。使用出来る魔法の種類はダークスキュランよりも豊富である。
「異国の見ず知らずの人魚の住民が私に用事なんて…一体何事かしら?ダークスプライトは何者なのよ?」
「ダークスプライトはアクアユートピア唯一の深海底魔女の医者なのよね…」
「深海底魔女の医者ですって?」
ダークスプライトは人魚王国アクアユートピア唯一の深海底魔女の医者であり常日頃から魔法医薬品の製造を研究する。
「ダークスプライトって深海底魔女が私に用事なのよね?彼女の居場所は?」
「ダークスプライトは今現在ブルーデストピアで隠居よ…」
「ブルーデストピアですって?ブルーデストピアってダークスキュランの魔王城が聳え立つ場所だったわよね?」
「ダークスプライトは一人で魔法の医薬品を研究したいらしいのよ…人魚王国アクアユートピアではダークスプライトは随一の異端者だから…」
今現在ダークスプライトは失楽園のブルーデストピアに在住…。常日頃から魔法の医薬品を研究中だったのである。
「早速ブルーデストピアに直行するわよ♪」
桜花姫はブルーデストピアへと直行する寸前…。
「桜花姫!忘れ物よ!」
「えっ?忘れ物ですって?」
ダークスキュランは桜花姫に魔法石のブルークリスタルを手渡したのである。
「えっ?ブルークリスタルかしら?」
「今現在のあんたの魔力は強豪のアビスラメイアスは勿論…最上級クラスのアビスエキドナスをも上回るかも知れないけれど…深海底の環境下では魔力の消耗は陸地とは段違いだからね…」
深海底の住人は深海底での生活が基本であり魔力の消耗は微量であるが…。桜花姫の場合地上世界での生活が基本であり深海底での環境下では妖力の消耗は絶大である。
「私のブルークリスタルは魔力の回復以外にも…海底下の地図としても使用出来るからね…」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐る…。
「ダークスキュランの魔法で私をあっと言う間にブルーデストピアに瞬間移動させられないの?」
問い掛けられたダークスキュランは気難しい表情で返答する。
「ブルーデストピアの海域ではダークスプライトが人工的に誕生させた深海底アンデッドの大群が潜伏中なのよね…私があんたをあっと言う間にテレポーテーションさせちゃうとあんたの大好きな深海底アンデッドを仕留められなくなるわよ…」
桜花姫はダークスキュランの深海底アンデッドの一言に反応したのである。
「えっ!?深海底アンデッドの大群ですって!?」
桜花姫は両目をキラキラさせた表情へと変化し始める。
「はぁ…」
『やっぱり桜花姫は単純だわ…』
ダークスキュランは桜花姫の様子に苦笑いしたのである。
「深海底アンデッドなら私が仕留めちゃうわよ!」
ダークスキュランは内心ホッとする。
『私以外の誰かをテレポート魔法で特定の目的地に移動させるのは正直面倒臭いのよね…桜花姫の脳味噌が単細胞で好都合だったわ…』
ダークスキュランは内心テレポート魔法の使用を億劫であると感じる。
「早速ブルーデストピアに直行するわね!」
桜花姫は魔法石ブルークリスタルを所持した状態で一目散に失楽園ブルーデストピアへと直行したのである。
「桜花姫…彼女は本当にダークスプライトに匹敵するじゃじゃ馬だわ…」
『桜花姫らしいけれど…』
ダークスキュランは苦笑いした様子で桜花姫を見届ける。

第十六話

不老不死
桜花姫が移動を開始し始めてから一時間後…。失楽園のブルーデストピアでは貝殻形状の一軒家が存在する。一軒家の住人である深海底魔女の医者…。ダークスプライトが魔法の水晶玉で桜花姫の動向を観察したのである。
「ん?」
『彼女は何者かしら?』
ダークスプライトは深海底魔女の一員であり頭髪が銀髪のストレートロングと青紫色の瞳孔…。下半身は銀鱗の大魚である。両方の耳朶には真珠のピアスが確認出来…。上半身の皮膚は魔族を連想させる水色だったのである。
『ひょっとして彼女が一年前に最上級の深海底アンデッド…女王のアビスエキドナスを仕留めたとされる異国の魔法使いかしら?』
「彼女が異国の魔法使いであれば…手始めに!」
ダークスプライトは召喚魔法を発動する。
『彼女なら…面白そうな展開が期待出来そうね!』
