桜花姫第参部
第参部
第一話
古墳
人魚王国アクアユートピアでの大事件から一年後…。世界暦五千二十三年四月下旬の出来事である。東国の北方に位置する山岳地帯では太古の大昔…。小規模の旧王朝が存在したのである。今現在旧王朝の歴史は不明瞭とされるが山岳地帯の中心部には旧王族達の古墳が存在…。今現在では観光地として数多くの登山者達が古墳を見物する。
『古墳に悪霊が出現するなんてね♪』
近頃…。古墳では真夜中に神出鬼没の悪霊が出没するとの噂話が出回ったのである。噂話が気になった最上級妖女の月影桜花姫は早速行動を開始…。東国北方の山岳地帯へと移動する。
『悪霊事件は去年の吸血羅刹女以来ね!』
悪霊関連の事件は吸血羅刹女による宿屋の行方不明事件以来である。
『古墳では一体何が出現したのかしら?』
桜花姫は真夜中の古墳では何が出現するのかワクワクする。移動を開始し始めてから二時間後…。東国の山岳地帯に到達したのである。
『如何やら噂話の山岳地帯は此処っぽいわね…』
時間帯は真夜中の深夜帯であり神出鬼没の悪霊が出現しそうな雰囲気であるが…。
『悪霊は…出現しないかしら?』
桜花姫は平気であり悪霊の出現を期待したのである。
『此処では霊気が感じられないわね…』
山道の夜道では悪霊特有の霊気は感じられず…。神出鬼没の悪霊は出現しなかったのである。真夜中の山道を移動し続けてから三時間後…。
『如何やら此処が…旧王族達の墓場…』
桜花姫は山岳地帯の頂上へと到達したのである。
『目的地の古墳みたいね!』
山岳地帯の中心部には円形の円墳が確認出来…。此処が古代の旧王族達の墓場であると認識したのである。
『此処に古代の旧王朝が存在したのね…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
『鬼火の妖術…発動!』
鬼火の妖術を発動すると自身の周囲に複数の火の玉が出現したのである。
『鬼火の妖術は照明灯として最適なのよね…』
複数の火の玉を照明として利用出来…。暗闇の場所でも安心して使用出来る。桜花姫は暗闇の円墳内部に進入したのである。
『此処から霊気を感じるわ…一体何かしら?』
石造りの通路の奥側へと直進し続けると僅少の霊気が複数感じられる。
『僅少だけど複数ね…やっぱり此処に悪霊が出現したみたいね…』
桜花姫は暗闇の通路を驀進し続ける。暗闇の通路を驀進してより数分後…。
『此処は…』
桜花姫は石造りの密室へと到達する。周辺は暗闇であったが周囲の火の玉により内部の構造を直視出来たのである。
『桃源郷神国にこんな場所が存在するなんてね…』
密室の中央には石棺が確認出来…。周辺の床面には無数の宝石やら黄金の宝物が無数に確認出来る。
「古代の宝物がこんなにも大量に…えっ?」
『何かしら?』
石棺の真上の中央には一体の埴輪が設置された状態であり桜花姫は埴輪に注目する。
『ひょっとして埴輪かしら?精巧に形作られた代物だわ…』
桜花姫は警戒した様子で石棺真上の埴輪に接近し始め…。恐る恐る埴輪に接触したのである。
『如何して石棺の真上に埴輪が?』
すると直後…。
「えっ!?」
突如として埴輪の両目がピカッと蛍光色に発光したのである。
『埴輪の両目が発光したわ…』
桜花姫は突然の超常現象に驚愕する。一方の埴輪は空中を浮遊し始める。
『円墳内部から感じられた霊気の正体は…』
同時に埴輪本体から悪霊特有の霊気が放出されたのである。
「埴輪に憑霊した悪霊だったのね!」
桜花姫は即座に十八番の天道天眼を発動…。妖力が普段の状態よりも数百倍へと急上昇したのである。
「あんたは土器の悪霊…【霊魂埴輪】ね!」
霊魂埴輪とは一年前に出現した土器の悪霊…。霊魂土偶の亜種とされる。霊魂埴輪の正体としては古代の戦乱で滅亡したとされる旧王朝の王族達の怨念が器物の埴輪に憑霊…。誕生したとされる土器の悪霊である。霊魂埴輪の別名としては埴輪の付喪神やら古墳の地縛霊とも呼称される。
『如何やら今回の標的は霊魂埴輪みたいね…』
霊魂埴輪は蛍光色の両目から超高温の光線を射出する。
『光線!?』
霊魂埴輪の光線は桜花姫の胸部を貫通…。
「ぐっ!」
桜花姫は胸部を貫通され床面に横たわったのである。床面に横たわった直後…。床面に横たわった状態の桜花姫は全身から白煙が発生したと同時にポンッと消滅したのである。霊魂埴輪は警戒した様子で周辺をキョロキョロさせる。数秒後…。
「如何やら霊魂埴輪の注意点は両目からの光線だけみたいね!」
突如として密室の中央より桜花姫が出現したのである。
「残念だったわね!霊魂埴輪が光線で攻撃したのは私の分身体なのよ!」
桜花姫は霊魂埴輪が出現したと同時に分身の妖術を発動したのである。桜花姫自身は雲隠れの妖術で全身の肉体を透明化…。自身の身体髪膚を透明化させた状態で霊魂埴輪の動向を観察したのである。
「初見では即死だったでしょうけど…分身体で残念だったわね♪霊魂埴輪♪」
桜花姫は霊魂埴輪を挑発する。すると霊魂埴輪は再度両目から超高温の光線を射出したのである。
「こんな攻撃は私には通用しないわよ!」
桜花姫は妖力の防壁を発動…。霊魂埴輪の光線を無力化したのである。
「今度は私が反撃するわね!」
念力の妖術を発動する。すると空中を浮遊し続ける霊魂埴輪の表面がバリッと罅割れ…。容易に粉砕されたのである。
『霊魂埴輪…他愛無いわね♪』
床面には彼方此方に霊魂埴輪の破片が散乱する。
『元凶の霊魂埴輪は片付けられたし♪西国に戻ろうかしら♪』
桜花姫は西国の村里に戻ろうかと思いきや…。
「えっ…」
気配を察知すると背後には十数体もの霊魂埴輪が空中を浮遊したのである。
「霊魂埴輪…」
『こんなにも無数に存在するなんてね…』
桜花姫は背後の光景に呆れ果てる。
『仕方ないわ…今度こそサクッと片付けますかね!』
十数体もの霊魂埴輪は桜花姫を標的に超高温の光線を射出するのだが…。一方の桜花姫は妖力の防壁で彼等の攻撃を無力化したのである。
「今度こそ…」
先程と同様に念力の妖術で周辺の霊魂埴輪を粉砕…。石造りの床面には無数の破片が飛散したのである。
「今度こそ解決かしら?」
すると直後…。床面に飛散した無数の破片が融合化し始める。
「えっ…」
桜花姫は霊魂埴輪の変化に警戒したのである。
『一体何が?』
数秒後…。先程仕留めた無数の霊魂埴輪が一体の霊魂埴輪として復活したのである。一体化した霊魂埴輪は非常に巨体であり背丈は推定二メートル以上に巨大化する。
『此奴も霊魂土偶みたいに一体化出来るのね…』
霊魂埴輪は一年前に出現した霊魂土偶の亜種である。霊魂埴輪も霊魂土偶同様に複数の個体が融合化すると巨大化出来る。すると一体化した霊魂埴輪は両目から超高温の光弾を射出したのである。
『両目から光弾!?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動するのだが…。一体化した霊魂埴輪の光弾は非常に強力であり妖力の防壁では防ぎ切れなかったのである。
「きゃっ!」
妖力の防壁の効果によって霊魂埴輪の攻撃力は多少軽減出来たものの…。桜花姫は容易に吹っ飛ばされたのである。
「ぐっ!」
桜花姫は吹っ飛ばされた衝撃で背後の石垣に衝突…。床面に横たわったのである。
『霊魂埴輪…想像以上に強力ね…』
桜花姫は先程の霊魂埴輪の攻撃によって脊髄を損傷…。
『身動き出来ないわ…脊髄を損傷したみたいね…』
桜花姫は脊髄の損傷により身動き出来なくなる。すると霊魂埴輪は床面に横たわった状態の桜花姫に急接近する。
『霊魂埴輪は身動き出来なくなった私を…』
霊魂埴輪は再度両目を発光させたのである。再度光弾を射出する寸前…。
『一か八かよ!』
桜花姫は即座に霊魂埴輪に十八番の変化の妖術を発動したのである。霊魂埴輪は飴玉に変化させられ…。攻撃も無力化されたのである。
「はぁ…」
『間一髪だったわね…』
数分間が経過すると損傷した脊髄も自然に治癒され…。桜花姫は身動き出来始めたのである。
『身動き出来たし!』
「飴玉は…頂戴するわね!」
桜花姫は飴玉に変化した状態の霊魂埴輪を捕食…。
『事件は無事解決出来たわね…』
同時に円墳内部の霊気が感じられなくなる。
『此処は霊気も感じられないし…今度こそ西国に戻りましょう!』
桜花姫は西国の村里へと戻ったのである。
第二話
放火犯
土器の付喪神霊魂埴輪との死闘から三日後の真昼…。近頃西国の村里では家屋の火災が数軒発生したのである。火災の原因は不明であるものの…。火災が発生した時間帯は真夜中の一時から二時前後であり非常に不自然だったのである。村人達は放火犯による放火事件であると決定付ける。村人達は度重なる原因不明の火災によって夜間に熟睡出来ず…。寝不足に苦悩させられたのである。村人達は総出で夜間警備を強化するものの…。放火犯らしき人物は特定出来なかったのである。誰しもが疑心暗鬼であり村里全体での人間関係が日に日にギクシャクし始める。放火犯が人間ではなく神出鬼没の悪霊の仕業であると思考する村人達も少なくない。近頃は村里全体が閉鎖的であり非常に殺伐とした雰囲気だったのである。
「はぁ…」
桜花姫は真昼の村道にて散歩中…。
『原因不明の火災ね…』
何が原因で火災が頻発したのか思考したのである。
『火災が発生する時間帯は真夜中の深夜帯…放火犯の仕業なのかしら?』
村人達が総出で夜番を徹底するのだが放火犯を目撃した村人は誰一人として存在せず…。村里全体が殺伐とした雰囲気であり今現在では出歩く村人達も少数である。
「村人達が総出で夜間警備しても放火犯らしい人物は特定出来ないのよね…」
『一体何が原因で火災が発生したのかしら?』
桜花姫は火災の原因を彼是と思考し続けるのだが…。火災の原因を結論付けるのは不可能だったのである。
『仕方ないわね!今夜…私自身が調査して火災の主原因が放火犯の仕業なのか如何なのか結論付けるわよ!』
同日の真夜中…。桜花姫は深夜帯の二時前後に村里を警備したのである。
『今夜は…問題の放火犯は出現するのかしら?』
桜花姫は一時間程度村里全体を一通り警備するのだが…。
『放火犯は発見出来ないわね…』
道中では放火犯らしき人物は発見出来なかったのである。
「やっぱり放火犯なんて存在しないのかしら?」
『結局火災の原因って単純に小火の不始末だったのかしら?』
火災の主原因は放火犯の仕業ではなく小火の不始末であり数軒の家屋で火事が頻発したのは偶然であると結論付けるのだが…。
「えっ…」
突如として寒気を感じる。
『寒気だわ…一体何が?』
桜花姫は正体不明の寒気に警戒したのである。
『人気は感じられないわね…寒気の正体は何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後を直視する。
「えっ?」
すると遠方の家屋にて正体不明の発光体が確認出来…。家屋の玄関口にて浮遊したのである。
『発光体だわ?』
発光体の正体が気になった桜花姫は即座に現場の家屋へと急行する。
『発光体は一体何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る発光体に近寄り始める。
「えっ!?」
発光体を凝視し続けると発光体は黄色に光り輝く火の玉だったのである。
『此奴は…火の玉!?』
火の玉は不定形であるものの…。火の玉の中心部には悲痛そうな老婆の顔面らしき形状が確認出来る。
「火の玉の正体…」
『此奴は…悪霊の【人魂老婆】だわ…』
人魂老婆とは鬼火の一種である。特定の地方では老婆の怪火とも呼称される。人魂老婆は安穏時代初頭…。年老いた老婆が自身の身内によって殺害された悲劇の悪霊として知られる。異説としては高齢により労働出来なくなった高齢者達が暗闇の山奥に放棄され…。成仏出来ない彼等の無念の集合体こそが人魂老婆の正体であるとも解釈される。人魂老婆は出現頻度こそ時たまであるが…。社会問題を体現化させた象徴であり認知度は悪霊の代表格である悪食餓鬼にも相当する。
『放火犯の正体は人魂老婆だったのね…』
すると人魂老婆は悲痛そうな表情で桜花姫を凝視し始める。直後…。人魂老婆は不定形の口先より高熱の火炎を放射したのである。
『火炎攻撃!?』
桜花姫は即座に妖力の結界を発動…。人魂老婆の火炎攻撃を無力化したのである。
「はぁ…」
『間一髪だったわ…』
桜花姫は人魂老婆の突然の火炎攻撃に冷や冷やする。すると人魂老婆は悲痛そうな表情で…。
「結局は其方も…私を毛嫌いするのか!?如何して私は放棄された!?」
人魂老婆は桜花姫に力強く泣訴したのである。
「えっ!?」
『人魂老婆は…一体何を?』
桜花姫は突然の人魂老婆の泣訴に困惑し始め…。ドン引きしたのである。
「如何して私を…暗闇の山中に…私が年老いたからか?何も出来ないからか?結局年老いた私は邪魔だったのか?」
人魂老婆は只管泣訴し続ける。
