私の夫はフェミニストがお嫌い
最近、「私はフェミニストです」と口にした。言ったあとで少しだけ考えた。
この言葉、最近やたらと嫌われている。
だから改めて辞書を引いてみた。
フェミニズムとは、女性を男性より優遇する思想ではない。
性別によって人生の選択肢や権利が制限されない社会を目指し、暴力や差別をなくし、「男だから」「女だから」という固定観念から人を解放しようとする思想である。
……うん。
やっぱり私はフェミニストだった。
逆に聞きたい。
この理念のどこに反対する余地があるのだろう。
「人権を尊重しよう。」「性別だけで人生を決めるのはやめよう。」「暴力や差別はなくそう。」
これに異議を唱えるなら、その人はフェミニズムではなく、人権そのものと戦っていることになる。
それでもフェミニズムを嫌う人は少なくない。
理由を聞くと、だいたいこう言う。
「女を優遇しろってことでしょ。」
違う。惜しい。ものすごく惜しい。
民主主義を「多数決」とだけ説明するくらい惜しい。
小学生なら丸をあげる。
大人なら赤ペンで全部書き直したい。
フェミニズムは「女性を優遇しろ」という思想ではない。
「女性という身体に現実に存在する負担を理解したうえで、公平に扱おう」という思想である。
この違いは、とても大きい。
私は女性である。だから毎月、自分の身体が勝手にホルモンで振り回される。
人によっては強い腹痛がある。貧血になる人もいる。頭痛に苦しむ人もいる。
妊娠すれば身体は劇的に変化する。出産は命がけである。
産後は回復を待たずに育児が始まり、更年期がやってくる。もちろん個人差はある。
しかし、「女性という身体」がこうした負担を引き受けやすいことは医学的事実である。
だから私は、
「理解してほしい」と言う。
「配慮してほしい」と言う。
ところが一部の人には、それが「女性を優遇しろ」と聞こえるらしい。
不思議である。
車椅子用のスロープを作ることを「健常者差別」とは言わない。
眼鏡をかける人に大きな文字を用意しても、「優遇」とは言わない。
現実に存在する違いに合わせて環境を整えることを、私たちは「合理的配慮」と呼ぶ。
では、女性の身体だけは違うのだろうか。
私はそうは思わない。
ここで少し歴史の話をしたい。
フェミニズムは、突然現れた思想ではない。18世紀、ヨーロッパでは啓蒙思想が広がった。
ロックは「人は生まれながらに権利を持つ」と説き、モンテスキューは権力の分立を論じ、フランス革命は「自由・平等・博愛」を掲げた。
近代社会は、「人間は平等である」という理念の上に築かれた。
そこで女性たちは言った。
「その『人間』に、私たちは入っていますか。」
これが近代フェミニズムの出発点である。
女性は能力が低いから参政権がなかったわけではない。
教育を受ける機会がなかった。
財産を持つ権利が制限されていた。
政治に参加できなかった。
制度そのものが、女性を一人前の市民として扱っていなかったのである。
だから第一波フェミニズムは参政権を求めた。
第二波は、家庭内労働や性暴力、雇用差別を問題にした。
第三波以降は、性的少数者や人種、障害なども含め、「一人ひとりが異なる立場を持つ」という視点へと発展していく。
つまりフェミニズムは、「女性だけ」の思想ではない。
人間を、人間として扱おうという思想なのである。
にもかかわらず、「フェミニズムは男を敵視する思想だ」と語る人がいる。
それを見るたび、私はこう思う。
本を読まずに映画の予告編だけ見てレビューを書く人というのは、本当に存在するらしい。
もちろん、フェミニズムにも過激な人はいる。それは事実だ。
しかし、それを理由にフェミニズム全体を否定するなら、過激な政治家がいるから民主主義をやめよう、と言うのと同じである。
思想は、その理念で評価されるべきだ。
私は男性を責めたいわけではない。歴史を見ても、女性の権利拡大には多くの男性も協力してきた。
制度は一部の男性だけで作られたわけではなく、女性もまた当時の価値観を内面化し、再生産してきた側面がある。
だから私が批判したいのは、「男性」という集団ではない。
現実を見ようとしない態度である。
「昔からそうだった。」
便利な言葉だ。
奴隷制度も昔からあった。
児童労働も昔からあった。
女性に参政権がない時代も昔からあった。
「昔からある」は、歴史の説明にはなる。しかし、正当化にはならない。
もう一つ、「男は昔から狩りをして、女は家を守ってきた」と語る人もいる。
