『ヒメアノ~ル』全6巻のネタバレ感想をレビュー。作者は古谷実。ヤングマガジン(講談社)で連載されてたサスペンス漫画。V6の森田剛で実写映画化が決まったらしいので記事化。またどうでもいいジャニーズかよ…という不満は一先ず置いておいて、この漫画が面白いかつまらないか考察してみた。


ヒメノア~ル?

ちなみにタイトルは『ヒメアノ~ル』であって「ヒメノア~ル」ではありません。語感的には『ヒメ・ノ・アール』の方がしっくり来るような気もしますが『ヒメアノ~ル』。ややこしいので10回ほど連呼して覚えましょう。ヒメアノ~ルの意味は知らないので、知ってる方がいたらコメントしてみてください。


あらすじ物語・ストーリー内容

主人公は岡田進(おかだすすむ)。古谷実作品のキャラクターらしく、しがない25歳の青年。清掃会社で働くフリーター。同じ清掃会社で働く、安藤勇次(あんどうゆうじ)は更にさえない31歳。ひょんなことから二人は仲良くなる。

そこで安藤は阿部ユカというコーヒーショップ店員を好きになる。岡田は「絶対ムリ」と止めるものの、安藤の恋の炎は激しくなるばかり。安藤のバックアップをする中で、岡田は阿部ユカと仲良くなり付き合い出す。

ヒメアノ~ル1巻 森田正一
(1巻)
ただ阿部ユカをストーキングする男がいた。それが主人公・岡田の元同級生だった森田正一(もりたしょういち)。高校時代にはイジメっ子・河島を殺害するなど、THE快楽殺人犯。ちなみに森田剛はこの役ですので、まさかの苗字が同じwww

岡田と安藤、阿部のウダウダした日常をベースにストーリーは展開しつつも、この森田という狂気がジワリジワリと迫っていく恐怖のギャップ感が描かれています。


主人公たちはモテてハーレム天国

あらすじを読めば何となく分かる人は分かると思いますが、『シガテラ』や『わにとかげぎす』と話の構成はやや似ています。だからざっくり言うと、さえない主人公が美人のヒロインに何故か言い寄られて付き合うことになってハッピー、みたいな展開。

ヒメアノ~ル6巻 阿部ユカ
(6巻)
この『ヒメアノ~ル』のヒロイン・阿部ユカも相当可愛い。主人公の岡田進にゾッコンラブ。でも口で伝えるのが恥ずかいしいので、メールでイチャコラしたいメールを送信。この時の照れてる仕草はマジで可愛い。地味に、古谷実の描く女性キャラクターはそそられる。

ヒメアノ~ル3巻 ブスかわいい山田
(3巻)
途中で山田という30代のモテない女性も登場するんですが、最初はいかにもツンデレって感じなのに、安藤勇次に好き好き言われると途端に女の表情を見せる。地味にパイオツカイデーだから、何故かムラムラさせられる。そういえば、前にうすた京介も似たような作風を描けばいいと言った気がしますが、女キャラクターを描けないのが痛いなと今更ながら。

とりあえず山田はお見合いをして結果的に二人は付き合わないんですが、
ヒメアノ~ル4巻 織田涼子
(4巻)
その安藤勇次は阿部ユカに負けないぐらい美女・織田涼子に言い寄られる。20代前半のスタイルが抜群で、阿部ユカ以上にツンデレ。そして審美眼というのか、良い男の基準が全く意味不明。

ヒメアノ~ル4巻 安藤勇次
(4巻)
安藤勇次は自暴自棄気味に織田をセクハラしまくるも、織田はノーダメージ。むしろ安藤がナメられまくって、画像はそれに怒りに震えてる安藤。

でも結果的にそれが功を奏する。安藤勇次があまりにショボすぎて、変に警戒心を抱かせなかったのか、織田は思わず笑っちゃって言いたいことを言えた。だから織田からしてみたら、初めて自分の感情を素直に吐き出せた。ツンツンしてた女性が初めて心を許せた、だからホレる。

この理屈は分からなくはないですが、さすがに絶対的に有り得ない展開。何故こんな美人たちが冴えない男どもにホレるのか、説得力がある展開はあまり描けてない。もちろんそれ自体を批判してるわけでもなく、また厳密に突き詰めても仕方ないんですが、読者側には「スルー力」がそれなりに求められる。


森田という悪魔

ちなみに主人公たちがハーレム状態とは言っても、『シガテラ』のようにガッツリとした性描写が描かれることはありません。他の作品でもそこまで多いって程ではありませんでしたが、そういうのを少しでも期待すると肩透かしを喰らいます。

ヒメアノ~ル1巻 森田正一
(1巻)
その理由が冒頭でも触れた森田正一という存在。とにかくヤバイ。昔はイジメられっ子だったんですが、河島というイジメっ子をヤってからは「世の中で一番危ない快楽」に芽生える。そこからは常に快楽的な衝動に走らないように葛藤してたものの、ひょんなことからプッチン。大暴走。

