桜花姫第参部特別編
第参部
特別編
第一話
石像
無数の悪霊の集合体であり悪霊の黒幕とされる邪霊餓狼が完全消滅してから半年後…。世界暦五千二十三年十二月上旬の出来事である。南国の海域では十数人もの漁師達が石化する摩訶不思議の超常現象が発生する。数日間が経過すると南国の砂浜では石化した状態の漁師達が無数に聳え立ったのである。超常現象の正体が気になった最上級妖女の月影桜花姫は真昼の時間帯…。南国の海岸に位置する砂浜へと直行したのである。
『何かしら?漁師達の石像みたいだけど?』
海岸の砂浜には木造の漁船が数隻と十数体もの石像が確認出来る。
『精巧に形作られた石像だけど…』
僅少であるが…。
『生命力だわ…』
漁師達の石像から生命体の生命力が感じられる。
『気味悪いわね…石像の正体は一体何かしら?』
石像は非常に気味悪いのだが…。
『止むを得ないわね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る石像に近寄ったのである。
『恐らくだけど神出鬼没の悪霊の仕業かしら?』
桜花姫は今回の超常現象が悪霊の仕業であると予想するのだが…。
『悪霊は元凶の邪霊餓狼が半年前の一件で消滅しちゃったし…神出鬼没の悪霊は該当しないわよね…』
神出鬼没の悪霊は主要因とされる邪霊餓狼が消滅した影響により俗界では一体も出現しなくなる。
『悪霊以外の仕業だとすれば…ひょっとして妖女の仕業かしら?』
荒唐無稽の妖女の可能性が濃厚であり今回の怪異事件は妖女の仕業であると各地で噂話が出回る。
『今回の石像事件が誰の仕業なのか明確化させないと!』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る一体の漁師の石像に接触する。
『漁師の石像から人間の生命力を感じられるわね…』
「石像の正体は人間の漁師達かしら?」
今度は別の石像に接触したのである。
『やっぱり彼等が超常現象で石化した漁師達みたいね…』
砂浜の石像を一通り確認すると石像の正体は石化した漁師達であると認識する。
『石像からは妖女特有の妖力は感じられないのよね…』
不可解にも石像の表面からは妖力は感じられなかったのである。
「悪霊は勿論…妖女も該当しないわね…」
『一体誰の仕業なのかしら?』
桜花姫は彼是と思考した直後…。
『海中から不吉の気配を感じるわ…何者かしら?』
近海の海中より異様の気配を感じる。
『妖力とは別物だわ…一体何が海中に出現したのかしら?』
海中から感じられる異様の気配が気になるのか桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。銀鱗の人魚に変化したのである。
『兎にも角にも海中に直行よ!』
桜花姫は人魚の状態で恐る恐る暗闇の海中へと直行…。異様の気配の感じる場所へと驀進したのである。
『気配の正体は何かしら?』
海中は意外にも漆黒の暗闇であり遊泳中の魚類は確認出来ても異様の物体は何一つとして確認出来ない。
『こんなにも漆黒の暗闇では気配の正体を特定するのは困難だわ…』
すると直後である。強大なる殺気が猛スピードで自身に接近するのを感じる。
「殺気!?」
桜花姫は接近中の殺気に警戒したのである。
『殺気の正体は一体何かしら?』
気配に警戒してより数秒後…。
『気配の正体…海蛇かしら?』
暗闇の海中より巨大海蛇らしき移動物体が急接近する。桜花姫は巨大海蛇らしき移動物体と対峙したのである。
「あんたはひょっとして…」
巨大海蛇らしき移動物体とは上半身が巨体の人間の女性…。下半身が巨大海蛇の人獣生命体である。
「あんたは上級深海底アンデッドの…アビスラメイアスだったかしら?」
巨大移動物体の正体とは上級深海底アンデッドの一体…。巨大女性型深海底アンデッドのアビスラメイアスだったのである。
『彼女は以前…アクアユートピアに出現した個体とは別物なのかしら?』
するとアビスラメイアスは桜花姫を直視し始める。
「ひょっとしてあんたは異国の人魚かしら?」
「異国の人魚なんて…私は最上級妖女の月影桜花姫よ!」
桜花姫はアビスラメイアスに自身の名前を名乗ったのである。
「最上級妖女の月影桜花姫ですって?何方にせよ…あんたが異国の魔法使いなのは確実みたいね♪」
アビスラメイアスは空腹なのか満面の笑顔で桜花姫を凝視し続ける。
「美味しそうな肉感だわ♪あんたは私の餌食として食べられちゃいなさい♪」
「私こそ空腹なのよね♪あんたこそ最上級妖女の私に食べられちゃいなさい♪」
一方の桜花姫も満面の笑顔で返答したのである。
「早速♪アビスラメイアスは私の大好きな桜餅に変化しちゃいなさい♪」
桜花姫はアビスラメイアスを相手に変化の妖術を発動する。
「えっ?あんたは私に何したのかしら?ひょっとして小細工とか♪」
数秒間が経過するものの…。
「えっ…如何して?」
変化の妖術は発動されず標的のアビスラメイアスは桜餅に変化しない。
『如何して彼女には変化の妖術が発動しないのよ!?』
桜花姫は桜餅に変化しないアビスラメイアスに動揺したのである。
「ひょっとしてあんたは私に魔法を駆使したのかしら?」
アビスラメイアスは失笑し始める。
「残念だったわね♪異国の魔女♪私にはあんたの魔法なんて通用しないわよ♪」
アビスラメイアスは器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に妖力を吸収出来る。当然妖力を吸収出来るアビスラメイアスには荒唐無稽の妖術等は通用しない。
『アビスラメイアスには妖術が無力化されちゃうのよね…迂闊だったわ…』
桜花姫はアビスラメイアスに変化の妖術を駆使するも無力化され…。アビスラメイアスが魔力を吸収する性質を完全に度忘れしたのである。するとアビスラメイアスは満面の笑顔で…。
「あんたの魔力は非常にデリシャスだったわ♪余計に魔法使いのあんたを食べたくなったわ♪」
一方の桜花姫はアビスラメイアスに警戒したのか恐る恐る後退りしたのである。
「後退りしちゃって♪あんたは如何しちゃったのかしら♪」
アビスラメイアスは後退りし始める桜花姫に冷笑する。
「あんたはこんな場所で私に遭遇したのが不運だったのよ♪あんたは私の獲物だから絶対に見逃さないわよ♪覚悟するのね♪」
「ぐっ…」
『人魚に変化し続けた状態では妖力が消耗しちゃうし…アビスラメイアスには妖術は通用しないし…如何しましょう?』
海中では妖力の消耗が桁外れであるばかりか相手は妖術が通用しない吸収系統の強敵である。普段は冷静沈着の桜花姫でも戦場が暗闇の海中では苦悩する。
『口寄せの妖術で異国の武器を口寄せする以外には…』
「あんたの名前は月影桜花姫だったかしら♪」
「私が桜花姫だから何よ?」
「桜花姫…あんたは陸地の砂浜で無数の石像と遭遇したかしら?」
「砂浜の石像って…漁師達の!?」
桜花姫はアビスラメイアスの問い掛けに反応したのである。
「彼等は私の魔法で石化した生身の人間達なのよ♪」
「超常現象の正体はアビスラメイアス…やっぱりあんただったのね…」
アビスラメイアスは桜花姫の反応にニヤリとする。
「芸術的でしょう♪」
「何が芸術的なのよ…」
桜花姫は芸術的と表現するアビスラメイアスにドン引きしたのである。
「生身の人間を石像に変化させるなんて非常に悪趣味だわ!生身の石像なんて気味悪いだけなのよ!」
アビスラメイアスが芸術的であると豪語するが桜花姫は全否定…。アビスラメイアスの悪趣味に呆れ果てる。
「結局漁師達を魔法で石化させたのはあんただったのね…アビスラメイアス…」
「魔女のあんたも今直ぐ私の魔法で石化させるから安心なさい♪」
すると直後である。アビスラメイアスの両目が赤色に発光したかと思いきや…。
「えっ?」
桜花姫は身動き出来なくなり一瞬で身体髪膚が石化したのである。アビスラメイアスの魔法で石像へと変化した桜花姫は暗闇の海底下へと落下し始め…。数分間で海底下へと着地したのである。
『異国の魔女は石化したわ…他愛無かったわね♪』
アビスラメイアスは全身が石化した桜花姫の落下地点へと移動する。
「石像を発見したわ…」
『異国の魔女は無事ね♪』
アビスラメイアスは猛スピードで桜花姫の落下地点へと接近したのである。
『随分と可愛らしい石像が完成したわね♪』
アビスラメイアスは石化した桜花姫の石像を最高傑作と高評価する。
『彼女の石像は今迄で最高傑作だわ♪』
アビスラメイアスは石化した桜花姫の石像の表面に接触したのである。
『桜花姫は完全に衰弱死しちゃってから食べちゃいましょう♪』
海底下で衰弱化した段階で桜花姫を捕食する魂胆であったものの…。
『彼女の完成度は抜群だからね♪正直石化した桜花姫を生身の状態で食べちゃうのが勿体無いわね♪』
石化した桜花姫を捕食するのが勿体無いと感じる。
『私のコレクションとして桜花姫を装飾するのも悪くないかも知れないわ♪』
アビスラメイアスは表情が赤面し始め…。
『折角の記念品だからね♪彼女の石像にキスしちゃおうかしら♪』
アビスラメイアスは石化した桜花姫の表面にキスしたのである。石像の表面にキスした直後…。
「えっ!?」
桜花姫の石像から白煙が発生したかと思いきやポンッと消滅したのである。
『一体何が発生したの!?』
アビスラメイアスは突如として消滅した桜花姫の石像に驚愕する。
「桜花姫は!?如何して桜花姫の石像が消滅しちゃったのよ!?」
『彼女は一体!?』
するとアビスラメイアスの背後より気配を感じる。
「えっ!?あんたは!?」
背後には人魚状態の桜花姫が満面の笑顔でアビスラメイアスを凝視する。
「残念だったわね!アビスラメイアス!」
一方のアビスラメイアスは予想外の事態に動揺し始める。
「桜花姫!?あんたは私が魔法で石化させたのよ!?一体何が…」
「あんたが魔法で石化させたのは私の分身体だったのよ!」
「はっ!?分身体ですって!?」
桜花姫はアビスラメイアスが石化の魔法を発動させる直前に分身の妖術を発動したのである。アビスラメイアスの石化の魔法で身体髪膚が石化したのは桜花姫の分身体…。当然桜花姫の本体は無事だったのである。
『折角の完成品だったのに!完全に水の泡だわ…』
アビスラメイアスは最高傑作の消失に落胆する。
「アビスラメイアス!今度は私が反撃するからあんたは覚悟なさいね!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。
「えっ?何かしら?」
アビスラメイアスの頭上より巨大ワームホールが発生したのである。
『ワームホールみたいね…』
すると巨大ワームホールの中心部から数発の爆雷が出現し始め…。アビスラメイアスの周囲より数発の爆雷が落下したのである。
「えっ…今度は何かしら?」
『ひょっとして…水中用の爆弾とか?』
アビスラメイアスは周囲の物体が水中用の爆弾であると気付いたものの…。
「なっ!?」
数発の爆雷が目前で起爆し始める。
「ぎゃっ!」
アビスラメイアスは爆雷の起爆で肉体がバラバラに粉砕され…。暗闇の海中ではアビスラメイアスの鮮血やら肉片が飛散する。
『アビスラメイアスを仕留めたわね!』
「一件落着だわ!」
元凶であるアビスラメイアスを仕留めた影響からか海岸の砂浜で石化した漁師達も元通りの生身の肉体に戻ったのである。
『石像事件も無事に解決出来たし!私は西国の村里に戻ろうかしら?』
桜花姫は自身の肉体に再度口寄せの妖術を発動…。暗闇の深海底から自宅へと無事に戻れたのである。
第二話
千里眼
上級の深海底アンデッドとして知られるアビスラメイアスとの大海戦から三日後…。時間帯は夕方である。
『極楽!極楽!』
桜花姫は毎日の日課である精霊故山の露天風呂にて入浴する。
『精霊故山の温泉は一日分の妖力が蓄積されるわね!』
精霊故山の露天風呂に入浴すると一日分の浪費した妖力が蓄積されたのである。
「やっぱり精霊故山の露天風呂は最高だわ!」
『消耗した妖力も自然に蓄積されちゃうし!湯加減も良好ね!』
桜花姫は露天風呂の湯加減に大満足するのだが…。
「折角だし…」
『変化の妖術を駆使しちゃいましょう!』
桜花姫は十八番である変化の妖術を駆使する。変化の妖術を発動すると桜花姫の下半身が銀鱗の大魚へと変化したのである。すると同時に長髪の黒髪が銀髪に変色…。小柄の人間の状態から銀鱗の人魚の姿形へと変化し始める。
『変化の妖術…完了ね!』
桜花姫は人魚に変化した状態から露天風呂にて遊泳したのである。西国の村里は温泉郷として有名である反面…。精霊故山の露天風呂に入浴するのは桜花姫が大半である。地元民の彼女を除外すると桜花姫以外の妖女やら人間は滅多に精霊故山の露天風呂へは入浴しない。実質精霊故山の露天風呂は常連客の桜花姫が私物化した状態だったのである。
「なっ!?」
すると突然…。
『妖力だわ…』
近辺より妖女特有の僅少の妖力が精霊故山の露天風呂に接近するのを感じる。
『妖女なのは確実ね…』
「一体誰なのかしら?」
妖力を察知した桜花姫は恐る恐る背後の様子を警戒したのである。
「えっ?あんたは…」
桜花姫の背後には水色のロングドレスを着用した金髪碧眼の白人女性が佇立する。
「貴女様はイーストユートピアの魔法使い…月影桜花姫様でしょうか?」
「えっ?ひょっとしてあんたはアクアユートピア出身者の…アクアヴィーナスの母様かしら?」
精霊故山の露天風呂に来訪したのは人魚王国アクアユートピア出身者の一人…。アクアヴィーナスの実母アクアキュベレーだったのである。
「如何しちゃったのよ?深海底のアクアユートピアからこんな場所に入国するなんて…今度もアクアユートピアで大事件でも発生したのかしら?」
桜花姫が問い掛けるとアクアキュベレーは深刻そうな表情で…。
「桜花姫様!大変です!」
「えっ?何が大変なのよ?」
『ひょっとして今回もアクアユートピアで大事件が発生したのかしら?』
桜花姫は驚愕した様子であるが内心大事件発生に期待したのである。アクアキュベレーの様子から一大事であると察知する。
「一昨日の出来事なのですがね…」
「一昨日の出来事ですって?何が発生したのよ?」
