『性転換』

 ディン共和国の最強女性スパイ『燎火』は『灯』を創設した。

 師匠である『炬光』が裏切ったことで、元の組織は壊滅。生き残った『燎火』は師匠を欺くために、師匠と関わりが薄い、スパイ養成学校の男子たちを選抜。帝国での初任務に向け、陽炎パレスで同居しながら一か月の訓練を始める。

「それが『灯』が結成された経緯ではあるが――」

『燎火』は広間に集まった少年スパイたちに説明し、首を傾げる。

「――そもそもなんか人数、少なくないか?」

 メンバーは八人集めたはずだが、広間にいるのは七人のみ。

 にこやかな笑顔の少年スパイ『花園』が手を挙げた。

「『愛娘』は直前で退学になったそうです」

「そうか、連れ戻しておく」

「男子養成学校ってさすがに肉体至上主義すぎません? フィジカルエリートでないと生き残れない、修羅っぷりでして……」

「それを今更、言われてもな」

 どれだけ男女平等の理念が叫ばれようとも、性差という現実自体は消えない。

 平均だけで語れば、男性の体力は女性に勝る。その長所を活かさない手はなく、男子養成学校では戦闘や体力作りの訓練が特に力が入れられる。交渉術や裏工作などの訓練はもちろんあるが、その比率は女子養成学校より少ない。

 つまり陽炎パレスに集まったのは――程度はあれど筋肉バカども。

「集めた私が言うのもなんだが――」

 広間に集まるメンバーを見つめ、『燎火』は呟いた。

「まさか陽炎パレスがここまで男臭くなるとはな」

 かくして始まる共同生活もそれは、もうひどいものだった。


 ◇◇◇


「「「肉ううううううううううううううううぅ‼」」」

 連日、肉を貪り食うのは『百鬼』、『氷刃』、『花園』の三人。

 ――『どんな手でもいいから、私に「降参」と言わせてみろ』

 そんな指令を言い渡された訓練期間。連日連夜、この三人は『燎火』に戦闘を挑み、夜になると、疲れ果てた身体に大量の肉を収める生活を送っていた。養成学校の質素な食事とは違い、食費は潤沢。その全てを牛肉に変え、塩コショウのみで食らいつく。

「よしっ! このまま八時間交代で『燎火』を追い詰めんぞ!」

「物量で押しきるよ。二十四時間、絶対に休ませちゃダメだね」

「大切なのは、我々の腹ごなしですなああああああぁ‼」

 楽しげに食堂で吠える、『百鬼』、『氷刃』、『花園』

 最初、『燎火』に舐めてかかって大敗北した三人は、今では躍起になって彼女に挑戦を続けている。たった一人の女性に蹂躙された屈辱は、少年たちにとって中々にくるものがある。

