『運動会』

 これは記録だ――『灯』『焔』『鳳』による運動会。

 詳しい経緯は不明であるが、三チーム合同の運動会が開かれることになった。総勢二十二名の関係者を全て文章のみで記述しなければならない記録係の負担を考えてほしいが、できうる限り読みやすく書きとどめたい。

 なんにせよ、ディン共和国の首都の運動場に彼らは集った。

 雲一つない快晴の日だった。


「まさか、こんな日が来ようとはな」

「総勢22名……一体、どうなることかしら」

「さすがに、あたし、場違いな感じがするけどね!」


 まずは三チームのボス――クラウス・フェロニカ・アーディで組み分けが行われた。順番にクジを引いていったところ、結果は次の通り。


『赤組』代表:クラウス 

「ギード・ゲルデ・モニカ・ジビア・ビックス・ヴィンド」


『白組』代表:フェロニカ

「ルーカス・ヴィレ・ティア・グレーテ・ファルマ・クノー」


『青組』代表:アーディ、

「ハイジ・リリィ・サラ・アネット・エルナ・ラン・キュール」


 組み分けが終わった時、もっとも目立つリアクションをしたのはアーディ。

『鳳』の初代ボス――改め『青組』の代表は、他の組のメンバーと自組のメンバーを比べ、蒼天に吠える。

「はい、負けたああああああああああああああああああああっ‼」

 残念ながら、それを否定する声は青組から上がらなかった。


 ◇◇◇


 青組待機所にて――。

「お前はどこまで無能なのだよ、アーディ。各チームの搾りカスではないか」

「あたしがあえて言わなかったことを‼」

 青組のパイプテントは、絶望ムードで覆われていた。

 誰もが口を閉ざす中、いの一番に叱責するのは『焔』のワガママお姉様――『煽惑』のハイジ。弟分に運ばせたデッキチェアに座り、代表を叱責する。

 エルナ、サラ、ランは端っこで震えていた。

「恐ろしい戦力差なの……肉体派の『赤組』と知性派の『白組』なの!」

「最終競技は騎馬戦っすよね? 赤組に消し飛ばされるんじゃ……」

「レク系の種目では、白組の独壇場でござるな……いや、さすがに……」

 それを横目にアネットは、ハイジが弟分に用意させたお菓子を盗み食いする。

「俺様、意外でした。キュールの姉貴も搾りカスなんですねっ」

「不服だなぁ‼ ただのクジだと思うんだけどなぁ!」

 この組み分けに不満そうなのは、『鳳』の真面目系苦労人キュール。打開策を練ろうと、ノートに鉛筆を走らせるが、あまりの戦力差にすぐ「無理だぁ!」とノートを破り捨てる。

 アーディはキュールの頭を撫でつつ、絵筆を取り出したハイジを見る。

「というより、ハイジさんも自認『搾りカス』なの?」

「運動会など微塵も興味もないのだよ。病弱令嬢として扱ってくれたまえ」

「俺様っ、助けてほしいですっ! この女、俺様の顔に落書きしてきますっ!」

 ハイジはお仕置きとして、アネットの顔に落書きしながら待機所を見回した。

 そして、ただ一人、他組の待機所をじっと睨みつけているメンバーを見つける。

「おい、リリィ」

「およ?」

「青組の指揮はお前に任せる。まだ諦めていないのは、お前だけのようだ」

 それだけ告げ、ハイジは関心をなくしたように手を振った。

 リリィは一瞬キョトンとしたが、すぐに頷いた。「あたしが代表の意味とは?」と漏らすアーディのコメントを無視し、晴れやかな笑顔でガッツポーズをしてみせた。

「なーら、好き勝手しちゃいますか!」

 かくして運動会の火蓋は切って落とされた。


 ◇◇◇


 第一種目は綱引き。

 青組の初戦の相手は赤組。開始のピストルが鳴らされた瞬間、最後尾で綱を掴んでいたエルナが五メートル以上浮き上がった。赤組が引っ張り上げた勢いだ。先頭に立つギードが「おう、お前らの力を見せろや」と武闘派をけしかけ、ビックスが「では全力で♪」と死刑判決を下した結果、マグロの一本釣りがごとくエルナが宙を舞った。