「其方も…私を…放棄するのか?私だって…年老いたくないのに…出来るなら…家族に見守られて…昇天したかった…」
人魂老婆は落涙した表情で桜花姫を凝視したのである。
「えっ…」
『人魂老婆…』
桜花姫は泣訴し続ける人魂老婆にドン引きするものの…。
『人魂老婆は列記とした神出鬼没の悪霊だけど…気の毒よね…』
桜花姫は人魂老婆の境遇に同情したのである。
『私が神出鬼没の悪霊に同情するなんてね…今回ばかりは仕方ないわね…』
桜花姫は神性妖術の天道天眼を発動…。血紅色だった両目の瞳孔が半透明の瑠璃色へと発光する。
『妖力が上昇したわね!』
天道天眼の効力によって桜花姫の妖力は通常よりも数百倍へと上昇したのである。一方の人魂老婆は只管に桜花姫を凝視…。
「其方は…私を如何するのだ?其方も…私を…放棄するのか?」
桜花姫は満面の笑顔で即答する。
「人魂老婆…覚悟するのね!」
『浄化の妖術…発動!』
桜花姫は人魂老婆に浄化の妖術を発動したのである。
「はぁ…浄化の涼風とは…」
周辺より清涼の涼風が発生し始め…。人魂老婆の表情が和らぎ始める。
「其方は…其方だけは私を…」
涼風の影響により人魂老婆は落涙し始め…。
「昇天出来そうだよ…感謝するね♪」
人魂老婆は笑顔で消滅したのである。
『人魂老婆…成仏するのね…』
浄化の妖術で人魂老婆は浄化され…。霊気も感じられなくなる。
『人魂老婆は浄化されたわね…』
人魂老婆は無事に成仏出来…。桜花姫は安堵する。
『今回の事件は無事解決ね!』
今回各家屋で火事を頻発させた放火犯の正体とは人魂老婆だったのである。桜花姫は後日…。村人達に今回の放火事件の真相を洗い浚い説明したのである。意外にも村人達はすんなりと納得する。疑心暗鬼だった村人達は各自で謝罪し合い…。殺伐とした村里の雰囲気は解消されたのである。人魂老婆による放火事件から数日後…。今回の悪霊事件を契機に年老いた高齢者達を放棄したとされる山奥にて人魂老婆の石碑が構築されたのである。人魂老婆が浄化されてからは真夜中の火事は発生しなくなる。
第三話
大黒島
老婆の亡霊人魂老婆による放火事件から二日後の出来事である。北国の最北端に位置する大黒島にて無数の悪霊が出現…。大黒島全域を占拠したのである。事件発生から翌日の真昼…。大黒島の悪霊出現の噂話を熟知した桜花姫は即座に北国の村里へと直行したのである。
『大黒島に悪霊の大群が出現するなんて…』
大黒島は今現在でこそ大勢の漁民達が移住する小規模の離島であるが…。大昔の戦乱時代では無実の囚人達が配流された悲劇の場所として有名である。
『今回は大黒島に何が出現したのかしら?』
西国の村里から移動を開始してより二時間後…。桜花姫は北国の海岸へと到達する。
『此処からでも孤島が確認出来るわね…』
海岸の砂浜から海面上を眺望したのである。
『大黒島かしら?』
海面上を眺望し続けると小規模の孤島を発見する。
『如何やら孤島は大黒島っぽいわね…』
海岸の砂浜から大黒島への距離は推定十五キロメートルの長距離であるが…。大黒島から漁民達の無数の鮮血と霊気を感じる。
『島内から無数の鮮血と霊気を感じるわ…』
「大黒島の漁民達は悪霊の大群に食い殺されちゃったみたいね…」
桜花姫は即座に変化の妖術を発動…。人外の人魚に変化したのである。
『悪霊の大群を征伐するわよ!』
桜花姫は人魚の状態で海面上を力泳し始め…。大黒島へと直行したのである。大黒島へは数分間で到達する。
『大黒島に到達したみたいね!』
人魚の状態から元通りの姿形に戻ったのである。
『島内は閑寂だけど…無人地帯だわ…』
大黒島は閑散とした場所であり島民達は誰一人として確認出来ない。周囲は非常に物静かであるが…。
『無数の悪霊の気配を感じるわ!』
島内全域に無数の霊気が徘徊するのを感じる。
『如何やら今回の相手も大群みたいね…』
桜花姫は即座に警戒…。
『早速…』
神性妖術の天道天眼を発動する。
『妖力は上昇したわね!』
すると数秒後である。周囲の砂浜より数十体もの悪食餓鬼が出現し始め…。彼等は桜花姫を注視したのである。
『悪食餓鬼の大群だわ!』
一方の桜花姫は悪霊の出現に大喜びする。
『早速出現したわね!』
数十体もの悪食餓鬼が桜花姫に殺到し始める。
「毎度だけど…あんた達は無謀ね…」
桜花姫は彼等の行動に呆れ果てる。
「命知らずなあんた達は…桜餅に変化しなさい!」
殺到し始める無数の悪食餓鬼に変化の妖術を発動…。
『悪食餓鬼の大群は桜餅に変化したわね!』
悪食餓鬼は数十個もの桜餅と小皿に変化したのである。
『消耗しちゃった妖力を回復させたいからね手…早速頂戴するわよ!』
桜花姫は小皿に配置された周辺の桜餅をパクパクッと食べ始める。大好きな桜餅を食べ始めてから数分後…。
『妖力は回復出来たし…』
桜花姫は周辺の桜餅を鱈腹完食する。
『島内で徘徊中の悪霊の大群を征伐しましょう!』
桜花姫は島内の住宅街へと移動したのである。
『住宅街から無数の霊気を感じるわね…』
住宅街から無数の霊気を察知…。
『今度は何が出現するのかしら?』
桜花姫は島内の探索を開始したのである。
第四話
花魁
桜花姫が探索を開始した同時刻…。
「はぁ…はぁ…」
大黒島の住宅街にて一人の村娘が無数の悪霊から必死に逃走したのである。
『私は逃げないと!悪霊に食い殺されちゃう!』
村娘はとある住居へと進入…。恐る恐る戸棚に潜伏したのである。
『父ちゃん…母ちゃん…』
村娘は極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
『私は…如何すれば?』
すると直後…。戸口よりガタガタッと物音が響き渡る。
「ひっ!」
『父ちゃん…母ちゃん…こんな場所で死にたくないよ!』
村娘は涙腺より涙が零れ落ちる。すると突然…。
「あんたは…可愛らしい小娘ね♪」
背後の美声に吃驚する。
「えっ!?」
村娘は警戒した様子で恐る恐る背後を直視…。背後には色白の花魁らしき女性が家屋敷の居室でビクビクする村娘を凝視し続ける。
「えっ…あんたは誰なの?」
花魁は煌びやかな着物姿の女性であり非常に妖美の雰囲気であるが…。素肌は死没者を連想させる灰白色であり花魁の女性が人外なのは一目瞭然である。
「私はあんたみたいな純粋無垢の少女が大好きなのよね♪大人しく私に食べられちゃいなさい♪」
花魁の発言に極度の恐怖心を感じる。
「ひっ!」
『彼女は悪霊!?』
村娘は背後の花魁が人外の悪霊であると察知…。
『私は悪霊に食い殺されちゃう!此処から逃げないと!』
村娘は即座に家屋敷から脱走したのである。
「はぁ…はぁ…」
村娘は必死に逃走するのだが…。
「私からは逃げられないわよ♪観念するのね…小娘♪」
先程遭遇した花魁らしき存在が路地裏にて再度遭遇する。
「えっ!?」
『如何して…彼女は先回りしたの!?』
村娘は恐る恐る後退りしたのである。すると背後には二体の悪食餓鬼がふら付いた身動きで村娘に近寄り始める。
「背後からも悪霊!?」
直後…。
「きゃっ!」
村娘は花魁らしき存在に両手で捕捉されたのである。
「私からは逃げられないのよ♪人間の小娘♪あんたは好い加減観念しなさい♪」
「きゃっ!誰か!誰か!」
村娘は必死に抵抗するものの…。花魁の女性は非力そうな外見とは裏腹に非常に力強く村娘の力量では抵抗すら出来ない。
「如何やら村里で無事なのはあんただけね♪早速あんたの清心を頂戴するわね♪」
花魁らしき存在は赤面した表情で無理矢理に接吻し始め…。
「ぐっ!」
一方の村娘は花魁らしき存在に口移しされた直後である。
『父ちゃん…母ちゃん…』
村娘は意識が遠退き始め…。
「はぁ…」
村娘は全身が衰弱化する。
『私は…』
村娘は意識が完全に喪失した昏睡状態であり地面に横たわったのである。一方の花魁らしき存在は満足気に…。
『やっぱり美味だったわね♪女子の清心は純真無垢だから非常に美味だわ♪』
村娘の清心を完食した花魁らしき存在は即座に退散したのである。花魁らしき存在が退散してより数分後…。
「悲鳴は此処からだったわね…えっ?」
桜花姫が路地裏にて地面に横たわった状態の村娘を発見する。
『彼女は島内の村娘かしら?』
桜花姫は地面に横たわった状態の村娘に近寄ったのである。
『彼女は…大丈夫かしら?』
恐る恐る村娘に接触し始め…。
『如何やら村娘は仮死状態みたいね…即刻元凶の悪霊を仕留めないと彼女が衰弱死するわね…』
時間が経過し続ければ村娘の生命が危険であると察知する。
「えっ?」
直後である。
『霊気かしら?』
突如として周囲より無数の気配を感じる。
『如何やら大群みたいね…』
すると周囲の地面より十数体もの悪食餓鬼が出現し始める。
「毎度…毎度…あんた達は鬱陶しい奴等ね…」
地面から出現した十数体の悪食餓鬼が桜花姫に殺到したのである。
「はぁ…仕方ないわね…」
桜花姫は悪食餓鬼の大群に呆れ果てるものの…。
「あんた達は金無垢の砂金に変化しなさい!」
砂金の妖術を発動する。自身に殺到し続ける十数体もの悪食餓鬼がサラサラの砂金に変化し始め…。彼等の肉体は一瞬で崩れ落ちる。
『楽勝!楽勝!』
無数の悪食餓鬼を一蹴した桜花姫であるが…。
「ん?」
今度は背後から五体もの百鬼悪食餓鬼が地面より出現する。
『今度の相手は百鬼悪食餓鬼かしら?大物が五体も出現するなんてね!』
無数の悪食餓鬼の顔面が桜花姫を睥睨したのである。
『百鬼悪食餓鬼は私を殺したいみたいね…』
百鬼悪食餓鬼は全身の悪食餓鬼の顔面から高熱の熱風を放出し始め…。桜花姫に攻撃したのである。
『熱風かしら?』
桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。
「こんな程度の火炎攻撃で私を仕留めるなんて…あんた達は無謀ね!」
妖力の防壁により百鬼悪食餓鬼の熱風を無力化したのである。
「あんた達は…」
再度変化の妖術を発動…。五体の百鬼悪食餓鬼を大好きな桜餅に変化させる。
『妖力が消耗しちゃったからね♪』
再度桜餅をパクッと鱈腹頬張り始める。
『満腹♪満腹♪』
桜花姫は桜餅の完食に満足するが…。
「えっ?」
『殺気かしら!?』
今度は十数人もの人間達の気配を感じる。
『今度は人間達の気配だわ…』
「厄介ね…今度の相手は生身の人間かしら?」
桜花姫は再度人間達の襲撃に警戒する。周辺を警戒し始めてより数秒後…。
「あんた達は…何よ?」
『彼等は島内の村人達かしら?』
周囲の各家屋より刃物を所持した十数人の漁民達が桜花姫を包囲し始める。
「あんた達は正気なの?」
彼等の表情は無表情であり骨抜きの傀儡人形みたいな雰囲気だったのである。
『敵意も殺意は感じられないわね…』
漁民達は殺気立った様子は皆無であり桜花姫に対する敵意も殺意も感じられない。
『彼等は無感情の傀儡人形みたいだわ…漁民達は元凶である何者かに憑霊されちゃったのかしら?』
漁民達が桜花姫に殺到する。
『仕方ないわね…』
桜花姫は即座に睡眠の妖術を発動…。
「あんた達…一先ず大人しくしなさい…」
睡眠の妖術を発動すると殺到し始める漁民達はバタッと地面に横たわる。
『漁民達は全員熟睡したみたいね…』
「えっ?」
背後より悪霊の気配を感じる。
『霊気だわ…悪霊かしら?』
恐る恐る背後を警戒…。背後には色白の花魁らしき女性が佇立する。
『彼女は花魁かしら?』
花魁の女性は桜花姫を直視するとニコッと微笑み始める。一方の桜花姫は警戒した様子で恐る恐る…。
「あんたは悪霊の亡霊花嫁ね…幻術で此処の村人達を傀儡人形みたいに操作したのかしら?」
亡霊花嫁とは亭主に殺害された令夫人の悪霊として知られる超自然的存在である。亡霊花嫁は人語での会話も可能であり荒唐無稽の幻術を駆使出来…。自身が気に入った特定の人物の清心を接吻により吸収する。
「あんたは妖女の月影桜花姫かしら?人間達を利用したのは私よ♪所詮人間は非力だから操作しても役立たないけれどね♪」
亡霊花嫁は桜花姫の問い掛けに人語で返答したのである。
「折角だからあんたの清心も頂戴するわね♪」
一方の桜花姫は呆れ果てた様子で亡霊花嫁に返答する。
「あんたなんかに出来るかしら?私は最上級妖女なのよ…」
『此奴は一年前に出現した亡霊花嫁とは別物っぽいわね…』
亡霊花嫁は一年前にも南国の村里に同種の悪霊が出現したのだが…。今回出現した亡霊花嫁は一年前の個体とは別物であると察知したのである。
「勿論♪私だけでは最上級妖女のあんたを仕留められないからね♪」
直後…。
「あんた達♪出番よ♪」
すると周辺の地面より数十体もの悪食餓鬼が再度出現したのである。
「悪食餓鬼の大群かしら?」
『如何やら奴等も自身の幻術で操作したのね…』
亡霊花嫁の幻術は非常に強力であり仲間の悪霊さえも傀儡人形として思う存分に翻弄出来…。自身の手駒として利用出来るとされる。
「こんな奴等で私を仕留めるなんて…あんたは余程の馬鹿者みたいね!」