ダークスプライトは桜花姫の実力にワクワクし始めたのである。ダークスプライトが召喚魔法を発動した同時刻…。桜花姫は失楽園ブルーデストピアの海域へと直進するのだが無数の気配を察知する。
「えっ…」
『何かしら?無数の魔力?』
周囲は暗闇の海底下であるが無数の気配が殺到するのは確信出来る。桜花姫は周囲の海中をキョロキョロさせ警戒したのである。
『早速深海底アンデッドの大群が出現したのかしら?』
すると直後…。全身血塗れの人魚の大群が猛スピードで桜花姫に急接近する。
『彼女達はアビスセイレーンかしら?』
「ダークスプライトの手下みたいね…」
全身血塗れの人魚の大群とは無数のアビスセイレーンであり彼女達は生者である桜花姫へと殺到したのである。
『私に挑戦するなんて無謀なのよ!』
桜花姫は即座に神性妖術の天道天眼を発動…。一時的であるが体内の妖力が通常よりも数百倍へと急上昇する。
「あんた達は覚悟するのね!」
無数のアビスセイレーンが桜花姫に接触する寸前に念力の妖術を発動したのである。すると突如として無数のアビスセイレーンの肉体が肥大化…。パンっと彼女達の肉体が破裂し始める。
『他愛無いわ…楽勝ね!』
桜花姫の周囲の海中には無数の血肉が飛散したのである。
『空腹だし!』
今度は飛散した無数の血肉に変化の妖術を発動する。すると周囲に飛散した無数の血肉を大好きな桜餅に変化したのである。
『桜餅を頂戴するわね!』
桜花姫はパクパクと其処等の桜餅を鱈腹食べ始める。
「えっ?」
すると桜花姫の背後より…。
「あんた達はアビスダーキニーだったかしら?」
二刀流の悪魔的人魚アビスダーキニーが三体も出現したのである。
「私の食事中に邪魔するなんて…何様かしら?」
『彼女達の特殊能力は直接斬撃しなくても…相手を斬撃出来るのよね…』
アビスダーキニーは遠方から一振りするだけで相手を斬撃出来…。斬殺出来る特殊能力である。
『こんな場所で特殊能力を発動されると厄介だからね…』
桜花姫は三体のアビスダーキニーに変化の妖術を発動…。すると三体のアビスダーキニーは桜餅に変化したのである。
「折角だからあんた達も…頂戴するわね!」
桜餅に変化した三体のアビスダーキニーを捕食する。桜花姫が暗闇の海中で奮闘する同時刻…。失楽園ブルーデストピアに存在する一軒家ではダークスプライトが水晶玉で桜花姫の様子を只管観察し続ける。
「彼女…人魚王国アクアユートピアでの噂話は本当だったのね…」
『殺害したアビスセイレーンやらアビスダーキニーの血肉を異国のスイーツに変化させて捕食しちゃうのね…本当に彼女はダークスキュラン以上に悪趣味だわ…』
異端者のダークスプライトでも桜花姫の悪食にはドン引きしたのである。
「如何やら彼女が悪食なのは事実みたいね…」
『可愛らしい外見なのに勿体無いわ…』
ダークスプライトは桜花姫を可愛らしいと感じるものの…。悪癖である悪食には勿体無いと感じる。
「可愛らしい外見とは裏腹に…彼女の実力は本物みたいね…」
『魔力は私とダークスキュランを容易に上回るでしょうね…』
桜花姫の魔力が自身は勿論…。深海底魔女のダークスキュランさえも上回ると確信したのである。

第十七話

採血
同時刻…。アビスセイレーンの大群を仕留めた桜花姫は只管に失楽園のブルーデストピアへと驀進したのである。
『此処からダークスキュランに匹敵する魔力を感じるわね…』
魔力の正体が何者なのかは断定出来ないものの…。
『ひょっとするとダークスプライトって深海底魔女の魔力なのかしら?』
ブルーデストピアから感じられる魔力が深海底魔女ダークスプライトの魔力であると予想する。移動を再開してより一時間半が経過…。桜花姫は目的地のブルーデストピアに無事到達したのである。本来であれば三十分も経過すれば体内の妖力を消耗するのだが…。ダークスキュランのブルークリスタルの効力により暗闇の深海底でも長時間の力泳が可能だったのである。
『ひょっとして目的地のブルーデストピアかしら?』
海底下には無数の鯨類やら魚類の白骨体は勿論…。何百隻もの船舶の残骸が深海底の彼方此方に確認出来る。
「以前も通過したけれど…」
『ブルーデストピアは気味悪そうな場所よね…』
周囲は暗闇であるが千里眼の妖術を発動すると十数キロメートルの長距離より貝殻形状の一軒家を発見したのである。
「こんなにも暗闇の場所に一軒家だわ…」
