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外堀を埋めれば10.5【外堀小咄】/ゆんろんの小説

外堀を埋めれば10.5【外堀小咄】

11,984文字23分

外堀の11のまえに入れようと思って、なんとなくそっと棚上げにしたやつです
読んでも読まなくても、本筋にはあまり影響しないと思います
いやむしろ、影響ないと思われます

本筋?の12の続きの13もおんなじ感じで、本筋には影響しないし棚上げにしちゃおうかなと……
そう思った時に、小咄を披露してくれてるアヒルみたいに、読まなくても本筋には影響ないってことで、0.5刻みのナンバーを振ってみたらいいんじゃね?ってふと思って、まずはそっと10.5をあげてみました
純粋に、10の後11の前な感じです
いやもしかしたら、もっとさかのぼって0.5かもしれない

スタンプやコメントのみならず、憧れで作ってみたwaveboxでも構ってくださってありがとうございます
https://wavebox.me/wave/9p5abrvjx6c6o6j1/
お返事ができておりませんが、めっちゃうれしく拝読させていただいております
私が見たかっただけの自己満足な外堀に同調(共感?)して下さって本当にありがとうございます!

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「先生! お願いがあります!」

 ここ最近ぶっこまれるそのフレーズに、少し困った笑みを浮かべたのはルクス東山FSCコーチの明浦路司だ。
「どうしたのかな?」
 そう問いかければ、彼の唯一の生徒でジュニアの選手である結束いのりが、むふーっと鼻息荒くさらに距離を詰めてくる。
「先生も一緒に出ませんか!」
 語尾こそ疑問形だが、口調はまったくそんな気配はない。
「えーっと、何のことかな?」
 もうすでにバッジテストの8級まで取得した司にとって、なにかに“出る”ようなことはないし、“一緒に出る”と言われるようなものはなおのことないと思っているからだ。
「えーっとぉ」
 もじもじして見せるいのり。
 司のいのりのコーチ歴としての勘が告げる。彼女がこういうもじもじの仕方をするときは、ちょっとした無茶ぶりが来るということを。
「名港杯、司先生も一緒に滑ってくれたら心強いなって思って」
 はいキター。
 思ってもみなかったところにとんできたボールをどう捕球しようかと思案する。
名港杯に出て一緒に滑ってほしいみたいなことを言っているが、どう考えたってシングルの選手のいのりと滑ることなんてできないし、万が一アイスダンスであったとしてもカップルの年齢差制限があるのでそもそも無理。
 さてどう答えたものかと思案するのも当然だろう。
「うーん、一緒にって言うのは無理じゃないかなぁ」
 出した答えが無難なものであっても仕方ない。
「えー! 先生も出ようよー!」
「だって、アイスダンスはカップルの年齢制限あるし、いのりさんはシングルの選手だし」
「そうじゃなくて!」
 そうじゃなくて?
 いのりの言わんとしてるところが分からなくてこてんと小首をかしげる。
「先生もしんぐ」
「あーら! なんの話してるの?」
 いのりにみなまで言い切らせるより早く、ルクス東山FSCヘッドコーチの高峰瞳が笑顔で割って入ってきた。
「もぉ! 瞳先生!」
 せっかく言いかけてたにと、だむだむと地団駄踏むいのり。
「いのりちゃん、練習しなきゃダメよ。シーズンが終わったらすぐに次のシーズンの始まりなんだから。今年もジュニアGP出たいでしょ?」
 片頬に手を当てにこにこと圧のある笑顔を向けられ、むぎぎぎぎとなりながら地団駄踏むのをやめる。
「そうそう、司くん、時々ならプログラム、リンクで滑っていいわよ。っていうか、細切れでもいいからすべってくれないかしら」
「え?」
「司くんがいのりちゃんをジュニアGPの選手に育てる力があるって、選手なみの実力があるってきちんと知らしめたいのよ。8級を持ってるっていうだけじゃなく、ね」
「いや、でも、選手の子たちが優先……」
 司にとって、夜の練習会は自由に滑ってもよい場所だけれど、コーチの仕事をしているこのリンクは生徒たちのための場所で、自分のために滑る場所ではないという認識がある。
「うん、選手の子たちが優先。そんなことは承知で言ってるの。リンクが空く隙間時間で、司くんの手が空いてる時。実際にはそんな条件なかなか整わないでしょうけど、そんな隙があったら、どんどん滑ってって意味だと思ってくれたらいいわ」
 そばで聞いていたいのりの表情が一気にぱぁぁぁっと明るくなり、背景には見えない書き文字で“瞳先生サイコー!”と描かれている。
 そもそもが司のスケートに脳を焼かれているのに、金メダルのご褒美におねだりして踊ってもらった8級のプログラムでさらに追い打ちをかけて焼かれた。
 アイスダンス出身の司に教えられたいのりのブレードの使い方は、どの選手よりも丁寧で安定している。いのりのスケーティングは見る人が見れば、司のスケーティングに似ている。それはいのり自身がそれを目指したからに他ならない。