 この光景を見届け、白組は棄権を選択。「運動会で危険とかありなんです?」というリリィのツッコミは、フェロニカの「なんでもあり」というスパイらしい言葉で打ち消された。


 第二種目は障害物競走。

 三メートル以上の絶壁や綱渡りなど超難度のコースだったが、制したのは白組。

序盤は走者にクラウス・ヴィンドを選出した赤組が圧勝に見えたが、白組のルーカスが、クノーに指示を出し、なんとコースそのものを爆撃。専用靴を履かねば走破不可能な炎の道を作り出し、ルーカスはクノーに肩車されながらゴール。

 あまりの無法ぶりにランとアーディは見ていることしかできなかった。


 第三種目は玉入れ。

 第二種目の借りを返さんとばかりに、クラウスとヴィンドがルーカスめがけて玉を投げ始め、泥仕合が展開される。自分の籠より相手の顔に玉をぶつけた方が早いという戦法が生み出され、リリィやアネットも赤組陣地に玉を投げつけ、乱戦に。

 無数に豪速球が飛び交う危険地帯の中、赤組のモニカとゲルデは難なく玉を避け、抜群のコントロールで籠を満たし、圧勝。


 第四種目は、借り物競争。

 赤組のジビアとビックスが「借金持ち」というお題を引き当て、逃亡するルーカスを縛り上げて誘拐。このまま赤組の圧勝かと思いきや、ゴール付近で攫ったのが双子の弟・ヴィレと判明。慌ててルーカスを再度攫うも、今度はそれがグレーテの変装と判明。再三惑わされた赤組を尻目に、フェロニカとティアが「好きな人」という引き当て、ハイジをゴールに連れて帰る。

 青組のサラは何もできなかった。借り物競争の相方だったはずのハイジが、嬉しそうなどや顔でフェロニカと一緒に去ってしまったからだ。


 第五種目は、リレー。

 もはや語るまでもない、赤組の圧勝。しかし、ある意味この日一番盛り上がったのは、この競技。赤組は走者全員のタイムを計り出したのだ。二百メートルの走力は、ギード、ヴィンド、クラウス、ビックス、ジビア、モニカ、ゲルデという順だった。

 おぉ、と盛り上がる赤組連中を、青組アンカーのキュールは「こっちを見ろよ……」と力なくツッコミを入れながら、三着でゴールする。


 第六種目は、応援合戦。

 審査員席に腰を下ろしていたのは、ライラット王国の謀神『ニケ』。

 女性陣にチアガール姿を強要するセクハラ審査員に、赤組のモニカとジビアが反発して減点。一方で白組のティアとファルマは恥じることなく、巧みなチアリーディングをしてみせる。