『私はダークスプライトの家屋敷に到達したのかしら?』
桜花姫は超特急で力泳し始め…。貝殻形状の一軒家へと直行したのである。力一杯力泳し始めてより十五分後…。一軒家の玄関口に到達したのである。
「室内から妖力を感じるわ…」
『ひょっとして深海底魔女…ダークスプライトかしら?』
桜花姫は恐る恐る玄関口のドアをノックする。
「御免下さい…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る玄関口のドアをノックするのだが…。無反応だったのである。
「えっ?」
一軒家の内部には強大なる魔力が感じられ…。
『ひょっとして居留守かしら?』
居留守なのは確実である。
『悪趣味ね…居留守なんて私に対する嫌がらせかしら?』
苛立った桜花姫であるが突然背後より…。ポンッと何者かが桜花姫の背中に接触したのである。
「きゃっ!」
桜花姫の背後には人魚の童顔美少女が佇立…。人魚の素肌は水色だったのである。
「突然何するのよ!吃驚するじゃない!」
桜花姫は背後の人魚に怒号する。すると人魚は満面の笑顔で…。
「あんたが異国の魔法使いの月影桜花姫なのね!」
「えっ…如何して私の名前を?あんたは一体何者なのよ?」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る人魚に問い掛ける。
「私は深海底魔女のダークスプライトよ!深海底の医者とでも!」
童顔美少女の人魚とは深海底魔女であり人魚王国アクアユートピアでは唯一の医者…。ダークスプライト本人だったのである。
「あんたがダークスプライトだったのね…私は妖女だからね…」
「妖女ですって?あんたの祖国では魔法使いは妖女って呼称されるのね!」
「妖女は妖女でも私は列記とした最上級妖女なのよ!留意しなさいね!」
桜花姫はダークスプライトに自身が最上級妖女であると断言する。
『ダークスプライトって深海底の魔女だけど想像よりは普通の人魚っぽいわね…』
桜花姫はダークスプライトの容姿に苦笑いしたのである。
『正直彼女の下半身はダークスキュランみたいな真蛸かと…』
当初はダークスプライトの容姿が深海底魔女のダークスキュランと同様…。イメージ的に下半身が真蛸の生命体であると予想したのである。一方のダークスプライトは桜花姫を凝視し始め…。
「あんたは…何を想像したのかしら?ひょっとして私の下半身が真蛸だとでも想像したのかしら?」
「えっ…別に…」
桜花姫はダークスプライトの発言により一瞬ドキッとする。
『ダークスプライトって読心術が出来るの?』
桜花姫は冷や冷やしたのである。
「こんな場所で長居し続けても仕方ないわ…折角だし!」
ダークスプライトは桜花姫をリビングルームへと案内する。
『彼女の家屋敷って意外と普通だわ…』
ダークスプライトの家屋敷の室内は意外にも洋式風でありアクアヴィーナスの家屋敷と同様の雰囲気だったのである。するとダークスプライトは満面の笑顔で…。
「桜花姫…変身魔法を解除しても大丈夫よ!」
「えっ?」
ダークスプライトの家屋敷にも防水用のシールド魔法により人間の状態でも生活出来る。桜花姫は変化の妖術を解除すると深呼吸したのである。
「呼吸出来るわ…此処なら普段の状態でも大丈夫みたいね…」
するとダークスプライトは表情が赤面し始め…。
「意外だわ…あんたは人間の状態でも可愛らしいわね!」
「えっ?私が可愛らしいなんて!ダークスプライトは大袈裟ね!」
『私が可愛らしいですって!』
桜花姫は赤面するが内心大喜びする。
「折角だからね…私も久方振りに!」
魔法を解除するとダークスプライトも人間の少女の姿形に変化したのである。
「深海底の人魚は基本的に人間の状態で生活するのは時たまだからね…」
「人魚達は地上世界とは真逆なのね…」
桜花姫は恐る恐る…。
「ダークスプライト?今回の用事は一体何かしら?」
「私は最強生物のあんたを利用して…前代未聞の魔法新薬を研究したくてね!」
ダークスプライトにとって魔法新薬の研究とは娯楽であり趣味である。
「前代未聞の魔法新薬ですって?」
『私には何が何やらサッパリだわ…魔法新薬って何かしら?』
桜花姫は珍紛漢紛であり内心困惑する。
「私は常日頃から多種多様の魔法の医薬品を研究するのが趣味なのよ!」