たしかに、妊娠や授乳という身体的制約から、平均的には役割分担が生まれやすかったことは否定できない。
狩猟採集社会では、男女の役割分担はある程度合理的だった。
妊娠中の女性が大型獣を追うのは合理的ではない。一方で男性は狩猟を担当する。
しかし考古学は、「男は狩り、女は採集」という単純な図式も修正し始めている。南米アンデスでは女性狩人の墓が発見され、役割は地域や文化によって想像以上に多様だったことが示されている。
重要なのは、「完全な固定分業」だったかどうかではない。
妊娠・出産という身体的制約がある以上、平均的には役割分担が生じやすかったという事実である。
そして人類の歴史の99%以上、この構造は大きく変わらなかった。
ところが約250年前、産業革命が起きる。
筋力よりも機械が仕事をするようになった。
さらに20世紀にはサービス業が拡大し、コンピュータが普及し、現代では経済価値は筋肉ではなく知識と情報へ移った。
つまり、人間社会そのものは「腕力社会」から「知識社会」へ変わったのである。
しかし、社会制度や文化は驚くほどゆっくりしか変わらない。
人間の身体の進化より文化の方が速く進む。
社会は共働きを求める。
このズレが、現代女性の負担を生んでいる。
文明は変わった。
働き方も変わった。
しかし、人間の価値観の進化だけが少し遅れた。私は、その遅れを埋めたいだけなのである。
フェミニズムとは、「女性を助けろ」という思想ではない。
文明が進歩したのなら、倫理も進歩しよう。
その提案に過ぎない。
だから私はフェミニストである。
女性だからではない。
人間には、自分が経験できない人生を想像する知性があると信じているからだ。
そして、もし知性があるのなら、次に必要なのは想像力である。
他者の身体を生きることはできない。
だが、理解しようと努力することはできる。
その努力を文明というのだと、私は思っている。
だから私は、これからもためらわずに言う。
私はフェミニストである。
それは、女性のためだけではない。
私たち全員が、もう少しだけ人間らしく生きるためである。
最後に、少しだけ私情を書く。
私が人権の話を熱く語ると、夫は笑いながら「またツイフェミだ」「ヒスらないで」と茶化すことがある。
悪意がないことは分かっている。
でも、その一言で、「本気で伝えようとしていること」が軽く扱われたように感じてしまう。
だから私は、今日も懲りずに話す。
理解してほしいからだ。
勝ちたいわけじゃない。
責めたいわけでもない。
ただ、「そういう人生だったんだね」と知ってほしい。
その一歩が、人権を尊重する社会の始まりだと信じているから。


はじめまして。昨今のアンチフェミにおいては、入試や企業の女子枠と、男女トイレ比率がホットな話題ですが、これらについてはいかが思われますか?
コメントありがとうございます。 もう少し詳しく聞かせていただいても良いですか?
ある程度納得 ただ、 >>職場や身の回りの女性に対し無理解で非協力的、おまけにそういう男は家事育児介護は女のやることなどとのたまう。 男女が同じだけ働く現代でそう主張しているのはアンチフェミではない、頭のおかしいやつだ。そういう対立構造にしていると、もとのフェミニズムまで低俗に…
コメントありがとうございます。 はっとしました。 確かに、おっしゃる通りです。
スレッドが流れて見づらくなりそうなので、ありさんにはこちらで返信します。 もしメロさが皆無だから嫌われているのだとしたら、逆に(女性に?)メロさがあることが暗黙のうちに期待されているということなのだろうなと思いました。 本当にメロさかどうかはさておき、暗黙の期待って結構あるだろ…
そうですね。私の感覚だと、ミソジニーやポリコレ嫌いって、実生活では1人を除いて遭遇したことはなくて。(面と向かって人に公言しにくいだけかもしれませんが。) フェミニズムやフェミニストに対して、反対意見とまでは行かずとも、賛成ではないor認め(たく)ないような雰囲気の意見をする人が主張し…
初めまして。 なんでフェミニズムって嫌われてるんですかね? お説教されてる気持ちになるからでしょうか?
はじめまして。 コメントありがとうございます。 そうですね、、、理由が分からないですね。日本では弱い主人公の成長物語のような少年漫画的な文脈を好む傾向にある人が多いような気がします。アイドルのオーディション番組なんかも流行りましたよね。SNSで、必ず対立するようなコメントが来るフェ…