桜花姫は即座に氷結の妖術を発動…。周囲の悪食餓鬼を凍結化させる。
「こんな奴等…他愛無いわね♪」
全身を凍結化された悪食餓鬼の肉体はバリバリッと崩れ落ちる。
「亡霊花嫁♪幻術で操作するなら悪食餓鬼よりも上級悪霊を操作するのね♪悪食餓鬼では役不足よ♪」
桜花姫は満面の笑顔で亡霊花嫁に挑発する。
「はぁ…結局悪食餓鬼は役立たずの手駒だったわね…」
一方の亡霊花嫁は目前の光景に呆れ果てたのである。
「此奴なら如何かしら?」
すると桜花姫の背後の地面より巨大能面が出現したかと思いきや…。
「えっ…」
巨大能面から八本もの脚部が生成されたのである。
「此奴って…」
桜花姫も突如として出現した巨大能面にドキッとする。
『此奴は器物の悪霊…小面袋蜘蛛…』
先程は冷静だった桜花姫であるが…。
『こんな場所に小面袋蜘蛛が出現するなんてね…』
桜花姫は突然の小面袋蜘蛛の出現により恐る恐る後退りしたのである。
「桜花姫♪悪食餓鬼以外の悪霊よ♪先程の威勢は如何しちゃったのかしら♪」
小面袋蜘蛛の出現に亡霊花嫁は冷笑し始める。
「あんたの大好きな悪霊よ♪」
桜花姫にとって小面袋蜘蛛の存在はトラウマの対象であり極度の恐怖心からか全身が身震いしたのである。
「観念するのね♪月影桜花姫♪」
亡霊花嫁は満面の笑顔で警戒中の桜花姫に挑発する。
「小面袋蜘蛛にあんたの妖術は通用しないわよ♪あんたは大人しく小面袋蜘蛛に食い殺されちゃいなさい♪」
すると小面袋蜘蛛は口先から粘着性の蜘蛛の白糸を放出し始め…。
「きゃっ!」
桜花姫を拘束したのである。小面袋蜘蛛の粘着性の白糸で拘束された直後…。
「ぐっ!」
『妖力が…消耗するわ…』
桜花姫は身動き出来ないばかりか体内の妖力が吸収されたのである。
『私は…衰弱死しちゃうわ…』
桜花姫は妖力の消耗により衰弱化…。バタッと地面に横たわったのである。
『如何やら桜花姫は妖力の消耗で衰弱化したみたいね…』
亡霊花嫁が地面に横たわった状態の桜花姫に近寄り始める。
『折角だからね♪』
亡霊花嫁は赤面した表情で…。
「桜花姫♪今度こそあんたの清心を頂戴するわよ♪」
身動き出来なくなった桜花姫を無理矢理に接吻したのである。
「ぐっ…」
桜花姫は亡霊花嫁に接吻されるとスーッと全身の筋力が脱力…。
「えっ?」
『眠気が…』
亡霊花嫁の霊能力の効力からか桜花姫は意識が遠退き始める。
「やっぱり美味しいわね♪あんたの清心も♪」
亡霊花嫁は接吻により桜花姫の清心を吸収出来…。大喜びしたのである。
「えっ…えっ!?」
直後…。亡霊花嫁は突如として気味悪くなり吐血したのである。
「ぎゃっ!」
吐血した亡霊花嫁は地面に横たわった状態の桜花姫を睥睨する。
「如何やら彼女!純粋無垢とは程遠い存在みたいね!外見とは裏腹に中身は邪心だらけだわ…桜花姫は邪心の集合体なのかしら!?」
直後である。突如として地面に横たわった状態の桜花姫の肉体より白煙が発生したかと思いきや…。
「えっ!?如何して彼女の肉体から白煙が!?」
桜花姫の肉体がポンッと一瞬で消滅したのである。
「一体何が!?」
『如何して桜花姫の肉体が消滅したのよ!?』
亡霊花嫁は突然の超常現象に愕然とする。
『彼女の…桜花姫の肉体は!?』
すると亡霊花嫁の背後より…。
「亡霊花嫁?誰が邪心の集合体ですって?」
亡霊花嫁の背後には桜花姫が佇立したのである。
「あんたは桜花姫なの!?」
桜花姫の出現に亡霊花嫁は愕然とする。
「残念だったわね!亡霊花嫁!あんたが接吻したのは私の分身体なのよ!」
「なっ!?分身体ですって!?」
亡霊花嫁は桜花姫に畏怖したのは恐る恐る後退りしたのである。
「地上世界の女神様である私を…邪心の集合体なんて失言するあんたは…」
桜花姫は変化の妖術を発動…。亡霊花嫁は桜餅に変化したのである。
『亡霊花嫁は無力化出来たし…大丈夫そうね♪』
桜花姫は背後の小面袋蜘蛛に警戒する。
「妖術が通用しないあんたは…」
『口寄せの妖術よ!』
桜花姫は口寄せの妖術を発動…。
「小面袋蜘蛛…完膚なきまでに死滅するのね!」
口寄せの妖術により上空から小規模のワームホールが発生したのである。直後…。ワームホールの中心部からオーバーテクノロジーの小型無人爆撃機が出現したのである。小型無人爆撃機は小面袋蜘蛛を標的に小型の誘導爆弾一発を投下…。小面袋蜘蛛は小型無人機の低空爆撃により完膚なきまでに粉砕されたのである。
『小面袋蜘蛛も仕留められたわね!』
元凶である亡霊花嫁と小面袋蜘蛛を仕留めた影響からか大黒島を覆い包む重苦しい空気が浄化され…。島内からは無数の霊気が感じられなくなる。
『大黒島の霊気が消失したわ…』
「空気も浄化されたし…事件は無事解決ね!」
桜花姫は桜餅に変化した亡霊花嫁をパクッと頬張る。
『やっぱり桜餅は美味だわ!』
数秒間が経過すると亡霊花嫁の幻術により無感情の傀儡人形として利用された漁民達は勿論…。
「えっ?私は一体…悪霊は?」
先程亡霊花嫁に清心を奪取された村娘も意識が戻ったのである。
第五話
失笑
近頃…。北国の村里では真夜中の深夜帯に出歩くと女性らしき笑い声が響き渡るとの噂話が出回ったのである。女性らしき笑い声を傾聴した人物は極度の恐怖心により気絶…。無事に自宅へと戻れたとしても廃人の状態であり農作業の人員不足が深刻化したのである。今回の大問題から現地の武士達は勿論…。東国からも屈強の武士団が派遣されるのだが笑い声の正体とは遭遇出来ず問題の解決は困難だったのである。大黒島での戦闘から三日後…。桜花姫は女性らしき笑い声の噂話を把握すると真夜中の深夜帯に北国の村里へと出掛けたのである。
『今回は正体不明の笑い声ね…』
西国の村里から移動し始めてから二時間後…。
『北国に到達したわね…』
桜花姫は北国の村里へと到達したのである。
『当然だけど人気は感じられないわね…』
時間帯は真夜中であり出歩く村人は誰一人として確認出来ない。
『笑い声の正体は一体何かしら?』
すると直後である。
「えっ!?」
背後よりケラケラッと女性らしき笑い声が響き渡る。
『女性の…笑い声だわ…』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。
「なっ!?」
背後に存在するのは背丈が推定三間程度の巨体の女性だったのである。巨体の女性は満面の笑顔で桜花姫を凝視し続ける。
『彼女からは霊気が感じられるわ…』
巨体の女性からは悪霊特有の霊気が感じられる。
『如何やら此奴の正体は神出鬼没の悪霊みたいね…』
桜花姫は巨体の女性に警戒する。
『恐らくだけど此奴の正体は悪霊の【爆笑女将】ね…』
爆笑女将とは巨体の女性の悪霊である。煌びやかな群青色の着物姿が特徴的であり背丈は推定三間程度に巨体…。表情は常時満面の笑顔である。爆笑女将の正体としては生前…。村八分により周囲の村人達から迫害された女性の無念が実体化した存在であると解釈される。爆笑女将の別名としては外見が巨体であるのを理由として三間女房…。表情が常時満面の笑顔であり失笑大女とも呼称される。
「如何やら笑い声の正体は爆笑女将…あんただったみたいね!」
桜花姫は即座に十八番の天道天眼を発動…。半透明の瑠璃色だった瞳孔が半透明の血紅色へと発光したのである。同時に桜花姫の妖力が通常よりも数十倍へと急上昇する。
「爆笑女将!覚悟するのね!」
十八番の変化の妖術を発動する直前…。爆笑女将はケラケラッと大笑いし始める。
「あんたね!何が可笑しいのよ!?」
桜花姫は只管大笑いし始める爆笑女将に苛立ち始め…。腹立たしくなる。
「あんたは問答無用に…」
爆笑女将に変化の妖術を発動する寸前である。
「えっ…ぐっ!」
突如として極度の頭痛は勿論…。極度の嘔気を感じる。
『頭痛と嘔気だわ…ひょっとして爆笑女将の霊能力かしら!?』
桜花姫は突然の頭痛と嘔気により地面に横たわったのである。一方の爆笑女将は只管地面に横たわった状態の桜花姫に爆笑し続ける。
『こんな状態では圧倒的に不利ね…』
桜花姫は再度爆笑女将を直視するのだが…。
「えっ!?」
周囲には数十体もの爆笑女将が地面に横たわった状態の桜花姫を包囲する。
『爆笑女将は分身体を…』
周囲の分身体も本体である爆笑女将同様に桜花姫の様子を凝視し始め…。爆笑女将の分身体は満面の笑顔で爆笑したのである。
『視界が…爆笑女将の霊能力かしら?』
桜花姫は爆笑女将の霊能力により目前の視界が黒化し始める。
「はぁ…」
今度は意識が遠退き始めたのである。
『意識が…』
数秒間が経過すると桜花姫は意識を喪失する。一方の爆笑女将と周囲の分身体は気絶状態の桜花姫にゲラゲラと爆笑し続ける。数秒間が経過…。気絶状態の桜花姫の肉体から白煙が発生し始める。一瞬であるが目前の光景に爆笑女将と分身体が無表情で注視したのである。直後…。桜花姫の肉体はポンッと消滅したのである。突然の超常現象に爆笑女将と分身体は驚愕し始め…。周辺をキョロキョロさせたのである。
「残念だったわね!爆笑女将!」
すると本体の爆笑女将と無数の分身体の背後より桜花姫が出現…。
「私は此処よ!」
爆笑女将は桜花姫の出現に一瞬沈黙したのである。一方の桜花姫は健全の様子であり爆笑女将本体と無数の分身体に失笑する。
「あんたが霊能力で気絶させたのは私の分身体なのよ!」
先程爆笑女将が霊能力で気絶させたのは桜花姫の分身体だったのである。本体の桜花姫自身は爆笑女将の霊能力で気絶する寸前に間一髪分身の妖術を発動…。爆笑女将の霊能力の無力化に成功したのである。
「爆笑女将…今度は私が反撃するからね!」
桜花姫は心眼の妖術を発動する。
「如何やらあんたが爆笑女将の本体みたいね!」
心眼の妖術で爆笑女将の本体を発見したのである。
「爆笑女将!覚悟しなさいよ!」
桜花姫は十八番の変化の妖術を発動…。
「あんたは桜餅に変化しなさい!」
直後である。爆笑女将の本体は小皿に配置された桜餅に変化する。
「変化の妖術…成功ね!」
すると本体である爆笑女将を無力化された影響からか周囲の分身体が連鎖的に消滅し始める。
『本体を仕留められた影響で分身体が消滅したのね…』
村里の霊気も感じられなくなる。
『爆笑女将の霊気が感じられなくなったわ…事件は解決ね!』
桜花姫は小皿に配置された桜餅をパクリと平らげる。
『悪霊だとしても…やっぱり桜餅は美味だわ!』
同時刻…。元凶の爆笑女将が退治された影響からか廃人状態だった村人達が元通りの状態に戻ったのである。
第六話
警備中
爆笑女将との戦闘から二日後…。真夜中の出来事である。二人の邏卒が東国武士団根城の城内を夜間警備中…。
「はぁ…気味悪いな…如何して俺達が城内の夜間警備なんか…」
大柄の邏卒はビクビクした様子で愚痴り始める。
「仕方ないよ…俺だって真夜中の夜間警備なんて御免だけどさ…」
小柄の邏卒も内心では逃げたい一心なのだが…。
「俺達の仕事だからな…」
小声で返答したのである。
「あんたは生真面目だな…真夜中の警備は面倒臭いし…」
すると大柄の邏卒は小声で発言する。
「最近…真夜中の城内で何者かが進入したって噂話だけど…」
近頃の出来事である。一週間前より…。真夜中の城内にてカラカラッと作り物らしき物音が響き渡るとの報告が武士団全体に出回ったのである。基本的に城内への入城は東国武士団の関係者以外は厳禁とされるのだが…。
「ひょっとして神出鬼没の…悪霊の仕業なのかな?」
小柄の邏卒は悪霊の一言にビクビクし始める。
「物音の正体が神出鬼没の悪霊だったら…俺達だけでは対処出来ないよ!」
「こんな場合こそ常人の俺達なんかより…西国の月影桜花姫様に依頼したいよな!彼女なら悪霊だって余裕だろうし…」
大柄の邏卒は桜花姫の名前を口走る。
「俺も同感だな!こんな正体不明の超常現象を解決するなら不寝番の桜花姫様に依頼するべきだよな!」
夜間の警備を開始してより数秒後…。突如としてカラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。
「えっ…」
「物音だな…」
時間帯は真夜中の深夜帯であり城内は実質二人の邏卒だけである。
「一体何だろう?」
「俺達以外にも当直員の誰かが…」
二人の邏卒は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認するのだが…。
「えっ?誰も…」
背後には人影らしき物体は確認出来ず二人の邏卒は一息したのである。
「はぁ…吃驚させるなよ…」
大柄の邏卒は内心ホッとする。
「先程の物音は何だったのかな?」
「単なる空耳だろう…気にするな!」
「空耳だったのかな?」
二人の邏卒は先程の物音の正体が気になったものの…。
「不本意だが…警備を再開するか?」
「嗚呼…」
城内の夜間警備を再開したのである。警備を再開してより数分後…。再度カラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。