アクアキュベレーはソワソワした表情で恐る恐る口述し始める。
「アクアヴィーナスが気分転換に地上世界へと出掛けて以降…彼女は全然アクアユートピアに戻らなくて…」
今日より二日前の出来事である。深海底の魔女ダークスキュランと無数の深海底アンデッドによる大騒ぎから一年後…。アクアヴィーナスは久方振りの気分転換に地上世界へと出掛けたのである。アクアヴィーナスが出掛けてから二日間が経過するのだが…。アクアヴィーナスは人魚王国アクアユートピアへは戻らなかったのである。
「二日間が経過しても…アクアヴィーナスが自宅に戻らないの?」
「彼女が出掛けても普段なら四時間程度…場合によっては二時間程度で帰宅するのですが…今回ばかりは二日間が経過しても戻りません…」
「えっ…」
『二時間程度って…アクアヴィーナスは本当に小心者だわ…』
桜花姫は呆れ果てた様子で苦笑いする。アクアヴィーナスは人一倍小心者であり半日間出歩くだけでもアクアヴィーナスにとってはハイレベルであり普段は短時間で帰宅するのが通例である。桜花姫は恐る恐るアクアキュベレーに問い掛ける。
「アクアヴィーナスの母様?深海底魔女のダークスキュランには彼女の捜索を依頼しなかったのかしら?」
「えっ!?ダークスキュランに…」
桜花姫が問い掛けるとアクアキュベレーはビクッと反応する。
『彼女の様子から判断して…深海底魔女のダークスキュランには依頼しなかったみたいね…』
桜花姫はアクアキュベレーの様子に苦笑いしたのである。
「御免なさい…桜花姫様…」
一方のアクアキュベレーは正直に告白する。
「非常に心苦しいのですが…私は人一倍深海底魔女のダークスキュランが苦手でして…彼女に依頼は勿論…相談すら出来ませんでした…」
「彼女は深海底では最強の深海底魔女でしょうし…ダークスキュランの魔法だったら小心者のアクアヴィーナスが行方不明でも簡単に発見出来そうよ…」
アクアキュベレーにとって深海底魔女のダークスキュランはトラウマの対象であり桜花姫が口寄せの妖術により浄化された状態でダークスキュランは復活出来たものの…。国内では深海底の魔女であるダークスキュランを毛嫌いする人魚の平民達も少なくない。
『彼女は一度アクアユートピアを侵略した張本人だからね…首謀者のダークスキュランが国内の人魚達に信用されないのは自業自得だから仕方ないわね…暇潰しにアクアヴィーナスの捜索に協力しますかね!』
桜花姫はニコッと微笑み始める。
「承知したわ!アクアヴィーナスの母様!最上級妖女の私がアクアヴィーナスの捜索に協力するわよ!」
桜花姫は満面の笑顔で承諾する。
「感謝しますね!桜花姫様!」
アクアキュベレーは一安心したのか笑顔が戻ったのである。
「アクアヴィーナス…彼女の現在地を特定するなら…」
『こんな場合こそ…千里眼の妖術が有効なのよね…』
桜花姫は恐る恐る両目を瞑目させる。
『千里眼の妖術…発動!』
千里眼の妖術とは広範囲に存在する物体やら特定の人物を正確に知覚出来る感知系統の高等妖術である。当然背後からの透視能力も発揮出来る。
『アクアヴィーナスの行方は?』
千里眼の妖術を発動すると桜花姫の脳内より…。
「えっ…何かしら?」
広大なる青海原を航行中の大型帆船が一隻発現されたのである。
『青海原に…異国の…軍船みたいね…』
大型帆船は船体に無数の大砲を装備…。
『船内の旗印が髑髏模様?非常に物騒だわ…』
船内には人間の髑髏らしき黒色の旗印が確認出来る。すると船内の密室には拘束された状態の小柄の赤髪童顔美少女がソワソワした表情で落涙するのを発見…。
「えっ!?」
『彼女は…』
拘束された童顔美少女はピンク色のロングドレスに頭髪は赤毛のストレートロングだったのである。
『ひょっとして彼女は行方不明のアクアヴィーナス!?彼女は何者かに拘束されたのかしら!?』
船内の密室で拘束された状態の赤髪童顔美少女が人魚のアクアヴィーナスであると確信する。以上の光景から桜花姫は恐る恐る…。
「アクアヴィーナスの母様…行方不明のアクアヴィーナスを発見したわよ…」
するとアクアキュベレーはハッとした表情で反応する。
「えっ!?本当ですか!?桜花姫様?」
アクアキュベレーは緊張した様子であり恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「彼女は…アクアヴィーナスは無事なのですか!?桜花姫様!?」
桜花姫は深刻そうな表情で問い掛けるアクアキュベレーに満面の笑顔で返答する。
「如何やらアクアヴィーナスは無事みたいよ♪安心なさい♪」
「はぁ…アクアヴィーナスは無事だったのね…」
桜花姫は行方不明のアクアヴィーナスが無事であると返答するとアクアキュベレーはホッとしたのである。アクアキュベレーはアクアヴィーナスの無事に一安心するものの…。アクアキュベレーは再度桜花姫に問い掛ける。
「ですが彼女は?アクアヴィーナスの居場所は一体?」
「アクアヴィーナスは異国の軍船なのかしら?彼女は船内の密室で拘束された状態だったわね…」
桜花姫は険悪化した表情で返答したのである。
「えっ!?異国の軍船ですって!?如何して彼女が異国の軍船なんかに…」
「私が千里眼の妖術で確認したのは髑髏模様の旗印の軍船だったわ…アクアヴィーナスが軍船の船内で拘束された状態なのは確実よ…ひょっとして人攫いかしら?」
アクアキュベレーは髑髏模様の旗印に反応する。
「桜花姫様が魔法で確認された異国の軍船の正体とは…ひょっとすると海賊団の海賊船では?」
「えっ?海賊団の海賊船ですって?海賊団って…何かしら?」
桃源郷神国では海賊団と命名される専門的用語が皆無であり桜花姫は海賊団の意味が理解出来なかったのである。
「海賊団はね…」
海賊団とは海上で略奪行為を実行する盗賊達の反社会的集団であり近年では多数の海賊達が大海原を大航海…。非力の小国家やら遭遇した非武装の商船を多数襲撃したのである。今現在世界は大航海時代の草創期であり各国の海賊達による海賊行為も日に日に活発化し始める。
「海賊団って…戦乱時代に活躍した水軍みたいな奴等なのね…」
弱肉強食の戦乱時代では桃源郷神国の海域にも極悪非道の水軍が各地の近海で活動…。海岸近辺の村里を襲撃しては大勢の村人達から畏怖されたのである。戦乱時代末期から安穏時代初期には勢力の規模が縮小化され…。今現在では水軍の存在は完全に自然淘汰されたのである。
「桜花姫様…アクアヴィーナスは極悪非道の海賊達に誘拐されたのですね…」
すると桜花姫は笑顔で断言する。
「私が誘拐されたアクアヴィーナスを救出してから…海賊団って名前の匪賊の集団を徹底的に蹴散らせるわね!」
「桜花姫様…」
「兎にも角にも…私達は行動開始よ!」
桜花姫とアクアキュベレーは早速行動を開始したのである。
第三話
懸賞金
千里眼の妖術でアクアヴィーナスを発見してより同時刻…。残虐非道の海賊達によって誘拐されたアクアヴィーナスは海賊船の船内密室にて拘束されたのである。
『如何して私が…こんな場所に?』
船内密室の天井中心部にはオレンジカラーのマリンランプが室内全体を発光させる。
『私…海賊達に殺されちゃうのかな?』
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか涙腺より涙が零れ落ちる。
『私は…こんな場所で死にたくないよ…』
アクアヴィーナスは魔力の消耗により人魚の状態から人間の姿形に戻ったのである。
「変身魔法が…」
『魔力の消耗かしら?下半身が人間の両足に戻っちゃったわ…』
すると二人の海賊達が船内の密室に入室する。
「人魚の姉ちゃんよ!あんたは魔法で人間の小娘に変身したのか?」
「人魚の姉ちゃんは人間の姿形でも可愛らしいけどな!」
海賊達は床面に横たわった状態のアクアヴィーナスに近寄る。一方のアクアヴィーナスは恐る恐る…。
「あんた達は…私を如何するの?殺しちゃうの?私の血肉を食べちゃうの?」
海賊達はビクビクし続けるアクアヴィーナスに大笑いする。
「人魚の姉ちゃんよ…あんたは傑作だな!」
「俺達は極悪非道の海賊団だけどな…人魚のあんたを食い殺しちまったら折角の懸賞金を頂戴出来なくなるからな!俺達は此処であんたを食い殺さないから安心しろよ!」
「えっ?はぁ…」
『一先ずは大丈夫そうね…』
アクアヴィーナスは海賊達の返答にホッとしたのか全身が脱力したのである。すると小柄の船員がボソッと小声で…。
「正直…人魚の姉ちゃんを犯せるなら問答無用で犯しちまいたいが…こんな場所で犯しちまったら折角の懸賞金が水の泡だからな…」
小柄の船員はムラムラした様子で力一杯アクアヴィーナスの乳房に接触する。
「ひっ!」
「此奴は高値で密売出来そうだぜ!」
アクアヴィーナスは極度の恐怖心からか全身が膠着したのである。すると大柄の船員が恐る恐る…。
「貴様は好い加減にしろよ!こんな人魚の小娘は激レアだから犯しちまいたいのは同意するが…今回ばかりは我慢しろよ!」
注意する大柄の船員に小柄の船員が睥睨したのである。
「はっ?貴様は一般船員の分際で俺に指図するのか?」
小柄の船員は大柄の海賊に反抗する。
「此奴を必要以上に畏怖させて自害されちまったら元も子もないだろうが…深海底の人魚なんて滅多に捕獲出来ない代物だぞ!こんな場所で人魚の小娘に自害されちまったら折角の懸賞金がワンゴールドも確保出来なくなるぞ!」
ワンゴールドとは金貨一枚分であり現実世界であれば推計五百万円規模の高価値である。人魚は世界各国でも僅少の少数種族であり一人でも人魚を捕獲出来れば最低でも金貨五十枚は獲得出来ると予測される。
「此奴を無傷で密売出来れば最低でも金貨五十ゴールド以上は余裕でゲット出来るかも知れないのだぞ!絶対に人魚の小娘には手出しするなよ…絶対だからな!」
「畜生が…」
制止された小柄の船員は大柄の船員を睥睨すると後退りしたのである。するとアクアヴィーナスは恐る恐る大柄の船員に問い掛ける。
「結局…あんた達は私を如何したいのよ?」
大柄の船員は恐る恐る問い掛けるアクアヴィーナスの質問に即答する。
「今後…貴様を地上世界の超大国に密売する予定なのだ…恐らくは貴様一人でも金貨五十ゴールドは確実だろうからな!」
「私を超大国に密売ですって!?ひょっとして私を異国に身売りするとか!?」
「あんたは明敏だな!勿論だとも…」
アクアヴィーナスの身売りの発言に大柄の船員は即答したのである。
「えっ…」
『私は…異国に身売りされちゃうの?』
するとアクアヴィーナスは極度の恐怖心からかビクビクし始める。涙腺から涙が零れ落ちる。
「安心しろよ!最低でも海賊船の船内ではあんたは殺されないからな…こんな場所で人魚の小娘に大怪我されちまったら折角の懸賞金が台無しだからな!」
すると大柄の船員は小声で…。
「無論…超大国に密売されてからの生存は保証出来ないけどな♪」
「えっ…」
アクアヴィーナスは極度の精神的ショックからか意識を喪失…。
「なっ!?此奴は…恐怖心で気絶しちまったのか!?」
アクアヴィーナスは再度床面に横たわったのである。
「人魚の小娘が気絶しちまったぜ…如何するよ?」
小柄の船員は呆れ果てる。
「仕方ないな…下手に船内で大騒ぎされるよりは…」
「此奴は随分大人しい人魚の小娘だったな…」
「俺達は甲板に戻ろうぜ…」
「仕方ないな…此奴は冷や冷やさせるぜ…」
彼等は密室から退室…。密室のドアを厳重にロックしたのである。
第四話
救出作戦
海賊船の船内にてアクアヴィーナスが気絶した同時刻…。桜花姫とアクアキュベレーは西国の海辺へと移動したのである。
「変化の妖術で人外の人魚に変化しちゃいましょう!」
桜花姫は変化の妖術を発動すると下半身が銀鱗の大魚へと変化…。ストレートロングの黒髪が銀髪へと変色したのである。普段の桜花姫は小柄の背丈であるが…。変化の妖術で人魚に変化すると体長は推定八尺程度に巨大化する。同行者のアクアキュベレーが人魚に変化した桜花姫を直視すると恐る恐る…。
「桜花姫様って…人魚に変身しても可愛らしいですね♪」
「えっ…私が?」
アクアキュベレーは人魚に変化した桜花姫が誰よりも可愛らしく感じる。
「人魚に変身した桜花姫様は誰よりも海水の女神様って雰囲気ですよ♪」
アクアキュベレーが海水の女神様と発言すると桜花姫は赤面した様子で返答する。
「こんなにも凡庸の私が海水の女神様なんて…アクアヴィーナスの母様は表現が大袈裟過ぎるわね!」
『私が海水の女神様ですって!?』
桜花姫はアクアキュベレーに大袈裟であると表現するのだが…。内心では大喜びしたのである。一方のアクアキュベレーも魔法で人魚に変身する。アクアキュベレーは下半身が大魚へと変化…。水色の魚鱗へと変化したのである。
「勿論母様も深海底の天女みたいで可愛らしいわよ!」
桜花姫の深海底の天女発言にアクアキュベレーは大喜びする。
「私が深海底の天女なんて…桜花姫様も大袈裟ですわね!」
彼女達は即座に暗闇の海中へと潜水したのである。アクアキュベレーは移動中に恐る恐る…。
「桜花姫様?アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」
桜花姫は不安そうな様子で問い掛けるアクアキュベレーに笑顔で即答する。
「大丈夫よ…アクアヴィーナスの母様!アクアヴィーナスは海賊船の船内で気絶した状態だったけど彼女は無事だからね…母様が心配しなくてもアクアヴィーナスは大丈夫だから安心しなさい!」
桜花姫は千里眼の妖術でアクアヴィーナスの状態を正確に知覚したのである。
「はぁ…アクアヴィーナスは無事でしたか…」
『アクアヴィーナス…無事で良かったわ!』
アクアキュベレーはアクアヴィーナスの無事にホッとした様子であり一安心する。
「今回の事件は人間が相手だから楽勝でしょうね!」
「桜花姫様…移動しましょう…」
「早速…アクアヴィーナスの救出作戦開始よ!」
桜花姫とアクアキュベレーはアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を目標に暗闇の海中を直進したのである。
第五話
疲労困憊
