2025/12/1 14:25
解説記事・コラム
世の中には、気温・電力消費・売上・株価・アクセス数のように時間とともに記録されるデータが数多く存在します。これらを時系列データと呼び、時系列解析ではこれらのデータの過去の推移や外部要因との関係を分析・解析することで将来を予測し、業務意思決定に役立つ知見を得ることができます。
近年はChatGPTなどの大規模言語モデル(LLM)が注目されていますが、LLMが得意とするのはテキストや知識ベースに基づく推論であり、厳密な数値予測や将来の売上見通しといった分野では、統計的・数理的なアプローチである時系列解析が依然として強みを発揮します。

本ページでは、時系列解析をビジネスに活かしたい方や、技術の全体像をつかみたい方に向けて、基本アイデアと代表的な応用例を、実務の観点でわかりやすく解説します。
時系列解析とは?
時系列解析のメリット・他の分析手法との違い
時系列解析の基本:よく使う手法と考え方
時系列解析のビジネスでの活用事例
・需要予測
・ダイナミックプライシング
・異常検知・予知保全
まとめ

時系列解析(時系列分析・時系列予測)とは、売上・在庫・来客数・問合せ件数・温度・電力といった時系列データ(時間とともに変動する数値のデータ)を分析し、将来の値の予測や異常の検知に活用する技術です。具体的には、売上や在庫数といった内生変数の過去の推移に加え、カレンダーやキャンペーン、気温などの外生変数を活用して将来の値を予測します。

時系列解析は、データに内在する「時間的構造」や「推移パターン」を考慮して分析できる点に大きな優位性があります。売上や需要、アクセス数といったデータは、単なる数値の集合ではなく「過去の値が未来に影響する」という性質を持ちます。一般的な回帰分析やクロスセクション型の統計手法は、各データ点を独立したものとして扱うため、こうした時間的なつながりを十分に反映できない場合があります。たとえば、回帰分析は「広告費が売上に与える影響」や「気温が購買行動に与える効果」といったある時点の要因と結果の関係を捉えるのに適しており、施策の効果検証に広く使われます。しかし「次の月の売上がどうなるか」といった未来予測には限界があります。
一方で、時系列解析は「なぜその予測になるのか」をデータの動きから説明できるという利点があります。現場での合意形成や施策立案において、結果の解釈可能性は大きな価値を持ちます。
また、時系列解析は予測だけでなく異常の検知にも活用できます。例えば設備のセンサー値やWebアクセス数が通常のパターンから外れた瞬間を捉えることで、故障の予兆や不正アクセスの早期発見につなげられます。単純な統計的閾値判定やクラスタリングに基づく異常検知では、時間的変動の特徴を捉えきれずに誤検知が増えることもありますが、時系列解析を用いることで「時間の流れに沿った異常」をより精密に検知することができます。
このように、時系列解析は「時間的構造」を活かすことによって、他の手法では難しい高精度の予測や異常検知を実現し、ビジネスや社会の幅広い現場で有効に機能します。
時系列解析は、大まかに次のようなステップを通して実装を行います。この章では、それぞれのステップを一つの時系列データを通じて解説します。
前処理
センサーエラーやヒューマンエラーによる欠損・外れ値などの不整合やデータの粒度等を揃えるなどの処理を行い、学習や分析に適した形に整えます。
可視化・分解
データがどのような要因(トレンド、季節性など)と関係しているかを把握します。
モデリング・学習
目的や制約に合わせて適切なモデルを選定し、学習を行います。
評価
さまざまな指標を用いて、構築したモデルの精度を評価します。

次に行うステップは、データの前処理です。この過程はデータクレンジングと呼ばれることもあります。センサー等の不備により、ある期間のデータが記録されていない場合や、データが明らかな外れ値として記録されてしまったデータを処理します。

以下の例では、欠損が生じた部分を直線でつなぐことで補間しています。この操作は線形補間と呼ばれます。補間の方法にはその他に「スプライン補間」や「移動平均補間」などがあり、データの性質等に合わせて柔軟に選択を行います。

以下は、売上データに金曜日や祝日といったカレンダー情報、キャンペーンの情報、気温のデータを付け加えた様子です。これらの情報を加味することで、予測精度をさらに向上させることが可能になります。