ダークスプライトは満面の笑顔で断言したのである。
「あんたは地上世界では最強の魔法使いって噂話だし!あんたの血液を媒体に魔法の新薬を開発出来ないかなって!」
「私に魔法新薬の開発に協力しろと?」
桜花姫が問い掛けるとダークスプライトは一瞬沈黙するのだが…。
「勿論よ!桜花姫!」
ダークスプライトは満面の笑顔で返答する。
「無論あんたは暇潰しに協力するでしょう?私の研究に!」
桜花姫はダークスプライトの問い掛けに一瞬困惑するのだが…。
『仕方ないわ…暇潰しにダークスプライトに協力しましょうかね…』
「承知したわ…ダークスプライト…」
桜花姫の承諾にダークスプライトは大喜びしたのである。
「協力に感謝するわね!桜花姫!」
「ダークスプライト?協力だけど…私は具体的に何を如何すれば?」
桜花姫は不安そうな表情で恐る恐るダークスプライトに問い掛ける。
「具体的も何も…心配しなくてもあんたは身動きしないでジーッとし続けるだけよ!リラックス!リラックス!」
「えっ?ジーッとし続けるだけなの?」
桜花姫は拍子抜けする。
「絶対に身動きしないでね!僅少でも身動きしちゃうと研究出来ないからね…」
「えっ…」
『絶対って…大丈夫なのかしら?』
桜花姫はダークスプライトの絶対の一言に内心不安に感じるものの…。
「承知したわ…ダークスプライト…」
『ダークスプライトは私に一体何するのかしら?』
桜花姫はダークスプライトの指示に多少緊張する。ダークスプライトは恐る恐る桜花姫の右手を接触したのである。
「えっ…ダークスプライト?如何したのよ?」
ダークスプライトは数秒間沈黙するのだが…。
「なっ!?本当に!?現実なの!?」
ダークスプライトはハッとした表情で驚愕したのである。
「えっ!?如何しちゃったのよ!?ダークスプライト!?一体何が?」
ダークスプライトの反応に桜花姫は一瞬吃驚する。
「一通りあんたの細胞を調査した結果…最低限の栄養分は必要不可欠でしょうけど…今現在のあんたの細胞は本当に不老不死みたいね…」
桜花姫はダークスプライトの不老不死の一言に反応したのである。
「えっ!?私の細胞が不老不死ですって!?本当なの!?」
「あんたの細胞は正真正銘…万能細胞よ!」
ダークスプライトは魔法で桜花姫の体内を一通り調査した結果…。桜花姫の全身の各細胞は不老不死の万能細胞であると判明する。
「正直私も吃驚したわ!俗界に不老不死の生命体が実在するなんて…やっぱりあんたは完全無欠の最強生物だったのね!」
すると桜花姫は恐る恐る…。
「如何して私の各細胞が不老不死なのよ!?」
問い掛けられたダークスプライトは困惑するがボソッと問い掛ける。
「ひょっとするとあんたは…最近異類の肉塊を食べなかったかしら?」
「えっ…異類の肉塊ですって?」
『異類の…肉塊って?ひょっとしてウィプセラスかしら?』
栄養分の摂取は最低限必要不可欠であるが…。桜花姫は人工性妖女ウィプセラスの肉体と同化してから桜花姫の各細胞は不老不死の万能細胞へと大進化したのである。ダークスプライトは世紀の大発見にニコッと微笑み始める。
「長時間は必要不可欠でしょうけれど…あんたの万能細胞を解析出来れば不老不死の新医薬品を実現させられるかも知れないわ!栄養分さえ最低限摂取し続ければ不老不死も実現化出来るでしょうね!」
『不老不死の新医薬品を大量に製造出来れば私は億万長者ね!』
ダークスプライトは内心不老不死の新医薬品による大儲けを夢見たのである。一方の桜花姫は恐る恐る…。
「不老不死の…新医薬品ですって?」
ダークスプライトは戸棚から注射器を所持する。
「えっ…何かしら?」
『運針?』
桜花姫は不思議そうに注射器の注射針を凝視したのである。
「注射器よ!」
「注射器って何かしら?」
「魔法の医療道具とでも!注射器であんたの血液を採取するのよ!」
「えっ…血液を採取ですって?こんな運針で血液を採取出来るの?」
「採取出来るわよ!桜花姫は絶対に身動きしないでね…身動きするとあんたの血液を採取出来なくなるからね…」
「ダークスプライト…如何するのよ?」
桜花姫は一瞬ピクッと反応し始める。
「覚悟しなさいね!桜花姫!」
するとダークスプライトは桜花姫の左腕にチクッと注射…。直後である。
「ひゃっ!」