彼女達が暗闇の海中を直進してより二時間後…。西国近海から推定二百キロメートルの海域よりとある無人島を発見する。
「はぁ…はぁ…アクアヴィーナスの母様…」
「えっ?桜花姫様?」
「一度だけ…無人島で休憩しましょう…」
桜花姫は人魚に変身した影響からか息苦しそうな表情だったのである。
「桜花姫様…」
『ひょっとして彼女は体内の魔力が消耗しちゃったのかしら?』
人魚に変身した状態で長時間力泳し続けると普段の戦闘よりも大量の妖力が消耗する。彼女達は無人島の砂浜へと上陸すると桜花姫は即座に変化の妖術を解除…。
「はぁ…はぁ…」
『体力の消耗かしら?』
桜花姫は元通りの童顔美少女の姿形へと戻ったのである。
『此処で一休みしないと妖力が空っぽに…』
桜花姫は極度の疲労困憊により深呼吸する。
「桜花姫様…」
『桜花姫様は…疲労かしら?苦痛そうだわ…』
アクアキュベレーは桜花姫を心配したのか恐る恐る…。
「桜花姫様?大丈夫ですか?ひょっとして疲労でしょうか?」
「私なら大丈夫よ…私は平気だから!心配しないでね!此処で今一度一休みすれば体力は自然に回復するでしょう…」
桜花姫は疲労した様子であるが多少強張った笑顔でアクアキュベレーに返答する。
「桜花姫様…」
『彼女は本当に大丈夫なのかしら?正直桜花姫様が心配だわ…』
桜花姫は非常に強張った笑顔でありアクアキュベレーは内心不安に感じる。すると桜花姫は恐る恐る…。
「アクアヴィーナスの母様…御免なさいね…」
アクアキュベレーに謝罪したのである。
「御免なさいって…一体如何されましたか?桜花姫様?」
「アクアヴィーナスは私一人で救出するわね…正直人間の海賊団が相手でも妖力を消耗した状態ではアクアヴィーナスの母様を守護出来ないわ…」
妖力を消耗した状態では同行者を守護して戦闘し続けるのは非常に困難であると判断…。戦闘用の魔法を駆使出来ないアクアキュベレーは正直足手纏いだったのである。
「アクアヴィーナスの無事は保証するから…私が彼女を無事に救出するわ!」
桜花姫はアクアヴィーナスの救出を断言…。アクアキュベレーと約束したのである。
「承知しました…桜花姫様…」
アクアキュベレーは桜花姫の発言に承諾する。
『アクアヴィーナスの母様…やっぱり大人の女性ね…』
アクアキュベレーは意外にも率直であり桜花姫は内心ホッとしたのである。
「アクアヴィーナスの母様は無人島で待機してね…」
桜花姫はアクアキュベレーに無人島での待機を指示する。
「私は大丈夫ですけれど…今現在アクアヴィーナスは無事なのでしょうか?」
「彼女なら大丈夫よ!アクアヴィーナスの母様!」
桜花姫は心配性のアクアキュベレーに満面の笑顔で即答する。
「無人島の近辺からでもアクアヴィーナスの妖力を感じられるからね!アクアヴィーナスは無事よ!」
拘束されたアクアヴィーナスの魔力が近辺の海域より感じられる。桜花姫はアクアヴィーナスを拘束した海賊船が間近であると確信したのである。
「私は即刻極悪非道の海賊達を蹴散らして…拘束されたアクアヴィーナスを無事に救出するからね!」
桜花姫は再度変化の妖術を発動…。即座に銀鱗の人魚に変化すると再度海中へと潜水したのである。
『桜花姫様…御無事で…』
アクアキュベレーは桜花姫を見届ける。
『彼女達は大丈夫かしら?』
アクアキュベレーは桜花姫と愛娘のアクアヴィーナスが無事に戻れるのか心配だったのである。
第六話
海難入道
アクアキュベレーが桜花姫を見届けた同時刻…。暗闇の海中へと潜水した桜花姫であるが妖力の消耗は想像する以上だったのである。
『やっぱり今回もヤバそうね…海中で活動すると妖力の消耗が桁外れだわ…』
海中での活動は妖力の消耗が地上で活動するのとは桁外れであり数分間海中を移動するのみでも息切れし始める。
『短時間で事件を解決させないと…私自身が妖力の消耗で力尽きちゃうわね…』
長時間の人魚の状態を維持し続けるのは実質不可能であると確信する。時間の猶予は実質皆無である。海中での活動時間が長期化し続ければアクアヴィーナスの無事が遠退くばかりか桜花姫自身が妖力の消耗で衰弱死する可能性も否定出来ない。
『私自身が妖力の消耗戦で衰弱死すれば本末転倒だわ…一刻も早くアクアヴィーナスを誘拐した海賊船を発見しないと!』
桜花姫は短時間での活動を余儀無くされる。暗闇の海中を移動してより十数分後…。
「えっ?」
数十キロメートルもの長距離より木造の大型船らしき船体の船底を発見したのである。船底らしき移動物体は低速で移動し続ける。
『何かしら?』
桜花姫は即座に海面上へと浮上し始め…。警戒した様子で恐る恐る海面上の移動物体を注視し続ける。
『船影みたいだわ…』
海面上から数十キロメートルもの長距離より木造の船影らしき移動物体を発見したのである。
『形状的に…異国の軍船かしら?』
形状的には木造の大型帆船であり髑髏の旗印が確認出来る。
『ひょっとして私が千里眼の妖術で発見した海賊団の海賊船かしら?』
桜花姫は両目を瞑目させると海賊船の船内から僅少の魔力を感じる。
『海賊船の船内からアクアヴィーナスの妖力を感じるわ…彼女は無事みたいね♪』
海賊船の船内よりアクアヴィーナスの妖力を察知…。木造の大型帆船がアクアヴィーナスを誘拐した海賊船であると確信する。
『短時間でアクアヴィーナスを救出して…海賊団の奴等を蹴散らしましょう!』
桜花姫は変化の妖術を発動…。全長数百メートル規模の巨大真蛸の妖怪とされる海難入道へと変化する。海難入道とは俗界の怪談絵巻物に登場する超大型妖怪の名称である。架空の超自然的存在として認識される巨大妖怪の一体…。桃源郷神国では深海底の超大型妖怪として有名である。
『妖怪の海難入道に変化して…海賊達を征伐しましょう!』
桜花姫は妖怪海難入道の状態で即座に海中へと潜水し始め…。暗闇の海中から恐る恐る海賊船に急接近したのである。
第七話
クラーケン
海難入道状態の桜花姫が航海中の海賊船に接近し始めた同時刻…。海賊船甲板の見張り役が十数キロメートルもの遠距離から正体不明の巨大物体が海面上に出現したのを発見したのである。
「ん!?十数キロメートルの西海から正体不明の巨大物体が出現したぞ!」
見張り役の報告に乗組員達が反応する。
「はぁ?正体不明の巨大物体だと?」
「正体不明の巨大物体だって!?一体何が出現しやがった!?」
「ひょっとして白鯨でも出現したのか!?」
乗組員の一人が双眼鏡で恐る恐る西方の海面上を確認するのだが…。
「海面上には何も確認出来ないぞ!単なる見間違いだろう!」
「えっ…俺の見間違いだったのかな?」
すると直後である。
「ん!?」
突如として海賊船の船体全体がグラグラッと振動し始める。
「うわっ!」
「突然船体が揺れ動いたぞ!一体何事だ!?」
乗組員達は振動に畏怖したのである。
「一体何が!?船底に!?」
船内が騒然とした直後…。
「ん?」
「なっ!?」
「此奴は…」
甲板より巨大真蛸の触手らしき規格外の巨大物体が八本も出現したのである。八本の巨大触手は海賊船の甲板に密着する。
「ひっ!」
「蛸足だ!」
「此奴は触手か!?」
八本もの巨大触手が出現した数秒後…。海賊船の左舷中央から数百メートルサイズの規格外の巨大真蛸が海面上より出現したのである。
「うわっ!此奴は深海底の魔物…クラーケンか!?」
「此奴は本物のクラーケンなのか!?」
クラーケンとは西洋神話に登場する深海底の巨大魔物…。俗界では架空の伝説的存在であるが世界各地の船員達が深海底の魔物とされるクラーケンの超自然的存在に畏怖したのである。
「此奴は本物のクラーケンだぞ!」
「魔物のクラーケンは本当に実在したのか!?」
海賊船の乗組員達は突如として海面上から出現した規格外の巨大真蛸に驚愕する。
「即刻カノン砲を用意しろ!海面上のクラーケンを撃退するのだ!」
「カノン砲をぶっ放せ!カノン砲で魔物のクラーケンを仕留めちまえ!」
船内全域が騒然とし始めた同時刻…。船内の密室にて気絶した状態のアクアヴィーナスであるが船体の振動により目覚めたのである。
「ひっ!」
『船外では一体何が発生したのかしら!?』
アクアヴィーナスは突然の船体の振動にビクビクし始める。
『アクアキュベレー母様…桜花姫…私はこんな場所で死にたくないよ…』
極度の恐怖心からかアクアヴィーナスの涙腺より涙が零れ落ちる。海賊船の乗組員達は突如として海面上から出現した巨大真蛸にカノン砲を発砲し掛ける直前…。巨大真蛸は体表から発生した白煙に覆い包まれる。数秒間が経過したと同時にポンッと一瞬で消滅したのである。
「なっ!?魔物のクラーケンが突然消滅しやがったぞ!」
海賊船の乗組員達は規格外の巨体の消滅に愕然とする。
「えっ…何が?」
「先程の超常現象は一体何だったのか?」
「結局先程の光景は…クラーケンは単なる幻影だったのかな?」
すると直後…。
「なっ!?貴様は誰だ!?」
海賊船の左側の甲板には着物姿の小柄の女性が佇立する。
「此奴は異国の小娘か!?」
「異国の小娘っぽいな…」
「貴様は一体何者だ!?如何して異国の小娘がこんな場所に!?」
海賊達は警戒した様子で恐る恐る女性に近寄る。すると女性は満面の笑顔で…。
「私は最上級妖女の桜花姫…月影桜花姫よ!」
桜花姫は満面の笑顔で名前を名乗ったのである。
「はっ!?月影桜花姫だと!?」
「貴様は異国の名前っぽいな…異国の小娘か?」
「如何やら先程のクラーケンの正体は異国の小娘だったのか!?ひょっとして貴様は異国の魔女なのか!?」
桜花姫は海賊達に問い掛けられるも…。
「えっ?クラーケンですって?クラーケンって何かしら?」
桜花姫は挑発的態度で彼等の問い掛けを無視する。
「異国の魔女風情が!魔物のクラーケンなんかに変化しやがって!」
「兎にも角にも俺達は魔女である貴様を打っ殺す!」
乗組員の一人が護身用のピストルを携帯したと同時に無防備の桜花姫に発砲する。一方の桜花姫は妖力の防壁を発動…。
「あんたって…随分と乱暴なのね…」
桜花姫は妖力の防壁により発砲されたピストルの弾丸を無力化したのである。
「畜生…此奴!魔法で本体をガードしやがったのか!?」
「何しろ相手は本物の魔女だ!一筋縄では仕留められないか!?」
すると桜花姫は無表情で…。
「私に手出しする愚か者には…」
乗組員の一人に十八番の変化の妖術を発動する。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
変化の妖術を発動した直後…。ピストルを所持した海賊船の乗組員が小皿に配置された桜餅に変化したのである。
「えっ!?魔法なのか!?」
「船員が…魔法で異国のスイーツに!?」
海賊船の乗組員達は恐る恐る後退りする。
「此奴は魔法で俺達の仲間を異国のスイーツに変化させたのか!?」
海賊船の乗組員達は恐怖心によりプルプルしたのである。
「此奴は女体の怪物だ!逃げろ!」
「逃げないと異国の魔女に食い殺されちまうぞ!」
桜花姫は乗組員達の女体の怪物発言にピクッと反応する。
「誰が女体の怪物ですって!?地上世界の女神様である私に女体の怪物なんて…あんた達は失礼しちゃうわね!」
桜花姫は逃走し始めた海賊船の乗組員達に冷笑したのである。
「今回は折角だし…あんた達は全員!美味しそうなショートケーキに変化しなさい!」
十八番の変化の妖術を発動すると海賊船の乗組員達全員が美味しそうなショートケーキに変化させる。
『早速…頂戴するわね!』
桜花姫は変化の妖術でショートケーキに変化させた海賊船の乗組員達をパクパクと食い殺したのである。
『妖力が回復したわね!』
桜花姫はショートケーキを完食すると消耗した妖力が回復する。
『早速…海賊達に誘拐されたアクアヴィーナスを救出しないとね!』
桜花姫はアクアヴィーナスの魔力が感じられる密室へと移動したのである。船内を移動してより数分後…。桜花姫は密室のドアへと到達する。
「アクアヴィーナスの居場所は此処かしら?」
『室内から彼女の妖力を感じるわね…』
桜花姫は念力の妖術を発動すると厳重にロックされた鉄壁のドアを開放したのである。密室へと進入すると床面に横たわった状態のアクアヴィーナスが確認出来る。
「アクアヴィーナス?大丈夫かしら?」
アクアヴィーナスは恐る恐る目覚めると無表情だった表情が変化し始め…。
「えっ…あんたは桜花姫?イーストユートピアの月影桜花姫なの!?」
アクアヴィーナスは桜花姫との再会にホッとしたのか緊張感が緩和されたのである。
「あんたは大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」
桜花姫はアクアヴィーナスに近寄り始める。
「桜花姫…桜花姫!」
アクアヴィーナスは力一杯彼女に密着し始め…。涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫…私は…私は海賊達に身売りされちゃうかと…」
「アクアヴィーナス♪安心しなさい♪極悪非道の海賊達は私が征伐したから…」
「感謝するわね…桜花姫…やっぱりあんたは私の恩人よ!」
「アクアヴィーナスは本当に人騒がせね♪あんたの母様も相当心配した様子だったわよ…人一倍小心者のあんたが極悪非道の海賊団に誘拐されちゃったからね♪」
「アクアキュベレー母様が…」
「仕方ないわね!」
すると桜花姫は口寄せの妖術を発動…。とある無人島にて待機中であった母親のアクアキュベレーが海賊船の密室にて強制的にテレポーテーションされたのである。
「えっ!?一体何事なの!?」
アクアキュベレーは突然の出来事に驚愕する。
「母様!?」
アクアヴィーナスも突如として出現したアクアキュベレーに驚愕したのである。
「私の口寄せの妖術であんたの母様を此処に口寄せしたのよ!」
「えっ…桜花姫様が私を海賊船の船内にワープさせたのかしら?」
ポカンとするアクアキュベレーであるが…。
「母様…私は…」
アクアヴィーナスが恐る恐る近寄る。
「アクアヴィーナス…」
アクアキュベレーは力一杯アクアヴィーナスに密着したのである。
「アクアヴィーナス!貴女が無事で良かったわ…」