 ときどきしか見せてくれないスケーティング。
 それより低い頻度でしか見せてくれないジャンプ。
 選手じゃないからねといって、ご褒美にとか条件を付けでもしないと見せてくれないプログラム。
 もっともっとたくさん司先生が躍ってる姿を見たい。
 わたしもあんなふうにきれいに滑れるようになりたい。

 金メダルを獲れる選手になりたいという思いの根底には、そんな一端もある。
 8級のプログラムで見せつけられて、欲が出た。

 司先生のスケートは終わってない。
 なら、一緒に金メダルを獲りたい。
 女子シングル、男子シングルでいっしょに金メダルをとって並んで写真を撮りたい。


 個人レッスンが終わった後で、いのりは瞳のもとを訪れた。
 司にではなくわざわざ自分のもとへ来たことに何かを察した瞳が、事務室を出て別室へといのりを連れて行く。
 小さなテーブルセットが置かれたその部屋で、向かい合う位置に座る。
「瞳先生。司先生に言っちゃいそうになったの、止めてくれてありがとうございました」
 いのりは何か我慢するようにうつむきがちでそんな風に切り出す。
「瞳先生、わたし、司先生といっしょに金メダル獲りたいです。でも、言っちゃうと、司先生、わたしのことを優先して、自分は選手じゃないからって、受け入れてくれないと思うんです。分かってるから言わないようにしようって、思ってたのに……」
「そうね。いのりちゃんが言いたいこと、わかるわよ」
 そう言われ、いのりはがばっと顔をあげる。それとともに、思いが口からあふれだす。
「司先生はあんなに滑れるのに、自分のことはスゴイって思わないのどうしてだろうって、わたし思ってるんです。わたしがジュニアGPに出られるようになったのは、司先生がコーチしてくれたからなのに。司先生じゃなかったら、スケートが上手だって思われるような選手になりたいって思わなかった。なのに、司先生はいつも、わたしが一生懸命努力した結果でわたしが偉いんだすごいんだって。わたしも分かってます。だって、負けたくないから。スケートのことではだれにも負けたくない。それを証明するのがわたしにとっては金メダルだから。だから、頑張るのはわたしのためなんです。でも、がんばれるわたしにしてくれたのは、司先生なんです。なのに、司先生は、わたしのことばっかりで、司先生のことは褒めてあげないんです」
「そうね。司先生は昔からずっとそう。司くん、誰かのためならすごく前向きになれるけど、自分のことになると誰の言葉も届かないくらい、後ろ向きになっちゃうの。司くんを動かすためには、司くんのためじゃなく、誰かのためにっていう建前が必要なの。だからね、バッジテストも受けさせたの」
「…………」
「きっと、気づいてないのは司くん本人だけじゃないかな。いのりちゃんも、気づいちゃったみたいだから」
 苦笑する。
「だから、いのりちゃんも共犯よ? あのプログラムで、全日本まで騙し討ちで大会に連れて行く。あのプログラムで狙えない台なんてない。あの鴗鳥慎一郎と、あの夜鷹純が作った司くんのためだけのプログラム。現役のオリンピアンだってあんなに滑れない。それがどれだけスゴイことか、司くんがきちんと認識するより先に、既成事実で雁字搦めにしてもっと高いところに押し上げて見せつける。本気でやろうとしてるの。司くんを金メダリストを育成できるコーチでありながら、現役で活躍できる選手にすることを」
 ぱぁぁぁぁっといのりの表情が明るくなる。