時系列データを分析するときは、まずデータを 「トレンド」「季節性」「残差」 の3つの成分に分けて考えます。これを「分解」と呼び、主に 加法分解 と 乗法分解 の2種類があります。
加法分解 では、データを「トレンド+季節性+残差」という足し算で表します。多くの場合はこちらが使われ、シンプルで直感的に理解できます。
一方、乗法分解 では「トレンド × 季節性 × 残差」という掛け算で表します。例えば、売上が大きいときほど季節変動の幅も大きくなるようなデータにはこの方法が有効です。
いずれの方法でも、データを要素ごとに分けて整理することで、全体の動きを直感的につかむことができるようになります。

データの長期的な上がり下がりです。数ヶ月〜数年のスケールで現れる長期的な変化です。
事業の成長/衰退、製品ライフサイクル、長期的な需要変化を表しており、これらの分析により長期的な経営判断(増産、撤退、投資)等を行うことができます。

一定の周期で繰り返すパターンです。多くの場合、曜日や週、月、年単位の周期があります。
週末需要の増減、月末の締め需要、年間行事による売上の変動を表しており、オペレーション設計に役立てることができます。

元データから、トレンドと季節性を取り除いた部分を残差といいます。残差に規則性が見られない場合、分解がうまくいっていると判断します。

以上の操作により、データの性質を直感的に理解することができます。
データを整備したら、実際に学習を行っていきます。時系列解析には、数多くのモデルがあり、目的やデータの特性、外生変数の特性によってそれらを使い分けることが大切になってきます。ここでは、モデルを選択する際に注目すべき点とよく使うモデルについて簡単に紹介します。
モデル選定で注目する点
モデルを選定する際の注目ポイントは主に「結果の解釈が必要か?」「データの量・質はどうか?」ということになります。これら2つについてさらに解説を行います。
結果の解釈について
多くの時系列解析のモデルでは「なぜそのような結果になるのか」を説明することができます。解釈が行いやすいモデルを用いれば、「なぜこの日に発注数を増やすのか」「この予測でなぜ欠品が減るのか」といった点を、現場担当者やマネージャーに納得感のある形で伝えることが可能です。
解釈のしやすさと予測精度は一般に、トレードオフの関係となっています。そのため、実務では「本番の予測には高精度のモデルを使用し、説明資料には解釈性の高いモデルを活用する」といった使い分けを行うことが有効になります。
データの質・量について
予測モデルを選ぶ際には、元となるデータの量や質を確認することが重要です。データの期間が短い場合にはシンプルなモデルが適しており、十分に長いデータがある場合には複雑なモデルを用いることで精度を高められます。また、データ系列の種類や長さによっても最適なモデルは変わるため、状況に応じて柔軟に選定する必要があります。
これらを踏まえ、主要なモデルを3つ紹介します。
Prophet
Meta(旧Facebook)が開発した予測モデルです。売上や来店数のようなデータから、全体の流れや季節ごとの傾向をつかむのが得意です。また、祝日やキャンペーンの影響を簡単に組み込めるため、小売・EC・サービス業でよく使われています。結果の理由がわかりやすいのが強みですが、複雑な要因が絡み合うケースでは予測精度が落ちることもあります。
・LightGBM
マイクロソフトが開発したAIモデルで、天気や価格、キャンペーンなど多くの要因を同時に考慮して高い精度で予測できます。大量のデータを扱うのに向いており、精度面では非常に優秀です。ただし「なぜその結果になったのか」を説明するのは比較的難しいという特徴があります。しかし、近年ではSHAP値という指標などを用いることにより、説明可能性も確保することが可能になっています。
・SARIMAX
統計学に基づいたモデルで、過去のデータの動きや季節性(例:夏に売上が伸びるなど)、外生変数を数式で表して予測します。比較的少ないデータでも安定した予測ができ、仕組みが理解しやすいのがメリットです。ただし、非線形要因が強い場合は精度が伸びにくいといった性質があります。
時系列解析では、予測した値と実績値との比較を行うことによってモデルを評価します。使用する評価方法は、目的によって様々ですが、ここでは3つの評価指標を紹介します。
MAE(平均絶対値誤差)
予測が実測と平均でどれだけズレているかを、元の単位で示す指標です。例えば売上予測であれば「平均して5万円ずれている」といった解釈ができ、直感的に理解しやすい特徴があります。ただし、単位依存のため「売上予測と販売数予測のどちらが当たっているか」といった異なる指標間の比較には向きません。
MAPE(平均絶対誤差率)
予測が実測と平均で何%ずれているかを示す指標です。%表記のため、部門間や異なる尺度のデータ同士でも比較可能で、ビジネスの現場で広く使われています。ただし、実測値が極端に小さい場合(0やそれに近い値)には、誤差が過大に出てしまうため注意が必要です。
RMSE(二乗平均平方根誤差)
こちらも予測と実測のズレを表しますが、これまでの指標に比べて大きな外れ誤差をより厳しく評価します。1回の予測ミスが大きなコストやリスクにつながる場合に適しています。ただし、MAEと同様に単位依存のため、異なるデータ同士の比較には不向きです。
以下の図では、幾つかのモデルに対してMAE,RMSE,MAPEで評価を行っている様子です。一般には、値が小さい方が優秀と判断できます。この場合には、モデルAが良いと判断できます。

