(フォーラム)お風呂のいま:3 多様なニーズ

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 乳がん経験者や性的少数者ハンディキャップのある人たちなど、大浴場を利用しにくいと感じる人たちがいます。人の目を気にせずに入れる家族風呂(貸し切り風呂)のニーズは高まっていますが、実は歴史的、文化的な背景から、大きな地域差がありました。

 ■家族風呂、だれもが入浴できるように

 鹿児島と宮崎にまたがる霧島連山のふもと、鹿児島県霧島市に「家族湯天国」をうたう日当山(ひなたやま)温泉がある。家族風呂が16施設にあり、4~5人まで入れて300円のところも。人気の施設を7月末の週末に訪れると1時間待ちで、駐車場には鹿児島や福岡など県内外のナンバーの車がとまっていた。

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 <発祥は九州の温泉地?> 九州では数多く見られる家族風呂だが、普及には地域性がある。家族風呂の情報を掲載する検索サイト「YUASOBI」には全国で約1300件の家族風呂が紹介されており、九州・沖縄が511件と4割を占める。北海道・東北が230件と続き、関東は137件と少ない。

 サイトを運営する「株式会社ヒラコー」(福岡市)の平川浩輔さんは、家族風呂は温泉地に多く見られ、文化の違いも大きいと指摘する。「発祥は九州とも言われており、九州地方に多いのはそうした理由があるのではないか」

 日当山温泉の歴史を旅館組合の米田知弘組合長に聞いた。昭和30年代に温泉街が衰退する中、旅館が日帰り客に風呂を開放したのが始まりで、家族風呂を専業とした施設は1971年ごろにできた。湯量が豊富で施設ごとに源泉があり、お湯の入れ替えコストが低いことも盛んな背景にあるという。

 家族風呂発祥の地ともされる熊本県山鹿市。67年にオープンした「新町温泉」(2017年閉館)が山鹿温泉での草分けとされている。家族風呂を備えた施設は市内に17軒あり、家族連れだけでなく、LGBTQなど性的少数者やタトゥーがある人、肌を見せる公衆浴場には抵抗があるというインバウンド客などから人気だという。

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 <条例で禁止の自治体も> 一方で、家族風呂や貸し切り湯は、条例で禁止されている男女の混浴にあたるとして認めていない自治体も多い。「温泉の日本史」(中公新書、石川理夫著)によると、混浴は近代化を進める明治政府によって規制され、その流れで戦後に公衆浴場法や各自治体の条例が整備されてきたという歴史的な経緯がある。

 東京都の担当者は「家族風呂や貸し切り風呂は混浴にあたり、風紀が乱れる可能性があるので認めていない」と説明する。文化的な背景や公衆浴場への考え方には地域性もあり、「東京の銭湯には日常のお風呂としての役割があり、混浴は通常の行為ではない」という。家族風呂と言っても、厳密に家族だけの利用に制限することができないという事情も指摘する。

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 <銭湯に「福祉型」併設> そんな中で、東京都墨田区の御谷湯(みこくゆ)は銭湯に併設して「福祉型家族風呂」を2015年に始めた。介護を受ける人、障害がある人にも銭湯につかる機会を作りたいという思いからだった。墨田区でも条例で混浴は禁止だが、区と協議を重ね、身体障害者手帳を持つ人や要介護認定されている人と介助する家族を利用の条件とすることで認められた。御谷湯3代目の片岡信さんは「介助されて入浴する姿を見られたくない人もいる。プライバシーが保たれた状態で入浴できるという点で、貴重な存在だと思う」と話す。(山野健太郎)

 ■手術痕気にしていたけど… 一歩踏み出せた

 「タオルで胸を隠して入れたらいいのに、と思っていた」

 福岡県内の女性(48)は、乳がんの手術を受けたばかりの頃をそう振り返る。我が子にもタオルを湯船につけてはいけないと教えてきた。事情があればタオル巻き可という浴場でも、人の目を気にしてできなかっただろう。

 右胸のしこりに気付き、ステージ2だと診断されたのは39歳の時。手術前に、夫と長女(当時5歳)、長男(当時3歳)と近くの温泉へ出かけた。

 部分切除か全部か、手術を始めないとわからないと言われていた。「たとえこれが最後じゃないにしても、手術したらしばらく入れないだろうと思って」

 入ったのは家族風呂。子どもが小さいと、周囲を気にせず入れる家族風呂はもともとありがたい存在だった。

 手術が終わり、麻酔から目が覚めると、乳房があった。安堵(あんど)したが、乳頭から背中にかけ10センチ弱の傷が残った。左右差も生じた。

 術後半年ほどが経ち、温浴施設の利用が許可されても、行く気にはなれなかった。「子どもも傷を見て最初はびっくりしていたし、他人が見たらどう思うか」

 とはいえ子どもがいると、そうも言ってはいられない。子の友達家族と遊びに出かけ、温泉に寄って帰ることも度々あった。「一緒に入って面倒みるよ」と気遣ってくれたママ友に子を預け、1人ロビーで待った。