「わたし、司先生と一緒に大会に出たい! あんなに滑れる先生をもっともっと見てほしい! わたしの先生はスゴイ人なんだって、見せつけたいです!」
「だよね、わたしたちもそう思ってる。そう思ってないのは司くん本人だけね」
 むふぅぅっと鼻息荒く食いつくいのりの様子に、瞳はふふふと笑んでから手を伸ばし、ちょんと、いのりの唇に人差し指を添える。
「司くんには内緒よ? 気づかれないように、悟らせないように。そうと気付いてももう後には引けないように」
 こくこくこくこく!
「理鳳くんはなぁんかそれとなく察してる気がするし、うまく隠して立ち回れるかな~、もしボロを出しても鴗鳥先生と口裏を合わせれば司くんをまるめこめちゃえるかなと思って話してないから、そこのところもよろしくね」
 こくこくこくこく!
 どの言葉にも激しく首を縦に振るいのり。瞳は彼女の唇から指をはなすと、少し考えるそぶりを見せてからそっと端末を取り出した。
「投稿する内容は必ずわたしに見せて、わたしがOKを出したものだけっていう約束をしてるけどね」
 そう前置きしながら、ちょちょいと操作しその画面をいのりに向ける。
「見たい、でしょ?」
 差し出された画面はいのりも使っているSNSアプリの一つで、【公式】明浦路司ファンクラブというアカウント名でトップ画像は司がいのりのようなブロークンレッグの姿。
「ひひひひひひひとみせんせいいいいい。こここここここここれ」
 がしぃっっと瞳の手ごと彼女の端末を掴み、鼻息どころか呼吸も荒く瞳孔ガン開きで見入っている。
「いのりちゃんのご褒美にって時間とってもらったでしょ? あの時に見ていたシニアクラスの人たちがね、ファンクラブのアカウントを作りたいって言ってきてくれたの。全く知らない人だとちょっと不安だけど、あの人たちなら悪いようにしないでしょうし、いくつか条件を付けさせてもらってOKしたの」
「フォフォフォフォフォフォオフォフォフォロー、フォローしたい、絶対する、フォロー!」
「ちょ、落ち着いていのりちゃん! これはわたしのスマホだから!」
 必死にフォローボタンを押そうとするいのりの指を阻止し、端末ごと掴んでいる手を離させる。
「ひひひひととみせんせいいい、ふぉふぉふぉふぉおふぉろー」
 瞳孔ガン開きどころがガンギマって手を伸ばしてくるその姿は、映画や動画で見るゾンビのようで、ひぃっと瞳が引く。
「フォローするなら、自分のスマホじゃなきゃでしょ」
 ごもっともなことを口にすれば、いのりはガンギマったままぐぎぎぎぎと妙な動きで背負ったままだったデイバッグをおろし、端末を取り出す。
「ひひひひととみせんせいいい、ふぉふぉふぉふぉおふぉろー」
「あぁ、もう、ちょっと待ってね」
 トトトと操作し、QRコードを呼び出していのりに差し出す。
 はぁーはぁーと荒い呼吸でアプリを立ち上げ、瞳が差し出すQRコードを読み取り、映し出されたトップページにあるボタンをポチリと押す。
 当然のことながら無事にフォローできたことで、いのりの妙な動きがなくなり、かわりに嬉しそうに端末を掲げている。