アクアキュベレーは涙腺から涙が零れ落ちる。
「御免なさいね!アクアキュベレー母様!心配させちゃって…」
「気にしないでアクアヴィーナス!貴女が無事なのが何よりよ!」
「何はともあれ…一件落着ね!」
桜花姫は一息する。
「兎にも角にも…今回の誘拐事件は無事に解決出来たからね!私は桃源郷神国に戻ろうかしら!」
直後である。
「桜花姫?」
「えっ?何よ?アクアヴィーナス?」
アクアヴィーナスは桜花姫に恐る恐る…。
「折角だし…アクアユートピアでショートケーキでも…如何かしら?貴女はショートケーキ…大好きでしょう?」
「えっ!?ショートケーキですって!?」
桜花姫はショートケーキの一言に反応する。
「去年発生したダークスキュランの大事件では桜花姫には何一つとして謝礼が出来なかったからね…今回こそは恩人の貴女に謝礼したいのよ…」
「ショートケーキね!」
桜花姫は大喜びした様子であり満面の笑顔で承諾したのである。
「即刻アクアユートピアに移動しましょう!私はショートケーキを食べたいわ!」
「桜花姫には感謝したくても感謝し切れないからね!」
彼女達は人魚に変化すると海賊船の船内から脱出…。深海底地帯のアクアユートピアへと直行する。
第八話
神殿
アクアヴィーナス救出作戦から四日後の真夜中…。北方の海域にて三人の人魚達が漆黒の海底下を移動し続ける。
「あんた達…目的地は間近よ…」
一行のリーダー格らしき人魚が二人の部下達に合図したのである。すると部下の一人が恐る恐るリーダー格の人魚に問い掛ける。
「委員長?目的地には一体…何が存在するのでしょうか?」
「古代文明時代の遺産よ…」
「古代文明時代の遺産ですか?」
彼女達は暗闇の海底下を移動してより十数分後…。彼女達は海底下の古代遺跡らしき神秘の場所へと到達したのである。
「此処は非常に神秘的ですね…此処が目的地の古代遺跡でしょうか?」
「此処が所謂…太古の大昔に存在した神族の神殿なのよ…」
人魚の委員長が解説する。
「神族の…神殿ですと!?」
「太古の大昔にこんな代物が…」
部下の人魚達は古代遺跡が神族の神殿である事実に驚愕したのである。
「数十万年前の出来事かしら…」
数十万年前の古代文明時代…。本来北海の海域は広大無辺の大陸であったが天空世界より出現した天空魔獣の襲撃によって世界各地の地形は大幅に変化したのである。極悪非道の天空魔獣が暴れ回った悪影響により北海に存在した広大無辺の陸地も海底下に埋没…。今現在では神族の神殿は深海底の古代遺跡として認識されたのである。
「北海の海底下に…こんなにも歴史的建造物が存在したなんて…」
すると委員長が恐る恐る…。
「目的の代物は神殿の内部なのよね…二人とも!移動しましょう!」
彼女達は警戒した様子で恐る恐る神殿の内部へと進入する。
「神殿は空っぽの状態ですね…神殿には特段何も無さそうですが…一体此処では何が存在するのでしょうか?」
神殿の内部は空っぽの状態であり何一つとして確認出来ない。
「目的の代物は石造りの床面よ!今直ぐ直視しなさい!」
委員長は石造りの床面を指差したのである。
「石造りの床面ですか?」
「此処に目的の代物が存在するのですね…」
すると委員長は呪文を唱え始める。
「破壊の魔法…はっ!」
直後…。委員長は破壊の魔法を発動する。石造りの床面は破壊の魔法により崩壊したのである。
「えっ!?石造りの床面が…」
破壊の魔法で石造りの床面を崩壊させた直後…。神殿の最下層に存在する地下壕の中心部には全長六十メートルサイズの巨大石棺が確認出来る。
「地下壕に石棺が…」
「非常に巨大ですね…」
彼女達は地下壕の巨大石棺へと近寄る。
「神殿の地下壕にこんな代物が…」
「石棺の内部には一体何が存在するのでしょうか?」
委員長は恐る恐る解説する。
「石棺には二百年前に封印された最強クラスの深海底アンデッドが存在するのよ…」
二百年前の出来事である。二百年前に最強クラスの最上級深海底アンデッドが人魚王国のアクアユートピアを襲撃…。最上級深海底アンデッドは自身の強大なる魔力で大勢の人魚達を大虐殺したのである。最上級深海底アンデッドの魔力は非常に強大であり人魚王国アクアユートピアは滅亡寸前の危機的状況であったが…。人魚の魔法使い達の大奮闘により最上級深海底アンデッドは北海の海底下に埋没したとされる神族の神殿にて永久封印されたのである。
「大昔に封印された…最強クラスの深海底アンデッドを復活させるのよ!」
委員長の発言に二人の人魚達は驚愕する。
「えっ!?委員長!?貴女は本気なのですか!?」
「相手は大昔に人魚王国アクアユートピアを襲撃した怪物なのですよ!正気なのですか!?」
深海底アンデッドは海中に出現する死霊の一種とされ俗界の生命体とは相容れない関係性である。二人の人魚は深海底アンデッドの復活を躊躇するものの…。
「あんた達は今更何を躊躇するのかしら?最早私達は後戻りなんて出来ないのよ…結局深海底魔女のダークスキュランも人魚王国アクアユートピアの征服には失敗しちゃったからね…今度こそアクアユートピアの人魚達を全滅させるには…最上級の深海底アンデッドを利用しなければ私達の目的は未来永劫達成出来なくなるのよ!」
彼女達は過激派思想の人魚達であり人魚王国アクアユートピアの人魚達から半永久的に追放されたのである。
「私達を追放したアクアユートピアの人魚達は殲滅の対象なのよ!私達にとって深海底アンデッドの復活はアクアユートピアの人魚達に対する復讐に他ならないわ!」
「私達を追放した奴等に対する復讐だとしても…」
「死霊である深海底アンデッドを利用するのは…愚行なのでは?」
二人の人魚達は自分達とは相反する深海底アンデッドの復活には躊躇し始める。
「あんた達ね…」
躊躇し始めた人魚達に委員長は呆れ果てる。
「愚行だからって何を今更…最早私達は後戻りなんて出来ないのよ!私は目的を遂行するならば…死霊の深海底アンデッドでも地上世界の人間達でも利用する覚悟だわ!」
委員長は破壊の魔法で巨大石棺を粉砕したのである。
「きゃっ!」
「石棺から…規格外の怪物が…」
石棺には上半身が人間の女性…。下半身が巨大海蛇の怪物が金剛石の鉄鎖により拘束された状態の女性型の怪物が確認出来る。
「委員長!?此奴は一体何者ですか!?」
部下の一人が恐る恐る委員長に問い掛ける。
「彼女は史上最強とされる最上級の深海底アンデッド…【アビスエキドナス】なのよ…所謂現存する深海底アンデッドの母体とでも…」
「アビスエキドナスですと?」
「彼女が…深海底アンデッドの母体?」
アビスエキドナスとは深海底アンデッドでも最強の部類とされる正真正銘の最上級深海底アンデッドに分類され…。多種多様の深海底アンデッドの母親的存在として認識される。アビスエキドナスは上級の深海底アンデッドの代表格とされるアビスラメイアスの亜種に該当する。アビスエキドナス自身も亜種のアビスラメイアスと同様…。上半身は人間の女性型であるが下半身は巨大海蛇でありアビスラメイアスに近似する。現存する数多くの深海底アンデッドはアビスエキドナスの万能細胞から誕生した超自然的存在とされる。
「アビスエキドナスが全身全霊の魔力を発揮出来れば…人魚王国アクアユートピアは一日で滅亡するでしょうね…」
すると直後…。
「此処は…私は一体?」
熟睡中だったアビスエキドナスが目覚め始める。
「えっ?あんた達は…生身の人魚かしら?」
目覚めたアビスエキドナスは彼女達に気付くと三人の人魚達を凝視する。
「委員長…アビスエキドナスが目覚めましたわ…如何します?」
二人の人魚達は目覚めたばかりのアビスエキドナスに畏怖したのである。すると委員長が封印されたアビスエキドナスに恐る恐る近寄り始める。
「アビスエキドナス…封印からあんたを解放するわよ!」
「えっ!?本当に!?あんたは私の封印を解除するの!?」
委員長の発言した封印解除の一言にアビスエキドナスは大はしゃぎし始める。
「早速…私の封印を解除しなさいよ!」
委員長は封印解除の魔法を発動…。金剛石の鉄鎖はバリッと破壊されたのである。
「予想外だったわ!今日から私は未来永劫…自由が約束されたのね!」
アビスエキドナスは三人の人魚達を凝視する。
「私は…封印から解放されたわ!」
アビスエキドナスは封印魔法から解除され…。
「感謝するわね!あんた達!」
アビスエキドナスは自由が余程嬉しかったのか大喜びしたのである。大喜びしたアビスエキドナスであるが…。
「はぁ…私はね!」
アビスエキドナスは冷笑した表情で人魚達を凝視し始める。
「私は長期間の封印で空腹なのよね!」
人魚達は警戒した様子で恐る恐るアビスエキドナスから後退りしたのである。
「えっ…」
「委員長…」
「彼女は…私達に何を?」
三人の人魚達はアビスエキドナスに戦慄する。
「手始めに…一先ずはあんた達の身動きを!」
アビスエキドナスは三人の人魚達に金縛りの魔法を発動…。彼女達の身動きを封殺したのである。
「此処からは…」
アビスエキドナスは身動きを封殺した三人の人魚達に冷笑し始める。
第九話
退屈
アビスエキドナスの復活から三日後…。真昼の時間帯である。最上級妖女の月影桜花姫は退屈そうに家屋敷の居間でゴロゴロし続ける。
「はぁ…」
亡者達の復讐心と悪意の集合体とされる邪霊餓狼は桜花姫の妖術によって完膚なきまでに完全征伐されたが…。
『元凶の邪霊餓狼は半年前の初夏に消滅しちゃったからね…神出鬼没の悪霊が出現しないと毎日が退屈だわ…』
桜花姫は平穏の日常生活を退屈に感じる。不謹慎であるが…。内心では神出鬼没の悪霊の存在は必要悪であったと痛感する。
『退屈だし…面白そうな大事件でも発生しないかしら?』
元凶の邪霊餓狼が仕留められてから半年間が経過するのだが…。
『今後もこんな日常が四六時中永続されるのかしら?退屈過ぎて死にそうだわ…』
桃源郷神国では大事件らしい大事件は何一つとして発生せず非常に退屈の毎日だったのである。桜花姫にとって平穏の毎日は憂鬱であり四六時中ピリピリし続ける。
『折角だし…退屈凌ぎに深海底のアクアユートピアにでも直行しましょう!』
桜花姫は一先ず変化の妖術を発動…。
『変化の妖術…成功ね!』
桜花姫の下半身が銀鱗の大魚に変化したのである。
『今度は…』
今度は自身の肉体に口寄せの妖術を発動…。自身の肉体を人魚王国アクアユートピアの歓楽街へと口寄せしたのである。
『口寄せの妖術…一先ずは成功ね!』
すると周囲の人魚達が不思議そうな表情で桜花姫に注目し始める。
「えっ?誰かしら?」
「彼女は一体何者なの?」
「貴女は異国の人魚なのかしら?」
周囲の人魚達が桜花姫に近寄ったのである。
「私は桜花姫…最上級妖女の月影桜花姫よ!」
桜花姫は周囲の人魚達に満面の笑顔で名前を名乗り始める。すると周囲の人魚達は両目をキラキラさせた表情で…。
「貴女様が異国の魔法使いの…イーストユートピアの月影桜花姫様なのですね!」
「私!貴女様の大ファンです!」
「桜花姫様!こんな場所で対面出来るなんて!光栄です!」
彼女達は桜花姫に殺到したのである。
「えっ…はぁ…」
『人気者も大変ね…如何しましょう?』
一方の桜花姫は人魚達の反応に困惑したのか苦笑いし始める。
『仕方ないわね…』
桜花姫は満面の笑顔で…。
「あんた達…御免なさいね!」
周囲の人魚達に謝罪したのである。不本意であるが再度口寄せの妖術を発動…。すると直後である。桜花姫の姿形はポンッと消滅する。
「えっ!?桜花姫様は!?」
「桜花姫様!?」
「突然消滅されたわ…桜花姫様はテレポート魔法で移動しちゃったのかしら?」
人魚達は突如として姿形が消滅した桜花姫に驚愕したのである。
第十話
側近
桜花姫が口寄せの妖術を発動した同時刻…。
「えっ!?あんたは桜花姫!?」
「アクアヴィーナス♪御免あそばせ♪」
桜花姫は口寄せの妖術により自身の肉体をアクアヴィーナスの自室へと口寄せしたのである。
「何が御免あそばせよ!吃驚するじゃない!」
アクアヴィーナスは突如として出現した桜花姫に吃驚する。
「桜花姫…あんたは神出鬼没ね…」
アクアヴィーナスは神出鬼没の桜花姫に呆れ果てる。
「如何してあんたがこんな場所に?吃驚し過ぎて心停止しちゃうかと…」
「突然だから御免なさいね…アクアヴィーナス♪」
桜花姫はヘラヘラした表情でアクアヴィーナスに謝罪したのである。
「私に用事かしら?桜花姫?」
「退屈だったからね…暇潰しよ♪暇潰し♪」
「暇潰しね…桜花姫らしいけれども…」
アクアヴィーナスは苦笑いする。
「桃源郷神国は毎日が退屈過ぎて憂鬱だったのよね…面白そうな大事件でも発生すれば私は大歓迎なのに…」
桜花姫は退屈そうな表情で発言したのである。
「大事件なんて四六時中発生されたら…私なんて一番に淘汰されるでしょうね…やっぱり桜花姫は別格よね…」
すると直後…。何者かが玄関のドアをノックする。
「えっ?誰かしら?」
アクアヴィーナスは恐る恐る玄関へと移動したのである。
「誰なの?」
アクアヴィーナスは恐る恐る玄関のドアを開放させる。
「突然ですが失礼します…」
「えっ…貴女は?」
見ず知らずの人魚の女性がアクアヴィーナスの家屋敷へと訪問する。
「私はダークスキュラン様の側近です…」
アクアヴィーナスが問い掛けると人魚の女性は深海底魔女ダークスキュランの側近と名乗ったのである。
「えっ…」
『彼女はダークスキュランの側近ですって?』
ダークスキュランの側近と名乗る人魚の女性にアクアヴィーナスは畏怖したのかビクビクし始める。
「ダークスキュラン様が貴女の自宅に異国の魔法使いの気配を察知されました…ダークスキュラン様は異国の魔法使いに協力を要請したいと希求されたのです…」
「異国の魔法使いって…桜花姫なの?」
「私に用事かしら?」
桜花姫が玄関へと近寄る。
「異国の魔法使いは貴女様でしたか…」
側近の人魚が桜花姫に会釈したのである。
「真蛸のダークスキュランが私に用事なの?一体何かしらね?」
桜花姫は側近の人魚に問い掛ける。
「今現在ダークスキュラン様は中心街の根城で待機中です…突然ですがダークスキュラン様に面会出来ませんか?」
「面会って…今直ぐに?」