「畜生が!今度も物音かよ!?」
「一体何が!?」
二人は正体不明の物音に畏怖するのだが…。
「出現するなら出現しやがれ!神出鬼没の悪霊!」
極度の精神的ストレスにより苛立ち始める。二人は周囲を警戒…。護身用の刀剣を抜刀したのである。
「俺達は…逃げないぞ!」
「近付くなら近付きやがれ!俺達は…容赦しないからな!」
二人は強がるのだが…。内心では極度の恐怖心によりビクビクしたのである。すると二人の背後からカラカラッと作り物らしき物音が響き渡り…。物音は次第に接近する。
「此奴は…跫音みたいだな…」
「嗚呼…確認するか?」
二人は恐る恐る背後を直視…。背後には等身大の人影が佇立したのである。
「貴様は…一体何者だ?」
「城内に…侵入者が…」
すると直後…。人影は神速の身動きで二人の目前に接近したのである。
「えっ?」
「はっ?」
二人は自身の肉体の彼方此方を直視し始める。首筋からは勿論…。手足と胴体からドロドロと鮮血が流れ出る。数秒間が経過すると首筋…。切断された手足やら胴体がポロッと床面に落下したのである。
第七話
特別枠
翌朝…。東国武士団根城の城内から二人の邏卒のバラバラ遺体が発見されたのである。当然として城内全体では大騒ぎ…。事件の発生に東国全体が騒然としたのである。同日の真昼…。桜花姫の自宅より東国武士団の使者が訪問したのである。
「失礼します!月影桜花姫様!」
「あんたは武士団の役人よね?ひょっとして大事件でも発生したのかしら!?」
桜花姫は大事件を期待したのか両目をキラキラさせる。
「昨夜の出来事なのですが…」
使者は真夜中の正体不明の作り物らしき物音…。当直の邏卒二人が何者かによって殺害された事実を洗い浚い口述したのである。
「作り物みたいな物音と夜番の邏卒が殺害されたのね…」
「外部から暗殺者が進入した可能性も否定出来ませんが…」
実際根城には表門と裏門にも番兵達が厳重に警備…。外部から進入するのは実質不可能である。
「今回の事件は城内から発生した可能性が濃厚ね…犯人は武士団の関係者か…人外でしょうね…」
「遺体は二人ともバラバラの状態でしたし…正直人間業は考え難いですね…」
「暗殺者は人外の可能性が濃厚そうね…」
『恐らくは…神出鬼没の悪霊でしょうね…』
神出鬼没の悪霊を連想する。
「仕方ないわね!今夜の夜番は最上級妖女の私が担当するわ!物音の正体も気になるからね!」
桜花姫は満面の笑顔で夜番を承諾したのである。
「本当ですか!?であれば特別枠として本日の夜番を依頼しますね!桜花姫様が夜番を担当されるとは心強いです!」
武士団の使者は桜花姫の承諾に大喜びする。
「事件が解決したら米俵一年分を提供する所存ですよ!」
使者から報酬を提示するのだが…。
「私に報酬なんて不要よ…如何しても私に報酬を提供したいなら桜餅か安物の和菓子を一個用意してね!」
「報酬が安物の桜餅なんて…桜花姫様は本当に無欲ですね…」
使者は桜花姫の返答に苦笑いしたのである。
「私にとって事件は娯楽だからね!」
同日の真夜中…。特別枠として今夜の夜番は桜花姫が臨時で担当したのである。
『城内への進入は八尺姉女房の事件依頼ね…』
桜花姫は一年前に発生した八尺姉女房の事件を想起する。
『城内は物静かだけど…物音の正体は一体何かしら?』
表門と裏門には番兵達が厳重に警備…。外部からの進入は実質的に不可能である。城内の通路は物静かな様子であり桜花姫は無言で通路を直進する。すると道中…。
「うわっ…」
道中の床下には二人の血痕らしき痕跡が確認出来る。
『事件現場だわ…此処で二人の邏卒が殺害されたのね…』
桜花姫は床下の血痕に気味悪くなる。すると直後である。
「えっ?」
背後よりカラカラッと作り物らしき物音が通路全体に響き渡る。
『物音だわ…』
物音は小刻みに響き渡り…。
『跫音みたいね…』
物音は跫音であると認識する。物音の正体は一歩ずつ桜花姫の背後に接近…。
『何かしら?』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る背後の様子を確認する。
「あんたは…」
桜花姫の背後には甲冑を装備した若武者であるが…。
『人形?』
姿形は人形だったのである。体格は等身大の成人男性と同程度…。装備品としては護身用の刀剣が確認出来る。
『武士の人形みたいだけど…』
若武者の人形からは悪霊特有の霊気が感じられなかったのである。
『人形からは悪霊特有の霊気は感じられないわね…』
すると若武者の人形は片言で…。
「オナゴヨ…ワタシハ…ソナタヲセイバイニシキタ…」
若武者の人形はぎこちない動作で刀剣を抜刀したのである。
「あんたの正体…【傀儡軍神】ね…」
傀儡軍神とは亡者の霊魂が若武者の姿形を模範とした傀儡人形に憑霊…。誕生したとされる器物の悪霊である。詳細は不明であるが…。以前遭遇した傀儡処女と類似する。傀儡軍神の別名としては若武者人形の付喪神やら無血武将等と呼称される。
『傀儡軍神の人形って…偉人の夜桜崇徳王の人形よね?』
余談であるが傀儡軍神の本体である若武者人形は戦乱時代で活躍した歴史人物の一人…。夜桜崇徳王を模範として製造された傀儡人形である。戦乱時代を題材とした演劇等で使用される。
『悪霊に憑依されるなんてね…傀儡人形だとしても夜桜崇徳王が気の毒だわ…』
桜花姫は偉人の夜桜崇徳王が気の毒に感じる。
「キサマヲ…キリコロス…カクゴセヨ…」
傀儡軍神は男性らしき片言で断言したのである。
「如何やら傀儡軍神…あんたも喋れるのね…」
桜花姫は傀儡軍神の動向に警戒する。
「カクゴハデキタナ?」
傀儡軍神は身構えたかと思いきや…。
「ジゴクニオチロ…」
神速の身動きで桜花姫に接近したのである。
『此奴…傀儡処女以上の身動きだわ…』
傀儡軍神のスピードは傀儡処女以上であり常人では視認出来ない。
「キサマハシネ…」
傀儡軍神が刀剣で斬撃する寸前…。
「如何かしら?」
桜花姫は妖力の防壁を発動したのである。
『私に斬撃なんて…』
「えっ…」
傀儡軍神の刀剣は妖力の防壁を透過し始め…。桜花姫の腹部を斬撃したのである。
「ぐっ!」
桜花姫は腹部を斬撃され…。腹部の傷口からは大量の鮮血が流れ出る。
『如何して!?妖力の防壁が無力化されたのよ!?』
桜花姫は傀儡軍神の小細工に動揺したのである。
「ワタシニハ…キサマノヨウジュツハ…ツウヨウシナイノダ!」
「ひょっとしてあんたの…肉体は…妖星巨木の樹木かしら?」
「ソノトオリダ…ヨッテキサマハ…ワタシニハカテナイ!」
傀儡軍神の本体である傀儡人形の部品とは造物主…。妖星巨木の樹木で製造された代物である。器物の悪霊である小面袋蜘蛛と同様に荒唐無稽の妖術は通用しない。
『厄介だわ…傀儡軍神の部品も妖星巨木だったなんて…』
すると傀儡軍神は床面に横たわった状態の桜花姫に近寄り始める。
「トドメダ…ヨウジョノコムスメ…」
一方の桜花姫は満面の笑顔で…。
「残念だったわね…傀儡軍神!」
「キサマ…ナニガオカシイ?」
直後である。桜花姫の肉体から白煙が発生し始め…。ポンッと桜花姫の肉体が消滅したのである。
「ブンシンタイカ?」
傀儡軍神は周囲を警戒…。頭部をキョロキョロさせる。
「私なら此処よ…傀儡軍神!」
傀儡軍神の背後にて桜花姫が出現する。
「キサマ…フザケタマネヲ!コウカイシロ!」
傀儡軍神は口部を開口し始め…。口先から猛毒の瘴気を放射したのである。
『猛毒の瘴気だわ…』
桜花姫は猛毒の瘴気に警戒…。即座に浄化の妖術を駆使したのである。
「はぁ…」
浄化の妖術により傀儡軍神の瘴気は無力化される。
「危なかったわね…」
瘴気の無力化に一安心するのだが…。
「コレデオワリダト…オモウナヨ!」
傀儡軍神は胸部の表面をパカッと開放させたのである。
「何かしら?回転型の鉄砲?」
傀儡軍神の胸部の内部には回転型の固定型機関砲を内蔵…。目前の桜花姫を標的に照準させたのである。
「コレデオワリダ…ハチノスニシテヤル!」
直後…。銃口より数十発もの弾丸が炸裂したのである。
「ぐっ!ぎゃっ!」
一方の桜花姫は全身の彼方此方に無数の弾丸が直撃…。
「ぐっ…」
桜花姫は瀕死の状態であり床面に横たわったのである。
「コムスメハ…シトメタカ?」
傀儡軍神は床面に横たわった状態の桜花姫に近寄り始める。
「コイツモ…ブンシンタイトハ…」
白煙が発生したと同時に桜花姫は肉体諸共消滅したのである。
「ヤツノ…ホンタイハ…ニゲタカ?」
桜花姫は傀儡軍神が銃弾を炸裂させる直前に分身の妖術を発動…。逃亡に成功したのである。
「ヤツヲミツケシダイ…カナラズコロシテヤル!」
傀儡軍神は桜花姫の捜索を開始する。
第八話
手榴弾
一方の桜花姫は城内の二階へと逃亡…。倉庫らしき場所へと移動したのである。
「はぁ…はぁ…」
『間一髪だったわね…』
桜花姫は命拾い出来…。安心したのである。
『今回は非常に厄介だわ…傀儡軍神の肉体は妖星巨木の樹体だし…私が妖術を発動しても彼奴には無力化されるでしょうね…』
傀儡軍神を相手に如何するべきなのか苦悩し始める。
『此処でも武器を入手出来れば傀儡軍神を攻略出来るかも知れないけれど…』
「武器?」
桜花姫は室内の様子を確認したのである。
『此処って…武器庫みたいね!』
桜花姫が逃亡した避難所とは城内の武器庫であり刀剣等の近接武器は勿論…。火縄銃等の銃火器やら弓矢も多数確認出来る。
『以前東大寺に出現した樹体千手観音みたいに手榴弾を入手出来るかしら?』
今現在の桜花姫にとって武器庫は宝物の宝庫であり大喜びする。室内を探索し始めてから数分後…。鉄球らしき物体を発見したのである。
『手榴弾だわ!』
鉄球らしき物体は手榴弾であり桜花姫は大喜びする。
『高火力の手榴弾なら傀儡軍神を仕留められるかも知れないわね!』
桜花姫は手榴弾の発見により勝利を確信したのである。
「えっ…」
数秒後…。通路からカラカラッと作り物らしき跫音が響き渡る。
『物音だわ…恐らく傀儡軍神ね!』
桜花姫は覚悟したのである。
『一か八かよ!』
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る武器庫から退室…。
「あんたは傀儡軍神…」
暗闇の通路には先程遭遇した傀儡軍神が佇立する。
「サキホドノ…コムスメカ?シヌカクゴハデキタナ?」
傀儡軍神は再度抜刀すると身構えたのである。
「傀儡軍神!覚悟するのはあんたよ!」
桜花姫は力一杯手榴弾を投擲…。
「キサマハ…イッタイナンノマネダ?」
投擲した手榴弾は傀儡軍神の足場へと落下したのである。
「コンナモノデ…ワタシヲタオセルトデモ?キサマ…シノキョウフデ…クルッタノカ?シンパイハゴムヨウダ!スグニジゴクノソコヘ…オクッテヤル!」
傀儡軍神は余裕の態度であったが…。
「如何かしら?」
桜花姫は失笑した表情で返答したのである。
「ン?」
『コムスメノ…タイドハナンダ?イッタイナニヲ…タクランデイル?』
傀儡軍神は桜花姫の態度に警戒し始める。
「傀儡軍神…地獄に旅立つのはあんたかも知れないわよ!」
直後である。
「ナッ!?」
足場の手榴弾が炸裂し始め…。爆散したのである。傀儡軍神は手榴弾の爆発により全身が吹っ飛ばされ…。床面の彼方此方に木片やら金属製の歯車が飛散したのである。
「はぁ…」
『傀儡軍神を仕留められたわね…』
手榴弾によって傀儡軍神を退治出来…。城内の霊気が消失したのである。
『正直手榴弾を入手出来なかったら…殺されたのは私だったわね…』
今回は一か八かの大博打であり傀儡軍神を仕留め切れず…。戦場からの撤退か最悪傀儡軍神との戦闘で敗死する可能性も否定出来ない。
『やっぱり妖星巨木の樹体は厄介ね…』
桜花姫は変化の妖術を発動…。床面に散乱した傀儡軍神の各部品を自身の大好きな桜餅に変化させたのである。
『変化の妖術!成功ね!』
桜花姫は大喜びした様子で無数の桜餅を頬張り始める。
『今回の事件は無事解決ね!』
今回の事件後…。真夜中の城内では不吉の物音は響き渡らなくなる。
第九話
高女
若武者人形の付喪神…。傀儡軍神との死闘から三日後の出来事である。夕食後に自宅の居間でゴロゴロし続けた桜花姫であるが…。
「えっ…何かしら?」
突如として気配を感じる。
『霊気?悪霊かしら?』
突如として外部から悪霊特有の気配を察知したのである。
『悪霊特有の霊気だわ…』
外部の様子が気になった桜花姫は即座に出歩き始め…。気配の正体を調査したのである。調査の開始から十数分後…。近所の裏道にて身長が九尺もの巨体の女性が無表情で桜花姫を凝視したのである。
「えっ…何者なの?」
巨体の女性が外見的にも人外なのは一目瞭然であり巨体の女性からは悪霊特有の霊気が感じられる。
『彼女は人外の悪霊ね…【九尺姉女房】だったかしら?』