桜花姫は突然の苦痛に大声で大絶叫し始め…。
「ぎゃっ!」
リビングルーム全体に桜花姫の悲鳴が響き渡る。
「注射器に畏怖しちゃうなんて…あんたは大袈裟ね!弱虫の子供みたいよ!」
ダークスプライトは注射器に畏怖し続ける桜花姫に微笑したのである。
「私はね!中身は子供だよ!」
桜花姫は揶揄するダークスプライトに怒号したのである。
「桜花姫…終了したわよ!」
血液の採取が終了する。
「はぁ…はぁ…私は…一瞬死んじゃうかと…」
桜花姫は極度の疲労困憊からかグッタリし始める。
「桜花姫…注射程度で死んじゃうなんてあんたは大袈裟ね!」
ダークスプライトは再度桜花姫に微笑する。すると先程の注射の傷口が一瞬で治癒したのである。
「傷口が一瞬で治癒するなんてね…あんたの回復力は抜群だわ!」
ダークスプライトは桜花姫の治癒力に驚愕する。
「はぁ…私は一握りの最上級妖女だからね…こんな程度の傷口なんて簡単に治癒出来るのよ…」
「研究材料は入手出来たからね!」
ダークスプライトは研究材料の入手に大喜びしたのである。
「今回は協力に感謝するわね!桜花姫!」
するとダークスプライトは満面の笑顔で…。
「折角だし!ショートケーキでも食べない?」
桜花姫はショートケーキの一言に反応したのである。
「えっ!?ショートケーキですって!?」
桜花姫はショートケーキに一瞬ワクワクするものの…。
「御免なさいね…私は…食欲が…」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
蛇体如夜叉の様子が気になるのか食欲が減退する。
「あんた…食べたくないみたいね…」
『桜花姫は悩み事かしら?』
ダークスプライトは桜花姫の様子から悩み事であると察知したのである。すると桜花姫は恐る恐る…。
「ダークスプライト?老衰状態の人間を…元通りの状態に戻せる医薬品は存在しないのかしら?」
「老衰から復活させる医薬品ですって?」
桜花姫はダークスプライトに蛇体如夜叉の事情を洗い浚い告白したのである。
「蛇体如夜叉ってあんたの知人が老衰状態なのね…」
ダークスプライトは沈黙する。
「桜花姫…」
するとダークスプライトは恐る恐る…。
「残念だけれど今現在老衰状態から復活させる魔法の医薬品は存在しないわ…寿命ばかりは私の魔法医薬品でも如何にも出来ないのが現実なのよね…不老不死の魔法新薬を実現出来るなら別でしょうけど…現実問題として現段階では不老不死の魔法新薬は存在しないからね…」
「えっ…」
内心ショックであり桜花姫は沈黙したのである。
「私は…今直ぐ戻らないと…」
『当然よね…私は何を期待しちゃったのかしら?』
桜花姫は落胆する。一方のダークスプライトは恐る恐る…。
「御免なさいね…桜花姫…私は何も出来ず…」
「別に…気にしないで!ダークスプライト!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。すると桜花姫は自分自身に口寄せの妖術を発動…。一瞬で桃源郷神国に戻ったのである。
「えっ?」
『彼女は…テレポート魔法を使用したのかしら?』
ダークスプライトは一瞬で消失した桜花姫に驚愕する。

最終話

強奪
同時刻…。桜花姫は無事に深海底の失楽園ブルーデストピアから桃源郷神国の西国の海岸へと戻れたのである。
『私は…無事に桃源郷神国へと戻れたのね…』
桜花姫は一息する。
「はぁ…」
『蛇体如夜叉婆ちゃん…』
桜花姫は涙腺から涙が零れ落ちる。
『私は今後…如何すれば?』
日に日に体調が悪化し続ける蛇体如夜叉に数分間落涙し続けたのである。落涙し始めてから数分後…。桜花姫は泣き止んだのである。
『家屋敷に戻ろうかな?』
自宅へと戻ろうかと思いきや…。
「えっ?」
突如として背後より何者かの気配を感じる。
「気配だわ…」
『人外なのは確実みたいだけど…何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視したのである。
「あんたは…一体何者なの?」
桜花姫の背後には煌びやかな藍色の着物姿の女性が佇立…。女性の体格は小柄であり左手には一本の木刀を所持する。
『彼女は花魁かしら?外見だけだったら普通の女性っぽいけれど…』