「勿論ですとも!大至急です!」
桜花姫は側近の問い掛けに一息するものの…。
「承知したわ!暇潰しには好都合だからね!」
桜花姫は満面の笑顔で承諾する。
「感謝します…異国の魔法使いの月影桜花姫様…」
側近の人魚は桜花姫に一礼したのである。
「アクアヴィーナス…急用が出来ちゃったから私はダークスキュランの根城に移動するわね!」
「えっ…桜花姫?」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。一瞬で桜花姫の姿形が消滅する。
「えっ!?桜花姫は!?」
「桜花姫様は…テレポート魔法を使用されたのでしょうか?一瞬で彼女の姿形が消失しましたね…」
「行動が迅速過ぎるわね…桜花姫は…」
アクアヴィーナスと側近の人魚は突然の超常現象に驚愕したのである。
第十一話
急用
同時刻…。桜花姫は口寄せの妖術で自身の肉体をダークスキュランの根城に口寄せしたのである。
「口寄せの妖術!成功ね!」
桜花姫は周囲を確認する。
「此処はダークスキュランの根城城内かしら?」
桜花姫はダークスキュランの魔力を目印に根城の最上階に自身の肉体を口寄せしたのである。すると桜花姫の背後より…。
「誰かと思いきや…あんたは地上世界最強の魔女…月影桜花姫かしら?」
背後には深海底魔女ダークスキュランが桜花姫を直視する。
「あんたは深海底魔女のダークスキュラン!久し振りね!ダークスキュランが元気そうで安心したわ!」
桜花姫は深海底魔女のダークスキュランとの再会に大喜びしたのである。
「桜花姫…あんたって…」
一方のダークスキュランは桜花姫との再会に苦笑いし始める。
「以前の私達は列記とした敵対関係だったのに随分とフレンドリーなのね…桜花姫は余程の天然なのかしら?」
ダークスキュランは友達感覚の桜花姫に呆れ果てる。
「えっ?フレンドリーですって?フレンドリーって何かしら?」
「フレンドリーは友好的って意味よ…前回の私達は敵対関係だったのに…」
「気にしない!気にしない!私達の関係性は所謂呉越同舟でしょう!」
「呉越同舟ね…」
『彼女は想像以上に単純ね…其処等の人魚達よりは相談し易そうだわ…』
桜花姫は人一倍ドライでありダークスキュランは内心桜花姫のドライさにホッとする。すると桜花姫は恐る恐る…。
「ダークスキュラン?私に用事なの?今回の用件は何かしら?」
ダークスキュランの表情が険悪化する。
「以前私が統治した失楽園…ブルーデストピアの深海底魔王城が三日前に深海底アンデッドの大群によって完全に占拠されたらしいのよ…」
「えっ!?ブルーデストピア…深海底アンデッドの大群ですって?」
以前発生した大事件以降…。失楽園ブルーデストピアの中心地に聳え立つ深海底魔王城は完全なる無人地帯だったのである。三日前より突如として出現した無数の深海底アンデッドによってブルーデストピアは完全占拠され…。今現在無人地帯のブルーデストピアは深海底アンデッドの魔窟として実効支配されたのである。深海底アンデッドの出現により失楽園ブルーデストピアは再度危険区域に指定される。
「深海底にはアビスラメイアス以外にも強豪の深海底アンデッドが多数存在するなんてね…一体何者なのかしら?」
桜花姫はワクワクした様子でダークスキュランに問い掛ける。
「彼女達はね…」
ダークスキュランが桜花姫に詳細を口述し始める。
第十二話
侵略計画
同時刻…。失楽園ブルーデストピアに聳え立つ深海底魔王城では神族の神殿から復活した深海底の女王アビスエキドナスが深海底魔王城全域を占拠する。根城の最上階にて下半身が銀鱗の大魚…。上半身が人間の女性である悪魔的人魚が入室する。
「失礼するわよ!アビスエキドナス!」
「誰かと思いきや…あんたは【アビスサキュバス】…一体何かしら?」
アビスサキュバスとはアビスエキドナスが自身の深海底アンデッド細胞と既存のアビスセイレーンの深海底アンデッド細胞を混合…。誕生させた実験体の女性型深海底アンデッドの一体であり上級の深海底アンデッドとして知られる。アビスサキュバスは姿形こそ女性の一般的人魚であるが素肌は死没者を連想させる灰白色であり生命体特有の精気は感じられない。
「アビスエキドナス…深海底魔女のダークスキュランがアクアユートピアの人魚達に寝返るなんてね!前代未聞の笑い話だよね!」
アビスサキュバスはダークスキュランの堕落に冷笑し始める。すると呆れ果てたアビスエキドナスが返答したのである。
「所詮彼女は出来損ないの軟体動物の亜種だったのよ…彼女の魔力は私自身のクローンであるアビスラメイアスを下回る駄作だったからね…」
深海底魔女ダークスキュランの正体とは戦火によって瀕死の状態だった人間の少女に海中の軟体動物とアビスエキドナス自身の深海底アンデッド細胞を混入させた実験体…。人工性の深海底魔女だったのである。ダークスキュランは多種多様の魔法を扱える反面…。魔力は上級の深海底アンデッドであるアビスラメイアス以下とされる。するとアビスサキュバスは恐る恐る…。
「不自然ね…深海底魔王城には深海底アンデッドの死骸すら何一つとして存在しないもの…城内がこんなにも空っぽなんてね…ひょっとしてダークスキュランがアクアユートピアの人魚達に降参しちゃったのかしら?」
「あんたはフールね…アビスサキュバス…」
アビスエキドナスは満面の笑顔で発言するアビスサキュバスに呆れ果てる。
「軟体動物のダークスキュランがアビスラメイアス以下の面汚しであったとしても…人魚王国のアクアユートピアで深海底魔女の彼女を降参させられる人魚なんて存在しないわ…恐らくは部外者の仕業でしょうね…」
「えっ…部外者ですって?誰が該当するのかしら?魔力だけで私達に匹敵する魔女なんて地上世界に存在するのかしら?」
「私達に匹敵する魔女…存在するとすれば…極東のイーストユートピアかしら?」
「イーストユートピアって…極東の島国だったわよね?極東の島国なんかに私達に匹敵する魔女が存在するなんて正直意外だわ…」
「あんたは未熟児だから無知なのは当然だけど…イーストユートピアは魔法の発祥地だからね…人魚王国アクアユートピアの人魚達も本来はイーストユートピアに存在する魔女達の子孫なのだから…」
詳細こそ不明瞭であるが…。伝承では人魚王国アクアユートピアの人魚達の祖先は桃源郷神国出身の人魚系統の妖女であると推測される。
「イーストユートピアか…面白そうな場所ね!」
アビスサキュバスはイーストユートピアに興味深くなる。
「兎にも角にも!私達の当面の目標は人魚達の巣窟アクアユートピアよ!人魚王国アクアユートピアに君臨する人魚達を排除して…私達深海底アンデッドが人魚王国アクアユートピアを未来永劫君臨し続けるのよ!」
「ダークスキュランは如何するのよ?アビスエキドナス?」
アビスサキュバスの問い掛けにアビスエキドナスは即答する。
「ダークスキュランですって?最早アビスラメイアス以下の出来損ないの手駒なんて不要なのよ!当然として人魚達と同様に彼女も排除すべき対象だわ!」
「当然よね!」
アビスサキュバスは再度冷笑したのである。するとアビスエキドナスは口先からペッとビー玉サイズの肉塊を放出…。
「えっ?アビスエキドナス?何かしら?」
直後である。ビー玉サイズの肉塊は一瞬で巨大化し始め…。肉塊は女体を形成すると上半身が人間の女性で下半身が海蛇である全長数十メートルもの巨大女性型怪物へと変化したのである。巨大女性型の怪物は姿形がアビスエキドナスに酷似する。
「此奴はアビスエキドナスのクローン…アビスラメイアスだったわね!」
巨大女性型の怪物は上級深海底アンデッドのアビスラメイアスだったのである。
「アクアユートピアの人魚達は雑魚ばかりだけど…アクアユートピア制圧作戦を完遂するには下準備が必要不可欠だからね…」
数秒後…。誕生したばかりのアビスラメイアスが目覚めたのである。
「えっ…私は?一体…此処は?」
アビスラメイアスは周囲をキョロキョロさせる。
「目覚めたかしら?アビスラメイアス…私は貴女の母親…アビスエキドナスよ…」
アビスラメイアスは恐る恐るアビスエキドナスを凝視し始める。
「あんたが…私の母様なの?」
「勿論よ…私が貴女の母親なのよ!留意しなさいね!」
するとアビスエキドナスはアビスサキュバスと誕生したばかりのアビスラメイアスに今後の大規模計画を口述する。
「突然だけど…明日はアクアユートピア侵略計画を実行するわ!今度こそ私達で人魚王国のアクアユートピアを完全占拠するのよ!」
「実行するのね!アビスエキドナス!」
アビスサキュバスはアクアユートピア侵略計画にワクワクし始める。
「今現在アクアユートピアで厄介なのはアビスラメイアス以下のダークスキュランだけよ…私達が協力すれば半日程度で人魚王国アクアユートピアは制圧出来るでしょう…」
するとアビスサキュバスは満面の笑顔で…。
「相手が駄作のダークスキュランだけなら私だけで仕留められるわよ!アビスエキドナスが参上しなくても私一人でアクアユートピアの人魚達を片付けられるわ!」
アビスエキドナスは桜花姫の存在を危惧したのかアビスサキュバスに指摘する。
「貴女の魔力はダークスキュラン以上だけど…イーストユートピアの魔法使いの存在も気になるわ…油断大敵よ!アビスサキュバス!」
「異国の魔法使いが相手なら下準備が必要不可欠ね!アビスエキドナス!」
『イーストユートピアの魔法使いなんて…面白そうだわ!』
アビスサキュバスは内心最上級妖女であり世界最強の魔女として知られる桜花姫との遭遇にワクワクしたのである。
第十三話
爆睡
アビスエキドナスとアビスサキュバスが人魚王国アクアユートピア侵略計画を画策した同時刻…。アクアユートピア中心地の根城では桜花姫がダークスキュランから深海底アンデッドの情報を把握したのである。
「強豪のアビスラメイアス以外にあんた以上の深海底アンデッドが複数も存在するなんてね!」
『今回の事件…面白そうだわ!』
桜花姫は内心強豪とされる深海底アンデッドの存在にワクワクし始める。
「情報を把握出来たし!私は早速…ブルーデストピアの深海底アンデッドを征伐しに出掛けるわね!」
早速行動を開始し始める桜花姫にダークスキュランは制止したのである。
「一寸!一人で深海底地帯に出掛けるのは危険過ぎるわよ!桜花姫!」
「えっ?如何してよ?」
「基本地上世界の魔法使いが深海底地帯で魔法を多用し続ければ相当の魔力を消耗するでしょうし…あんたは平気そうな様子だけど肉体は疲労困憊の状態よ!」
桜花姫は深海底に滞在し続けるだけでも地上世界よりも相当の妖力を消耗…。桜花姫自身は無自覚であるが肉体は疲労困憊の状態だったのである。
「今回の相手は強豪アビスラメイアス以上の最上級クラスの深海底アンデッドなのよ…桜花姫が地上世界最強の魔法使いでも…深海底の環境下では圧倒的に不利だわ!」
『地上世界の生命体が深海底に長時間滞在出来るだけでも摩訶不思議なのに…桜花姫は特異のミュータントなのかしら?』
通常の生命体の場合…。深海底では長時間の滞在は実質不可能である。
「如何するのよ?私が出向かなければ…今度もアクアユートピアが深海底のアンデッドに侵略されちゃうわよ!私以外の人魚で深海底アンデッドに対抗出来るの?」
現実問題…。人魚王国アクアユートピアで深海底アンデッドに対抗出来る猛者は実質強豪の桜花姫と深海底魔女のダークスキュランのみである。
「あんたは一度一休みするべきだわ…あんたが出向かなくても遅かれ早かれ深海底アンデッドから人魚王国アクアユートピアに出向くでしょうし…桜花姫は一先ず安静にしなさい!」
桜花姫は一息する。
「はぁ…承知したわ…ダークスキュラン…」
不本意であるが桜花姫はダークスキュランの指示に承諾したのである。
『今回ばかりは仕方ないわね…』
「退屈だし…私は一休みするわね…」
桜花姫は両目を瞑目させたかと思いきや…。
「えっ…」
数秒間で熟睡したのである。
『桜花姫は一瞬で睡眠出来るなんてね…』
ダークスキュランは一瞬で爆睡し始めた桜花姫に苦笑いする。
第十四話
攻防戦
翌日の早朝…。
「えっ…私は…」
ダークスキュランの家屋敷で熟睡した桜花姫であるが目覚める。
「はぁ…」
『私は長時間寝過ごしちゃったみたいね…』
するとダークスキュランが入室する。
「如何やら熟睡から目覚めたみたいね…月影桜花姫…」
「えっ?あんたは…ダークスキュラン?」
ダークスキュランは満面の笑顔で…。
「あんたって普段は大物ぶっても♪睡眠中の寝顔だけは人一倍可愛らしいわね♪」
「なっ!?私の寝顔ですって!?」
桜花姫は気恥ずかしくなったのか表情が赤面し始める。
「桜花姫は余程疲れ果てた状態だったのね…あんたは昨日の昼間から全然目覚めなかったのよ…」
「えっ…」
『昨日の昼間から…熟睡しちゃったの?』
体力の消耗からか桜花姫は長時間熟睡状態だったのである。
「無自覚だったけれど…如何やら私は疲労困憊の状態だったみたいね…」
「長時間の睡眠で魔力が戻ったみたいだから一安心だわ…今現在のあんたなら深海底アンデッドの大群がアクアユートピアに侵攻したとしても対抗出来るでしょう…」
桜花姫は長時間の熟睡で妖力を回復出来…。ダークスキュランは桜花姫の戦闘能力で数多くの深海底アンデッドに対抗出来ると判断する。
「ん?」
突如として遠方より無数の魔力が接近するのを察知したのである。
「何かしら?無数の魔力を感じるわ…」
「深海底アンデッドの魔力だわ!如何やら奴等は大群で侵攻を開始したみたいね…此方も早急に行動しないと!」
「如何やら私の出番が到来したみたいね!」
桜花姫は深海底アンデッドの侵攻にワクワクし始める。
「私は人魚に変身よ!」
桜花姫は変化の妖術を発動すると人魚へと変化したのである。
「早速…私が最前線で深海底アンデッドの大群を仕留めるわ!最上級妖女の私には援護は不要よ!ダークスキュラン!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。自身の肉体を無数の魔力の感じられる最前線へと瞬間移動させたのである。
「えっ!?桜花姫!?」
『彼女…無理しちゃって…』
