例えば最後に悲しいことがあって、悲しい記憶のまま終わったとしても、
それで人生全てが悲しかったことにはならないでしょう。

指先が丁寧に文字をなぞる。
言葉が浮き上がって、消える。


昼間の光は空に溶けて、そのままじゃ目には見えないから
空に手を伸ばして、掬い集める。
楽しかったこと、うれしかったこと、幸せだったこと。
たくさんあるのにね、忘れてしまうこと、よくあるから、
たぶんこの辺、って想像して、切り取って歩く。

きみの本当の幸せは、
きみにしか見つけられないんだ。

一度目に見えなくなったものは、
もう形にはならないから、だから
きみが思い出すしかないんだ。
きみが、きみ自身の力で。


「化石と同じ。
悲しみは長い長い年月をかけて思い出になるんだよ。
美しいね。」

「そうかぁ。
それで思い出はこんなに綺麗なんだね。
がんばったんだね。」

小鳥のさえずり。
子供たちが戯れ合う帰路。


土砂降りの雨が降って、
やがて晴れたとき、空には虹がかかる。
けれど、
全てが全て、雨が止むまで耐えられるわけではないから。


最後の最後に、とんでもなく悲しいことが起きて
それきり物語が終わってしまったとしても、
それで幸せだったことが消えるわけではないんだ。
消えるわけないだろうが。


長い長い余韻。
静かな渡り廊下。

きみにしかできないこと、なんて、
きみが信じないと存在しないんだ、
分かっているだろ。
目を見て。
肌に触れて。
窓から落ちる光に、白い息が重なる。


三題噺 余韻/渡り廊下/白い息