 きっかけをくれたのは、「家族風呂」だった。たぶん友人家族も気を使ってくれていたんだろう。ある時、「家族風呂なら入れるんじゃない?」と勧めてくれた。

 久しぶりの自宅以外の風呂は「気持ちがよかった」。自身が温泉好きだったということにも気付かされた。

 「いきなり大浴場はハードルが高かったけど、家族風呂があったことで一歩踏み出せた」

 その後は大浴場にも入ることができた。家にはない大きな風呂や露天風呂は「最高」だった。「実は人ってあんまり他人のことを見ていないんだな」と感じ、以降あまり気にしなくなった。

 ただ、それも部分切除だからかもしれない、とも思う。乳がんになって乳房の全部切除をした義母は術後5年が経っても、家族旅行の際には1人大浴場を避け、客室の風呂に入る。

 義母がもし悩んでいるのだとしたら――。入ってみませんか、と声をかけてみようと思い始めている。まずは、家族風呂で。(城真弓)

 ■外国人も楽しんで/無防備は不安、貸し切りなら

 アンケートでは、温浴施設に望むこととして、2割前後が「バリアフリー設備を整えてほしい」「貸し切り風呂などを増やしてほしい」と答えました。結果はhttps://www.asahi.com/opinion/forum/245/で読むことができます。

 ●バリアフリーまだ不十分 寝たきりで車椅子を使用している子供がいます。旅行先の入浴施設はリサーチして予約して、貸し切り風呂があれば利用しています。バリアフリーが進んでいるとはいえ、まだまだ不十分な部分はあります。(大阪、男性、30代)

 ●まわりの目も気になる 異性の子連れで公共のお風呂は難しいなと思っています。4~5歳くらいになってくると、本人の意識も、まわりの目も気になります。(東京、女性、20代)

 ●入浴文化を外国人にも タトゥーがあると入れない所が多いのは、外国人がたくさん訪れている昨今もったいない。もっと日本の入浴文化を外国人にも楽しんでほしい。(滋賀、男性、40代)

 ●1人で入りたい 温泉や大浴場は好きだが、他人と一緒にお風呂に入りたくはない。大きくても小さくても、どんなお風呂も1人で入りたい。マイペースで入らないと疲れが取れない気がする。(東京、女性、70代)

 ●水着で入れる施設を 水着で入れる入浴施設が増えてほしいです。誰もが人前で全裸になることを望んでいるわけではないし、トランスジェンダーの方や手術のあとがある方にとって、より包摂的になると思います。(大阪、30代)

 ●子ども1人は不安 母子家庭が、男の子と入れるようなお風呂を作って欲しい。1人で入るのは暴れたりおぼれたりで不安。(兵庫、女性、40代)

 ●貸し切りなら入りたい 大浴場には、普段は入りません。無防備な姿で見ず知らずの人と過ごすことが不安だからです。貸し切り状態であれば喜んで入りたいです。(沖縄、女性、50代)

 ■《取材後記》社会課題が詰まっている

 「風呂キャン」と言えば簡単だが、その言葉の裏にある背景は単純ではない。貸し切り風呂(家族風呂)を利用する事情も様々だ。

 振り返ると、我が子が小さかった頃、安全に入浴させることに毎日必死で、温泉に行けば周囲の目を気にせずに済む家族風呂はありがたかった。成長するにつれ、やっと自分1人でゆっくり入れるようになった一方、子の長すぎる入浴時間や風呂キャン宣言など、新たな問題も生じている。

 置かれた立場が違えば、見えるものも違ってくる。風呂には社会課題が詰まっていると改めて気付いた。十分書き切れたとは言えないが、そこに風呂がある限り、今後の人生でも課題に向き合う時が来るのだろう。(城真弓)

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 じょう・まゆみ 2008年入社、西部報道センター記者。「お風呂の年」と息巻き、デジタル版連載を皮切りに年始からチームで取材を進めてきた。

 ■《取材後記》地域とのつながり大切に

 福岡出身で九州での勤務も多く、家族風呂は一般的なものだと思っていた。東京在勤時、未就学児だった娘ら家族だけで入れる風呂が見つからず、当たり前だと思っていた貸し切り湯が実は全国的なものではないことに気づいた。

 取材を進め、歴史や文化、地域性のかけあわせで、風呂に対して様々な考え方があることを知った。日常と密接につながったものだからこそ、地域と個人によって風呂への向き合い方も異なるのだろうと感じた。

 発生直後の熊本地震では、被災者に汗を流してもらおうと、被害を受けながら営業を始めた施設もあると聞く。入浴施設と地域住民とのつながりに勇気づけられる。(山野健太郎)

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 やまの・けんたろう 2005年入社、宮崎総局記者。3月まで勤務していた東京では、近所にあった下町の銭湯に通った。温泉の多い宮崎には、逆に「街の銭湯」がないのが悩み。

 ◇アンケート「動物を守る人たち」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。

 ◇8月9日、16日は休載し、次回23日は「動物を守る人たち」を掲載します。

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