レコードに針を落とす。パチパチとはぜるようなノイズの奥から心臓の鼓動が聞こえてくる。
英国のロックバンド、ピンク・フロイドが1973年3月に世に送り出した「狂気」(The Dark Side of the Moon)である。彼らにとって8作目のスタジオアルバムである。
色あせないレコード
その3年後、アメリカは建国200年の祝祭を迎えることになる。ウォーターゲート事件でニクソン大統領が辞任に追い込まれ、ベトナム戦争の泥沼から抜け出せずにいたあの時代、このアルバムはビルボードのチャートに14年以上、通算741週にわたって居座り続けた。今もって破られていない記録である。一過性のヒット作という域を超えて、アメリカ人の精神のどこか深いところに刺さり続けていたということだろう。
全10曲は資本主義社会を生きる人間の一生をなぞるように配置されている。各曲をざっくりと説明するならこうなる。