円満家庭の人妻が娘の友達にドはまりする話

入間人間

『女へんにやると書くような愛』

 縋るように、しがみつくように中学生を抱いている。

 甘露を煮詰めて生まれたような肢体をなぞる度、口に含む度、溺れ死にそうなほどの熱湯の奔流に呑まれる。気品と理性は粗末な案山子の手足のようにへし折れて、無残にぶら下がっている。完全にちぎれて濁流に消えることがないのが、かえって痛ましい。

 自己嫌悪は常に額に押し付けられて、家族の顔と目の前の顔が無作為に視界の中を巡る。愛する夫と娘の顔を邪魔に思う日が来るなんて、本当に、一度も考えたことがなかった。完全に想像の外で、だけど私は今そこに足を踏み外して、転がっている最中だった。

 娘と同い年の女子中学生が伸ばす手を、指を絡めとり、私以外に触れさせないようにするとその唇は意図を汲んだように、嘲るように緩む。必死な私を嘲笑すれば、更に自分を求めてくる。それを確信している。その通りだった。口元を重ねると、待ちきれないように向こうから温度の低い舌が唇を割ってきた。その温度差に肌が寒気に似たものを走らせている間に、口内を散歩するように他人の舌が歩き回る。その舌と同時に間近に迫る相手の顔を意識すると、自分の人生が築いていた庭園がすべて枯らされて、そして新たに得体のしれない芽を植えられていくのが分かる。

 それは一瞬で発芽して、彩り、空模様すら変えて、私の心象風景を一変させる。

 その景色は森に降り続ける雨を含みながらも、青く、美しいものだった。

 ひとしきり散歩して気ままに去ろうとする舌に、こちらの舌を押し付けるように絡めると濃厚な音が粘っこく生まれて、頬が燃える。浅ましい欲望の音色に耳の端を切り裂かれて、その痛みすら流れ落ちる頃には快感に染まる。お互いの舌がそれぞれを求め合う、けなげなほどに。

 口づけを終えてから真っ白く、触れたら指の跡が残りそうな頬に手を添えると、ちゃんと火照っていて安堵する。こちらの顔の緩みから察したのか、見透かされたのが気に入らないように逸らそうとするその目と顔を、残った手も添えて阻む。正面から私と向き合うしかなくなったその瞳が、数えきれないほどのいつかのように、今もまた私を射抜く。

「エロおばさん」

 私の過りの全てを、たったそれだけによくも的確に詰め込んでくる。

「……そっちも、十分エロガキの癖に」

 これまでに私にしてきたことを列挙して突きつけてやっても、きっと、この子は笑うだけだろう。

「よかったですね。わたしが、そういう人を好きで」

 他人事めいた物言いを殊更強調して、自分の心と距離を取る。

 そうやっていつだって遠回りに、捻くれた言い回ししかできないこの子が。

 お腹の底が煮え立つほど、愛しい。

「あんただって……私しか、好きに……」

 前髪を搔き上げて、額に浮かぶ汗も舐めて、のしかかる身体を更に強く寄せる。

 私しか好きにならない。

 私だけでいい。

 私以外、誰も、いらない。

 伸びた腕が私の背を抱き寄せて、耳に吐息を吹きかけてくる。

「あなただけ」

 たったそれだけの返事が、耳を噛む。ちぎれるまでなにをしても離れないように、強く。

 滅茶苦茶にしたくなる。

 大事に包みたくなる。

 愛も欲望も滾りすぎて、尖り、同じような形になっていくのはなんの皮肉だろうか。

 あなたとならできます、と言われたときの気持ちを私は生涯忘れないだろう。

 それは月並みなことを言えば祝福であり、呪いでもあった。



 あのとき、私が当たり前のように親心を出さなければ。

 こんなことにはならなかったのかもしれないのに。

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