 司くんガチ勢ってどうしてこうちょっと……変わった人が多いのかしら。

 そっと心の中で呟くが、自分のことは棚に上げていることはもちろん自覚はない。
「ふわぁぁぁ~、司先生がいっぱいだぁ~~~」
 うふふふふ~とすっかり脳内お花畑のいのり。
 それがふと、何かを思いついた顔になり、手を下ろしてしゃしゃしゃしゃっとせわしなく指を動かし始める。
「なんでー!? なんで理鳳くんがフォローしてるの!?」
 どうやらフォロワーの中に、その名を見つけたらしく、むきーっと歯噛みする。
「ねぇ、いのりちゃん」
「なんですか!?」
「これも内緒よ? ファンクラブアカウントがあるって知ったら、司くん、なんて言うと思う?」
 ハッ。
「ううううぅぅぅ~~~、絶対に消してって言いそう~~~」
「でしょ? だからね、気を付けてね。いのりちゃん、司くんよりましだけど、いろいろ顔にも態度にも出ちゃうから」
「……はい」
 そこは否定できず、返事する声も小さくなる。
 途端に、瞳が笑顔のまま背に般若を背負う。もちろん目は笑っていない。
「もう一度言うわね。いのりちゃん、司くんよりはましだけど、いろいろ顔にも態度にも出るから気を付けてね。司くんに内緒のことは、内緒のままよ?」
「Yes,sir!」
 端末片手にイスをがたつかせて立ち上がり、ミリタリー映画に出てくる兵隊さんよりもきびきびした動きで軍曹に敬礼を見せる。
「よろしい、元気なお返事が聞けてよかったわ」
 背の般若は消えたものの、浮かべられた笑みの目はまだ笑っていない。
 いのりがぷるりと小さく身震いしたところで、ぱん、と、瞳が小さく手を打った。
「お話は、これだけかな?」
「あ、はい」
「じゃあ、出ましょう。もう、お迎えが来てる頃よね」
 いつもの瞳に戻っていて、いのりが時間を確認すると椅子から立ち上がり、先に立って部屋のドアを開ける。二人そろって部屋を出て、瞳はいのりを見送ってから事務室へと戻っていった。


「ふ~~~。あぶなかったぁ……」
「ひーちゃん、帰ってなかったの?」
 事務作業が残っていたようで、まだ帰っていなかった鴨川洸平が声をかけた。
「コウちゃん」
「どうしたの?」
「いのりちゃんに気を付けて」
「まさか……」
「やっぱりダメよね、あんなの見せつけられたら。気づいたとかじゃなく、あのプログラム見て、司くんにしがみついて号泣しながら言ってたじゃない」
「あー……。あれはちょっと焦ったよね。司くんが金メダル級のニブチンのおかげで助かったけど」
 洸平が遠い目をするのと一緒に、瞳も遠い目になる。
「あ、それで、いのりちゃんに気を付けるって?」
 瞳が言いかけていたことを思い出し、きちんと確認しておこうと洸平がたずねる。
「コウちゃんのお察しの通り、なんだろうけどね」
 そう前置きして、瞳は個人練習が始まるときのことと、つい今しがたのことを話した。
「あー…………。まぁでも、とりあえずはソフトランディングだね。けど、ちょうどよかったかもよ?」
「どういうこと?」
「司くんは“いのりちゃんのために”っていう餌を投げ込めば釣れるけど、いのりちゃんも“金メダルを獲れば司くんのプログラムが見れる”が報酬になってるよね。ある意味の共依存的な? 司くんのプログラムを餌にすれば、いのりちゃんの行動もコントロールできると思うんだよね」
「そうね、それはあるわね」
 洸平の説明に、瞳はすぐに納得する。
「なんかさ、そうやって考えると、つくづく加護さんたちすごいよね」
「そうね、司くんが金メダル級のニブチンってこともあるけど、一緒に住んでるのに悟らせてないものね」
 そんな二人の脳裏には、『あの日』の出来事がよみがえっている。

コメント

  • ゆんろん作者

    コメント&スタンプありがとうございます!

    2025年5月5日
  • hemp
    2025年4月29日
  • Lilith
    2025年4月28日
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