女性の両目は半透明の群青色であり神秘性を感じさせる。頭髪は銀髪の長髪であり非常に異質的雰囲気だったのである。
『非常に神秘的ね…彼女は一体何者なの?彼女の肉体からは何一つとして妖力が感じられないわね…』
女性の雰囲気は非常に神秘的であり超自然的存在の一種である妖女とも別物である。すると女性は無表情で桜花姫を直視し始め…。
「其方は…最上級妖女の月影桜花姫だな…発見したぞ!」
「えっ!?如何して見ず知らずのあんたが私の名前を!?」
目前の女性とは初対面であるが…。桜花姫は自身の名前を熟知する花魁らしき女性に驚愕したのである。
「あんたは一体…何者なの?」
「私が何者なのか?私の名前は天狐如夜叉…神族の一人だ!」
問い掛けられた花魁らしき銀髪の女性は自身を神族の一人…。天狐如夜叉であると名乗り始める。
「えっ!?あんたは神族の一人ですって!?」
桜花姫は天狐如夜叉の神族の一言に驚愕する。
『神族なんて…蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は大昔に全滅したって…』
桜花姫は幼少期…。蛇体如夜叉からは自身以外の神族は太古の大昔に全滅したと知らされたのである。
「不思議そうな表情だな…月影桜花姫よ…私は正真正銘神族の一人だぞ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん以外の神族は…大昔の戦乱で全員殺されたって…」
「其方の反応は…彼奴と一緒だな…」
「彼奴ですって?彼奴って誰なのよ?」
天狐如夜叉は一瞬沈黙する。沈黙し始めてから数秒後…。
「月影鉄鬼丸と名乗る…人間の武士だよ…」
「えっ?月影鉄鬼丸って…」
『父様の名前!?』
桜花姫は父親の鉄鬼丸の名前を熟知する天狐如夜叉に再度驚愕したのである。
「其方にとって鉄鬼丸と名乗る人間は肉親なのだろう?」
「如何して見ず知らずのあんたが…私の父様の名前を?あんたは一体なの?」
桜花姫は恐る恐る天狐如夜叉に問い掛ける。
「三十二年前の四月初旬だったか…其方の父親…月影鉄鬼丸を殺害したのは誰であろう私なのだからな…」
「えっ…あんたが…私の父様を殺した張本人ですって?」
桜花姫は衝撃の事実に一瞬沈黙する。
「最上級幼女の月影桜花姫よ…肉親である父親を殺害した私を憎悪するか?私に復讐したくなったか?月影桜花姫…」
すると桜花姫は無表情で…。
「別に…」
「はっ?其方は…」
天狐如夜叉は桜花姫の反応が不思議に感じる。
「其方の反応は意外だったな…身内を惨殺した相手を憎悪しないとは…其方にとって父親の存在とは?」
「今更父様を殺したって自白されても…私自身は生前の父様を知らないからね…」
実際問題鉄鬼丸が殺害されたのは桜花姫の出産日前日の出来事である。
「其方は相当の薄情だな…月影桜花姫…」
「私が薄情だから何よ…天狐如夜叉!」
桜花姫は薄情と軽蔑されても平気だったのかニコッと微笑み始める。
『月影桜花姫…如何やら彼女には常人の常識は通用しないな…』
天狐如夜叉は内心呆れ果てる。
「あんたは純血の神族みたいだけど…大昔の伝承では神族は全滅したって…正直今現在の世の中に純血の神族が存在するなんて驚愕よ…」
今現在では神族の存在は伝説的存在として扱われる。実際彼等に対する世間一般の認識も架空の神話程度の認識だったのである。
「今現在では間違った認識が各地に出回ったのだな…数万年間も経過すれば崇高なる神族の存在が忘却されるのも仕方ないか…」
桜花姫は不思議そうな表情で天狐如夜叉に問い掛ける。
「如何して神族の一人であるあんたが…今更こんな場所に?天狐如夜叉は一体何が目的なのよ?」
「其方の自慢である神性妖術の天道天眼を…確保したいからな!」
天狐如夜叉は桜花姫の質問に即答する。
「えっ?私の…」
『天道天眼を確保ですって?』
桜花姫は天狐如夜叉の意向が理解出来なかったのか混乱したのである。
「其方の天道天眼を入手出来れば…私の主目的である地上世界の全人類を完膚なきまでに殲滅出来…崇高なる神族のみが君臨する神世界の再興が実現出来るのだからな!」
太古の大昔に神族は人間達との大戦争に敗北してより…。天狐如夜叉は大勢の同志達が極悪非道の人間達によって殺害されたのである。大戦争での人間達の醜悪さを熟知…。太古の大戦争を契機に天狐如夜叉は人間達を憎悪したのである。
