「逮捕してもらう」コンビニトイレの無断利用客に告げた店主夫婦…逆に逮捕の訳
宇都宮市のコンビニで13日未明、無断でトイレを利用した男女に「建造物侵入だ」「逮捕してもらう」「損害賠償を請求する」などと告げ、紙に氏名や住所、電話番号を書かせようとしたとして、店主夫婦が逮捕された。強要未遂の容疑だが、「連絡先を交換しようとしただけだ」などと否認している。なぜ店主側が逆に逮捕されたのか、身近な「コンビニのトイレ利用」をめぐる法的問題について解説する。
店側が主張した「建造物侵入」は成立するのか
まず、買い物をせずにコンビニのトイレだけを利用する行為だが、それだけで直ちに建造物侵入罪が成立するわけではない。
この罪は管理者の意思に反して建物に立ち入った場合に成立する。しかし、コンビニは通常、不特定多数の客が出入りすることを前提としている。そのため、営業時間中に通常の方法で入店する行為については、店側の「包括的に入店を認める意思」があると考えられる。
ただし、店側が「トイレのみの利用は禁止」「トイレ利用前に必ず◯◯円以上の買い物をすること」と店の入口などに明確に表示し、利用者も常連客としてそのルールを十分に認識していたにもかかわらず、注意を受けてもトイレの利用を続けるなどしていれば、店側の意思に反する立ち入りと評価でき、建造物侵入罪に問われる余地が出てくる。
もっとも、今回のケースの場合、トイレを利用した男女は利用後、店員に促されて菓子1個を購入している。この時点で、店側はいったん利用を認め、買い物によって対応を終えたとみることができる。それでも店主夫婦は「態度が気に入らない」などと男女を追及したとされており、建造物侵入罪で立件することは困難ではないか。
「トイレを使ったら何か買う義務」はあるのか
では、店員から「トイレを利用するなら何か購入してください」と求められた場合、利用者には従う義務はあるのか。買い物客かどうかを問わず「トイレはご自由にお使いください」とうたっているコンビニでもない限り、一般的には「マナー」の領域とされている話だ。
結論から言うと、法律上、トイレの利用と商品の購入は別の問題である。コンビニのトイレは店側がサービスの一環として提供している設備であり、これを利用したからといって、当然に商品の購入契約が成立するわけではない。
ただし、トイレを利用できるかどうかは、最終的にはコンビニチェーンの運営本部や店側の判断に委ねられている。店舗は私有地であり、一定のルールを設けること自体は認められる。
正しい権利でも許されない 「自力救済」の落とし穴
とはいえ、仮に利用者の行為に問題があったとしても、店主らが追及し、脅すような言動で個人情報の提供を迫ることは許されない。自分の権利が侵害された場合でも、裁判などの正式な手続を経ずに、自らの力で相手に義務を履行させる「自力救済」は原則として認められていない。
連絡先を教えてほしいと冷静に求めること自体は問題ないが、「犯罪だ」「逮捕してもらう」などと告げて相手を怖がらせ、義務のない個人情報の提供を迫れば、強要罪などに問われる可能性がある。
権利があるかどうかだけではなく、法的にはその権利をどのような方法で行使するかが重要となる。
浮かび上がる店舗対応への疑問 過去にもトラブルか
問題のコンビニについては、今回の事件以前から店主らの対応への不満を訴えた利用者による投稿がネット上で複数見られる。中には、トイレや駐車場の利用をめぐって店側とトラブルになった、警察を呼ばれた、損害賠償を求めて提訴すると言われたといった内容もある。
口コミなので信用性については慎重な取り扱いが求められるものの、今回の事件で問題となっている「店舗管理者と利用者のトラブル」という点では共通している。今回のケースでも、店主夫婦の通報で警察官が店に駆けつける事態となっている。その後、男女が店主夫婦による強要について警察に相談し、16日に被害届を提出したことで、逮捕に至った。
もし過去の口コミが示すようなトラブルが実際に繰り返されていたとすれば、今回の事件は単なる一時的な行き違いではなく、店と利用者との関係や対応の在り方が以前から問われていた事案といえる。
警察が被害届の受理後、3日で店主夫婦の逮捕に至ったことや、過去の口コミに警察対応に関する記述があることからすると、警察もこうしたトラブルを以前から把握していた可能性がある。
トイレ利用をめぐる「善意」と「権利」の境界線
コンビニのトイレは純然たる公共施設ではない。しかし、多くの店舗では地域へのサービスや利便性の提供という意味で開放されている。郊外の一部店舗では、地域住民や道路利用者の利便性を確保する観点から、出店に伴う開発許可の条件としてトイレの一般開放が求められるケースもある。
かといって、利用者側も「無料で使える設備だから当然」という考えではなく、清掃や維持管理を担う店側への配慮が必要だ。例えば、利用前の声かけや利用後の買い物などである。一方、店舗側も、利用者とのトラブルが起きた場合には、感情的にならず、法に沿った冷静な対応をとる必要がある。
今回の事件は、身近な「コンビニのトイレ利用」という日常的な行為の中にも、店舗の管理権と利用者の自由という複雑な法的問題が存在し、限度を超えれば逮捕に至るということを示した。行為の態様や利用状況が異なっており、常習性などもあれば、逆の当事者が逮捕された展開もあり得たかもしれない。
今後、チェーン本部がこの店の運営についてどのような対応をとるのか注目される。