ダークスキュランは桜花姫が単独で大丈夫なのか心配する。
『桜花姫は一人で大丈夫なのかしら?彼女が無茶しないか心配だわ…』
一方の桜花姫は最前線の国境にて瞬間移動したのである。
『此処から無数の魔力は感じられるけれど…何が出現するのかしら?』
最前線へと瞬間移動した桜花姫であるが…。周辺は暗闇の海底下であり何一つとして移動物体は確認出来ない。
『深海底は暗闇だから視界が不良だし…肉眼では何も確認出来ないわね…』
桜花姫は恐る恐る周囲の海中を警戒したのである。すると数秒後…。
「えっ…」
十数キロメートルもの遠方の海中より数百体から数千体もの小型移動物体が急接近するのを知覚したのである。
『大群だわ…一体何かしら?』
無数の小型移動物体の正体とは無数の小魚であり皮膚の腐敗からか肉体の一部からは白骨化が確認出来る。
『ひょっとして小魚の深海底アンデッドかしら?』
「奴等はアビスフィッシュだったわね…」
遠方の海中より数千体…。数万体ものアビスフィッシュが猛スピードで最前線の桜花姫に殺到したのである。
『相手は大群ね!猛反撃するわよ!』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動する。
「あんた達…後悔するのね!」
桜花姫に殺到した無数のアビスフィッシュであるが…。桜花姫の発動した妖力の防壁に接触するとアビスフィッシュはバラバラに粉砕されたのである。
『所詮は雑魚だわ…楽勝ね!』
桜花姫の周囲には粉砕されたアビスフィッシュの肉片が飛散する。戦闘は桜花姫が圧倒的に優勢であるものの…。
『深海底の影響かしら?妖力の防壁だけでも妖力の消耗が桁違いだわ…』
桜花姫は水圧の影響からか極度の疲労を痛感する。
『やっぱり長時間の戦闘は不可避だけど危険過ぎるわね…早急に深海底アンデッドを仕留めないと!』
深海底の影響からか妖力の防壁を発動するだけでも妖力の消耗が桁外れであり長期戦は危険であると再認識したのである。
『一先ず妖力を回復させないと戦闘出来なくなるわ…』
即座に変化の妖術を発動…。周囲に散乱するアビスフィッシュの無数の肉片やら血肉を自身の大好きな桜餅に変化させる。
『桜餅を頂戴するわね!』
桜花姫は海中をプカプカと浮遊中の無数の桜餅をパクパクと頬張り始める。
「桜餅…美味だわ!」
『深海底アンデッドの肉片でも桜餅は最高ね!』
数十個もの桜餅を鱈腹頬張ると消耗した妖力が戻ったのである。
『桜餅で消耗した妖力が回復したわ!』
大喜びした桜花姫であるが…。再度遠方の海中から無数の魔力を察知する。
『今度も無数の魔力だわ…』
「今度は何が出現するのかしら?」
遠方の海中を凝視し続けると今度は数百体もの人魚の大群が急接近したのである。
『奴等は…人魚の大群かしら?』
暗闇の遠方から人魚の大群が出現するものの…。
『彼女達…不吉だわ…』
彼女達は全身が血塗れであり腐敗した肉体の一部は劣化の影響からか白骨化した状態だったのである。
『彼女達は人魚の深海底アンデッドね…名前はアビスセイレーンだったかしら?』
血塗れの人魚の正体とは死亡した人魚の女性型深海底アンデッド…。アビスセイレーンである。アビスセイレーンは死霊魔術によって無理矢理に復活させられた人魚の女性型深海底アンデッドであり生者の血肉を嗜好する。彼女達は生身の生者である桜花姫を発見すると殺気立った形相で桜花姫に殺到し始める。
「私に挑戦するなんて…あんた達は相当の命知らずね!」
桜花姫は殺到する無数のアビスセイレーンに念力の妖術を発動したのである。直後…。接近中のアビスセイレーンが身動きしなくなったと同時に全身の肉体が肥大化し始めたのである。数秒間が経過すると肥大化した彼女達の肉体がパンッと破裂する。
「楽勝!楽勝!」
『アビスセイレーンも仕留められたわね!』
バラバラに破裂したアビスセイレーンの肉片も先程のアビスフィッシュと同様…。無数の桜餅に変化させる。
『消耗した妖力を回復させないとね!』
桜花姫は再度海中の桜餅を鱈腹頬張ったのである。戦闘開始から数分間が経過する。妖力を消耗した桜花姫であるが桜餅を鱈腹頬張ると妖力が蓄積され…。一時的に妖力が回復したのである。
『妖力が戻ったわ!』
すると今度はアビスセイレーンをも上回る絶大なる魔力を感じる。
「深海底アンデッドの魔力を感じるわ…」
『今度は何が出現するのかしら?大物っぽいわね…今迄の深海底アンデッドよりも強力なのは確実だけど…』
十数キロメートルもの遠方から猛スピードで全長百数十メートル規模の規格外の怪物が桜花姫に急接近したのである。
『彼奴は深海底の怪物かしら?随分と巨体だわ…』
規格外の怪物は巨大ワーム型の形状であり全身には無数の人面が確認出来る。
「此奴は巨大蚯蚓みたいな怪物ね…」
『ひょっとすると以前遭遇したアビスサーペントだったかしら?』
アビスサーペントは非常に巨体であり深海底アンデッドでは最大級の巨大さである。
『アビスサーペントが出現するなんてね!』
桜花姫の間近へと接近したアビスサーペントは全身の無数の人面から猛毒の毒液を放射し始める。
『此奴の毒液は危険そうだわ…』
一方の桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。アビスサーペントの毒液を無力化したのである。
『間一髪だったわ…』
妖力の防壁により毒液は無力化出来たものの…。アビスサーペントの毒液は非常に強力であり海底下の表面が毒液に接触すると液状化する。
『仕方ないわね…』
「アビスサーペント…あんたは凍結するのね!」
桜花姫は凍結の妖術を発動したのである。直後…。
『アビスサーペントは凍結で身動き出来なくなったわね!』
アビスサーペントの全身は凍結化により身動き出来なくなる。
『今度は…』
今度は凍結化したアビスサーペントに変化の妖術を発動…。巨体のアビスサーペントを特大の桜餅に変化させる。
『変化の妖術…成功ね!』
桜花姫は特大の桜餅に変化したアビスサーペントを捕食したのである。
『特大の桜餅も美味だわ!』
特大の桜餅を完食した直後…。
「えっ!?」
『アクアユートピアから魔力だわ…』
突如としてアクアユートピア国内にて無数の強大なる魔力を察知する。
『何かしら?アクアユートピアから魔力を感じるけれど…相当強力そうだわ…』
「アビスサーペント以上だわ…魔力の正体が大物なのは確実ね…」
桜花姫は人魚王国アクアユートピアへと戻ろうかと思いきや…。
「えっ…今度は二刀流の人魚かしら?」
突如として二刀流の悪魔的人魚アビスダーキニーが三体も出現したのである。
「あんた達はアビスダーキニーだったかしら?三体も出現するなんてね…」
三体ものアビスダーキニーは無表情で桜花姫を凝視し続ける。
『彼女達は遠方からでも一振りするだけで相手を切断出来るのよね…アビスダーキニーに特殊能力を発動されたら厄介だし…』
桜花姫は三体のアビスダーキニーに変化の妖術を発動…。すると三体のアビスダーキニーは美味しそうな桜餅に変化したのである。
『変化の妖術は成功ね!』
「桜餅…頂戴するわよ!」
桜花姫は即座に桜餅に変化した三体のアビスダーキニーを捕食する。
『今度こそアクアユートピアに戻りましょう…』
桜花姫は即座に人魚王国アクアユートピアへと戻ったのである。
「アビスサーペント以上に大物の深海底アンデッドが…」
『如何してアクアユートピア内部に侵入出来たのかしら?』
人魚王国アクアユートピアは無数のアビスセイレーンやらアビスフィッシュが彼方此方に徘徊中であり国内に人魚は誰一人として確認出来ない。
『当然だけど国内の人魚は確認出来ないわね…』
すると徘徊中のアビスセイレーンとアビスフィッシュが桜花姫を発見した直後…。大勢で桜花姫に殺到したのである。
「あんた達は私を相手に…命知らずね…」
桜花姫は余裕の様子であり多数のアビスセイレーンとアビスフィッシュを相手に変化の妖術を発動する。
第十五話
安楽死
桜花姫が無数の深海底アンデッドを相手に奮闘し始めた同時刻…。アクアヴィーナスとアクアキュベレーは自宅の地下室にて潜伏したのである。アクアヴィーナスは突然の深海底アンデッドの出現に恐怖したのか全身がプルプルと身震いし続ける。
「アクアヴィーナス…大丈夫よ…桜花姫様が国境で深海底アンデッドの大群と奮闘中だからね…」
母親のアクアキュベレーは身震いし続けるアクアヴィーナスに慰撫したのである。
「桜花姫が…」
極度の恐怖心によりビクビクし続けたアクアヴィーナスであるものの…。桜花姫の存在を想起すると一時的に緊張感が緩和されたのである。
『桜花姫なら…大丈夫だよね…』
アクアヴィーナスは桜花姫の存在に一安心した直後…。
「ヘぇ…桜花姫って名前の異国の魔女がアクアユートピアの国境で奮闘中なのね♪」
突如として彼女達の目前より素肌が灰白色の悪魔的人魚が出現したのである。
「ひゃっ!母様!」
「貴女は一体何者なの!?」
突如として出現した悪魔的人魚にアクアヴィーナスとアクアキュベレーは戦慄し始め…。極度の恐怖心からか全身が膠着化したのである。一方の悪魔的人魚は満面の笑顔で自身の名前を名乗り始める。
「私が何者なのかって?私の名前はアビスサキュバスよ!厳密には人魚タイプの上級深海底アンデッドかしら!」
「アビスサキュバス…上級の深海底アンデッドですって?」
アビスサキュバスは魔法によりアクアキュベレーの身動きを封殺したのである。
「きゃっ!」
アクアキュベレーはアビスサキュバスの金縛りの魔法で身動き出来なくなる。
「母親の人魚は身動き出来なくなったわね!」
アビスサキュバスは身動き出来なくなったアクアキュベレーに冷笑したのである。
「母様!?」
一方のアクアヴィーナスは身動き出来なくなったアクアキュベレーに恐怖する。
『母様が…私は…如何すれば?』
するとアビスサキュバスは落涙し始めるアクアヴィーナスを冷笑したのである。
「愛娘のあんたは極度の弱虫みたいね!」
アクアヴィーナスは弱虫の一言にピクッと反応し始める。
「如何やら図星かしら?あんたは否定出来ない様子ね♪」
アビスサキュバスは再度魔法を発動したのである。
「弱虫のあんたは私の魔法で永眠しなさいね!」
アクアヴィーナスはアビスサキュバスの魔法の影響からか突如として極度の眠気により衰弱化し始め…。
「えっ…はぁ…」
アクアヴィーナスはアビスサキュバスの魔力によって昏睡したのである。
『アクアヴィーナス!?』
アクアキュベレーは突如として昏睡し始めたアクアヴィーナスにゾッとする。
「安心なさい…あんたの愛娘は私の催眠魔法で安楽死出来るのだからね!」
アクアキュベレーは身動き出来ないものの…。
『アクアヴィーナスが…安楽死ですって!?』
動揺したのである。
「弱虫の愛娘を安楽死させてから…母親のあんたも私が美味しく殺しちゃうから安心するのね!親子仲良く天国に旅立てるのよ♪最高よね!」
アビスサキュバスは冷笑し続ける。
第十六話
夢想世界
アビスサキュバスの魔法によりアクアヴィーナスが昏睡し始めた同時刻…。
『此処は?』
アクアヴィーナスは自身の夢想世界で目覚めたのである。
『彼女は幼少期の…私かしら?』
幼少時代に人魚の子供達から迫害された過去の光景を直視する。
『ひょっとして此処は…私自身の過去の記憶かしら?』
子供のアクアヴィーナスはとある道端で数人の人魚の子供達から…。
「あんたは人一倍弱虫ね!アクアヴィーナス!」
「四六時中ウジウジしちゃって…鬱陶しいのよ!」
「あんたは二度と出歩かないで!人魚の疫病神!」
「あんたが出歩くだけでアクアユートピアの海水が汚染されちゃうからね!」
「アクアヴィーナスは外出しないのが無難だわ!あんたは目障りなのよ!」
周囲の者達に迫害される光景にアクアヴィーナスは涙腺より涙が零れ落ちる。
『如何して…こんな光景が?』
アクアヴィーナスは想起したくない過去の光景に逃げたくなる。すると過去の光景がパッと消滅したかと思いきや…。
「えっ!?」
視界全体が漆黒の暗闇に覆い包まれる。
「ひゃっ!」
暗闇の空間にアクアヴィーナスは畏怖したのである。
『如何して突然暗闇に!?』
「えっ?」
アクアヴィーナスの背後より…。
「結局は貴女も…私から逃げちゃうのね…」
アクアヴィーナスの背後には血塗れの幼少時代のアクアヴィーナスが佇立する。
「えっ…私は…」
幼少時代のアクアヴィーナスは殺気立った形相でありアクアヴィーナスを睥睨したのである。
「如何して私ばかり…私ばかりが…」
幼少時代のアクアヴィーナスは短剣を所持し始め…。
「傍観者のあんたも気に入らないし…私を迫害した奴等…全員殺したいわ!」
幼少時代のアクアヴィーナスの涙腺からは血液の涙がドロドロと流れ出る。
「えっ…」
「手始めに…傍観者の貴女から!」
幼少時代のアクアヴィーナスは血液の涙がドロドロと流れ出るものの…。不吉の笑顔で目前のアクアヴィーナスを冷笑したのである。
「貴女も目障りだから…貴女を殺しちゃおうかしら?」
幼少時代のアクアヴィーナスがアクアヴィーナスの心臓を短剣で刺突する直前…。
「きゃっ!」
突如として幼少時代のアクアヴィーナスは身動きしなくなる。
「えっ!?」
『一体何が!?』
突然の出来事にアクアヴィーナスは驚愕したのである。
『如何して彼女は身動きしなくなったのかしら?』
するとアクアヴィーナスの背後より何者かが背中をポンッと接触する。
「ひゃっ!」
「大丈夫かしら?アクアヴィーナス?」
「えっ!?貴女は桜花姫!?」
背後の人物は誰であろう最上級妖女の月影桜花姫だったのである。
「危機一髪だったわね!アクアヴィーナス!」
「桜花姫…吃驚させないでよね…」
アクアヴィーナスは桜花姫の突然の出現に吃驚したものの…。ホッとしたのかアクアヴィーナスの涙腺から大粒の涙が零れ落ちる。
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは力一杯桜花姫に密着する。
「アクアヴィーナス…」
「桜花姫!私…今回ばかりは本当に殺されちゃうかと…」
「心配せずとも大丈夫よ!アクアヴィーナス…あんたは心配性ね!」
