連日のように記録的な猛暑が続き、地球温暖化や気候変動の影響を実感する場面が増えている。こうした課題に対するアプローチとして、生物多様性の負(損失)の流れを止めて正(回復)に反転させることを指す「ネイチャーポジティブ」という考えがある。これを実現するには社会経済を生物多様性の保全に貢献するよう変革させていくことが不可欠だ。
変革という点では、日本企業も生物多様性保全に関連してさまざまな取り組みを展開している。『CSR企業総覧(ESG編)』2026年版では各社の取り組みの規模を知る1つの指標として、「生物多様性保全プロジェクトへの支出額」を掲載している。
今回は、同誌掲載データ(原則、2023・2024年度)を基に、生物多様性保全活動への支出額が多い上位100社のランキングを紹介する。対象は同誌掲載企業1656社のうち、2024年度の同支出額を回答している519社。生物多様性保全プロジェクトの定義・基準は企業によって異なる場合がある。なお、『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2026年版には、同ランキング上位300社を掲載するのでそちらも参考にしてほしい。
1位の東京海上ホールディングスはマングローブ植林事業を展開
1位は東京海上ホールディングス(生物多様性保全プロジェクト支出額20,112百万円、以下同)。同社は1999年より東南アジア中心にマングローブ植林事業を展開。マングローブが豊かな生態系を育み沿岸域の食物連鎖の源となるなど、グローバルに生物多様性・湿地保全の取り組みを推進し、その保全効果を定量分析・開示している。
また、地球温暖化防止や生物多様性保全をテーマとした環境啓発プログラム「みどりの授業」を全国の小学校・特別支援学校等で実施している。さらに、国産木材の活用や在来種による屋上・敷地緑化、ビオトープ空間の整備など、生物多様性保全に配慮した特徴のある新本店ビルを建設。新本店ビルの建設・運営費用の一部として、生物多様性保全の取り組みに200億円を計上しており、当該費用は今後も継続的に発生するという。
2位は王子ホールディングス(18,400百万円)。同社は、国内社有林19万haの森林保全を推進し、さらに11,000haを、生物多様性を含めた環境保全林に指定し、管理している。また、北海道猿払の社有林にて、日本最大の淡水魚で絶滅危惧種であるイトウを保全するため「イトウ保全協議会」を立ち上げ、遡上を妨げる障害物の除去、河畔林の保全、シンポジウムによる啓発活動を実施している。さらに、絶滅危惧種ヤイロチョウが棲息する高知県の木屋ヶ内社有林が「自然共生サイト」に認定されている。
3位は信越化学工業(18,161百万円)。同社はPRTR関連物質等の化学物質の環境への排出量削減や、省エネによるCO2排出量削減を進めている。さらに、COD、BOD、SS等の排水汚染物質やばいじん、NOx、SOx、VOC等の大気汚染物質の排出抑制に取り組んでいる。また、サプライチェーンの取り組みとして、パルプサプライヤーへの森林認証取得と植林を要請している。
4位以下の企業の顔ぶれは?
4位は富士フイルムホールディングス(17,398百万円)。同社は1983年に設立した「公益信託富士フイルム・グリーンファンド」を通じて、自然環境の保全・育成に関する活動や研究への助成・支援を重ねている。各事業場から排出する水や排出ガスは法規制基準値や地域協定値を十分に下回るよう処理し、土壌は定期的な環境負荷物質調査で基準値以下であることを確認している。熊本県南阿蘇村と協力して水源涵養林の植林・整備を実施するほか、植物由来材料においては、環境・人権に配慮・管理された森林資源由来の原料であることを確認して利用している。
また、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)の提言に賛同しており、2026年1月にはTNFDレポート(第2版)を発行した。同社グループの自然関連課題に取り組む姿勢のほか、足柄サイト(神奈川県)・富士宮事業場(静岡県)での生物多様性の保全に関する取り組みについて開示している。
5位は中国電力(9,380百万円)。同社は柳井発電所2号機のリプレース計画において、周辺の大気・海域状況等をモニタリングし、生態系等への影響に配慮した取り組みや検討を実施。また、約1,500haの水源涵養機能を有する社有林を維持管理し、野生動植物の生息環境保護等に寄与している。さらに、防波護岸前面の海域に人工の浅瀬(リーフ)を設置し、魚介類の生育環境の創出にも努めている。
6位は東レ(9,156百万円)。同社は「鎮守の森」方式を採用し、各地の生態系に配慮した自然樹林の形成・維持活動を全社で50年以上継続している。各事業場内の自然樹林による緑化は合計で約20万m2に上る。とくに東海工場では、地域の学生や企業、行政、専門家と連携しながら、ビオトープの整備などの自然共生・生物多様性保全活動を推進している。2023年には、自社を含む多様な主体が連携して取り組んできた「知多半島グリーンベルト」が、環境省から「自然共生サイト」に認定された。そのほか、NPOと連携した富士山での植樹、タイやマレーシアでのマングローブ植林など、自社グループにて多数の植林活動を展開している。
以下、7位大和証券グループ本社(6,603百万円)、8位出光興産(5,623百万円)、9位NTT(5,149百万円)、10位ソフトバンク(3,606百万円)と続く。
生物多様性保全活動への支出額の平均値は2026年版でも増加
次に前回と同じく、生物多様性保全に関連する全体的な傾向を見てみる。『CSR企業総覧(ESG編)』2025年版から2026年版にかけて、生物多様性保全活動への支出額の平均値は247.3百万円(対象社数は525社、以下同)から291.9百万円(519社)へと増加した。
次に国際的な評価にもつながるTNFD開示への対応状況も見てみると、2026年版では1173社(前回1163社)中、「行っている」が22.3%(同16.9%)、「検討中」が29.1%(同33.3%)、「行っていない」が46.4%(同47.1%)、「その他」が2.3%(同2.8%)だった。前回は「検討中」だった企業が「行っている」に移行し、開示企業の割合が増えたという印象を受ける。ただ、「行っていない」企業の割合が依然として全体の半分近くを占めている。
日本企業はTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)には積極的だったというが、その反動なのか、あるいは開示負担を懸念してか、TNFDに対しては二の足を踏んでいるようにも思われる。
今回のランキングは、売上高などの企業規模による調整済みではなく、回答で得られた支出金額そのものでランキングしているため、規模が大きい企業が上位にランクインしやすい面はある。それでも、日本企業による生物多様性保全の取り組みを支出額という側面から捉えて、トップ企業の支出額の規模など希少な情報を提供するという点において、有用なデータだと考えている。
なお、今回紹介した内容は『CSR企業総覧(ESG編)』2026年版に掲載しているごく一部だ。最新の集計値等は、『CSR企業総覧(ランキング&集計編)』2026年版にも収録されているほか、「東洋経済CSRデータ」でもさまざまなデータを提供している。