九尺姉女房は以前出現した八尺姉女房の亜種として知られる。同種の八尺姉女房よりも一回り巨体であり煌びやかな赤紫の着物姿が特徴的である。別名では九尺高女とも呼称される。
『こんな場所に八尺姉女房の亜種である九尺姉女房が出現するなんてね…やっぱり悪霊は神出鬼没だわ…』
すると九尺姉女房は周辺から無数の雷光の光弾を形成し始め…。桜花姫を標的に発射したのである。
『こんな攻撃…私に通用するか!』
一方の桜花姫は即座に妖力の防壁を発動…。九尺姉女房の雷光の光弾を全弾無力化したのである。
「私に挑戦したのを後悔するのね…」
桜花姫は十八番の変化の妖術を発動する。
「九尺姉女房は桜餅に変化しなさい!」
目前の九尺姉女房は一瞬で桜餅に変化したのである。
「九尺姉女房…他愛なかったわね!私に挑戦したのが間違いなのよ…」
九尺姉女房を瞬殺した桜花姫であるが…。
「えっ?」
背後から気配を察知したのである。
「九尺姉女房?」
背後には先程桜餅に変化させた九尺姉女房が無表情で佇立する。
『先程の九尺姉女房は分身体だったのかしら?』
先程の九尺姉女房は霊気で形作った完全なる分身体であり九尺姉女房の本体は無事だったのである。
「えっ!?」
『九尺姉女房の両腕が…』
すると九尺姉女房は霊能力により両腕が液体化し始め…。液体状の触手へと変化したと同時に桜花姫を拘束したのである。
「きゃっ!」
拘束した液体状の触手は石化し始め…。触手の石化により桜花姫は身動きを封殺されたのである。
『身動き出来ないわ…』
すると九尺姉女房は両目が蛍光色に発光し始め…。両目から雷光の光線を射出したのである。
「ぐっ!」
両目の雷光の光線は桜花姫の胸部を一瞬で貫通…。
『視界が…』
桜花姫は意識が喪失する。石化した九尺姉女房の触手は元通りの両腕に戻ったのである。一方の桜花姫はバタッと地面に横たわる。九尺姉女房は無表情で地面に横たわった状態の桜花姫を凝視し続ける。すると直後…。地面に横たわった状態の桜花姫の肉体から白煙が発生するとポンッと完膚なきまでに消滅したのである。一方の九尺姉女房は消滅した桜花姫の肉体に驚愕し始める。周囲をキョロキョロさせた九尺姉女房であるが自身の背後より…。
「残念だったわね!九尺姉女房!」
九尺姉女房の背後には余裕の表情の桜花姫が佇立する。
「あんたが即死させたのは私の分身体なのよ!」
桜花姫も分身の妖術で分身体を欺瞞に利用したのである。
「今度は私が九尺姉女房に仕返しするわね!あんたの身動きを封殺するわ!」
桜花姫は九尺姉女房に金縛りの妖術を発動…。桜花姫の金縛りの妖術は非常に強力であり九尺姉女房は完全に身動き出来なくなる。
「九尺姉女房…今度こそ桜餅に変化するのね!」
十八番の変化の妖術を再発動すると九尺姉女房は桜餅へと変化したのである。
『今度こそ九尺姉女房を仕留められたわね!』
桜花姫は桜餅に変化した九尺姉女房本体と分身体を即座に回収…。
『桜餅…頂戴するわね!』
パクッと頬張ったのである。
『やっぱり美味だわ!』
九尺姉女房を仕留めた桜花姫は即座に自宅へと帰宅する。
第十話
修行
九尺姉女房との戦闘から四日後…。東国の山奥にて老齢の僧侶と若齢の修行僧が真夜中の山道を前進する。二人は暗闇の山道を移動中…。
「和尚様…」
若齢の修行僧がビクビクした様子で発言する。
「如何したのだ?」
「真夜中の山道は不吉ですし…神出鬼没の悪霊が出現しそうですね…」
若齢の修行僧は非常に畏怖した様子だったのである。一方の老齢の僧侶は修行僧の様子に呆れ果てるものの…。
「其方は修行不足だな!聖職者が神出鬼没の悪霊に畏怖して如何するのだ?」
老齢の僧侶は神出鬼没の悪霊に畏怖する若齢の修行僧を揶揄したのである。
「ですが和尚様…本当に神出鬼没の悪霊が出現しても可笑しくない雰囲気ですよ!山道は暗闇ですし!」
若齢の修行僧は暗闇の山道に畏怖…。
「こんな場所で神出鬼没の悪霊と遭遇したら私は如何すれば?」
若齢の修行僧は落涙したのである。
「はぁ…其方は仕方ないな…」
老齢の僧侶は極度に畏怖し続ける修行僧の様子に苦笑いする。
『小僧はこんな状態で大丈夫なのだろうか?小僧にとって僧侶への道筋は程遠いであろうな…』
老齢の僧侶は内心若齢の修行僧が僧侶として本格的に活動出来るのは前途遼遠であると感じる。
「暗闇の山道は不吉かも知れないが…真夜中の山道も修行の一環だぞ!其方は今回の修行で真夜中の山道を克服出来るかも知れないな!」
「真夜中の山道も修行の一環なのかも知れませんが…和尚様…山道を移動中に神出鬼没の悪霊にでも襲撃されたら如何するのですか?生憎修行僧の私は法力を扱えませんし…私は悪霊の餌食に…」
「悪霊の襲撃だと?」
老齢の僧侶は修行僧の悪霊の一言に失笑したのである。
「神出鬼没の悪霊か…心配せずとも!本物の悪霊が出現したとしても私が法力を駆使すれば一目散に退散するだろうよ!其方は安心するのだぞ!」
「私は和尚様の法力に期待しますよ…」
『本当に大丈夫なのかな?正直期待出来ないかも…』
若齢の修行僧は正直不安がる。すると暗闇の道中…。不吉の物音が響き渡る。
「ん?不吉だな…物音か?」
「和尚様?物音の正体…一体何でしょうか?」
「気になるな…確認するか…」
「えっ…確認ですと!?大丈夫なのですか!?和尚様!?」
若齢の修行僧は非常に不安がる。
「不安なのか?不安であれば其方は目的地の東国に移動するのだ!」
「えっ…私一人で夜道を!?」
若齢の修行僧は一人だけで暗闇の山道を移動するのは辛苦であると感じる。
『真夜中の山道は不吉だし…』
「仕方ないですね!和尚様!今回は私も同行しますよ!」
二人は物音が響き渡る場所へと移動し始める。
第十一話
化身
老齢の僧侶と修行僧が移動し始めてから十数分後…。接近し続けると物音の正体とは何者かが肉類を咀嚼する音質だったのである。二人は問題の場所へと到達するのだが…。周囲は漆黒の暗闇であり目的地の様子は確認出来ない。近辺の岩陰から様子を観察する。
「一体何でしょうか?和尚様?」
「非常に不吉だな…気配は非常に不穏だ…」
数秒間観察し続けると老齢の僧侶は一瞬ゾッとする。
『此奴は…』
一方の若齢の修行僧は恐る恐る問い掛ける。
「和尚様?如何されましたか?」
すると老齢の僧侶は恐る恐る…。
「山中の野獣だろうな…」
問題の場所には巨体の野獣らしき物体が血肉を頬張る様子だったのである。
「山中の野獣ですと?非常に巨体ですね…」
「其処等の獣類には該当しない…恐らく野獣の正体は神族の化身だろうか?」
老齢の僧侶は巨体の野獣が神族の化身であると予想する。
「えっ…神族の化身ですと!?」
『こんな場所で神族の化身に遭遇するなんて…』
若齢の修行僧は極度の戦慄からか全身が身震いし始める。する。と正体不明の化身は二人の話し声に反応したのである。
「なっ!?化身に気付かれたか!」
「和尚様!?神族の化身に気付かれました!如何しましょう!?」
若齢の修行僧は大騒ぎし始める。
「化身に気付かれたのであれば!止むを得ないか!」
老齢の僧侶は即座に数珠を所持…。念仏を唱え始める。
「和尚様!化身の成敗を!」
一方の化身は怯まず二人を凝視し続ける。次第に殺気立った表情で二人を睥睨したのである。老齢の僧侶は必死に念仏を唱え続けるものの…。神族の化身は平然とした状態だったのである。
「ひっ!此奴は私の法力では駄目だ!一筋縄では対処出来ないぞ!」
老齢の僧侶は一筋縄では神族の化身を浄化出来ないと判断する。
「其方も逃走しろ!」
老齢の僧侶は一目散に逃走したのである。
「えっ!?和尚様!?」
一方の化身は殺気立った様子で若齢の修行僧に接近し始める。
「ひっ!」
『化身に殺される!』
若齢の修行僧も全身全霊で逃走したのである。彼等は一目散に逃亡し始めてから数十分後…。二人は東国の城下町にて再度合流する。
「はぁ…はぁ…和尚様…」
「其方か…神族の化身から無事に逃走出来たのだな…」
若齢の修行僧は無事に生還出来…。涙腺から涙が零れ落ちる。
「其方が無事で良かった…」
二人は命拾い出来…。安堵したのである。
「ですが和尚様?先程の怪物は…和尚様でも成敗出来ないのですか?」
若齢の修行僧が問い掛けると老齢の僧侶は恐る恐る…。
「先程の化身…非常に強力だぞ!彼奴は私一人の法力では成敗出来ない…人間の僧侶では対処するのは不可能かも知れない…」
化身は想像以上に強力であり其処等の僧侶では対処出来ない。
「和尚様でも成敗出来ないなんて…先程の化身は一体何者なのですか?」
修行僧は恐る恐る問い掛ける。
「私の見解だが…恐らくであるが彼奴の正体は太古の大昔に極悪非道の人間によって惨殺された神族の亡霊なのだろう…」
老齢の僧侶は先程の化身が神族の亡霊であると予想する。
「神族の…亡霊ですと?先程の化身が…」
先程は周囲が暗闇であり視界が不良であったが…。
「恐らくだが…化身の正体は大昔に惨殺された犬神なのかも知れないな…人間達に対する憎悪は私達が想像する以上だろう…」
先程の化身との対峙で人間達に対する憎悪を痛感したのである。
「犬神の…化身ですと?」
老齢の僧侶は巨体の化身が野良犬の亡霊であると知覚する。
「和尚様の法力でも犬神の亡霊を浄化出来ないのであれば…一体如何すれば犬神の亡霊を浄化出来るのでしょうか?」
老齢の僧侶は一瞬沈黙するのだが…。
「犬神の亡霊を浄化出来るとすれば…西国の最上級妖女…不寝番の月影桜花姫様…彼女以外には存在しないだろうな…人間の僧侶では対処は不可能だ…」
「西国の月影桜花姫様ですと?」
「桜花姫様…彼女なら犬神の亡霊を浄化出来るかも知れない…」
犬神の亡霊を浄化出来るのは最上級妖女の月影桜花姫以外には存在しないだろうと認識する。
第十二話
因縁
翌朝の出来事である。僧侶の八正道は室内を清掃するのだが…。
「えっ?」
戸棚から摩訶不思議の刀剣を発見したのである。
『ひょっとして刀剣でしょうか?』
八正道は恐る恐る刀剣に接触する。
「なっ!?」
『夜桜崇徳王様の名刀〔退魔霊剣〕では!?』
退魔霊剣とは国宝一級の名刀であり戦乱時代の英雄とされる最上級武士の一人…。東国の軍神として熟知される夜桜崇徳王が所有した天道金剛石の刀剣である。戦乱時代では単なる刀剣として扱われたのだが夜桜崇徳王の没後…。神出鬼没の悪霊を征伐する名刀退魔霊剣と命名されたのである。当時の怨敵であった南国と北国の武士達の子孫達からは今現在でも不吉の妖刀として皮肉られる。
『如何してこんな国宝一級の代物が…私の寺院なんかに?』
不思議がる八正道であるものの…。フッと想起する。
『一昨年に知人に贈呈された代物でしたね!』
一昨年にとある知人から退魔霊剣を頂戴した内容を忘却したのである。
「清掃中に退魔霊剣を発見出来たのは何かしらの因果関係かも知れませんね!」
『折角ですし…退魔霊剣は記念品として私の自室にでも装飾しますかね!』
八正道はルンルンとした気分で自室の屏風に退魔霊剣を装飾する。
『ですが退魔霊剣が五百年前の代物なんて…私には想像も出来ませんね…』
退魔霊剣は列記とした五百年前の代物であるものの…。非常に新品だったのである。八正道は退魔霊剣に魅了される。
『こんな新品の刀剣で…大勢の悪者達を撃退出来れば!僧侶の私でも本物の武士みたいに大勢の村人達から敬愛されるのですがね!』
八正道は自身が退魔霊剣で奮闘する光景を妄想したのである。
『明日の早朝にでも…暇潰しに西国の国境で素振りするのも悪くないですね!』
翌朝の早朝…。八正道は退魔霊剣を所持すると東国と西国の国境に位置する山道へと移動したのである。恐る恐る周囲の人通りを警戒する。
『早朝であれば国境の山道でも人通りは少数ですし…大丈夫でしょうね…』
時間帯は早朝で人通りも皆無である。八正道は山中で力一杯素振りを開始する。
「常日頃の気苦労も解消出来ますし…最高ですね!」
『私も歴史人物の夜桜崇徳王様みたいに大勢の悪者達を撃退して…誰かを守護したいですな!』
八正道にとって戦乱時代に大活躍した夜桜崇徳王は憧憬の対象者であり八正道は只管に彼を意識したのである。八正道は無我夢中に何度も何度も素振りを反復し続ける。
『不寝番の桜花姫様みたいですが…極悪非道の悪霊でも出現しませんかね?』
神出鬼没の悪霊が出現しないか妄想したのである。
『退魔霊剣で極悪非道の悪霊を仕留められるのであれば…是非とも夜桜崇徳王様の退魔霊剣で極悪非道の悪霊を仕留めたいですな!』
すると直後…。
「なっ!?」
突如として極度の胸騒ぎを感じる。
『胸騒ぎでしょうか?』
突如として極度の死臭と強烈なる殺気が此方に接近するのを察知したのである。
『非常に不吉ですね…』
八正道は正体不明の気配に警戒し始める。
『極度の死臭と殺気…一体何が出現するのでしょうか?』
正体不明の不吉の気配は刻一刻と国境の山道へと急接近する。
『気配の正体…人外なのは確実でしょうね…』
本来八正道は霊感が皆無であるものの…。今回は強烈なる殺意を感じる。