桜花姫は満面の笑顔で返答したのである。
「如何して桜花姫がこんな場所に?」
アクアヴィーナスが恐る恐る問い掛けると桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「私は口寄せの妖術であんたの精神世界に進入したのよ!」
「私の精神世界に進入ですって?」
口寄せの妖術の効果範囲は現実世界の地上世界のみならず…。到達不可能とされる他者の精神世界さえも容易に行き来出来る。
「如何やら私はアクアヴィーナスの夢想世界に移動しちゃったみたいね!」
「桜花姫…貴女は他者の精神世界にも干渉出来るのね…」
『桜花姫は一体何者なの?精神世界にも干渉出来るなんて桜花姫は神族の化身なのかしら?』
アクアヴィーナスにとって最早桜花姫は神族の領域であり最上級妖女の月影桜花姫が何者なのか理解出来なくなる。すると直後…。
「あんた達…」
桜花姫の金縛りの妖術により身動き出来なくなった幼少時代のアクアヴィーナスは肉体が崩壊し始める。崩壊し始めた幼少時代のアクアヴィーナスの内部からは素肌が死没者を連想させる灰白色…。頭髪が青紫色の悪魔的人魚が出現したのである。
「彼女がアクアヴィーナスに精神攻撃した張本人みたいね…」
「此奴は…アビスサキュバスだわ!」
「アビスサキュバスですって?彼女は一体何者かしら?」
「アビスサキュバスは他者の精神世界に侵入出来る深海底の夢魔よ!」
アビスサキュバスは実験体の上級深海底アンデッドであるが…。地域によっては深海底の夢魔とも呼称される。
「彼女は深海底の夢魔なのね…」
するとアビスサキュバスは桜花姫を凝視し始める。
「私の魔法を強制的に解除出来るなんて…あんたが噂話の異国の魔法使いかしら?予想以上の強豪なのね…」
『私以外に他者の精神世界に干渉出来る魔女が存在するなんてね…』
アビスサキュバスは意外であると感じる。
『彼女は魔力もアビスエキドナスに匹敵するわね…如何やら彼女を仕留めるのは私一人では無理そうだわ…』
桜花姫の妖力は実質深海底の女王…。アビスエキドナスに拮抗する領域だったのである。アビスサキュバスは自身の魔力では力不足であると感じる。
「あんたはアビスサキュバスだったかしら?今回は私が相手で残念だったわね!」
『彼女は他者の精神世界に侵入してから相手を衰弱死させる戦法みたいね…』
アビスサキュバスは精神的攻撃が得意であり他者の精神世界へと自由自在に侵入出来…。侵入した人物の辛苦の過去やら惨劇の光景を再現させられる。アビスサキュバスによって精神世界に侵入された人間は忘却したい過去やら辛苦の光景を再体験させられ…。最終的に衰弱死する。
「最上級妖女の私が参上したからには…あんたの悪事も大失敗みたいね!」
桜花姫はアビスサキュバスに挑発したのである。
「異国の魔女が…小癪ね…」
一方のアビスサキュバスは殺気立った表情で桜花姫を睥睨し始める。一方の桜花姫は満面の笑顔で変化の妖術を発動したのである。
「あんたは即刻桜餅に…」
「あんたの魔法なんか!」
アビスサキュバスは苦し紛れに召喚魔法を発動する。数十匹もの真蛸を召喚…。
「きゃっ!」
桜花姫の全身に密着させたのである。
『彼女…真蛸を口寄せしたの!?』
桜花姫は真蛸の触手と吸盤に気味悪くなったのか変化の妖術を中断する。
『彼女の魔法を中断させられたわ…今直ぐ此処から脱出出来そうね!』
「一か八かよ!」
アビスサキュバスはテレポート魔法を発動…。即座にアクアヴィーナスの精神世界から脱出したのである。
「桜花姫!?アビスサキュバスが逃げちゃったわ!」
「えっ!?」
『畜生…彼女に逃げられちゃったわ…』
数秒間が経過する。
『変化の妖術…発動!』
桜花姫は全身に密着した数十匹もの真蛸を大好きな桜餅に変化…。美味しく頬張ったのである。
「アクアヴィーナス…彼奴に逃げられちゃったのは非常に残念ね…」
「アビスサキュバスに逃げられちゃったのは残念だけど…桜花姫が私の精神世界に干渉しなかったら…私は今頃…精神崩壊したかも知れないわ…」
「あんたが無事なのが何よりよ!アクアヴィーナス!」
「桜花姫…」
アクアヴィーナスは桜花姫の返答に内心嬉しくなり…。表情が赤面する。
「兎にも角にも…私達は精神世界から脱出しましょう!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動するとアクアヴィーナスの精神世界から無事脱出出来たのである。
第十七話
封印魔法
アクアヴィーナスの精神世界での出来事から数分後…。間一髪現実世界に戻ったアビスサキュバスは再度深海底魔王城で親玉のアビスエキドナスと再合流したのである。
「アビスサキュバス…貴女は戻ったのね…」
するとアビスサキュバスは恐る恐る状況を報告する。
「アビスエキドナス…異国の魔女と遭遇したけど彼女は想像以上の強豪だったわ…正直私の魔力だけでは異国の魔女に対抗出来ないわ…如何しましょう?」
「近頃の噂話では異国の魔女は深海底魔女のダークスキュランを仕留めた強豪らしいからね…所詮非力のあんただけでは無謀でしょうね…」
アビスエキドナスはアビスサキュバスに失笑し始める。
「はっ!?」
『私が…非力ですって!?』
アビスサキュバスは失笑するアビスエキドナスに一瞬腹立たしくなる。
「アクアユートピア本土には上級クラスのアビスラメイアスを潜入させたから大丈夫でしょう…彼女には何一つとして魔法による攻撃は通用しないからね…」
アビスサキュバスが根城に戻った同時刻…。アクアユートピア本土に侵攻したアビスラメイアスであるが道端にはアビスセイレーンとアビスフィッシュの死骸が彼方此方に目に付いたのである。
『所詮下級の深海底アンデッドは役立たずの能無しだわ…』
アビスラメイアスは内心尻拭いが面倒に感じる。
『結局尻拭いは私なのね…』
アビスラメイアスはアクアユートピアの中心街へと進入するものの…。
『不自然だわ…』
外部では誰一人として人魚と遭遇しなかったのである。
『生身の人魚が一人も確認出来ないわね…如何して人魚と遭遇出来ないのかしら?』
理由としてダークスキュランが迅速的に国内の人魚達に避難を指示…。人魚王国アクアユートピアの人魚達は無事に安全地帯へと避難出来たのである。
「ひょっとしてダークスキュランの仕業かしら?」
『彼女…私の獲物である生身の人魚達を事前に避難させたのね…』
アビスラメイアスは誰一人として人魚を捕食出来ず苛立ち始める。
『腹立たしい深海底魔女だわ…ダークスキュランは発見し次第食い殺さないと!』
するとアビスラメイアスの背後より…。
「極悪非道の深海底アンデッド!死にたくなければ即刻人魚王国アクアユートピアから退却しなさい!退却しないと貴女を不法侵入罪として成敗するわよ!」
短剣を所持した四人の人魚達がアビスラメイアスの背後に出現する。
「はっ?退却しないと私を成敗ですって?」
『命知らずね…彼女達は余程死にたいのかしら?』
アビスラメイアスは内心人魚達に呆れ果てる。
「あんた達は…一体何者なの?」
アビスラメイアスが問い掛けると人魚の一人が即答したのである。
「私達はアクアユートピアの守護者だ!貴女が死霊の深海底アンデッドであったとしても!大人しく退却するのであれば私達は手出ししないわ…」
「退治されたくなければ即刻退却しなさい!」
アビスラメイアスは人魚の発言に呆れ果てる。
『私を退治って…』
「あんた達は人魚の守護者なのね…私を相手に命知らずなのかしら?」
アビスラメイアスはニコッと冷笑し始める。
「貴女!何が可笑しいのよ!?」
人魚の一人が再度問い掛けるとアビスラメイアスは満面の笑顔で…。
「面白そうだわ!あんた達が相手でも退屈凌ぎには好都合ね!上級クラスの深海底アンデッドの私を相手に奮闘出来るかしら?」
「貴女ね…」
アビスラメイアスの態度にピリピリしたのか人魚の守護者達は苛立ち始める。
「此奴…私達とは会話が通用しないみたいだわ…」
するとアビスラメイアスは満面の笑顔で…。
「であれば如何するのよ?あんた達は私を退治しちゃうのかしら?」
「此奴!深海底アンデッドの分際で!」
アビスラメイアスの挑発に人魚の守護者達は警戒し始める。
「あんた達!警戒したみたいね!私は空腹だし…美味しそうなあんた達の血肉を捕食するわね!」
「私達の血肉を捕食出来るかしら?アビスラメイアス…」
相手は自分達よりも格上であり上級クラスの深海底アンデッドであるものの…。人魚の守護者達は余裕の様子だったのである。
「えっ…あんた達…」
『私よりも格下の人魚なのに…随分と余裕の態度だわ…何故なのかしら?』
アビスラメイアスは彼女達の様子が非常に不思議がる。
「三人とも!アビスラメイアスを包囲するわよ!」
リーダー格の人魚の守護者が指示すると三人の人魚の守護者達は笑顔で承諾する。
「了解!」
四人の人魚達は標的であるアビスラメイアスを包囲したのである。
「ん?」
『彼女達は一体何を開始するのかしら?』
相手は格下の人魚達であり余裕のアビスラメイアスであるものの…。彼女達の行動に警戒したのである。
「各自!準備は万端かしら?私達の封印魔法でアビスラメイアスを封印するわよ!」
リーダー格の人魚の守護者が三人の人魚の守護者達に封印魔法を指示する。
「オーケー!」
「私は準備万端よ!」
「私も準備万端です!」
人魚の守護者達は体内の魔力を放出させたかと思いきや…。アビスラメイアスの周囲より直径数十メートル規模の魔法陣が形作られる。
「えっ!?魔法陣ですって!?」
『ひょっとして彼女達は封印魔法を発動するのかしら!?』
一時的であるが…。アビスラメイアスは封印魔法に動揺し始める。
「アビスラメイアス…貴女の魔力を封殺する!」
「覚悟なさい!アビスラメイアス!はっ!」
彼女達はアビスラメイアスに封印魔法を発動したのである。封印魔法は深海底魔女ダークスキュランが使用した最強の高等魔法でありダークスキュランが生前…。あらゆる魔法の通用しないアビスラメイアスの魔力を無力化出来たのは今現在人魚の守護者達が発動した封印魔法である。
「ぎゃっ!」
地面より半透明の血紅色の鉄鎖が出現…。アビスラメイアスの全身を拘束させる。
「ぐっ…」
ダークスキュランは防衛用として国内の人魚達に最低限の戦闘用魔法を伝授させたのである。
『こんな奴等がダークスキュランの封印魔法を!?』
アビスラメイアスは人魚達の発動した封印魔法で完全に身動き出来なくなる。
「アビスラメイアスは身動き出来なくなったわ!」
「封印魔法は成功ね!私達が封印魔法を解除しなければアビスラメイアスは金輪際身動き出来ないでしょう!」
アビスラメイアスは意識が喪失したのか完全に身動きしなくなったのである。
「最上級の深海底アンデッドを封殺出来たからね!」
「一先ずは大物の一体を無力化出来たからね!一安心だわ!」
アビスラメイアスの身動きを封殺した彼女達は安堵するものの…。
「私を封印ですって?あんた達は随分と浅慮ね…」
封印魔法により意識が喪失したアビスラメイアスが満面の笑顔で発言し始める。
「えっ!?」
「彼女…意識が戻ったの!?」
「彼女は本物の怪物かしら!?私達の封印魔法が通用しないの!?」
アビスラメイアスは意識が戻ったのか周囲の彼女達を冷笑する。
「あんた達…残念だったわね!油断大敵よ!」
アビスラメイアスは余裕の様子だったのである。
「所詮あんた達程度の魔法で私を封印するなんて不可能なのよね!」
するとアビスラメイアスは体内の魔力を蓄積させた直後…。
「はっ!」
衝撃波の魔法を発動したのである。
「きゃっ!」
「ぐっ!」
直後…。アビスラメイアスの発動した衝撃波の魔法により四人の人魚達は十数メートル程度吹っ飛ばされる。
「所詮あんた達の封印魔法はダークスキュランの下位互換だわ…」
アビスラメイアスは実質上級クラスの深海底アンデッドの一体であり魔力は絶大である。現実的に一般の人魚が発動出来る魔法程度では上級深海底アンデッドのアビスラメイアスに対抗するのは困難とされる。一人の人魚がアビスラメイアスを直視する。
「アビスラメイアス…予想以上の魔力だわ…桁外れの魔力ね…」
『ダークスキュランはこんな規格外の怪物を単独で封印したの?』
彼女達はダークスキュランの強大さを実感したのである。するとアビスラメイアスは自身の魔力を人魚の一人に自慢し始める。
「圧倒的でしょう?私の魔力!あんた達程度で私に相手取るには力不足ね!」
アビスラメイアスはノソノソと彼女に近寄ったのである。
「手始めに気弱そうなあんたから肉体を頂戴するわね!」
「貴女は…私に何を?」
人魚は恐る恐るアビスラメイアスに問い掛ける。
「何って?」
アビスラメイアスは人魚の肉体に接触した直後…。
「きゃっ!」
人魚の肉体はズルズルとアビスラメイアスの体内へと吸収されたのである。
『消耗した魔力が蓄積されたわ!今度は三人の人魚達も捕食しちゃおうかしら!』
戦闘開始から数分後…。中心街にて人魚の守護者達を蹴散らしたアビスラメイアスはダークスキュランの根城の表門へと到達したのである。
「アビスラメイアス!」
「えっ?今度の相手は誰かしら?」
アビスラメイアスの背後には深海底魔女のダークスキュランが佇立する。
「誰かと思いきや…あんたは深海底魔女の…ダークスキュラン?本物の人魚みたいな姿形ね!ひょっとしてイメージチェンジかしら?」
「アビスラメイアス…私が貴女の暴走を阻止するわ!」
「あんたが私の暴走を阻止出来るのかしら?私にはあんたの魔法は何一つとして通用しないわよ…」
「覚悟するのね!アビスラメイアス!」
「あんたは余程の愚か者ね!私を相手に死にたいのかしら?逃亡すれば命拾い出来るでしょうに…」
ダークスキュランとアビスラメイアスは対峙したのである。
第十八話
猛反撃
ダークスキュランとアビスラメイアスが交戦中…。
『何かしら?』
桜花姫は中心街の根城で強大なる魔力を察知したのである。
『ダークスキュランの根城から魔力を感じるわ…非常に強力みたいだわ…』
「アビスサーペント以上の大物が根城に出現したみたいね…ひょっとすると上級深海底アンデッドのアビスラメイアスかしら?」
