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この作品「服毒」は「篤寛」「腐術廻戦」のタグがつけられた作品です。
服毒/限界の小説

服毒

5,229文字10分

日下部と術師日車の媚薬ネタ話、成人向けシーンはカットしています。ラブラブ篤寛です

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それはなんて事ない、恋人同士の日常だった。

急ぎの任務に呼ばれもせずに事務処理だけで仕事は終わり、珍しく揃って定時の帰宅。明日は互いに夜からの祓除で、それまでは比較的ゆっくりと過ごせる。高専から直帰出来る時は、俺の家より近い日車の家に泊まる流れになっていた。俺が運転席に座って、日車が助手席にかける。泊まらせてもらう側が運転を担い、途中で買い物をする時はよっぽどの価格でない限り財布を出す。特にはっきり決めてはいないこの貸し借りルールは性に合っていて、時たま高い物を選んで互いを窘めるのさえ気安いコミュニケーションだった。

日車の家はあまり料理に向かないというか、キッチンが綺麗すぎてがっつりと使うのには躊躇があるから、簡単な惣菜と缶ビール、季節限定の酎ハイをカゴに入れてさっさと退散した。

帰りの車内では会話が続いたり、エンジン音だけが響く心地よく穏やかな無音が訪れたりした。忙しない日々の中で久々にも思える、スムーズで問題のない夜の始まりだった。




カッチリとしたスーツから室内着へと着替えた恋人は、俺の為のハンガーへ手馴れた仕草でトレンチとジャケットを掛けて几帳面にクローゼットへとしまい込む。この小綺麗なマンションに泊まる度そうしてくれるのが嫁さんみたいで可愛いなと思うけれど、一応伝えてはいなかった。日車だって立派な男だし、下手な言葉で嫌な気にしたかねぇしな。

俺の隣に戻った日車の手には、ネイビーにつや消しのシルバーが印字された化粧箱が掴まれていた。多分いい菓子が入っているのだろうそれを、なんの前触れもなく寄越される。

「これ、何?」
「差し入れの貰い物だ。チョコレートらしい。俺も同じ物を貰って、その時に頂いた。…余りのお裾分けみたいなものだ。」
「……へェ。誰から?」
「失礼ながら名前は失念してしまった。が、補助監督の方だったと思う。」
「あ、そう。…ふーん。なのに俺が食べていいのか?」
「残ったものを分けたからな。」

コーヒーでも淹れようかと呟く日車の目の前で綺麗に縛ってあるリボンを引き、三つ並ぶチョコレートの一つを摘みあげる。躊躇せず口に含んで、表面の柔らかいチョコを潰す。とろりと溢れる中身の液体が、ゆっくり喉を通り抜けて微かな熱を持ちながら腹へ落ちた。ほのかに香るアルコールの風味も記憶よりは良くなっていて、かなり美味い。

「高いよな、コレ。俺でもすぐに分かる」
「そうだろうな。有難い事だ。」
「……もう一つ食べよっかなァ。」


元弁護士様で現高専預かり術師。対人特化の堅物ちゃん。遅咲きの能力者だとしても、術師の才能があるっちゅう事はどっかのネジがイカれてるんだ。

二つ目の粒に指を伸ばす俺を、感情の読めない目がチラと流し見ている。コーヒーはどうしたよ、俺が食べ切るのを確認するつもりだろ、そうだよなァ。涼しい顔して嘘つきやがって、このポーカーフェイスめ。

次のはさっきより濃厚な。なんつったっけ。フィリング?舌触りが滑らかで半個体のやつも美味い。どうやら、ひとつひとつの内容も変えてあるようで、続けて食べてもくどさは感じられない。続けて食べやすいように、「そう」したんだろうな。

男でも受け取りやすいシックなデザイン、大人向けの苦味もあって、洋酒の強い香りとカカオの風味で包み隠した下心。値段相応の効力アリに決まってる。なんたってこれは冥冥制作、超高級。媚薬入りのチョコレートだから。

「こんな高級ライン、差し入れされんの?お前への本命って事ない?食ったら俺その子に命狙われるとかごめんだけど。」
「まさか。集団の内の一つだ。君の心配する事は無いと断言する。それに、俺の心は君にしか向いていない。」
「うわ、熱烈だな。疑ってねぇよ、冗談だ。」

