『アイドル』

『灯』にとある任務が下った。

 上層部曰く、ムザイア合衆国のエンタメ業界に潜入しろ、と。

 そうクラウスが少女たちに伝えたところ、彼女たちは「おぉ」とどよめいた。

「合衆国と言えば、ポップカルチャーの聖地ですね……」

 即座に解説をしたのは、グレーテ。

「映画製作に関しては、ライラット王国に迫る勢いです。今後も勢いを増していく市場で間違いないでしょうね……ジャズバンド、オペラ歌手グループ、弦楽団、多種多様な少女グループが生まれ、業界を賑やかしていますから」

 そこは世界一の経済大国に相応しい、札束が飛び交う熱狂の場という。

 スターになれば、もはや政治家さえ無視できない発言力を得られる。ディン共和国にとって都合のいいプロパガンダ工作も可能だ。

「ま! わたしたち『灯』なら問題ないでしょう!」

 そんな説明をされては退くわけにもいかない。

 リリィが自身の胸をどんと叩き、大きく頷いた。

「この八人でグループを組み、金持ちどもを魅了してみせますよ!」

 突然の展開に他の少女たちもやる気を見せる。

「歌でもダンスでもなんでもこいなの!」「動物を使った芸もアリっすかね?」「斬新でいいんじゃねぇの? あたしも手品とか得意」「もはやサーカス団じゃないかしら?」「ボクは、なにしようかなぁ。ナイフ投げとか?」「俺様っ、爆薬の演出なら大得意ですっ」「……やはりサーカス団の方に偏っていきますね」

 若干の不安はあるが、姿勢は前向き。

 クラウスは部下を信頼することにした。

「二週間後には、オーディションだ」

 芸能事務所は、次なるスターを見つけ出すために躍起になっている。

 ムザイア合衆国の芸能事務所の重鎮たちが、わざわざライラット王国まで訪れて、次世代のスター候補を探すようだ。既に『灯』はそこに応募している。

「僕は任務がある。本当に任せていいんだな?」

「心配し過ぎです! このリリィちゃんたちにお任せあれ!」

 かくして始まる『灯』、アイドルデビュー編。

 それはリーダーのリリィの溢れんばかりの笑顔と共に始まる。

「わたしたちは、あの『燎火』の教え子ですからねっ!」


 ◇◇◇


「無事、審査員の買収に成功しました」

 オーディションを終え、リリィがそう報告してきた。

 どうやら見事『合格』を勝ち取ってきたらしい。オーディションに参加したグループは百以上で、デビューできるグループは僅か五組のみなので、それ自体は見事。

 他のメンバーもその顔には充足感で溢れていた。

「ボクも驚いた。まさか審査員に変装したグレーテが潜り込んでいるとは」

「頑張りました……ライバルグループの悪行を突き止めたのは、ジビアさんでしたか?」

「おぅ。まぁ、少しは罪悪感もあったけどな」

「仕方ないっすよ。裏でマネージャーに暴力を振るっていたというのは」

「審査員も脱税ヤローばかりですっ! 俺様、脅迫が楽でしたっ」

「エルナ、オーディションに大遅刻だったの。乗っていた電車が遅延して」

「アナタの不幸に、他の参加者も巻き込まれてしまったのよね」

「……………………………………………………」

 そんな報告を聞きながら、クラウスが考えたことは一つ。

 ――だろうとは思った。

 呆れはするが、予想外という程ではない。

 コイツらが真面目に、ダンスや歌の練習をするはずがない。なにせ、日々裏工作の訓練ばかり積んでいる連中。その長所を活かすのは戦略上当然。

 しかし、同時に思う。

 ――こんなグループ、一ミリたりとも応援したくはない。

 そんなクラウスの溜め息を無視し、彼女たちはにこやかに笑い続ける。

「つぅか、モニカは審査前から話題になってなかった?」

「あえてだよ。ボクたちを尾行していた変質者を、白昼堂々ぶちのめしただけ」

「せっかくなので、その偉業を大手新聞社に流したっす。知名度アップっすね!」

「ナイスよ。おかげで作曲家と振付師を抱き込む工作もスムーズにいったわ」

「ティアお姉ちゃんといえば、もはや枕営業なの! 後は、衣装に関しては――」

「……えぇ、わたくしが用意しました……ボスに喜んで頂けるように……」

「抜け目ないですねー。では、デビュー当日は計画通りに」

「はいっ! 俺様っ、盛り上がるように照明を改造しておきますっ。同時デビューする他四グループより、ぜってぇ派手にしてやりますっ!」

 オーディションの通過者は、後日ムザイア合衆国の劇場でパフォーマンスを披露する手筈になっていた。華々しいデビューの場には千人以上の観客が集まり、その様はラジオでも放送される。

「お前たち、裏工作はいいんだが――」

 にこやかな未来を語るメンバーに、クラウスは溜め息を吐いた。

「――肝心のパフォーマンスの練習をしているのか?」

「「「「「「「「え………………………………………………」」」」」」」」

 全員同時に首を傾げる、『灯』の少女たち。


 かくして来月行われた、ダンスグループ『灯』の本番は酷いものだった。

 露出度の高い衣装に猛抗議するリリィとジビア、その抗議を無視してセクシーな演出を取り入れるティア、抗議さえせず役目を放棄したモニカ、クラウス以外の男性には媚びる気のないグレーテ、散り散りになるメンバーをまとめるために奔走して練習不足のサラ、そもそも最初から練習する気のないアネット、本番も当然のように遅刻したエルナ。

 語るまでもなく、デビューライブはそのまま解散ライブになった。



コードネーム:ぽひさんより『もし灯がアイドルになったら』

コードネーム:最中さんより『スパイ教室IF(もしも『スパイ教室』ではなく『アイドル教室』の世界だったら)』

コードネーム:猫村あいり。さんより『もし灯がアイドルだったら』

コードネーム:ー=ぬさんより『もし灯がアイドルユニットだったら』

コードネーム:いそにゃんさんより『灯アイドル計画』

 など

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