シロクとヒツジ、ついでにカラス2
「シロクさんはさ、ヒツジさんが好きなんじゃないのー?」
「…好きだけど」
やっぱりそうなんですねえ!とこちらが喜ぶ声をあげると、いや、うん、同僚としてね、人としてね、と言い含められた。
ふむ、肯定してから否定が後からくるのはどうなんだ?本心ポロリではないのか?
カラスの反応に、シロクさんはなんだか不満げだ。でもこちらだって不満ですけどなにか。
「えーそれって、なんか特別な意味ーってわけじゃないんですか?大事ーってことじゃないん?」
「特別だし大事だよ。でもそういう意味じゃない」
このガソスタもそうだし、カラスさんも特別で大事なのと同じだよ、と不意打ちをくらう。たまにあるんだこう言う流れ弾がよお。カラスはそういうのいらないから、人たらしはわたし以外にしてくれ。
ごほんごほんとわざとらしく咳払いをして場を整える。
「へー…でもヒツジさんとよく一緒のシフトになる深夜にかわいいとかかわいいとかかわいいとか言ってるんだよね?」
「カラスさんさぁ。いつ見たそれ、いつ聞いた、どこいたよ。盗撮コレクションいい加減飽きてほしいんだけど」
クソデカため息を吐きつつ、盗撮常習犯め、とぼやく言葉にすかさずスマホをぽちぽちして最近のお気に入りショットを眼前にずいと突き出して見せる。
シロクさんはかなり目を眇めてそれを見ると、思い切りまゆに皺を寄せて盛大にため息をつく。
「わかった、先週の火曜だな…。マジほんと、いや…、外に出さないならいいけど、誰にも見せんな」
ライン越えは訴えるからなと続く言葉に、喜色満面な顔ではい!!自分1人だけでたまに見ます!!ありがとうございます!!と叫ぶ。
その楽しみ方ほんとよくわからないと言われて頭をガシガシかく姿にすこーしだけ申し訳なくなるけれども、深夜に2人が向かい合って笑い合う様子が翳りのある灯りに照らされてなんともすてきな情景だったのだ。それを我ながら綺麗に収めた写真を見て、ふふふと自然に笑えるのだ。
大好きな2人が仲良くしてて、いい雰囲気だと勝手に思わせてくれて、それがいいのだ。どうにもやめられない。ぜひともずっとそうしていてほしい。勝手にお似合いだと思わせてほしい!
「密かなカラスのマイブームなんだよなあ。でも結構バレる頻度高いな、なんでー?」
「いやあなた姿丸出し。後ろに気配するなと思ったらスマホ片手にいるし。しかも隣にヒツジさんいる時ばっか。気付くわ普通に」
いつも気付かれて低い声で「何やってんの」って言われる。雰囲気は怖いけど本気で怒ってるわけじゃないのわかるから、全然やめる気がないの良くないよね。知ってる。
「たまにカラスさん息殺して俺らの会話聞いてる?無言で物陰座り込んでいることあるけど、それもなに?混ざってよ」
「いや…いやいやいや!2人の会話がいいんじゃん!私は壁!カラスは壁でありたいんですよ…!」
何言ってんだこいつ、って顔に書いてある。
いやわかる、わかるけど、こちらにも譲れないものがあるんですよ。ええ。
だって2人の会話がなんで付き合ってないの?レベルなんだよ。2人だけの時が一番あまい。
そこで不思議そうな顔してそんなに面白いもんか…?とか言ってるシロクさんが無自覚なんだろう甘い言葉をよく吐くのだ。
最近の会話で覚えてるのが、「ヒツジさん髪型変えた?かわいい」「涼しそうな服になってるー、青が似合うね」「なんかでかいマスクしてる、風邪?…違うなら顔見たいな俺、だめ?」などなど。
驚くべきことに、いずれも先週の火曜日だけの語録である!
これはもう隠れて良い雰囲気の2人の邪魔をするまいと思ってしまうのも仕方ないのだ。
ついつい写真撮って記録を残そうとするのも本能によるものなのだ。
その写真は気付かなかったけど、過剰に撮るのはやめようね。肖像権があるからね、と釘を刺される。はい。すいません。
人によったら犯罪だろうし、なんだかんだ許してくれる2人だと思って甘えてなにも言ってなかったけど、一応ヒツジさんにも許諾確認と謝罪するよぉ。
「先週火曜、あなたいたっけ?今思い出そうとしてるけど、全然姿見てなかった気がするんだけど」
「いたというか、差し入れに来たよー。忘れ物がありましてね、そのついでに。そしたら2人がいたのでね、つい手が滑って」
手が滑ったねえ、と細目で見られてにっこりスマイルを向けてエヘヘ!と言ってみる。言っても聞かない妹を見るような目でため息をつかれた。困らせてごめんー。でもやめるつもりないんだもの。いっそ警察でも呼んでくれたらやめる理由になると思うけど。
「俺ちょっと外出てくるけど、カラスさんもくる?」
いつのまにか手にしてる車のキーをクルクルさせているシロクさん。
「おー、久々かも。いいの?後部座席とかトランクに乗っていい?」
「いいけどなんで?会話しづらいからできれば助手席がいいかな」
「はーい」
ヒツジさんがいる時は絶対に助手席は座るまいと思いながらついていく。
ガソスタの隣のコンビニの駐車場に、いつもシロクさんの車がある。ちなみにコンビニ側にもガソスタ側にも許可をもらっての駐車らしい。さすができる男はちゃんとしている。
まぁガソスタもコンビニも満車になったことなんて未だかつてみたことがないから、許可もらわなくとも文句を言われることはないと思うけれども。
でも文句言われないのと許可を得ているのとは全く違う。きっと大丈夫だろう、で済まさない手堅い男。
「カラスさーーん、シロクさーーん」
「あれ、なんていいタイミングにヒツジさんが!」
パタパタと走ってくるヒツジさんにこちらも駆け寄る。日も落ちかけた夕方だけどおはようございます!
「おはようございますー。明日のバイトに来れないから、今日来ておこうかなって。オーナーもいいって言ってました」
「うんうん嬉しい!そしてヒツジさんも行こう!」
出勤して早々だがシロクカーの助手席に押し込む。自分はそそくさと後部座席へ。シロクさんも、店員不在の立て看板を表に出してから車へ乗り込んだ。
シートベルトをしつつもヒツジさんはこれはどう言う状況ですかね…?と呟く。
「どこかに行くんですか?」
「いやちょっとしたドライブに!今日は人がもう来ないでしょうから」
「まぁドライブがてら軽く調査に行こうかと。2日くらい前に灯りがなさすぎて夜の山は運転怖いって言ってたチキン野郎がいたから、実のところどうかなって。2人からの感想も聞きたくて」
てことで山をドライブします、怖かったら言ってね2人とも。
はーい。
車乗りに対しては強火なこと言うシロクさん。たまに毒があるとこも個人的には好評です。うんうん。
そうして夜が迫る夕闇の中、3人でレッツマウンテンドライブに向かったのであった。