「人間達に対する復讐であり…滅亡した神世界を再興させる絶好の機会なのだ!」
「人間達の殲滅に…私の天道天眼が必要不可欠なの?」
「勿論だとも…」
天狐如夜叉は即答する。
「天道天眼は術者自身の脳内の想像力を具現化させる無限の効力を発揮出来るからな!所謂万能の神術とでも…」
「えっ!?」
『脳内の想像を具現化ですって!?』
天道天眼は万能の神性妖術であり術者の想像を現実世界で具現化させる無限の超常現象を発揮出来る。今迄桜花姫が数多くの超常現象やら多種多様の妖術を使用出来たのは彼女の想像力が具現化された結果である。
「即刻…其方の天道天眼を頂戴する…覚悟せよ!月影桜花姫!」
すると桜花姫はギロッと天狐如夜叉を睥睨し始める。
「私の天道天眼を頂戴ですって?」
「其方は妖術で私を仕留めるのか?」
天狐如夜叉の発言に苛立ったのか天道天眼を発動したのである。
「当然でしょう!誰が見ず知らずのあんたなんかに私の天道天眼を提供するか!」
「其方の神性妖術…天道天眼か…先程よりも妖力が増大化したみたいだな…」
桜花姫は血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。同時に体内の妖力が先程よりも数百倍に増大化し始める。
「天狐如夜叉!あんたこそ覚悟するのね!あんたは桜餅に変化しなさい!」
桜花姫は天狐如夜叉に変化の妖術を発動したのである。
「えっ?」
変化の妖術を発動するのだが…。天狐如夜叉は桜餅に変化しない。
「えっ!?」
『如何して天狐如夜叉は桜餅に変化しないのよ!?』
桜花姫は桜餅に変化しない天狐如夜叉に動揺したのである。
「其方程度の妖術なんて私には通用しない…何故なら…」
天狐如夜叉は桜花姫に木刀を誇示する。
「木刀かしら?木刀が如何したのよ?」
「私の木刀は木刀でも…其処等の木刀とは格別だぞ…此奴は妖星巨木の小枝から彫刻された神聖なる神器の一種なのだからな!」
「妖星巨木ですって!?」
桜花姫は驚愕したのである。天狐如夜叉の所持する木刀は妖星巨木の小枝から誕生した神器の一種であり荒唐無稽の妖術を無力化出来…。器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に妖力を吸収出来る。
「私の神聖なる木刀には其方程度の子供騙しの妖術は何一つとして通用しない!今度は私が其方に反撃するぞ!」
天狐如夜叉は神速の身動きにより桜花姫の目前へと一瞬で急接近…。
「えっ?」
「成仏せよ!月影桜花姫!」
天狐如夜叉は桜花姫の腹部を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
天狐如夜叉の所持する木刀は鋼鉄の刀剣に匹敵する強度…。相手を斬殺する芸当さえも容易に可能である。
「ぐっ…」
腹部を斬撃された桜花姫は腹部から出血し始め…。
『迂闊だったわ…』
桜花姫はバタッと地面に横たわったのである。
「何が最上級妖女だ…所詮其方は妖術を無力化出来れば其処等のか弱き人間の小娘同然なのだ…」
天狐如夜叉は地面に横たわった状態の桜花姫に近寄り始める。
「あんたは…一体何を?」
「今度こそ其方の天道天眼を頂戴するぞ!」
桜花姫の右手に接触したのである。
「月影桜花姫よ…覚悟するのだな!」
天狐如夜叉が両目に接触した直後…。
「えっ…」
桜花姫は金縛りにより身動き出来なくなる。
『一体何が!?身動き出来ないわ!』
数秒後…。
「はっ!?」
桜花姫は金縛りが解除されて身動き出来たのである。一方の天狐如夜叉は微笑した表情で桜花姫を凝視する。
「其方から天道天眼を頂戴したぞ!」
「えっ!?」
桜花姫は天狐如夜叉の発言に愕然としたのである。
「あんたは…私の天道天眼を!?」
「今現在の其方は天道天眼を使用出来なくなった…」
天道天眼を奪取された桜花姫は多種多様の妖術を使用出来ず…。最早天道天眼を発動出来ない桜花姫では天狐如夜叉に対抗するのは不可能である。
「月影桜花姫…最早其方は戦闘不能だ!」
「あんたは…私の天道天眼を…」
天道天眼の発動を試行するが…。
「えっ…」
桜花姫の瞳孔から天道天眼が発動されない。
『私は…』
一方の天狐如夜叉は険悪化した表情で…。
