【寄稿】セックスワーカーの解放を!(さくら のぞみ)
以下はさくらのぞみさんに寄稿していただいた文章です。
私がセックスワーカーの解放を社会運動の主要な課題の一つであると考える理由は、大きく分けて以下の3つである。
① より下層の労働者や規範から外れた労働者との連帯を目指して
② トランス差別などにもつながりうるジェンダー規範などのブルジョワ的規範に反対して
③ 反動勢力や支配階級による世界規模の性の政治に対抗するために
それぞれ順に解説していこう。
①より下層の労働者や規範から外れた労働者との連帯を目指して
まず①について。そもそも私が社会運動にかかわり始めたきっかけは、哲学思想の読書会で知り合った人に誘われて、野宿者運動と出会ったことだった。そこで、寄せ場に集まる最下層の日雇い労働者のエネルギーを人民革命へと転化させんと実践を試みてきた過去の活動者たちの思想を今も受け継ぐ、特異な人たちと知り合った。その中に数人、セックスワーカーの組織化のために尽力している当事者や元当事者の人がいた。それが私のセックスワーカー運動との最初の出会いだった。
かつて船本洲治は、寄せ場の日雇い労働者などの「流動的下層労働者」のみが真のプロレタリアートであり革命の主体であるとして、中産階級のみの労働運動の反革命性を指摘した。社共や新左翼諸党派の主導する労働運動は、ほとんど「市民社会」の枠内に収まっており、規範から大きく外れた労働者や最下層の労働者を排除している。それはマルクス本人が「ルンペンプロレタリアートは革命の役に立たず、妨げになる」と考えたことと合致すると考えられる。しかし、最下層の労働者が真の革命主体であると考えるなら、「ルンプロ=革命の妨げ」という規定に限っては、マルクスの誤謬であり、その誤謬を踏襲する多くの労働運動は、プロレタリア解放につながる真の労働運動ではありえない。
私は、セックスワーカーなどの、世の中(つまり「市民社会」)の規範や道徳から逸脱している人々を、自覚的にも無自覚的にも排除するリベラル派や政治党派による運動になんの魅力も感じなかった。それらの運動は、日本人/一般民(ここでは部落民に対するマジョリティを指す)/健全者(ここでは障害者に対するマジョリティを指す)/シスジェンダー・ヘテロセクシャル/男性といったマジョリティを中心に捉える自分たちの価値観をなんら疑おうとせず、滞日・在日外国人、部落出身者、障害者、セクシャル・マイノリティ、セックスワーカー、および野宿者などを排除し続けている。それらに対する反発が、船本の著作を読むことによって私の中で明確に論理づけされた。そして、セックスワーカー解放を闘っている人たちが、野宿者運動に積極的に参加したり、親近感を抱いたりしていたことは、船本をはじめとする野宿者運動の活動者たちが規範から外れた労働者や最下層の労働者を排除しない運動をつくろうとしていたことと、少なからず関係しているのだろうと考えた。
以上のように、私は最下層やマイノリティの人々の解放と革命とを結びつけるという作業の中で、セックスワーカーの解放という主題を自分にとっての最重要なものの一つとして位置づけていった。
②トランス差別などにもつながりうるジェンダー規範などのブルジョワ的規範に反対して
次に②について。私はすでに述べたマイノリティの解放と革命との結びつきという観点から、フェミニズムに強い関心を抱いてきた。フェミニズムの歴史は、「女性」という枠組み自体の問い直しがなされるなかで、さまざまなマイノリティの存在や差別の複合性への視点を獲得していった。その一方で、フェミニズムを掲げる人々や団体の内部で、差別の複合性に無自覚で、比較的特権のある女性のみの解放を目指すフェミニズム、いわゆる「ホワイト・フェミニズム」の勢力も、まだまだ強い。特に、トランスジェンダーやセックスワーカーを排除するフェミニズム(TERFやSWERFと呼ばれる)の問題は深刻だ。
私は、2023年のLGBT理解増進法反対の行動をはじめ、トランス女性をはじめとするセクシャル・マイノリティへの差別に反対する行動を、野宿者運動で知り合った人々などとともに行ってきた。その中で直面したのは、運動内の一部において、ジェンダーやセクシュアリティにかんする知識の不足や無関心が深刻なことと、活動者の多くが現代社会のジェンダー規範や保守的道徳観を強固に内面化していることだった。
マルクスが「世の中の支配思想は支配階級の思想である」と言ったように、現代のブルジョワ社会は、ブルジョワ的な規範や道徳に覆われている。多くの社会運動団体や労働組合がすでに、世の中の「自己責任論」や「中国脅威論」などのブルジョワ・イデオロギーに抗っているように、ジェンダーやセクシュアリティにかんしても、世の中に浸透しているブルジョワ的な規範や価値観を捉え返していく作業が不可欠である。それにもかかわらず、古くから続く運動ほど、それがほとんどなされていない。
社会運動やフェミニズム内部のセックスワーカー差別を考えるときに重要なことの一つは、ワーカーは決してシス女性だけではないということだ。現実には、シス男性のワーカーというのも存在するし、とくにトランスジェンダーやノンバイナリーのワーカーの存在も忘れてはならない。目下、高市政権のもとで進められている買春処罰法に賛成している人々が前提としているのが、「女性=被害者」かつ「男性=加害者」という構図であり、さらにその前提にあるのがシスヘテロ中心主義だ。そこにトランスジェンダーやノンバイナリーのワーカーの存在が入る余地はない。
また、セックスワークが滞日外国人の女性やセクシャル・マイノリティにとっての重要なサバイバル手段となっていることも忘れてはならない。買春処罰によって最も痛手を被るのは、決してマジョリティの買春者やあっせん業者ではなく、さまざまなマイノリティ性をもったワーカーの人々である。
