1日の深夜だった。社内で夜勤をしていた私にとって、とてもうれしいプロ野球の試合結果が届いた。
3日前に支配下登録されたばかりのソフトバンクのルーキー・大竹耕太郎(23)が史上初の初登板初先発初勝利の快挙を成し遂げた。その瞬間、私の耳には天国にいる大学時代の友のこんな声が聞こえてきた。「なっ、早稲田に入る時から大竹はすごいって言っていただろ。俺は」―。
昨年12月7日、福岡市内のホテルで行われた入団会見。大竹は背中に133という重い番号を背負っていた。「自分は150キロを出せるピッチャーじゃない。緩急、キレで勝負。スピードのない投手にも希望を与えられるようなピッチャーになりたい」―。早大スポーツ科学部4年だった左腕はそう言って、日本一チームの一員となった。
2016年の日本ハム2位指名の石井一成まで10年連続でドラフトの本指名選手を生み出し続けてきた早大野球部。しかし、大竹は11年、広島育成3位指名の塚田晃平以来となる早大史上2人目の育成選手としての入団。それも4位だった。
正直に言う。早大で学び、18歳の時から野球部を応援してきた私にとって、はるか後輩の大竹の育成枠でのプロ入りには、どうにも納得がいかなかった。
熊本・済々黌高時代は12年夏、13年センバツと2度の甲子園出場。14年に入学すると、2年春には早慶戦で完封勝利を挙げ、胴上げ投手に。同年の東京六大学リーグ春秋連覇、全日本大学野球選手権優勝にも貢献。確かに当時のストレートは130キロ台中心。球威こそなかったが、独特の球が見えないフォームと緩急を付けた投球術は抜群。3年生以降、ケガに悩まされた時期もあったが、昨年10月のドラフトでの11年連続となる早大出身選手の本ドラフト指名を信じていた。
直接、取材したこともない大竹に、これだけ入れ込むのには理由があった。一昨年の1月、大学卒業後も30年近く付き合い続けてきた友人が急死した。大手企業の内定を蹴ってまで早大の大学職員になるほど、早稲田の杜を愛していた男だった。
彼が「済々黌の大竹が今度、早稲田に入るよ。たぶん1年から勝ちまくるよ」と笑顔で言ったのが5年前の冬。その言葉どおり、大竹は白にエンジの文字のユニホームを着て躍動。プロ入りの夢をかなえたが、大竹のピッチングを見るために神宮に通っていた彼は今、この世にいない。
入団時に「迷いはありましたが、プロ1本という思いで社会人の誘いも全部お断りしていました」と言い切った九州男児らしい言葉。「ワセダのエース」なら取りあえず社会人野球に進み、2年後の上位指名を待つ―。そんな選択肢もあったはずだが、「支配下の選手でも結果を残さなければ、2、3年でクビになるのがプロの世界。すべては自分の努力次第だと思う」とプロの世界に飛び込んだ潔い態度を見て、亡き友の分も、この後輩左腕を応援しようと心に決めた。
そして、この日の快挙。ソフトバンク担当の戸田和彦記者の熱い原稿によると、プロ入り後、本格的に取り組んだウエートトレーニングなどの成果で直球のMAXは143キロにまでアップ。精密なコントロールを武器に2軍の先発ローテに定着。ウエスタン・リーグ22試合登板で負けなしのリーグトップの8勝、防御率1・87と結果を残し、支配下登録を勝ち取ったという。早大の先輩で憧れの存在の和田毅の「(支配下登録は)ここからがスタート」というアドバイスも大きかったという。
記念すべきプロ初勝利に「夢の中じゃないのかな」と喜びを語った大竹。しかし、これで安心してはいけない。相馬御風氏作詞の早稲田大学の校歌「都の西北」の3番にこんな歌詞がある。「集り散じて人は変れど仰ぐは同じき理想の光」―。
そう、弱肉強食のプロの世界では日々「集り散じて」が繰り返されている。
昨年オフには早大野球部出身で08年のドラフトで横浜(当時)と阪神から重複1位指名を受け、抽選の末、横浜に入団した松本啓二朗が31歳で戦力外通告を受けた(現在、社会人チーム・新日鉄住金かずさマジックでプレー)。現在、12球団に20人の早大出身選手がいるが、このオフ、この中から数人が戦力外通告を受けそうな気配。今ひとつの成績のままプロ8年目も折り返しに入った日本ハム・斎藤佑樹、西武・大石達也、広島・福井優也の10年のドラ1トリオでさえ、安穏とはしていられないと、私は思う。
早大ブランドなんて全く通用しないのが、プロ野球という実力オンリーの世界。だからこそ、自ら退路を断って、今季こそやや不振も、どう見ても球界一、層の厚いソフトバンク投手陣の中に飛び込んだ大竹の心意気と結果を出しつつある今の姿に心底、感心する。
早大の校歌には「進取の精神」という歌詞もある。「みずから進んで物事に取り組む」精神で常勝軍団のローテに定着。そんな23歳の大活躍を、今は天国にいる親友とともに切望している。(記者コラム・中村 健吾)
◆早大出身プロ野球選手(2018年8月現在)
▼ソフトバンク 和田毅、大竹耕太郎
▼西武 大石達也
▼楽天 高梨雄平、茂木栄五郎、横山貴明
▼日本ハム 斎藤佑樹、有原航平、大嶋匠、石井一成
▼ロッテ 中村奨吾
▼広島 福井優也、土生翔平
▼阪神 上本博紀、鳥谷敬
▼DeNA 須田幸太、田中浩康
▼巨人 重信慎之介
▼中日 杉山翔大
▼ヤクルト 青木宣親、武内晋一
◆大竹 耕太郎(おおたけ・こうたろう)1995年6月29日、熊本県生まれ。23歳。済々黌高で2年夏、3年春に甲子園出場。早大では2年春にMVP。17年育成ドラフト4位で入団。今季ウエスタンで防御率1・87で7月30日に支配下登録。184センチ、78キロ。左投左打。年俸600万円。