絶対王者の帰還
失踪中の夜鷹が司の演技に灼かれて、戦意マシマシな絶対王者に戻る話。前半はシリアスですが後半はラブコメ。
※61話のネタバレを含みます※
主成分
・まだ付き合ってないよだつか
・つかぴの演技に灼かれるよだじゅん
・灼かれて戦意マシマシになるよだじゅん
・つかぴに理想のコーチを見出してしまうよだじゅん
・前半は文庫メーカーで上げた話です。
※ここから↓は61話のネタバレを含みます※
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61話を見て、夜鷹に熱を与えられた司が、今度は夜鷹に熱を与えてスケートに連れ戻すのが見たいよ~!!!とジタバタしたので書きました。つかぴの「俺も思わせたい」を叶える相手がよだじゅんだったら最高だな~!!!そうあってくれ~!!!という願望が詰まっています。
あと夜鷹には完成された司のスケートを見て灼かれてほしい気持ちと、司のオーディションのためにレッスンをつけてほしい気持ちが二つある……!と思ったので欲張りセットにしてみました。
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夜鷹の話
自分との賭けに負けたあのコーチがアイスショーに出るという。
それを聞いたとき、夜鷹が真っ先に思ったことは『やっぱり僕が正しかったな』という納得だった。
夜鷹の選択はいつだって最も正しい。あのコーチもようやくそれを理解したのだろう。あるいは賭けに負けたことで思い知ったのかもしれない。そうだとしたらずいぶん遅い話だが。なにせ夜鷹があの賭けをしたのはもう数年前、まだ光のコーチをしていた頃だ。
とはいえ、アイスショーのオーディションを受けろといったのは自分だ。責任を取って観に行ってあげてもいいと思った。あの青年のスケートは嫌いではない。初めて見たときから記憶に残る演技だった。たまたま会場にいただけの自分の足を止めさせて、派手にリフトを失敗した後ですら眼を放せなかった。
高峰瞳のことは以前から知っていた。演技を見たことも何度もあった。だから自分の足をあの場に縫い付けたのが彼女ではないことはわかっていた。あれは、あの青年が放つ力だ。……あの演技をもう一度観られるのなら、わずらわしい人混みの中に行くのもやむを得ないか。そう考えて、伝手を使ってチケットを取った。
ひとつも失望を感じなかったといったら嘘になる。
慎一郎と三人で滑ったあの夜、あの青年は宣戦布告のようにいった。
───コーチの仕事を全力で務めあげるという夢があります。
───これが俺の可能性の使い方なんです。
夜鷹は絶対王者だ。自分の言葉がほかのスケーターにとって強い影響力を持つことなど、あの青年に言われるまでもなく知っている。夜鷹に才能を認められ、オーディションを勧められたなら、誰だって従うはずだった。仮にすぐ決断できなくとも思い悩むはずだった。
けれどあのコーチは即座に拒絶した。王者の言葉を真っ二つに切り捨てて、コーチの道を進むのだといい放った。
……それは夜鷹のスケート人生でついぞ手に入らなかったものだ。途中からは欲しいとも思わなくなったものだ。今となってはもはや憧憬すら遠い、それでも。
───君はいいコーチになれるかもしれないね。
そう呟いたときの自分がどんな顔をしていたのか、今ではもう思い出せない。
(……結局、僕が正しかったということだ)
あの青年もまた夜鷹の正しさの前に降った。それは当たり前のことだ。当然のことだ。
かすかな失望を振り払うように紫煙を吸い込む。
結局のところ、幼い日の自分が求めたようなコーチなんてどこにも存在しない。自分自身の可能性すら捧げてくれる人間なんていやしない。お伽話の中の救い主が現実にはいないのと同じことだ。
アイスショーで、あの青年はそれなりのスケートを見せてくれるだろう。勧めた人間の責任として一度だけ観よう。その後はまた元の隠棲生活に戻ればいい。
───そう思っていた。けれど。
これはなに。これはなんだ。
氷の上で青年が舞っている。
その静謐さに眼を奪われる。その美しさに言葉を失う。その指先の傾き一つにさえ胸を焦がされる。まるで神を降ろすかんなぎのごとき清らかさと揺るぎなさ。青年の手が天を指し示す。夜が終わる。
青年の踊りが太陽を連れてくる。
ドクドクと心臓が鳴る。ズキズキとこめかみが痛む。
許せない。許さない。腹の底から込み上げてくるのは憤激だ。こんな結末は認めない。氷の上が光で満ちることなどあってはならない。そこにあるべきは深き夜ただ一つ。燃え盛る夜ただ一つ。救済も鎮魂も許さない。輝かしい朝など必要ない。ここは永遠に明けぬ夜であるべきだ。君が夜明けを連れてくることなどあってはならない。
───あぁ、今すぐあの太陽を堕としてやりたい。僕ならそれができるのに!
そう凄まじい衝動のままに足に力を込める。その途端に、足に触れる感触が長年慣れ親しんだものではないことに気づく。ハッと息を吸い込む。ここは観客席で、自分はもうスケーターではない。夜鷹純の人生は二十歳で終わった。残っていた屍もすべて光に与えた。ここにいる自分は残り滓の幽霊のようなものだ。空っぽで虚ろ。この先は衰えて朽ちていくばかりの出来損ない。───あぁ、だけど!
(これはなに)
この胸を灼く炎はいったいなんなのか。
青年が高らかに舞う。勝利を告げる。すべての絶望が去り、夜は明けるのだと宣言する。胸がかきむしられる。頭が割れんばかりに痛む。許さない。許せない。あれは敵だ。初めて見る、そしてようやく見つけた敵だ。どうあっても叩きのめさずにいられるものか!
ここに朝など必要ない。氷の上にあるべきは永遠の夜。
君に本物の夜を教えてあげる。君に真の絶望を与えてあげる。この世界の頂点に立つのは誰なのか思い知らせてあげる。
(───僕にはそれができる)
怒りが。
激情が。
ひるがえって歓喜となる。
この身が空っぽだろうとどうでもいい。あそこには敵がいて、自分はいま心から戦いたいと思っている。それ以上のどんな理由が必要だ?
身体中に炎が灯る。あの青年が叩きつけてきた熱が、心地よく全身を灼く。笑みが零れる。この程度の熱、もはやぬるま湯のようなものだと教えてあげよう。
(最強は君じゃない)
思い知らせてあげる。
(───僕こそが君を灼くんだ)
そして君を足元に跪かせ、永遠にこの夜に閉じ込めてみせよう。