 が、無論全員がそれに従っていたわけではなかった。

「もう、無理……街に繰り出そうよ……女の子と遊びたい……」

 食堂でそう嘆くのは、『夢語』

 疲労困憊でテーブルに突っ伏した彼は「もっと別の手段があると思うんだけどなぁ」と、肉にナイフを突き立てる三人に細い目を向ける。

「キミたち、得意な特技があるんでしょ⁉ スパイらしく、もっと巧みな――」

「「「? 体力で押し込んだ方が早くない?」」」

「もう嫌だああああぁ! この筋肉バカ共おおおぉ‼」

 が、脳筋トリオがそれに耳を貸すことはない。

 ――わざわざ相手が得意そうなフィールドで闘う理由は一個もない。

 怪しい女に手を出し、愛欲に溺れて破滅する男スパイは後を絶たない。

 ちなみに再三『夢語』が「俺が姫の心を溶かし、子猫ちゃんに変えてみせるよ」と提案しているが、即座に「「「やめておけ」」」と封じていた。

 それでも彼の隣では、なおも肉を焼き続ける『草原』が「自分も考え直した方が」と不服を述べる。

「い、いくら訓練と言えど、女性一人に、よってたかって暴行というのは……」

「いや、それはそうなんだけどよ」と『百鬼』。

「冷静に考えて『少年八人で女性一人をボコす』というのは、異常すぎません?」

「男女逆ならば良いという問題でもない気もするけど、やべーよね」と『氷刃』。

「もっとスマートな解決案を導き出した方が、訓練になるっすよ」

「でも、なんでしょう……この世界の『草原』君、紳士すぎるような……」と『花園』。

 一理はあるのだが、『草原』の意見は採用しがたい脳筋トリオ。「かかってこい」と挑発してきたのは向こうであるし、あの怪物に紳士的な対応が果たして正解なのか。

 悩む一同の前に「分かります」と現れたのは、遅れて合流してきた『愛娘』。

「主張はもっともです。わたくしも『草原』さんに賛同しますよ」

 身体の線の細い少年は眼鏡を押し上げ、脳筋トリオを見つめる。

『百鬼』が不満げな声をあげた。

「なんだよ? まさか暴力は禁止って言うんじゃねぇんだろ?」

「――わたくしも、ボスに惚れました」

「そっちかよ⁉」「いや、『も』ってなんすか⁉」「だから『草原』は優しかったの⁉」「そして、それよりも会話が通じない奴の方が恐いです‼」

 なにやらヤベー男が現れて、その場の議題は『「燎火」をどう攻略するか』から、『この「愛娘」を「燎火」と同居させていいのか』に移り変わる。

 その頃、食堂の隅では『愚人』と『忘我』が次なる戦略を練っていた。

「まずは、神に祈ろう。我々に加護がもたらされんことを」

「んな神頼み、この『忘我』様は付き合う気になれませんね」

 習慣の御祈りを終えた『愚人』は、食堂のテーブルで工作に励む『忘我』を睨む。

「そう言うお前は何をしているんだ?」

「見ての通り、『忘我』様の新兵器ですよ。あの脳筋どもにはついていけません」

「それは同感。で? お前の新兵器とやらはなんなんだ?」

「この『忘我』様のご明察。女性であるボスを攻略する突破口は一つだけですっ」

 彼は無邪気な微笑みで完成した試作品を、『愚人』の手に置いた。

「ウ〇コ爆弾です」

「死んでくれ」

 やがて広間は、喧嘩をし始めた『愚人』と『忘我』を止めるため、賑やかになった。

 そのタイミングで、ボスである『燎火』が食堂に降りてきた。

「休憩中も訓練に励む姿勢は評価しよう」

 彼女は暴れる部下を嬉しそうに受け止めた。

「が、訓練は終わりだ。ついてこい――私たち『灯』に緊急任務が舞い込んだ」

 お、と少年たちは顔を見合わせる。

 暴食、筋肉バカ、下品――そんな集団になり果てた『灯』だが、胸に燃える感情は一つ。

「よっしゃ‼」「やってやりましょう!」「この美しき祖国のために!」

 全ては、かつて戦争で蹂躙された祖国を守り抜く使命感。

 たとえ何が起ころうと、それだけは不変の真実。養成学校で鍛え上げてきた肉体と技術は駆使し、いかなる難題も取り組んでいく。

 そんなやる気を見せる部下たちを、『燎火』は「――極上だ」と褒め称える。

「……………………が、やっぱり一人、足らなくないか?」

「「「『愛娘』は追放しました」」」

 陽炎パレスの外には、全身縛り上げられた『愛娘』が転がされていた。

 さすがに『燎火』にストーカー行為を繰り返し、無断で婚姻届を提出し、勝手に婚約指輪を作るような男を野放しにはできない。

 無論、男女逆ならば良いという問題でもないのだが。



コードネーム:こむぎさんより

『もし灯メンバーの性別が変わったら』

コードネーム:mocaさんより

『灯の少女たちの性別が「男」になってしまう話』

コードネーム:ー=ぬさんより

『全員の性別逆転版!!』

コードネーム:Poyoさんより

『スパイ教室IF(もし全員の性別が反転したなら)』

コードネーム:うにお願いしますさんより

『性別逆転』

 など

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