桜花姫は強大なる魔力の正体が上級クラスの深海底アンデッド…。アビスラメイアスであると予想する。桜花姫は即座にダークスキュランの根城へと驀進したのである。移動し始めてから数分後…。桜花姫は根城の表門へと到達したのである。
「えっ!?ダークスキュラン!?」
ダークスキュランはアビスラメイアスの尻尾で拘束され…。ヘトヘトの様子であり体内の魔力が吸収された状態だったのである。
「ぐっ…桜花姫…」
ダークスキュランはグッタリした表情で桜花姫を直視する。
「彼女…人魚の新手みたいね!」
アビスラメイアスも桜花姫の存在に気付いたのである。
「如何やらあんたは異国の人魚みたいね!人魚王国アクアユートピア以外にも生身の人魚が存在するなんて吃驚だわ!」
アビスラメイアスは冷笑した表情で桜花姫を注視する。
『如何しましょう?アビスラメイアスには私の妖術は無力化されるし…最上級妖女の私でも迂闊には近寄れないわね…』
桜花姫はアビスラメイアスには手出し出来ず困惑したのである。
「如何やらあんたが噂話の異国の魔女みたいね…如何しちゃったのかしら?」
水圧の影響からか桜花姫の妖力が消耗し始め…。息苦しくなる。
「ぐっ…」
『水圧の影響かしら?妖力の消耗が桁外れね…』
一方のアビスラメイアスは桜花姫の重苦しい様子に冷笑する。
「あんたは重苦しそうな様子だわ…如何やら魔力が消耗したみたいね!ひょっとして水圧の影響かしら?いい気味だわ!」
『彼女…随分と息苦しそうな様子だわ!無理しちゃって!』
一方の桜花姫は苦し紛れであるが…。
「何が重苦しいのかしら?私は別に…こんな水圧なんて平気だけど…」
自身が平気であると自負したのである。桜花姫が息苦しい様子なのは一目瞭然でありアビスラメイアスは再度冷笑する。
「強がっちゃって!無理に強がってもあんたが空元気なのはバレバレなのよ!正直限界でしょう?」
するとアビスラメイアスは猛スピードで桜花姫に急接近…。
「私からは逃げられないわよ!異国の魔女!あんたは覚悟するのね!」
アビスラメイアスは力任せに桜花姫を捕縛したのである。
「ぎゃっ!」
「異国の魔女…私は魔力の消耗で空腹なのよ!」
「アビスラメイアス…私を…如何するのよ?」
桜花姫は睥睨した表情でアビスラメイアスに問い掛ける。
「如何するかって?あんたの肉体から美味しそうな血肉と魔力を頂戴するのよ!」
アビスラメイアスは捕縛した桜花姫の肉体を露出した素肌に密着し始め…。
「えっ…」
「何方にせよ…あんたは私に捕食される運命なのよ!観念するのね!」
桜花姫の肉体はアビスラメイアスの体内に吸収されたのである。
「異国の魔女…あんたの血肉は非常にビューティフルだわ!其処等の人魚よりも美味しいわね!」
「桜花姫!?」
ダークスキュランは桜花姫がアビスラメイアスに捕食される光景に恐怖する。
『桜花姫がアビスラメイアスに吸収されちゃったわ…貴女が死んじゃったらアクアユートピアの運命は…』
人魚王国アクアユートピアにとって最後の希望である最上級妖女の桜花姫はアビスラメイアスに捕食され…。ダークスキュランは絶望したのである。
「異国の魔女は片付けられたし…今度はあんたを捕食するわね!」
アビスラメイアスは再度ダークスキュランを凝視し始め…。
「ダークスキュラン!今度こそ観念するのね!」
アビスラメイアスは不吉の笑顔でニヤッと冷笑したのである。
「今度こそあんたの肉体を頂戴するわよ…覚悟出来たかしら?」
直後…。
「えっ…」
突如としてアビスラメイアスの肉体は白煙に覆い包まれる。
「アビスラメイアス?一体何が?」
数秒後…。
「なっ!?桜花姫!?」
白煙の中心部から無傷の桜花姫が人魚の状態で出現したのである。
「あんたはアビスラメイアスに捕食されて…ひょっとしてあんたは桜花姫の幽霊なのかしら?」
ダークスキュランは突然の事態に愕然とする。
「私が幽霊なんて失礼しちゃうわね!ダークスキュラン!」
「あんたは本物なの?本物の…桜花姫なの?」
ダークスキュランは不思議そうな表情で恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「私なら大丈夫よ!ダークスキュラン!私は本物の月影桜花姫だからね!」
桜花姫は自身が本物であり大丈夫であると断言する。
「あんたは強豪のアビスラメイアスに捕食されたのに…如何してあんたは無事なのよ?荒唐無稽の魔法を駆使したのかしら?」
ダークスキュランは再度桜花姫に問い掛ける。
「私はアビスラメイアスに捕食されけど彼女の体内で同化しただけなのよ!私を捕食するなんて無謀なのよね!」
桜花姫は肉体を吸収された直後にアビスラメイアスの体内と同化…。体内からアビスラメイアスの肉体を吸収したのである。
「桜花姫はアビスラメイアスと同化したのね…」
ダークスキュランは苦笑いする。
『桜花姫は捕食されたのにアビスラメイアスと同化出来るなんて…私が以前の一件で…甘海老に変化させた彼女を捕食しちゃったら…』
ダークスキュランは内心ゾッとしたのである。
「相手を油断させないとね!」
「桜花姫…あんたは人騒がせだわ…」
ダークスキュランは桜花姫が人騒がせであると感じるものの…。
「最強のあんたが無事だし…一安心ね…」
桜花姫は無事でありダークスキュランはホッとする。
「ダークスキュラン…あんたが私を心配するなんて意外ね!ひょっとしてあんたもアクアヴィーナスみたいに心配性なのかしら?」
桜花姫はダークスキュランを揶揄したのである。
「なっ!?誰があんたの心配なんか!桜花姫が仕留められれば誰が人魚王国アクアユートピアを守護するのよ!?」
ダークスキュランは赤面し始め…。桜花姫に怒号したのである。
「兎にも角にも…アビスラメイアスを吸収してから妖力が回復出来たわ!私は今回の黒幕の根城に突入するわね!」
桜花姫は口寄せの妖術を発動した直後…。
「えっ!?桜花姫!?」
桜花姫の姿形がパッと消失する。
『彼女は…一人で大丈夫なのかしら?相手は深海底アンデッドの始祖なのよ…今回の大事件を解決出来るかしら?』
ダークスキュランは桜花姫が強豪のアビスエキドナスを相手に生還出来るのか心配したのである。
最終話
解放
自身の肉体に口寄せの妖術を発動してより数秒後…。
『口寄せの妖術は成功ね!』
桜花姫は失楽園ブルーデストピアに聳え立つ深海底魔王城の最上層へと一瞬で到達出来たのである。
『深海底魔王城に到達出来たわね!』
最上層の中心部にはアビスラメイアスに酷似した女性型の半身海蛇の怪物は勿論…。先程アクアヴィーナスの夢想世界で遭遇したアビスサキュバスが佇立する。
『アビスサキュバスと…中央の海蛇みたいな女体の怪物は何者なの?』
怪物の魔力は上級深海底アンデッドのアビスラメイアスをも容易に上回る。
『彼女の魔力はアビスラメイアス以上ね…ひょっとすると中央の彼奴が深海底アンデッドの親玉かしら?』
女性型の半身海蛇の怪物が深海底アンデッドの親玉であると確信したのである。すると女性型の半身海蛇の怪物が突如として出現した桜花姫に注視し始める。
「ん?彼女は何者かしら?」
「えっ!?あんたは異国の魔女!?」
アビスサキュバスは突然の桜花姫の出現に驚愕したのである。
「私は最上級妖女…桃源郷神国の桜花姫…月影桜花姫よ!」
「月影桜花姫ですって?如何やら彼女が噂話の異国の魔女みたいね…私の名前はアビスエキドナスよ…深海底アンデッドの女王様とでも…」
桜花姫はアビスエキドナスを直視すると満面の笑顔で…。
「アビスエキドナス…如何やらあんたが今回の大事件の黒幕みたいね!」
「私が大事件の黒幕であれば…如何するのかしら?月影桜花姫とやら…」
「勿論!私が妖術であんたを征伐するわよ!深海底アンデッドの女王様!」
桜花姫は余裕の態度でアビスエキドナスに挑発したのである。
「地上世界の下等生命体である貴女が…深海底アンデッドの女王である私を征伐すると?貴女の魔力は非常に強力なのかも知れないけれども…所詮地上世界の生命体では深海底の女王である私を仕留めるなんて不可能でしょうね…」
アビスエキドナスは無表情で返答する。今度は手下のアビスサキュバスが冷笑した表情で…。
「無論あんたが地上世界最強の魔女でも…漆黒の深海底ではアビスエキドナスを征伐するなんて無謀なのよ!」
アビスサキュバスも強気の態度で挑発し始める。
「所詮地上世界の生命体ではアビスエキドナスは仕留められないわよ!アビスエキドナスは深海底アンデッドの始祖であり…深海底アンデッドの女王様だからね!死にたくなかったら大人しく私達に降参するのが無難よ!」
強気のアビスサキュバスであるが…。一方の桜花姫はアビスサキュバスの様子に呆れ果てる。
「あんたは…口先だけの雑魚の分際で鬱陶しいわね…」
桜花姫の無関心そうな態度にアビスサキュバスはピリピリし始める。
「なっ!?上級である深海底アンデッドの私を口先だけの雑魚ですって!?此奴は腹立たしい小娘ね!」
「あんたの名前はアビスサキュバスだったかしら?口先だけの雑魚は沈黙するのが無難よ…」
桜花姫はアビスサキュバスに変化の妖術を発動…。
「えっ?」
アビスサキュバスは非力の甘海老に変化させられたのである。桜花姫の変化の妖術で甘海老に変化したアビスサキュバスは魔力を消失…。桜花姫によって完全無力化させられたのである。
「アビスサキュバスが簡単に翻弄されちゃうなんてね…貴女の魔力が強力なのは事実みたいだわ…」
「口先だけの手下は無力化したわ…私の相手は親玉のアビスエキドナスだけね!大人しく私に降参するのであれば…あんたは命拾い出来るかも知れないわよ!」
「深海底の女王である私が異国の魔法使いを相手に降参ですって?」
アビスエキドナスは冷笑し始める。
「桜花姫とやら…私には貴女の魔法なんて通用しないのよ!何しろ私はアビスラメイアスの母体であり彼女の上位互換だからね!」
桜花姫も失笑した表情でアビスエキドナスに反論…。
「強がってもあんたの敗北は確定なのよ!私は全世界最強の魔女だからね!」
アビスエキドナスは全世界最強の魔女と自称する桜花姫に再度冷笑したのである。
「貴女が全世界最強の魔女なんて冗談かしら?井の中の蛙大海を知らず…桜花姫にピッタリの格言ね!」
するとアビスエキドナスの両目が赤色に発光し始め…。
「はっ?アビスエキドナス…あんたは一体何を?」
「月影桜花姫…石化の魔法で貴女は石像に変化するのよ!」
「なっ!?石像ですって!?」
アビスエキドナスの両目を直視した影響からか桜花姫の全身が石化したのである。
「世の中にはね…上には上があるのよ!貴女は思い知りなさい!」
アビスエキドナスは石化した状態の桜花姫に接触する。
「芸術的だわ!随分と可愛らしい石像が誕生したわね!」
『正直…最高傑作の彼女の石像を破壊するのは勿体無いわね!』
アビスエキドナスにとって石化した状態の桜花姫を破壊するのは非常に心苦しく感じるものの…。
『止むを得ないわ…』
アビスエキドナスは破壊の魔法を発動すると石化した桜花姫の肉体はバラバラに粉砕されたのである。
「邪魔者は完膚なきまでに片付けられたわ…」
『今度こそアクアユートピアを攻略出来そうね!』
アビスエキドナスが人魚王国アクアユートピアへと移動する直前…。
「ん?」
バラバラに砕け散った桜花姫の肉片が白煙に覆い包まれる。
「なっ!?」
桜花姫の石化した状態の肉片は完膚なきまでに消滅したのである。
『何事なの!?桜花姫の肉体が消滅するなんて…』
アビスエキドナスは突然の超常現象に動揺し始める。
『彼女の肉体は!?』
するとアビスエキドナスの背後より…。
「残念だったわね!アビスエキドナス!」
「えっ!?桜花姫!?如何してあんたが!?」
アビスエキドナスの背後には無傷の桜花姫が存在する。
「桜花姫は私の魔法で全身が石化したのでは!?」
「あんたが破壊したのは私の分身体なのよ!」
「分身体ですって?」
「アビスエキドナス…今度は私が猛反撃するわね!」
桜花姫は十八番である口寄せの妖術を発動…。
「ん?」
『一体…何かしら?』
アビスエキドナスの背後から巨大ワームホールが発生したのである。
「ワームホールかしら?」
巨大ワームホールの中心部より…。小型の潜水艦が出現する。
「なっ!?」
『此奴は…鋼鉄の白鯨かしら!?』
アビスエキドナスはオーバーテクノロジーの一種である小型潜水艦の出現に驚愕したのである。
「今度こそ死滅しなさい…深海底アンデッドの女王様!」
小型潜水艦の前方から数本の魚雷が発射され…。アビスエキドナスの背中に数本の魚雷が直撃したのである。
「ぎゃっ!」
アビスエキドナスは小型潜水艦の魚雷攻撃により粉砕され…。周辺の海中にはアビスエキドナスの鮮血やら肉片が無数に飛散したのである。
『親玉のアビスエキドナスを征伐出来たし…今回の事件は無事解決ね!』
深海底アンデッドの女王アビスエキドナスは桜花姫の口寄せした小型潜水艦の魚雷攻撃により仕留められる。元凶のアビスエキドナスが仕留められた同時刻…。
『月影桜花姫が彼女を…アビスエキドナスを…』
深海底魔女のダークスキュランは魔法の水晶玉で桜花姫の様子を一部始終観察したのである。
『深海底アンデッドの女王…アビスエキドナスは完全に消滅したのね…』
今現在でこそ敵対者であるがダークスキュランにとってアビスエキドナスは本物の母親であり内心心残りは感じられるものの…。ダークスキュランはアビスエキドナスの呪縛から解放されホッとしたのである。同時刻…。アクアヴィーナスとアクアキュベレーは自宅の地下壕で待機するも重苦しい空気が感じられなくなり一安心する。
「母様…周囲の空気が戻ったわ!」
「深海底アンデッドの大群が全滅したのね…」
「桜花姫が深海底アンデッドの大群を全滅させたのよ…」
「私達のアクアユートピアは解放されたのね!」
人魚王国アクアユートピアは深海底アンデッドの大群から無事に解放され…。国内の人魚達は大喜びしたのである。深海底アンデッドの女王であり始祖とされるアビスエキドナスの死後…。暗闇の深海底では金輪際深海底アンデッドが出現しなくなる。
完結