『一体何が接近中なのか?』
八正道が警戒し始めた数秒後…。
「えっ…」
全身が血塗れで規格外に巨体の野良犬が国境の山道に出現したのである。
『血塗れの…野良犬!?』
八正道は規格外の野良犬にゾッとし始める。
『野良犬は怪物みたいに巨体ですね…此奴は一体何者でしょうか?』
左側の前頭部が白骨化した状態であり巨体の野良犬は正真正銘神出鬼没の悪霊であると認識出来る。
『醜悪なる容姿…此奴は野良犬の悪霊なのか!?』
巨体の野良犬の口先には咀嚼された肉片らしき物体が確認出来…。山中の野獣を捕食したのであると推測出来る。
『野良犬の悪霊は遭遇した山中の野獣でも食い殺したのでしょうか?』
野良犬の悪霊は自身を食い殺しそうな形相で八正道を凝視する。一方の八正道は野良犬の悪霊に対する。極度の恐怖心により恐る恐る後退りしたのである。
「殺気の正体は野良犬の悪霊だったのか!?」
『人間の私でも感じられる強烈なる殺気…此奴は非常に厄介なのかも知れませんね!私は如何するべきなのか!?』
八正道は野良犬の悪霊に殺害されるかも知れないと危惧するのだが…。
「えっ!?」
野良犬の悪霊と対峙すると不自然にも退魔霊剣がカタカタッと震え始める。
『退魔霊剣が不自然に震え始めるなんて…超常現象なのか!?』
八正道は突然の超常現象に動揺するものの…。平常心に戻ったのである。
『ひょっとして退魔霊剣は私に野良犬の悪霊を仕留めろと!?非力の私に野良犬の悪霊を仕留められるのか!?』
本音としては逃亡出来るのであれば一目散に逃亡したい八正道であるが…。無表情で野良犬の悪霊を凝視する。
『現在地は東国と西国との国境…最前線の私が逃亡すれば東国にも西国の村里にも悪影響が…』
戦闘を放棄して逃亡すれば自身だけは命拾い出来るものの…。
『私が主戦場から逃亡すれば東国は勿論…西国の村里にも被害が及びましょう…何よりも西国の村里は桜花姫様が安住される武陵桃源!』
此処で戦闘を放棄すれば悪霊の暴走によって確実に大勢の村人達が惨殺されるのは明白である。
『最前線の私が全身全霊で桜花姫様の武陵桃源を死守しなくては!』
八正道は野良犬の悪霊との一対一の血戦を決意する。
「野良犬の悪霊よ…私と真剣勝負です!」
八正道の表情が変化すると野良犬の悪霊がピクッと反応したのである。野良犬の悪霊は鬼神の形相でギロッと八正道を睥睨し始める。
「なっ!?」
野良犬の悪霊は神速の猛スピードで八正道へと突進したのである。一方の八正道は野良犬の悪霊の突進を咄嗟に回避…。
『危なかった!』
八正道は回避に成功する。一方野良犬の悪霊は一直線に突進すると八正道の背後に位置する岩壁へと突っ込んだのである。
「はぁ…」
野良犬の悪霊の突進によって頑強なる岩壁が抉れる。
『危機一髪ですね…』
八正道は間一髪回避には成功したものの…。
『岩壁が抉れるなんて…こんな巨体に突進されたら全身が粉砕されますね…』
野良犬の悪霊の想像以上の頑強さに戦慄したのである。八正道は野良犬の悪霊に戦慄するものの…。
『反撃しなくては!』
八正道は野良犬の悪霊に反撃したのである。
「野良犬の悪霊!覚悟するのです!」
八正道は神速の身動きにより野良犬の悪霊の背後へと移動し始め…。野良犬の悪霊の背後から退魔霊剣で斬撃したのである。
『野良犬の悪霊を…仕留めたか!?』
八正道は手応えを感じるものの…。
「なっ!?」
野良犬の悪霊の姿形がパッと消滅する。
『ひょっとして先程の姿形は残像なのか!?』
野良犬の悪霊は神速の身動きによって八正道の斬撃を咄嗟に回避したのである。
『先程の姿形は悪霊の残存であったか!?』
野良犬の悪霊は一瞬で八正道の背後へと移動する。
「神速の身動きだ…」
『野良犬の悪霊は一瞬の身動きで私の背後に移動したのか!?』
すると野良犬の悪霊は再度ギロッとした鬼神の形相で八正道を睥睨した直後…。
「えっ!?」
退魔霊剣がピカッと蛍光色に発光したのである。
『退魔霊剣が発光するとは…一体何が?』
すると全身に重苦しい殺気を感じる。天空一面が黒雲により覆い包まれる。
『天空が…黒雲に覆い包まれるなんて…』
直後…。ピカッと落雷が八正道の頭上より落下したのである。
『落雷か!?』
八正道は咄嗟の判断により落雷の回避に成功する。
「危機一髪だった…」
八正道は落雷を回避出来…。安堵したのである。
『ひょっとして退魔霊剣は私に生命の危機を予知したのか?』
すると突然…。
「貴様は僧侶の身分であるが…彼奴に酷似するな…」
野良犬の悪霊は突如として人語で発言し始める。
「なっ!?」
『野良犬の悪霊…人語で喋った!?』
八正道は突然人間の口言葉で発語した野良犬の悪霊に驚愕したのである。
「野良犬の悪霊は人語で喋れるのか!?」
「貴様も彼奴と同様の反応であるな…」
「彼奴とは一体誰なのでしょうか?」
八正道は恐る恐る野良犬の悪霊に問い掛ける。すると野良犬の悪霊は八正道の問い掛けに即答する。
「五百年前に存在した夜桜崇徳王と名乗る…愚劣なる人間の若武者である…」
「なっ!?」
『夜桜崇徳王だって!?』
野良犬の悪霊から夜桜崇徳王の名前を傾聴した直後…。八正道は何が何やら困惑したのである。
「ひょっとすると僧侶の貴様は…戦乱時代に実在した夜桜崇徳王と名乗る人間の武士の再来であるな…」
「えっ…貴方は一体何を?」
『私が夜桜崇徳王様の再来ですと!?』
野良犬の悪霊の発言に八正道は絶句する。
「貴様は雰囲気もだが…醜悪なる人間としては非常に清心であるからな…貴様は愚劣なる人間…夜桜崇徳王に共通する…」
「夜桜崇徳王様が…」
『ですが私の前世が…偉人の夜桜崇徳王様ですか♪』
八正道は自身が崇徳王の再来である事実に内心大喜びしたのである。
『こんな私が崇徳王様に共通するなんて…非常に感慨深いですね♪』
八正道は警戒した様子で恐る恐る…。
「貴方は列記とした神出鬼没の悪霊みたいですが…其処等の神出鬼没の悪霊とは異質的ですね…貴方は一体何者でしょうか?」
問い掛けられた野良犬の悪霊は即答する。
「私は醜悪なる人間達から邪霊餓狼と呼称される…五百年前の戦乱時代…醜悪なる人間達によって惨殺された野良犬の亡霊であるぞ…」
「野良犬の亡霊…邪霊餓狼…」
邪霊餓狼とは極悪非道の人間に惨殺された野良犬の亡霊である。単なる野良犬の悪霊と認識される反面…。汚染された自然界から誕生した悪霊の集合体とも呼称される。共通する伝承では邪霊餓狼は人間達に憎悪…。邪霊餓狼と遭遇した人間は確実に食い殺されるのが通説とされる。邪霊餓狼は実体としての肉体を死滅させたとしても邪霊餓狼の呪力は本体を死滅させた人間に憑霊…。対する邪霊餓狼に憑霊された人間は大勢の人間達を邪霊餓狼の呪力で呪殺する。大勢の人間達を殺害し続けると最終的には邪霊餓狼の呪力によって憑霊された人間の肉体は腐敗し始め…。腐敗した肉体は確実に崩れ落ちるとされる。
『悪霊は悪霊でも…最初に遭遇した悪霊が邪霊餓狼なんて…私は人一倍不運ですね…今回は私に対する試練なのでしょうか?』
八正道は自身の不運さに嫌悪したのである。
「ですが如何して今更…邪霊餓狼が出現したのですか?」
邪霊餓狼は一瞬沈黙するものの…。
「今迄に愚劣なる人間の亡者達を利用したが…結局貴様達醜悪なる人間達を呪殺出来なかったからな…私自身が直接的に愚劣なる人間達を全滅しに顕現したのだ…」
邪霊餓狼の発言から八正道はピクッと反応する。
「ひょっとして今迄…各地の村里に出現した幾多の亡者達は邪霊餓狼が意図的に出現させたのですか?」
邪霊餓狼は八正道の質問に即答したのである。
「勿論だとも…一年前に世界樹である妖星巨木に憑霊して…大勢の地獄の亡者達を利用したのも私自身であるからな!」
「邪霊餓狼…去年発生した悪霊大事件の黒幕は貴方だったのですね…」
妖星巨木とは本来純粋無垢で人畜無害の樹木であるが悪霊の集合体である邪霊餓狼の怨念が人畜無害の妖星巨木に憑霊…。戦乱時代で死去した大勢の亡者達を冥界から復活させ各地で村人達を襲撃させたのである。
「結局は…夜桜崇徳王の花嫁の…再来によって亡者達の暴走は阻止されたが…」
「崇徳王様の…花嫁の再来ですと?」
『ひょっとすると崇徳王様の花嫁の再来とは…月影桜花姫様でしょうか?』
八正道は夜桜崇徳王の花嫁の再来が最上級妖女の月影桜花姫であると予想する。
「如何やら今回ばかりは幸運にも夜桜崇徳王の花嫁の再来は不在であるからな…非常に好都合である!」
「ですが今回は私が全身全霊で邪霊餓狼の野望を阻止しますよ!貴方は今回も各地の村里を襲撃するみたいですからね!」
八正道は強気で返答したのである。
「貴様は人間の分際で随分と強気であるな…手始めに僧侶の貴様を完膚なきまでに呪殺してから…醜悪なる人間達を殲滅しなくては…」
『僧侶を呪殺して僧侶の肉体に憑霊出来れば…花嫁の再来とて迂闊には手出し出来なくなるからな…』
邪霊餓狼は口先より高熱の火球を発射したのである。
「今度こそ死滅せよ!夜桜崇徳王の再来!」
「火球だと!?」
八正道は高熱の火球を一刀両断…。高熱の火球を斬撃したのである。両断された火球は八正道の背後にて爆散…。
「危機一髪ですね…」
『こんなにも高熱の火球が直撃すれば私は火達磨だったでしょうね…』
八正道の背後の地面には半球型のクレーターが形作られる。
『先程の火球で…天道金剛石の白刃が高熱で赤化するなんて…』
火球の灼熱によって退魔霊剣の白刃が赤化する。
『通常の刀剣であれば確実に屈折したでしょうね…』
邪霊餓狼は再度口先から高熱の火球を発射したのである。
「今度こそ死滅しろ!崇徳王の再来!」
「なっ!?」
八正道は咄嗟に火球を回避する。
『畜生…崇徳王の再来は間一髪回避するとは…』
「愚劣なる人間の分際で私の攻撃を回避するとは…貴様が夜桜崇徳王の再来なのは決定的であるな!」
邪霊餓狼は再度鬼神の形相で八正道を睥睨…。
「崇徳王の再来!」
『今度こそ即死するのだ!』
邪霊餓狼は全身全霊で八正道に突進したのである。邪霊餓狼は猛スピードであり対する八正道は回避出来ない。
『止むを得ないか!』
八正道は咄嗟の斬撃で邪霊餓狼の右側の前脚を斬撃したのである。
「ぎゃっ!」
間一髪邪霊餓狼の右側の前脚を斬撃…。
「はぁ…」
『間一髪でしたね…』
八正道は邪霊餓狼の突進攻撃を無力化したのである。
『一歩間違えれば…殺害されたのは私だったでしょうね…』
前脚を斬撃された邪霊餓狼はバタッと地面に横たわる。
『此処で邪霊餓狼を仕留められれば…東国も西国の村里も無事に守護出来る!』
八正道は警戒した様子で恐る恐る衰弱化した邪霊餓狼へと近寄る。
「戦乱時代の悪霊…完全に成仏せよ…」
八正道は瀕死の状態である邪霊餓狼を斬撃する寸前…。
「えっ!?」
『邪霊餓狼…』
八正道は斬撃したいが邪霊餓狼の悲哀の表情を直視すると手出し出来なくなる。
『駄目だ!相手が極悪非道の悪霊だとしても…私には殺せないな!』
八正道は自分自身を情けなく感じる。
「私が此処で…元凶の邪霊餓狼を仕留めなければ…」
『何故私は悪霊を相手に躊躇する!?東国と西国の大勢の村人達が殺害されるかも知れないのに…如何して私は瀕死の邪霊餓狼を仕留められないのか!?』
相手が極悪非道の悪霊であっても衰弱化した表情を直視し続けると心苦しくなる。
「貴様は…こんな虫の息の悪霊を相手に躊躇いとは…所詮貴様の慈悲は愚劣なる夜桜崇徳王と同様であるな…貴様の躊躇いが愚劣なる人間達の殺戮へと直結するのだ!」
「なっ!?人間達の殺戮ですと!?」
八正道はゾッとしたのか極度の胸騒ぎを感じ始める。
『強烈なる殺意…邪霊餓狼は一体何を!?』
八正道は邪霊餓狼に警戒すると恐る恐る後退りする。
「崇徳王の再来よ…私の霊気で貴様の身動きを封殺する!覚悟するのだな!」
「私の身動きを封殺ですと!?」
すると突然…。
「ぐっ!」
『一体何が!?身動き出来ないとは…』
突如として八正道は身動き出来なくなる。
『ひょっとして邪霊餓狼の金縛りなのか!?身動き出来なくなるなんて…』
邪霊餓狼の金縛りは非常に強力であり八正道は指先一本すら動かせない。
「金縛りで貴様の身動きを封殺したのだ…最早貴様は身動きしたくとも身動きが出来まい…崇徳王の再来よ…金縛りの気分は如何だろうか?」
邪霊餓狼は一息したかと思いきや…。
「私の霊魂は貴様の肉体に憑霊する…最早私には腐敗し掛けた野良犬の肉体も不必要なのだ!」
直後である。
『邪霊餓狼の肉体から…』
邪霊餓狼の肉体から黒煙が発生すると八正道の肉体へと憑霊し始める。
「なっ!?」
邪霊餓狼の肉体から発生した不定形の黒煙こそが邪霊餓狼の本体であり亡魂である。邪霊餓狼の亡魂は幽体離脱により八正道の肉体へと憑霊し始める。同時に目前の視界が黒化し始め…。
『目前の視界が…』
八正道の意識が遠退き始める。
「ぐっ!」
『私の意識が…』