遠回しな揺らし程度じゃ余裕は崩れねぇな。それならもう実力行使だ。

最後に残ったチョコレートを摘み、半分齧って、未だに俺の隣でじっと黙る日車の唇に残りを押し付ける。

「これお前のな。あーんしろ。」
「いや、俺はもうさっき、食べて…んむ…っ。」
「流石に三つは多いわ。俺より甘党だろ。溶けちまう、ほら。」

言い返そうと開いたあわいにチョコレートを押し込み、歯もこじ開けて突っ込む。あくまでも優しく、こっちからもお裾分けの体で。指先がエナメルを擦り、喉仏がこくりと動く。日車の唇から離した指に残ったチョコレートを舐めとって、ご馳走様と礼を言う。いつもなら明け透けな仕草について行儀が悪いとでも窘められそうだが、向こうは今パニックを起こしてるはずだ。実際、冷静沈着な恋人は曖昧に頷いたきり黙りこくる。さて、天才日車は俺に仕掛けた作戦が傾いた後どう立ち回るか。次の出方を楽しみに、深くソファの座面へ座り直した。



恐らく、賢い日車をもってしても想定していない事態が三つは起こっている。まず、俺からチョコを食べさせられた事。自身が媚薬効果に反応してしまうのは、今回の行動の裏を読めば意に沿わない筈だ。

次に、反転での解毒が恐らく上手くいってない事。この薬の本質が、呪力の流れを促す活性剤だとは知らなさそうだし。これについては反転を得ていない俺に未知数だが、毒としてでなく薬寄りで制作されている物と正のエネルギーを使う反転術式とは相性が悪い。本当に効果を消したいのであれば防御の要領で腹に呪力を溜める方がまだ効く。まぁ、だとしても殆ど打ち消せないと思う。そういう改良くらい、あいつはしそうだし。


そして最後。俺が日車以上に現状を理解してしまっている、という事だ。どのルートか分からんが、日車は確実に冥冥からこれを買った。説明の折には合法的な媚薬で安全性のチェックも重ねただのなんだの言われて信用したんだろうな。冥は金の前では嘘をつかない、が、必要以上の情報も出しはしない。日車はその辺がまだ分かってねぇんだ。

例えば、昔から開発していて安全性の裏も取れていると証拠付きで断言されれば日車は納得する。その実、絶妙に悪趣味な副作用の出る薬品のモルモットを請け負ったのは若い時の日下部なんだとまでは教えない。可哀想な日車は、この媚薬が振る舞われる相手が俺だと察しているだろう冥冥から買うだけ買わされてしまったのだ。

んでもって、規範から離れるのを良しとしない日車にそこまでやらせたのは俺の責任だろう。最近、忙しさにかまけて肉体的な接触は避けていたし、隈を濃くする日車の寝かしつけに徹していた自覚もある。俺に縋るみたく体を預けて眠る無防備な姿に、ぐっと来なかった言えば嘘になるが、受け手の負担を思うと誘う気になれなかった。

媚薬なんて無くても日車が誘えばいつだって乗るのに。恥ずかしくて、断られるのを怖がって、自分の良心をねじ伏せて薬を盛ってまでたっぷり抱かれたがってる恋人を無下に出来る訳がない。そろそろ付き合ってやるべきだろうな。表情には出さずとも感情豊かな瞳が俺を伺い見て、本当に効いているのかを疑い始めている。体としては酒の勢いでなだれ込む、日車の望むままを与えてやると決めた。

「…日車。これ酒強いな。…なんか、結構来る。」
「あ、あぁ。すまない。君はアルコールに強いから、大丈夫かと思って。菓子にしては高い度数かも、しれない。」
「んー…若干ぐらつく。…なぁ、肩貸して。」

ずっしり寄りかかって、ふぅ、と冷めた体から熱く甘い吐息を耳に吹き込む。

「日下部、その。大丈夫か?」
「大丈夫って?全然…へーき。年取って酒弱くなったかも。…かわいーな、日車は。」
「…中年の男に似合わない言葉だ。」
「んーん。お前は可愛いだろ。な、キスしていい?」

肩を抱く勢いを強めて可愛い男を胸に捕まえる。大袈裟に跳ねた身体は俺を突き放さず、おずおず回された腕が肩甲骨を摩った。わざと荒く口付けて、舌を捩じ込む。くらつく程のチョコレートの香りと、日車のくぐもった嬌声。スウェットの隙間から忍ばせた指で背骨を撫であげる。湿度の高まるキスの合間に名前を呼び、ソファへ引き倒して覆い被さる。見下ろした日車の顔には、隠しきれない喜びが滲んでいた。

「先もしたいんだけど、お前の気分が乗らんなら我慢もできる。…どうすりゃいい?」
「恋人同士なんだ、遠慮はいらない。…明日は遅いし、俺も同じ気持ちだ。」
「良かった。俺だけがスケベなのかと思ったわ。」

