自覚しなよシンデレラ
熱愛報道された彼氏に対して「うっわお似合い…」などと失言しちゃった彼女が分からせられる話。
※時間軸は謎です
※この二人はお付き合いしています
※司♀先生です
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夜鷹純は意外と女性関係の記事が多い。
壮絶なまでの顔の良さと、人離れしたスタイルの良さ、性格こそアレではあるが其処に潤沢な資金まで付けば世の女性達は黙ってはいない。まぁそうなれば肉食獣宜しく数多の女性が寄ってくるのも当然と言う訳で。現役時代から引退した今に至るまで下世話な週刊誌にデカデカと派手な見出しで記事が掲載されることも良くあるのだ。とはいえ、その全てを夜鷹純は完全に無視している。現役時代はインタビューで突撃されようものなら「誰それ」の四文字で記者達を一様に黙らせてきた。だからそう、今更記事が出ようが夜鷹としてはあぁ何時もの事かくらいにしか思っていなかったのだ。
「うっわお似合い……」
人生で初めて出来た恋人が、彼氏である夜鷹の熱愛記事を見てそう呟くまでは。
明浦路司、些か凛々しい名前であるが彼女は歴とした女性である。夜鷹に魅了されスケートを始めたと言う癖に、出会って早々自分に対して歯向かって来た豪傑な一面も合わせ持つ女性。自分と同じ“眼”を持ち、底の見えない才能を持っている癖にそれを子供一人の為に使ってしまうお人好し。顔を合わせれば言い合いしかしていなかった頃が最早懐かしくさえ思える。
紆余曲折、それこそ周囲からドン引きされる程の騒動を経て夜鷹と司は何故か恋人という立場に落ち着いた。いや彼女本人は「何時でも解消して良いですからね!あくまでも夜鷹さんの生存確認の為の関係であって人命救助の一種というか…いやもうやっぱり今からでも別れます?!」等とほざいているのだからどうしようもないのだが。これでも夜鷹は彼女の事が陸で生きる理由になるくらいには好きになっているのだが、この自己肯定感皆無の女は幾ら夜鷹が数少ないボキャブラリーでそれを伝えようとも右から左へと全てを聞き流している。まぁ然し何れは改善されるだろうと夜鷹にしては珍しく寛大な態度で我慢していたのだ。いたのだが、
「お似合いって、何」
「ひょぇ、いや、その」
思わずドンっと隣室に響く程の勢いで彼女の横の壁に向かって勢いよく拳を叩きつける。途端に己の失言に気付いた司が顔を青ざめて後ずさろうとするも、背後には壁しかない。視線を四方八方に彷徨かせる司に嘆息しつつ、夜鷹は司の手に握りしめられている雑誌に目を向けた。
『ライリー・フォックスと夜鷹純!金メダリスト同士の深夜の密会!?』
決定的な事は書かない、然し明らかに読者にそう察するように促す記事は何時読んでも不愉快だと眉を顰めた。密会も何も以前の如く光の事に関しての話をする為に集められただけであるし、其処には当然高嶺とレオもいた。それなのにこうして宛かも二人だけで相引きしていた、という風に書くのだから全くこうした週刊誌というのはタチが悪い。そして極めつきは実に巧妙に夜鷹とライリーの二人だけを画角に収めた写真である。その技量を活かすべきが果たしてこんな週刊誌で良いのかとさえ思う。既に事実無根の記事を出した出版社にはライリーと夜鷹が雇っている弁護士からそれぞれ然るべき処置が下されるだろうから其処は別に気にしていない。そう今の何よりの問題は目の前のこの女である。彼氏の浮気場面(完全に夜鷹は無罪だが)を目にしての第一声が「お似合い」とはなんだ。
「いや、やっぱ美男美女だなっていうか…こう、常々から夜鷹さんの隣が自分みたいな大女なのは申し訳ないなって思ってる身からすればですね、大変そのしっくりくるというか」
「………はぁ」
夜鷹の身長は176cm、何も低い訳ではない。然し司はそれを超える女性にしては遥かに高い185cmである。その事に関して常日頃から引け目を感じているのは知っていたがこれも中々に根深い問題であったようだ。そもそもこんな大女に可愛い服なんて…と夜鷹が幾ら服を贈ると言っても必死に固辞して、くたびれたシャツやジーンズを着古している司の方にも問題はあると思っているのだが。折角の日本人離れしたスタイルの良さと、可愛らしくも何処か艶のある顔立ちが完全に服装で殺されているのだから己に対する冒涜も良いところである。
「……やっぱり、私なんか夜鷹さんに釣り合わないですよ」
無言で此方を睨み付ける夜鷹に耐えられなくなったのか、司は常の彼女からは考えられない程消え入りそうな弱々しい声で俯きそう呟く。その言葉に夜鷹は再度嘆息し、そうして勢いよく彼女の顎を掴んで無理やり顔を上げさせた。慎一郎が見れば「女性には優しく!」と憤慨しそうな場面であるが知ったことか、此方にも我慢の限界というものがある。
「釣り合うようになるんだよ、君が」
「はぇ?」
「覚悟しろよ」
滅多に使わないスマホを放り出していたコートから取り出して素早く操作する。ヒビが入って見えにくい画面が、急いでいる今は何よりも煩わしい。全く役に立たない機械だと舌を打ちつつ夜鷹は目的の幾つかへとメールを送る。今だに呆けた顔で固まっている司がこれから見せる反応が実に楽しみだと夜鷹は分かりづらく口の端を吊り上げた。
可愛いお話をありがとうございます。