邪霊餓狼の憑霊により八正道は完全に意識を喪失する。邪霊餓狼が八正道の肉体に憑霊した数秒後…。邪霊餓狼の野良犬の肉体が腐敗し始めると一瞬で崩れ落ちる。
「人間の肉体に憑霊出来たな♪思う存分に行動出来るぞ…」
『人間は人間でも…此奴は私が憎悪する夜桜崇徳王の再来であるからな♪思う存分に悪用出来そうだ…』
八正道の肉体に憑霊出来…。邪霊餓狼は大喜びする。
「即刻愚劣なる人間達を呪殺したい気分だが…」
『手始めに夜桜崇徳王の花嫁の…再来から呪殺するべきだな…』
邪霊餓狼の霊体は八正道の肉体に憑霊した状態で西国の村里へと移動を開始…。標的である月影桜花姫の家屋敷へと直行する。
第十三話
霊気
八正道の肉体に憑霊した邪霊餓狼が移動を開始し始めてから同時刻である。北国の村里では粉雪妖女の雪美姫が散歩中より…。
「えっ…」
邪霊餓狼の強大なる霊気を察知したのである。
「何かしら?」
『西国から上級悪霊の霊気を感じるわ…西国では一体何が発生したのかしら?』
気になった雪美姫は即座に西国の村里へと急行する。山道を移動中…。突然周辺の空気が重苦しくなる。
『気味悪いわね…悪霊が出現しそうな雰囲気だわ…恐らくは大群ね…』
山道の道中にて悪霊特有の無数の霊気を察知する。
「えっ?」
すると直後である。
『大群だわ…ひょっとして彼等は…』
周辺の地面より数十体…。数百体もの悪食餓鬼がふら付いた身動きでゾロゾロと出現したのである。
『彼等は悪食餓鬼の大群だわ…』
悪食餓鬼の大群がゾロゾロと雪美姫へと殺到し始め…。雪美姫は悪食餓鬼の大群に包囲される。
『仕方ないわね…』
一方の雪美姫は相手が悪食餓鬼であり畏怖しなかったのである。
「あんた達は氷結しなさい…」
雪美姫は即座に氷結の妖術を発動…。すると悪食餓鬼の大群は全身の氷結により身動き出来なくなる。氷結から数秒後…。氷結した彼等の肉体はバラバラに崩れ落ちる。
『他愛無いわね…』
雪美姫は氷結により悪食餓鬼の大群を一掃するのだが…。
「彼等は…」
今度は無数の悪食餓鬼の集合体である百鬼悪食餓鬼が三体も出現したのである。
『今度は親玉の百鬼悪食餓鬼だわ…こんな場所に三体も出現するなんてね…』
雪美姫は再度氷結の妖術を駆使…。三体の百鬼悪食餓鬼を氷結させたのである。
『百鬼悪食餓鬼が親玉だとしても…所詮は悪食餓鬼の集合体だからね…』
氷結した三体の百鬼悪食餓鬼はバラバラと肉体が崩れ落ちる。
「今度は何が出現するかしら?」
目前より黒雲が発生し始め…。四体の骸骨荒武者が出現したのである。
『彼等は戦死者達の亡霊…骸骨荒武者ね…』
四体の骸骨荒武者は刀剣で雪美姫に攻撃するものの…。身動きが鈍足であり容易に回避出来る。
「あんた達も氷結するのね…」
四体の骸骨荒武者は雪美姫の氷結の妖術により全身が氷結し始め…。身動きを封殺されたのである。
「戦死者達の亡霊…成仏しなさい…」
数秒後…。四体の骸骨荒武者は先程の悪食餓鬼同様に肉体がバラバラと崩れ落ちる。
『片付いたわね…』
すると周辺の無数の霊気は鎮静化され…。重苦しい空気も正常に戻ったのである。
『此処は大丈夫そうだけれど…問題は西国の霊気なのよね…西国では一体何が出現したのかしら?』
「一先ずは桜花姫と合流してからね!」
雪美姫は即座に西国の村里へと急行する。
最終話
消滅
粉雪妖女の雪美姫が行動を開始し始めてから同時刻…。
「えっ…」
桜花姫は不吉の気配に反応する。
『一体何かしら?』
桜花姫は自宅にて昼寝中であったものの…。
「近辺の山中から無数の霊気を感じるわ…」
『霊気の集合体が出現したのかしら?』
極悪非道の霊気の集合体を察知すると一目散に起床したのである。
「非常に強力だわ…」
『霊気だけなら以前宿屋で退治した吸血羅刹女に匹敵するわね…』
無数の霊気は非常に強力であり霊気のみなら最上級悪霊の代表格とされる吸血羅刹女に拮抗する。
『東国との国境に悪霊の集合体が出現したのかしら?』
桜花姫は外出する直前…。
「えっ!?」
突如として集合体の霊気がパッと消失すると霊気を感じられなくなる。
『如何して突然…』
「霊気が消失しちゃったのかしら?不吉だわ…」
桜花姫は警戒した様子でありソワソワし始める。
『一体…何が?出現したのかしら?』
「気味悪いわね…」
すると直後である。
「きゃっ!」
何者かによる突然の板戸のノックに驚愕する。
「突然誰よ!?吃驚するじゃない!」
桜花姫は玄関の板戸へと移動したのである。
『一体…誰かしら?』
「何よ?」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る玄関の板戸を開放させる。
「えっ!?」
玄関口には血塗れの刀剣を所持した八正道が無表情で佇立する。
「誰かと思いきや…あんたは八正道様?」
桜花姫は突然の八正道の訪問に驚愕したのである。
「八正道様が私の家屋敷に訪問するなんて…一体如何して?」
何よりも気になるのは血塗れの刀剣であり僧侶である八正道が如何してこんな代物を所持するのか非常に気になる。
『刀剣なんて物騒だわ…如何して八正道様が血塗れの刀剣を?』
恐る恐る八正道の表情を直視…。
『八正道様…』
八正道の表情は精気が感じられない無表情だったのである。桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りし始める。
『彼からは精気が感じられないわ…八正道様は一体如何したのかしら?』
目前の人物は姿形こそ八正道本人なのだが…。
『相手は八正道様なのに…不吉だわ…』
人一倍温柔敦厚の八正道が別人みたいに感じられる。
『普段の八正道様とは別人みたいだわ…ひょっとして八正道は一年前の妖星巨木の事件みたいに何者かによって憑依されちゃったのかしら?』
桜花姫は八正道らしき人物に睥睨したのである。
「あんたは一体何者よ?姿形は八正道様本人でも…中身は完璧に別物よね?」
すると八正道らしき人物が無表情で発言し始める。
「最上級の妖女である貴様には…小細工は通用しまいか…一瞬で私の正体を見破られるとは…」
桜花姫は警戒した様子で恐る恐る後退りしたのである。
「はっ?あんたは一体何者なのよ?」
八正道らしき人物は桜花姫の問い掛けに即答する。
「私が誰かって?私は邪霊餓狼…一年前の戦闘では最上級妖女である貴様によって成仏させられた…悪霊の片鱗とでも…」
「悪霊の片鱗?邪霊餓狼ですって?」
桜花姫は何が何やら理解出来なかったのか珍紛漢紛だったのである。
「私は一年前に世界樹の妖星巨木に憑霊した悪霊…所謂悪霊の集合体だよ…」
「妖星巨木ですって!?」
桜花姫は妖星巨木の一言にピクッと反応する。
「あんたが妖星巨木に憑霊した悪霊の正体だったのね…」
邪霊餓狼は一年前の悪霊大事件の黒幕であり桜花姫は驚愕したのである。
「無論であるが…貴様の神通力によって霊体の九分九厘が浄化されたのは非常に無念であるぞ…」
「今現在のあんたは悪霊の集合体の…所謂残滓なのね…」
邪霊餓狼は余裕の態度であり表情が変化しない。
「如何やら今現在の貴様は一年前の戦闘みたいに莫大なる神通力を使用出来ないみたいだな…最強の妖女である貴様さえ此処で呪殺出来れば…其処等の愚劣なる人間達の殲滅は片手間である!」
邪霊餓狼にとって脅威なのは実質最上級妖女の桜花姫のみであり桜花姫以外の妖女やら人間達は虫けら同然だったのである。
『今現在の僧侶の肉体が死滅したとしても…再度別の人間に憑霊するだけだからな!誰であっても私は仕留められない!相手が崇徳王の花嫁だったとしても同様だ!』
本来邪霊餓狼の本体は不定形の霊体であり幽体離脱によって実体としての多種多様の生命体は勿論…。多種多様の器物にも自由自在に憑霊出来る。
「自身を最上級の妖女と豪語する貴様であっても…私が憑霊した人間の僧侶には手出し出来ないであろう!」
桜花姫はピクッと反応する。
「あんたね…」
『私でも八正道様には妖術なんて使用出来ないわ…一体如何するべきなのかしら?』
一方の邪霊餓狼は困惑し続ける桜花姫に冷笑したのである。
「如何やら貴様は本当に人間の僧侶には手出し出来ないみたいだな!」
『夜桜崇徳王の再来に憑霊したのは正解であったな!憑霊したのが別人であれば問答無用に猛反撃されただろうが…』
邪霊餓狼は退魔霊剣で桜花姫の右手首を斬撃…。
「きゃっ!」
桜花姫は掠り傷であったがバタッと床面に横たわったのである。
「最上級の妖女である貴様にとって…こんな人間の僧侶は妖術を駆使すれば簡単に仕留められるのに勿体無いな!」
妖術を駆使すれば事態の打開は容易なのだが…。中身こそ邪霊餓狼であるが相手は恩人の八正道であり桜花姫は八正道を相手に手出し出来ない。
「いい気味だな!所詮貴様は荒唐無稽の妖術が使用出来なければ何も出来ない非力の小娘同然なのだ!」
邪霊餓狼は八正道に手出し出来ない桜花姫に冷笑し続ける。
「ぐっ…」
『八正道様…』
極度の悲痛により桜花姫は精神的に参ったのか落涙し始める。
「夜桜崇徳王の花嫁の再来よ…本日が貴様にとって最期の命日である!皮肉にも貴様が自身の家族と豪語する人間の僧侶によって貴様は惨殺されるのだ!」
『勿論貴様が家族と豪語する僧侶も呪殺するから…無間地獄で夜桜崇徳王の再来とも再会出来るだろうが!』
桜花姫は退魔霊剣を所持する邪霊餓狼に斬撃される寸前…。
「えっ…」
邪霊餓狼は寸前で身動き出来なくなる。
「ぐっ!」
突如として邪霊餓狼の両腕が氷結したのである。
「なっ!?氷結だと!?妖術なのか!?一体何が発生したのだ!?」
邪霊餓狼の両腕が突然の氷結により退魔霊剣を扱えなくなる。
「えっ!?氷結?」
「危機一髪だったわね…最上級妖女の月影桜花姫ちゃん♪」
邪霊餓狼の背後には煌びやかな水色の着物姿…。花柄の扇子を所持する花魁の女性が佇立したのである。
「えっ…」
『彼女は花魁かしら?』
桜花姫は恐る恐る花魁の女性に問い掛ける。
「花魁みたいだけど…あんたは一体誰なの?ひょっとしてあんたも妖女かしら?」
花魁の女性は満面の笑顔で名前を名乗り始める。
「桜花姫♪私よ…私♪粉雪妖女の雪美姫よ♪」
「えっ!?あんたは…粉雪妖女の雪美姫だったの!?」
粉雪妖女の雪美姫は口寄せの妖術で復活してからは花魁として活動中だったのである。桜花姫は雪美姫の雰囲気が以前とは別人であり驚愕する。
『花魁の正体が雪美姫だったなんて…一瞬別人かと…』
「雪美姫…如何してあんたがこんな場所に?」
「西国の村里から薄気味悪い霊気を察知したのよ…問題の場所があんたの家屋敷だったのは正直意外だったけれどね♪」
「一年前は敵対者だったあんたが…私に助太刀するなんて意外ね…」
桜花姫は雪美姫の行動が意外であると感じる。
「別に…私は単純に同族の妖女に手出しする人間が気に入らないだけよ!」
雪美姫は桜花姫への助太刀を否定したのである。
『雪美姫…彼女は本当に強情ね…』
一方の桜花姫は雪美姫の発言に苦笑いする。
「雪美姫…助太刀!感謝するわね!」
桜花姫は雪美姫の助太刀にニコッと微笑んだのである。
「勘違いしないで!誰があんたの助太刀なんか…別に私はあんたなんて…」
雪美姫は表情が赤面し始め…。桜花姫の発言を再度否定したのである。
「私は人間の分際で妖女に手出しする此奴が気に入らないだけよ!」
すると邪霊餓狼は恐る恐る背後の雪美姫を凝視し始め…。
「貴様は…」
「あんた…何よ?」
邪霊餓狼は背後の雪美姫を睥睨したのである。
「如何やら貴様も…妖女の小娘みたいだな…」
「あんたは人間の僧侶みたいだけれど…桜花姫に手出しするなら私は相手が人間の僧侶でも手加減しないわよ!」
雪美姫は強気の姿勢であったが…。
「雪美姫!八正道様には手出ししないで!」
桜花姫は雪美姫に切願する。
「えっ!?僧侶はあんたを殺そうと…」
「八正道様は悪霊に憑霊されただけなの!彼を殺さないで…」
雪美姫は恐る恐る両目を瞑目させる。
『彼自身は普通の人間なのに…八正道って僧侶の肉体からは無数の亡者達の霊気が感じられるわね…』
「人間の僧侶は極悪非道の亡者達に憑霊されちゃったのね…」
雪美姫は恐る恐る桜花姫に問い掛ける。
「桜花姫?八正道って僧侶に憑霊した悪霊を除霊するとか…一度変化の妖術で八正道を食い殺してから口寄せの妖術で再度八正道を元通りに復活させるとか…出来ないの?最上級妖女のあんたなら出来そうだけど…」
雪美姫に問い掛けられた桜花姫であるが桜花姫は困惑した表情で…。
「生憎私は…除霊の妖術は苦手なのよね…」
「えっ…」
桜花姫は除霊の妖術が苦手であり雪美姫は拍子抜けする。
「あんたは…除霊の妖術が出来ないの?」
『桜花姫…今迄私はあんたが全能だって認識だったけど…』
万能そうな桜花姫にも苦手分野が存在するのだと認識したのである。
「最強のあんたが除霊の妖術が苦手なんてね…意外だわ…」
「除霊の妖術は危険なのよ…」
『除霊に失敗すれば八正道様の人格を破壊する可能性だって否定出来ないし…』