一緒に風呂行こうな、なんて。わざと甘えた声で強請ってやれば耳の先まで真っ赤に染めて、それでもこくこく頷く可愛い男。ずっしり肉の詰まった男の身体。それを横抱きにして、額にキスを落とせばくすぐったそうな笑い声が零れる。

「大好きだよ、寛見。」
「…ッ…篤也、俺も好きだ。…本当に、すまない…」
「何謝ってんの?かーわいい。」

やっぱり上手く解毒出来なかったんだろう、自分の持ち込んだ薬に蕩けて、酔って、罪悪感と欲望の発露に成功した喜びでぐらぐら陶酔する日車の顔は可哀想で、葛藤に飲まれてキスを求める姿はなによりも可愛らしかった。


一つ、日車に伏せている話がある。
これを知れば、自分の行いに必要以上の罪悪感を抱くだろうし、なにより俺の人生を思って悲しませるに決まっている。ただでさえ日車は、突然放り込まれたこの世界に慣れる為必死に動いているんだ。いずれ知る所になったとしても、出来る限りは呪術界の汚く薄暗い面から離してやりたい。


冥冥が俺を実験に抜擢したのは、俺の身体には毒も薬も効きにくいと知っているから。術式を持たず、剣技と体術のみで無理な祓除をこなす人間が瘴気にやられないはずもなく、今の生徒達よりもっと年若い時分から渦巻く呪いに身を焼かれていた。何日も高熱で魘されながらも前線に立ち、臓腑を呪われた時には吐くものが無くても戻し続けて、壊死寸前の患部を無理に治してもらった。呪詛を受けては外から内までありとあらゆる毒に近い呪いを浴び、何度も死にかけた。何度も切り抜けた。そして、どうしても生き延びたい俺の身体は適応を望んだらしい。


学生時代、家入の後押しの為に冥冥が協力していた時期があった。その折に俺の体質を明かし、これを利用して治験に協力する代わり、どこまでの耐性が出来ているかの検診を受ける契約を結んだ。おかげで俺には毒だけでなく薬や麻酔も効きが悪いと知れたし、逆に俺に少しでも効けば一般に使える相当な効能が見込めるとかで、様々な用途の薬品を試した。勿論、命に関わりそうな事はしてないし、向こうも遊びではなく回復要員として出来ることに必死だったのだから、なんなら自分から協力してやった記憶すらある。

体質の情報は、使い所を間違えればかなりの弱みだ。だから、知っているのは夜蛾さんと家入と冥冥。今となっちゃ女共だけになった。俺としては何も思う所は無いが、日車がこの業界に根強く残る呪いの形を知れば確実に嫌な物を背負わせてしまうだろう。

ただでさえ、虎杖達のような若者を大切に想っている男だ。ガキの時だとしても、俺の境遇を知られればきっと身を引かれる。折角恋人になれたのに、俺のくだらん体質のせいで今更捨てられるなんて、たまったもんじゃない。そもそもは俺が日車の欲求不満を察せなかったのが悪いのだから、たかが媚薬を盛られるくらい気にならないのだ。日車に変な罪悪感を持たれたくない、同情されて逃げられてももう逃がしてやれねぇもん。こんな世界に生きていても、出来る限りは平穏に恋人と過ごしたい。だから、絶対にこの事は悟らせない。



求めるまま、求められるまま、普段よりタガを外して交わりあった。すっかり疲れきった日車は深い眠りに落ちて、身綺麗に整えてやる間も寝息を立てるだけ。敷き直した布団で日車を巻いて、念の為便所に移動してから携帯電話を開く。今回の薬の効き具合、使用感、改善点の提案を箇条書きに。最後に強く、日車を巻き込んだことへの非難と絶対の口止め、必要に応じて情報秘匿の金も出すと打ち込んで冥冥へとメールを飛ばす。返事は早いだろうが、俺ももう疲れた。起きた後には正気を取り戻した日車が沈むだろうから、知らんぷりで機嫌を取りつつ任務までの時間はよろしくしたいし。

俺が巻いてやった姿勢から全く崩れず眠る日車の隣に横たわり、ゆっくり抱きしめた。抱き枕みたくされるのが好きだと聞いてから、ずっとこうして眠っている。結局、買ってきた飯は食わずじまいだったな。朝飯にするには微妙なラインナップだから、早めに起きて近所のスーパーにでも行こうか。一人で行ったら文句つけられるかな。そんなら二人でメニューを相談しながら歩く方が、日車が喜ぶか。取り留めのない日常をぽつり、ぽつりと浮かべ、規則的な寝息に誘われるように、俺もゆっくりと眠りに落ちていったのだった。


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コメント

  • ぷっぷ
    7月10日
  • 小夜双☆スカィWeb
    7月9日
  • 筆芽
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