 青組はハイジ演出の下、サラ、エルナ、アネットがダンスで対抗した。しっかりと得点を稼いでみせるが、やはり楽し気に踊ってみせた白組には敵わなかった。


 その後も多くの種目が行われたが、青組が活躍することはなかった。


 ◇◇◇


 運動会も終盤に差し掛かる頃、敏い者はその違和感を見抜き始める。

 誰よりも早く察したのは――フェロニカだった。

「面白い子ね、クラウス」

「さすが、ボスだ。とっくに気づいているか」

 その彼女とほぼ同時に悟ったのは、その策を導いた者をよく知るクラウス。

 最終競技前の休憩時間。メンバーは運動場の中央に集まり、発表される得点を聞くために待機していた。放送席そばで水分補給をしながら、その発表を待つ。

 対話するフェロニカとクラウスの周囲では、他の者も笑っていた。

「確かに。途中からおもしれーことしてんなぁって」「そうだね、感じ始めたのは玉入れかな」「銀髪の女らしいな」「……えぇ、これが『灯』のリーダーです」

 ルーカス、ヴィレ、ヴィンド、グレーテが苦笑を漏らした。

 彼らの視線の先では、リリィが恥ずかしそうに舌を出した。

「あれー? や、やっぱり、このメンツだと、さすがにバレちゃいますか」

 彼女はこほんと咳払いして、放送席の方を見る。

 放送席では、なぜか参加している『LWS劇団』のお姫様・スージーが懸命に得点を集計し、それを読み上げようとした。

 マイクを掴んだスージーを見つめ、リリィは苦笑する。

「いくら、わたしたちが搾りカスと言えど――」

 それは運動会開始時点でリリィが狙っていた策。


「――赤組と白組の点差くらいは、調整できると思ったんですよねー」


 放送席は読み上げる――《赤組248点 白組248点 青組34点でーす》

 待機していた参加者全員が「おぉ」「ん?」となにかを察したように呻いた。

 まさかの赤組と白組の同点。だが、彼らが驚いたのはそこではない。それが偶然とは思えなかったからだ。何者かが得点を操ったならば、可能なのは青組しかない。

 ――青組は最初から勝利を諦め、赤組と白組が同点になるよう目論んだ。

 参加者の視線は、次第に青組の方に集まった。

「無論、ワタシのおかげなのだよ」とドヤ顔のハイジ。

「ハイジさんがすごすぎて……!」「応援合戦の時とか特に!」

 褒めたたえるサラとキュールだったが、その顔にはやり切ったという達成感があった。時に赤組を妨害し、時に白組をサポートし、青組は連携して得点を調整した。

「それで? 『花園』のリリィ」

 運動場が沈黙で満たされた時、フェロニカが尋ねる。

「次なる策は?」

「得点をくれませんか?」

 そしてリリィは、クラウスやフェロニカ――だけでなく全参加者に言い放つ。


「最終種目の騎馬戦――青組は『より青組に点数をくれた』組に味方します!」


『得点の譲渡は可能なのか』という野暮な指摘をする者はいない。それ以上の反則行為は既に多々行われているし、フェロニカ自身がそう発言している。

 それはリリィが導いた、心理戦。

 現在、赤組と白組の点数は同じ。青組を味方にしなければ、敗北を意味する。 

「点数の提示は、両組同時ですよー。もちろん言った瞬間、譲渡ですからねー」

 リリィは誇らし気に条件を付け加える。

 参加者の多くは息を飲んだ。

 誰もが有りえないと判断した青組の優勝――その可能性が浮上したのだ。

 万が一にもクラウスやフェロニカが大きすぎるポイントを提示した場合、青組の点数は逆転する。特に騎馬戦に不利な白組は、青組を仲間にしたいはず。

 緊張で満たされる運動場で、リリィのカウントに合わせ、クラウスとフェロニカが同時に口を開いた。


「――0」

「――0」


「はああああああああああああああああああああああ⁉」

 直後に響き渡ったのは、リリィの悲鳴。

 得点の譲渡は行われることなく、最終戦に突入する。

「だって、私とクラウスだもの」

 愕然とするリリィに、フェロニカがその敗因を明かした。

「双方にとって最良の答えは、アイコンタクトで導きだせるわ」


 ◇◇◇


 運動会の優勝は、白組が勝ち取った。

 最終競技の騎馬戦は、白組が放った煙幕の中での闘いになった。ヤケクソになった青組が赤組に特攻をかまし、撹乱。視界が不明瞭の中、相手の行動を全て予想したルーカスとヴィレが見事、激戦を制した。青組は総崩れになった。

 騎馬戦終了後、リリィはしばらく動けなかった。

「おい、リリィ。トロフィー授与の時間だ」

「なんですかぁ、ハイジさん……このリリィちゃんは今、消し炭でしてぇ」

 夕暮れの空を見上げるリリィの腹に、ハイジが持ち出したトロフィーを置いた。

「おめでとう――この運動会のMVPは間違いなくお前なのだよ」



コードネーム:ちりめんじゃこさんより

『灯、焔、鳳の運動会』

コードネーム:ひかりさんより

『「灯」「鳳」「焔」の三チームが集ってわちゃわちゃする話が見たいです!』

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