現実問題として除霊の妖術は除霊に成功出来たとしても悪霊に憑霊された人間は最悪の場合…。除霊の副次効果により人格が崩壊する可能性も否定出来ない。何よりも術者が不得意である場合は再起不能の精神崩壊により悪霊に憑霊された人間は廃人へと堕落する可能性も否定出来なくなる。何よりも邪霊餓狼は悪霊でも悪霊の始祖である。除霊の妖術が成功したとしても何度でも他者へと憑霊出来る。
「除霊の妖術が駄目なら…一体如何すれば人間の僧侶から悪霊を除霊させられるのかしら?」
「一度変化の妖術で八正道様を桜餅に変化させて食べちゃえば簡単でしょうけど…人一倍食いしん坊の私でも八正道様を食い殺すなんて倫理的に出来ないわ…」
『桜花姫にとって悪霊に憑霊された八正道って僧侶は余程大切なのね…八正道は余程の聖人なのかしら?』
雪美姫は一人の人間を助力したい桜花姫が一瞬意外であると感じる。
『八正道の身動きは封殺出来ても…私には彼を殺さずに除霊なんて絶対に出来ないし…一体如何すれば八正道に憑依した悪霊を除霊出来るのよ?』
雪美姫は困惑した直後…。
「桜花姫ちゃんよ!如何やら間に合ったみたいだね!」
「私が悪者を徹底的に征伐するから安心してね!」
突如として神族の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫が参上する。
「あんた達は蛇神の蛇体如夜叉婆ちゃんと山猫妖女の小猫姫!?如何してあんた達が私の家屋敷に…」
「西国の村里から極悪非道の霊気を察知したからね!」
「現場が桜花姫ちゃんの家屋敷だったとはね…」
蛇神の蛇体如夜叉と山猫妖女の小猫姫も邪霊餓狼の強大なる霊気を目印に桜花姫の家屋敷へと参上したのである。
「えっ!?桜花姫姉ちゃん?悪者は?」
小猫姫は家屋敷全体を警戒するものの…。
「小猫姫よ…悪者はね…」
「えっ?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
蛇体如夜叉は苦笑いした表情で氷結により身動き出来なくなった八正道を恐る恐る指差したのである。
「えっ?八正道様でしょう?如何して刀剣を?」
「姿形は八正道でも…此奴の中身は邪霊餓狼って悪霊の始祖だよ…」
蛇体如夜叉は呆れ果てた様子で八正道の肉体に憑霊した邪霊餓狼を直視する。
「邪霊餓狼も非常に執念深いね…最早戦乱時代は終焉したのにさ…」
「貴様…」
『此奴は老婆の分際で…』
対する邪霊餓狼は憤慨の表情で蛇体如夜叉を睥睨し始める。
「邪霊餓狼よ…今更人間達に復讐して如何するのさ?」
蛇体如夜叉の問い掛けに邪霊餓狼は即答したのである。
「貴様達は私を浄化出来たとしても…愚劣なる人間達は未来永劫戦乱時代の悲劇を頻発させるだろう!愚劣なる人間達を全滅させなければ…今後も自然界は汚染させられるだけだぞ!貴様達は愚劣なる人間達の愚行を理解出来ないのか!?」
邪霊餓狼は感情的に発言する。
『最早復讐心と悪意の集合体である邪霊餓狼に説得は無意味だね…』
邪霊餓狼は亡者達の復讐心と悪意の集合体であり蛇体如夜叉は説得が不可能であると判断する。
「邪霊餓狼よ…覚悟しな…」
「貴様は…一体何を?」
「何って?今日があんたの命日だからね…」
蛇体如夜叉は左手が白蛇へと変化したかと思いきや…。蛇体如夜叉の左手である白蛇が八正道の肉体に接触したのである。直後…。
「ぐっ!」
『蛇神の蛇体如夜叉…愚劣なる人間達によって迫害された純血の神族風情が…人間達に加勢するとは!』
八正道の肉体から不定形の黒雲が発生したのである。一方の蛇体如夜叉は神力の使用で疲労を感じる。
『こんな程度の神力だけで辛苦に感じるなんてね…私の寿命も…逼迫状態かも知れないね…』
蛇体如夜叉は平常心の様子であったが…。自身の寿命が逼迫した状態であると自覚し始める。
「不定形の黒雲だわ…ひょっとして邪霊餓狼の本体かしら?」
すると八正道は意識が消失した直後…。バタッと床面に横たわったのである。
「八正道様が…」
桜花姫は八正道の様子を心配する。
「桜花姫ちゃん…あんたが心配しなくても八正道は大丈夫だよ♪」
「えっ…本当に八正道様は大丈夫なの?蛇体如夜叉婆ちゃん?」
「邪霊餓狼の霊体を除霊出来たから八正道は一時的に気絶しただけだよ…」
「八正道様は無事なのね…」
桜花姫は蛇体如夜叉の発言によりホッとしたのである。一方の小猫姫と雪美姫は蛇体如夜叉と桜花姫の会話が理解出来なかったのかポカンとする。
「あんた達?先程から二人で何を?邪霊餓狼の霊体って何かしら?」
「私にも何が何やら…不定形の黒雲なんて確認出来ないよ…桜花姫姉ちゃん?一体何が発生したの?」
『小猫姫と雪美姫…二人には邪霊餓狼の霊体が認識出来ないのね…』
邪霊餓狼の霊体を認識出来るのは神性妖術天道天眼の所有者と神族のみであり普通の人間は勿論…。凡庸の妖女では邪霊餓狼の霊体は認識出来ない。
「邪霊餓狼の憑霊から無事に八正道を解放出来たからね…今度こそ桜花姫ちゃんの出番だよ!思う存分に邪霊餓狼を昇天させちゃいな!」
桜花姫は蛇体如夜叉の効力に驚愕したのである。
『物理的に八正道様の肉体から邪霊餓狼を除霊させちゃうなんて…やっぱり蛇体如夜叉婆ちゃんの神力は万能だね!』
桜花姫は蛇体如夜叉の神力に驚愕するものの…。即座に変化の妖術を発動する。
「邪霊餓狼の霊体!覚悟しなさい!あんたは私の大好きな桜餅に変化しちゃえ!」
すると不定形の霊体である邪霊餓狼が白煙を発生させたと同時に…。ポンッと小皿に配置された桜餅に変化したのである。小猫姫と雪美姫は桜餅として実体化した邪霊餓狼を直視する。
「えっ!?突然桜餅が!?桜花姫姉ちゃんの妖術なの!?」
「不定形の霊体さえも桜餅に変化させちゃうなんて…桜花姫は天道の化身かしら?」
小猫姫と雪美姫は荒唐無稽の桜花姫に苦笑いしたのである。
「桜餅を頂戴するわね!」
桜花姫は実体化した桜餅をパクっと一口で頬張る。
「やっぱり神出鬼没の悪霊でも…桜餅に変化させると美味だわ!」
「桜花姫ちゃん!本日で戦乱時代の因縁を完全に浄化させられたね!」
小猫姫は蛇体如夜叉に問い掛ける。
「蛇体如夜叉婆ちゃん?結局邪霊餓狼って何者だったの?」
「邪霊餓狼は戦乱時代に極悪非道の人間によって殺されちまった野良犬の亡霊だよ…邪霊餓狼は自然界から誕生した悪霊でね…多種多様の悪意と怨念を吸収するから多種多様の悪霊を実体化させられるのさ!所謂亡者達の悪意と復讐心の集合体だね…」
「今迄各地の村里に出現した悪霊は邪霊餓狼が復活させたの?」
「勿論だよ…一年前の悪霊大事件で妖星巨木に憑霊して大量の悪霊を復活させたのも邪霊餓狼の霊体だからね…一年前の悪霊大事件では桜花姫ちゃんと小猫姫の奮闘で霊体の九分九厘を浄化させられたけれど…今回は霊体の片鱗が八正道の肉体に憑霊しちゃったみたいだね…」
すると蛇体如夜叉は小声でボソッと発言したのである。
「五百年前の元祖妖女…桃子姫が健康体ならば邪霊餓狼は完全に浄化されたのだけれどね…彼女は病弱で非力だったから邪霊餓狼を浄化し切れなかったのさ…」
「蛇体如夜叉婆ちゃん?桃子姫って誰なのよ?」
一同は桃子姫の名前に反応する。
「桃子姫はね…所謂桜花姫ちゃんの前世だよ…」
「えっ!?私の前世ですって!?」
桃子姫が桜花姫の前世の一言により一同は驚愕したのである。
「桃子姫って元祖妖女が…桜花姫姉ちゃんの前世なの!?」
「桜花姫の前世が…桃子姫って名前の元祖妖女ですって!?」
「桃子姫って妖女が…私の…前世?」
「桃子姫はね…」
蛇体如夜叉は五百年前の伝承である桃子姫の伝説を一部始終力説する。桃子姫の伝説を傾聴した一同は絶句…。三人とも落涙し始めたのである。
「戦乱時代って…私達が想像する以上に壮絶だったのね…」
「桃子姫って妖女…気の毒だね…」
「えっ…あんた達…」
『別に落涙しなくても…』
落涙…。沈黙した桜花姫一同に蛇体如夜叉は苦笑いする。
「何よりも今回の一件で邪霊餓狼は完全に浄化させられたからね!金輪際桃源郷神国では神出鬼没の悪霊は出現しなくなるだろうよ!」
「えっ…今後は悪霊が出現しないのね…」
「神出鬼没の悪霊は金輪際出現しないのね!」
「桜花姫姉ちゃん!今後は悪霊が村里に出現しないから一安心だね!」
小猫姫と雪美姫は悪霊の根絶に大喜びするものの…。
「えっ…はぁ…」
一方の桜花姫はパッとしなかったのか寂然とした表情だったのである。こんな桜花姫の様子に蛇体如夜叉は恐る恐る問い掛ける。
「桜花姫ちゃん?大丈夫かい?」
「私は大丈夫だけれど…」
桜花姫は寂然とした表情で一息したのである。
「正直…今後は悪霊征伐が出来なくなるから…毎日の生活が退屈だなって…」
桜花姫の返答に雪美姫は呆れ果てる。
『桜花姫…毎日の生活が退屈って…』
「あんたは相当の異端者ね…神出鬼没の悪霊なんて四六時中出現されたら傍迷惑でしょうに!悪霊天国なんて私は懲り懲りだわ!」
すると蛇体如夜叉がボソッと発言したのである。
「今回で邪霊餓狼が完全に浄化されたとしても…人間達が再度戦乱時代みたいな悲劇を頻発させた場合は今後も第二…第三の邪霊餓狼が出現するかも知れないからね!今後とも人間達が殺し合う戦乱時代は絶対的に阻止しないと!」
「勿論だよ!蛇体如夜叉婆ちゃん!今後は私も桜花姫姉ちゃん達と一緒に人間の悪者を征伐するから安心してね!」
豪語する小猫姫に雪美姫は苦笑いする。
『山猫妖女の小猫姫は桜花姫の後継者なのかしら?』
蛇体如夜叉は沈黙し続ける桜花姫に満面の笑顔で…。
「桜花姫ちゃんよ♪あんたは金輪際匪賊征伐に専念しな♪」
桜花姫はボソッと返答する。
「勿論よ…蛇体如夜叉婆ちゃん…」
すると直後…。
「桜花姫ちゃんよ…如何やら彼が目覚めたみたいだね…」
気絶した八正道が恐る恐る目覚める。
「八正道様!?」
「えっ?私は今迄…一体何を?此処は…」
八正道は警戒した様子でハッとしたのである。
「桜花姫様ですか!?悪霊は!?私は即刻野良犬の悪霊を征伐しなくては!」
蛇体如夜叉は満面の笑顔で八正道にポンっと接触する。
「八正道よ!一安心しな!野良犬の悪霊なら桜花姫ちゃんが成仏させたからね!僧侶のあんたが心配しなくても大丈夫だよ!」
「えっ!?桜花姫様が…野良犬の悪霊を成仏させられたのですか!?」
八正道は一安心したのか極度の緊張感が緩和されたのである。
「桜花姫様の妖術で悪霊は無事に成仏させられたのですね!一件落着ですな!」
すると桜花姫は落涙し始める。
「うわっ!桜花姫様!?」
桜花姫は力一杯八正道の腹部に密着し始める。一方の八正道は突然の出来事に吃驚したのである。
「一体…如何されましたか?」
「八正道様!」
「桜花姫様…」
雪美姫が恐る恐る八正道に近寄り始める。
「一寸?あんたの名前は八正道だったわね?」
「私は僧侶の八正道ですが…一体如何されましたか?」
「あんたはね…邪霊餓狼に憑依されてから…」
雪美姫は先程の出来事を洗い浚い八正道に告白したのである。
「僧侶の私が…恩人の桜花姫様に手出しを!?私が…桜花姫様に!?」
八正道の涙腺から涙が零れ落ちる。
「桜花姫様…今回は私にとって人生最大の過誤です!」
一方の桜花姫は落涙する八正道に満面の笑顔で…。
「八正道様…気にしないで!今回ばかりは仕方ないわよ!邪霊餓狼に憑依されちゃったのよ…完全に不可抗力よ!一人の人間では如何にも出来ないわよ!」
桜花姫は八正道に邪霊餓狼に憑霊されたのは不可抗力であると擁護したのである。一方の八正道は桜花姫に擁護されたのだが…。
「ですが桜花姫様…私は桜花姫様に前代未聞の愚行を…」
「八正道様は悪霊に憑霊されただけだから八正道様は何も悪くないわよ♪八正道様が無事で何よりだから♪」
「私は悪霊によって憑霊されたのかも知れませんが桜花姫様に手出ししたのは否定出来ない事実みたいですし…私にとって今回の過誤は一生の不覚です!」
「気にしないの♪八正道様♪」
「ですが桜花姫様!私は何としてでも桜花姫様に贖罪しなければ駄目なのです!今回野良犬の悪霊に憑依されたのも私自身の精神力が脆弱だった所為なのですからね…悪霊に憑依されたとしても女性に手出しするのは最低です!」
彼自身今回の罪悪を贖罪しなければ一生涯後悔するのではと感じる。すると桜花姫は満面の笑顔で発言する。
「八正道様が如何しても贖罪したいのであれば…東国の和菓子屋で桜餅を腹一杯頬張らせてよ!安物でも構わないわよ!」
「えっ!?桜花姫様…安物の桜餅って…」
「贖罪が桜餅なんて…」
『桜花姫ちゃんらしい返答だね…』
桜花姫の発言に一同はポカンとした反応である。
「贖罪は贖罪でも…桜花姫にとっての贖罪は非常に軽薄なのね…」
『桜花姫らしい回答だけれども…』
一同は苦笑いする。
「八正道様!即刻東国の和菓子屋に直行しましょう!」
「勿論ですとも!桜花姫様!」
桜花姫と八正道は東国の和菓子屋へと直行したのである。
完結