ヒメアノ~ル6巻 警官の拳銃
(6巻)
例えば警官のピストルを奪って、更なる凶行にどんどん走っていく。しかも計画性は一切なくて、手当たり次第に行き当たりばったり。ただまさに無秩序な行動だったからこそ、なかなか警察にしっぽが掴まれない。

森田正一の凶行が乱暴なまでに描かれる。もし『稲中卓球部』のイメージを引きずってる読者が読んだら、古谷実の豹変ぶりにドン引きするぐらい。

ヒメアノ~ル6巻 病気か?病気じゃないのやりとり
(6巻)
しかも森田正一は自分自身を「被害者」だと思ってる。

単なる足が速いのと同じように、快楽を感じるか否かは人間として生まれ持った性質の一つに過ぎない。当然、自分が望んで得た性質でもない。あくまでそれを勝手に「病気」だと決めつけてるのは周り。だからと言って、その「病気」を治療できるわけでもなく、むしろ周りの連中が自分が安心したいがために自分を病気だと無責任に決めつけてるだけに過ぎない。

ざっくり言うと森田はこんな理屈の持ち主。

「病気という言葉がいらない。歩いている人に歩いてますねと言ってるみたい」
「運悪く普通じゃなくなった人もいっぱいいるのに、そんな人に病気って言ったら可哀想だろ?」
「病気になる原因もわかってない連中にアイツはダメって強引に安心されちゃう」
「なんかズルくねぇか?」

具体的なセリフを引用すると、森田はこんな屁理屈を展開させる。特に最後のセリフはインパクト大。幼稚じみてて意味不明。ただ開き直ってるだけにしか思えない。被害者からの「お前、何、言ってんだ?」というシンプルな返しに、読んでる読者の疑問の全てが現れてると言ってもいい。ちなみにその被害者は最後は森田に呆気なく命を奪われるわけですが。


ラストのオチで森田が流した涙の意味

とはいえ、主人公・岡田がこの森田と接触することはまずない。『シガテラ』などとは違って、岡田たちに森田の魔の手が迫ることは最後までない。主には森田の行き当たりばったりな行動が理由ですが、作者・古谷実は意図的に両者を描いて描写してる感じもする。

あくまで『ヒメアノ~ル』のメインは森田の残忍な凶行ではなくて、その「動機」。前述の森田のセリフは実は本音。決して悪どい開き直りとかではなく、実は森田も犯したくて犯してるわけではない。その根拠がラストで刑事に逮捕された瞬間の「涙」に隠されてると思う。

実際それまでに森田正一が罪悪感を感じてる描写がたくさんあって、例えば3巻だとたまたま知り合ったパチンカーを森田がヤっちゃう。
ヒメアノ~ル3巻 森田正一の罪悪感
(3巻)
でも、その後は頻繁にそのパチンカーの亡霊が見える。他にも森田は体中の節々を痛がるんですが、それをストレスと森田は思い込もうとしてるんですが、それも良心の呵責や罪悪感から来てる痛み。

ヒメアノ~ル6巻 想像力の欠如右脳がないことで
(6巻)
最終話のラストの結末では森田正一が警察に逮捕される前に夢を見るんですが、そこには右脳が欠損した自分の姿を見る。右脳といえば想像力。つまり森田正一には想像する物理的な能力が欠如してる。他人の痛みや苦しみに共感できる力が失われてるからこそ凶行に走ってしまう。

「快楽殺◯者はどういう人間か?」という、古谷実なりのアプローチが見られると思う。

ヒメアノ~ル6巻 小さな幸せが喜び
(6巻)
そして、どういうメッセージが込められたかと考えると、やはりシガテラなどと同じく「日常にあふれてる小さな喜びこそ幸せ」ということかなと推察。森田正一を基準に更に突き詰めて考えるなら、「普通の平凡な人間に生まれた時点で既に幸せ」ということ。

ラストのオチまで読み切ると、いつの間にか森田の開き直りとしか思えなかったセリフも、途中から救いを求めるような嘆きや叫びにも聞こえてくるから不思議。冒頭で森田剛を軽くディスりましたが、きっとこういう退廃的な登場人物を演じさせると割りと似合いそうなジャニーズだと思うので、この『ヒメアノ~ル』という作品の世界観を壊さない気もします。


総合評価・評判・口コミ


『ヒメアノ~ル』の感想レビューをまとめると、岡田進と安藤勇次の掛け合いだけでもそれなりに面白い青春ギャグ漫画。特に安藤勇次の卑屈っぷりと悲哀感にあふれる暴走っぷりは好き。うまいこと行き過ぎの都合の良い展開は気になりますが、それでも救いを描くことで読後感は悪くない。

でも話のメインは「森田正一」という不気味な存在。おそらく実写映画でもココがメインとなるのでしょう。あくまで岡田と安藤の平凡すぎる面白い日常はオマケにすぎない。古谷実の過去作品と同じく、2つの明暗を同時にコントラストたっぷりに描くことで、ありふれた日常にありがたさを感じるという仕掛け。

ここのツボみたいなんを実写映画でも描けるかどうかで、面白いかつまらないかの評価が分かれてくるのかも知れません。だからジャニーズが演じてるからといって、決して女性向けのマンガではないのであしからず(笑)