分位予測
数値の「予測値」だけではなく、予測の上限や下限といった範囲を出す方法です。以下の図では「将来の実測が80%の確率でこの範囲に収まる」ということを表しています。これにより、「欠品のリスクがあるかどうか」といった重要な判断を人間が下すことが可能になります。

時系列解析では以上の仕組みから、大きく分けて「これからどうなるか(予測)」「いま異常が起きていないか(検知)」を行うことができます。予測を通じて、「商品の需要予測を元に在庫の発注量を決定する」「来店者予測から人員・シフトの最適化を行う」「キャンペーンの真の効果を測定する」など、多くの場面でビジネスに生かすことが可能になります。これだけでなく、異常検知により「設備の故障の予兆を検知する」「不正アクセスの予兆を検知する」等のことも可能になります。
本稿では、数ある時系列解析の応用の中から、ビジネス成果に直結しやすい 「小売店での需要予測」、「ダイナミックプライシングの導入」、「設備の異常検知」 の三つに焦点を当て、その具体的な事例をご紹介します。

小売店の現場では、需要の変動を見誤ることで在庫が余ってコストを圧迫したり、逆に欠品によって販売機会を逃すリスクがあります。さらに天候や気温による需要の変化を見極めるのは難しく、各商品ごとに精度の高い予測を行うことは現実的ではありません。
時系列解析を導入することで、短期的な需要予測を発注や仕入れに活かし、余剰在庫を抑えながら欠品リスクを低減できます。また、中長期的な予測をもとに棚割りや販促計画を設計すれば、販売機会の最大化とコスト最適化を同時に実現できます。
当社が提供する 時系列予測AIサービス『KISS』 なら、過去のデータをアップロードするだけで高度な分析・予測が可能です。複雑な操作や専門知識は必要ありません。少しでも在庫や売上予測にお悩みの方は、この機会にぜひお問い合わせください。

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宿泊施設や、イベントのチケット、レンタカーや航空券等において「利益が最大となる」価格を決定する仕組みをダイナミックプライシングといいます。過去のデータから、商品の価格弾力性を推定(例:価格を100円上げると需要はどのくらい下がるのか)し、需要予測と合わせて最適な料金を決定することができます。導入により、利益率の向上や価格設定の属人化などを解消することができます。
以下の図では過去の実績から価格と売上の関係を算出し、利益が最大となる価格を提案しています。


時系列解析では、設備センサー値や通信トラフィックをリアルタイムに監視することで、故障の予兆や不正アクセスの兆候を検知できます。下図の例では、「観測値のスパイク(急上昇/急落)」「平均の変化」「周期性の変化」を検出しています。これらの統計的な異常指標に、過去の故障・インシデント履歴を組み合わせることで、高精度な異常検知が可能になります。

本記事では、時系列解析の基本からビジネスでの活用まで解説しました。
時系列解析とは、売上や需要などの推移データを分析し、将来予測やビジネスの判断に役立てられる技術
データは 「トレンド/季節性/残差」 に分解することができる
予測モデルは 「解釈のしやすさ」「データ量」「予測精度」 を基準に選択する
モデルの良し悪しは、業務の意思決定に直結する評価指標 を用いて判断する
時系列解析は、需要予測・価格戦略・異常検知など多くのビジネスシーンで応用されている
時系列解析は、単なる予測にとどまらず、在庫管理の効率化や販売機会の最大化など、ビジネスに大きなインパクトを与える手法です。しかし実際の現場では「自社のデータでうまく活用できるか不安」「専門知識が必要で、社内だけでは活用が難しい」といった課題を抱える企業も少なくありません。
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