「其方の肉体からは数百体?数千体もの薄汚い亡者達の気配を感じるぞ…其方はか弱き小町娘とは裏腹に薄汚い亡者の集合体か…」
「なっ!?俗界の女神様である私を…亡者の集合体ですって?」
桜花姫はギョッとした鬼神の形相で天狐如夜叉を睥睨したのである。
「其方みたいな薄汚い亡者の集合体なんかに神族の神聖なる天道天眼は宝の持ち腐れだな!」
本来ならば天狐如夜叉に変化の妖術を発動したい桜花姫であるが…。十八番の天道天眼を使用出来ない状態ではあらゆる妖術を駆使出来なくなる。
「天道天眼とは…本来は神族の眼光なのだ!」
「天道天眼が…神族の眼光ですって?」
神性妖術天道天眼は神族界隈では別名として神族の眼光とも呼称される。
「神族の眼光は純血の神族である私にこそ相応しい代物なのだぞ!」
「如何して私に天道天眼が?」
桜花姫の疑問に天狐如夜叉は即答する。
「小娘の分際である其方が…神聖なる天道天眼を開眼出来たのは世界樹の妖星巨木が関係するのだ…」
妖星巨木とは本来神族の鮮血を吸収した超自然的樹木である。五百年前の戦乱時代に西国の桃子姫が妖星巨木の果実を採食…。神族の眼球とされる神性妖術の天道天眼を開眼したのである。
「皮肉にも其方は桃子姫と名乗る元祖妖女の再来なのだ…桃子姫の再来であるからこそ神族の眼光を使用出来ただけだ…」
桜花姫は恐る恐る…。
「金輪際…私は妖術を使用出来ないの?」
「非力の其方に妖術だと?当然であろう…」
問い掛けられた天狐如夜叉は即答する。
「今迄桜花姫があらゆる妖術を使用出来たのは神聖なる天道天眼の効力なのだよ!神族の眼光を使用出来なくなった其方は金輪際何一つとして妖術を行使出来ないのだ…本日より其方は一握りとされる最上級妖女から弱小の下級妖女へと降格したのだ!」
『いい気味だな…月影桜花姫…』
天狐如夜叉は妖術を使用出来なくなった桜花姫に冷笑したのである。
「私が弱小の下級妖女ですって?」
『此奴…』
桜花姫は天狐如夜叉の発言に腹立たしくなる。直後…。
「下級妖女の月影桜花姫よ…其方は想像以上にしぶといな…」
『彼女は生命力だけなら油虫に匹敵するな…』
斬撃された腹部の傷口が自然に治癒されたのである。
『私なら大丈夫!大丈夫よ!妖術が使用出来なくても…』
桜花姫は幼少期に天道天眼を開眼する以前から妖力のみは通常の妖女の数十倍を所持…。体内の妖力のみなら人一倍莫大だったのである。桜花姫は体内の妖力により自力で腹部の傷口を再生させる。
「妖術を行使出来ずとも…肉体が本能的に外傷を自然治癒させるとは…」
『月影桜花姫…彼女は悪運だけなら人一倍だな…』
すると半透明の群青色だった天狐如夜叉の瞳孔が半透明の瑠璃色に発光する。
「えっ!?天道天眼だわ…」
天狐如夜叉は天道天眼を発動したのである。
「神族の眼光である…其方の身動きを封殺するぞ!下級妖女の月影桜花姫!」
桜花姫は天狐如夜叉が再度発動した金縛りの神術により身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
『私は…身動き出来ないわ…ひょっとして金縛りの妖術かしら?』
天狐如夜叉は冷笑した様子で身動き出来なくなった桜花姫に問い掛ける。
「金縛りの気分は如何かな?月影桜花姫よ…今迄其方が自分以外の他者に行使した妖術だぞ!今度は其方が自分以外の他者によって踏み躙られるのだ!」
桜花姫は何も反論出来ず…。沈黙の数秒間が経過する。
「極悪非道の其方は死後の世界とされる…地獄の世界に直行するのが相応しい!」
直後…。
「えっ!?」
桜花姫は天狐如夜叉の発動した口寄せの神術によって死後の世界とされる地獄の世界へと幽閉されたのである。
『神族の眼光を無くした其方は単なるか弱き小娘なのだ!其方は二度と俗界へは戻れなくなる…地獄の世界で未来永劫無限の苦痛を精一杯体感するのだな!下級妖女の月影桜花姫よ…』
自身にとって最大の邪魔者である桜花姫は地獄の世界へと幽閉出来…。天狐如夜叉は冷笑したのである。
『一先ずは邪魔者の月影桜花姫は幽閉出来たからな…目的の第一段階は成功だ!』
天狐如夜叉は目的の第一段階の達成により撤収する。
完結

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