我々が目指すべきは、差別の複合性を認識し、世の中のブルジョワ的規範の解体を掲げて、あらゆるマイノリティの解放を目指すフェミニズムである。決して、社会のブルジョワ的規範を無条件に肯定して、マジョリティのシスヘテロ女性のみの解放を目指すフェミニズムではない。
③反動勢力や支配階級による世界規模の性の政治に対抗するために
最後に③について。現代は、性の政治が社会の前面に出てきた時代だ。世界のあらゆる反動勢力や政権は、女性やセクシャル・マイノリティの人々の身体を管理しようとし、反動立法をおし進めている。フェミニズムやマイノリティの解放に対するバックラッシュとして、SRHR(性と生殖にかんする健康と権利)に逆行するような政策や主張が目立つようになっている。欧米をはじめとする地域では、フェミニズムを利用するかたちで、民衆を新自由主義やナショナリズムに回収しようとする「ネオリベラル・フェミニズム」と呼ばれる潮流も勢いを増している。
日本では、女性の活躍をうたいながら、実質的には女性を賃労働に駆り立てて新たな搾取の対象とするための政策が、第二次安倍政権以来続けられてきた。今、高市政権のもとでも、さまざまな反動的な政策がおし進められている。具体的には、夫婦別姓も認められず、同性婚は婚姻制度から排除され続け、「LGBT理解増進法」の基本計画としてセクシャル・マイノリティへの差別をさらに助長するような内容が作られ、セクシュアリティの国家管理を強めるための買春処罰法が制定されようとしている。
高市政権はさらに、皇室典範の改正を行った。これは天皇制につらなる「イエ」思想をさらに強化するためのものだ。この改正は論外だが、「女性天皇」なるものを肯定するリベラル派の言説も、それと同じように切り捨てられるべきだ。天皇制そのものが統治のための規範を作り出す装置であって、女性天皇が認められたことくらいで、女性やセクシャル・マイノリティの解放には一切つながらない。天皇制は身分差別そのものであり、また侵略と歴史改ざんの象徴であり、外国人差別やトランス差別などのあらゆる差別の根源だ。身分差別や植民地主義に反対するという立場からも、女性やセクシャル・マイノリティやセックスワーカーへの差別に反対するという立場からも、天皇制は廃止一択だ。
現代社会で支配や抑圧に抗うには、セクシュアリティにかんする世の中の動きをしっかりと捉えなければならない。そうしなければ、容易に反動思想に取り込まれてしまう。買春処罰法もしかりだ。世界規模で性の政治がおし進められていることを認識していれば、高市政権がなぜ買春処罰法を積極的に進めているのかをすぐに察知できる。しかし、労組を含めた多くの日本の運動団体は、ジェンダーやセクシュアリティにかんする知識や議論の不足、あるいは無関心のために、買春処罰法に正しく抗うことができていない。この状態では、日本の社会運動が、日本を含め世界でますます伸長する極右勢力に打ち勝ち、あらゆる民衆の解放を勝ち取ることはできない。
おわりに
ここまで、私がセックスワーカーの解放を社会運動の主要な課題の一つであると考える理由を、大きく3つに分けて解説した。
最後に、一つだけ言っておきたいことがある。それは、セックスワークにかんしても自身のポジショナリティを自覚することがとても重要だということだ。民族、障害者か否か、部落出身者か否か、ジェンダー、セクシュアリティなどにかんして、マジョリティの側にいる人間が軽々しく何かを意見したり、自身の特権に無自覚であったりすることがあれば、咎められるべきだ。
同じように、セックスワークにかんしても、非当事者たちがセックスワーカーにかかわることをセックスワーカー抜きで勝手に決めたり議論したりするのは非常に横暴であると思う。私はセックスワークには従事していないし、これまでにも従事したことがない立場だ。私と同じく非当事者である多くの人々は、十分な知識がないままセックスワークについてあれこれ言うのはできるだけ控え、まずは当事者の意見を聞くようにするべきだ。
一口にセックスワークと言っても、ストリップ、AV、ソープ、ヘルス、セクキャバ、ピンサロ、立ちんぼ、ウリ専…などなど、種類はさまざまだし、サービス内容の細かな違いもあるため、その解像度を上げる必要もある。
そのうえで、セックスワーカーの権利獲得や解放のために非当事者として何ができるかを考え、セックスワーカーを含めたさまざまなマイノリティを抑圧するマジョリティ中心主義やジェンダー規範などを身近なところから解体していくために、学習や議論や実践を少しずつ積み重ねていこう。
私がいつもオススメしている、当事者の人々が書いた書籍を一冊挙げておく。
『セックスワーク・スタディーズ 当事者視点で考える性と労働』(SWASH編、2018、日本評論社)
■著者情報■
【名前】 さくら のぞみ
【活動拠点】 関西
【年齢】 2000 年代生まれ
【所属】 AWC Youth関西(アジア共同行動関西青年部)メンバー(Instagram:@awcyouth21)
地域ユニオンの組合員
【中心的に取り組む課題や活動】 反差別など
【連絡先】 apersonalmatter1964(@)gmail.com
■岡山県出身。介護福祉労働者。AWC Youthなどいくつかの運動にかかわりながら、哲学思想に関する文章を書いたりしている。過去に、「吉本隆明の『転向論』を少し変則的に読んでみた。」(自身のブログにアップ、2022)、「『悪口論』(小峰ひずみ著)感想」(「『運動と思想』読書会通信vol.0」所収、2025)、「共産主義者同盟(叛旗派)と吉本隆明をめぐって」(「『運動と思想』読書会通信vol.2」所収、2026)などの文章を発表。

