同族嫌悪の三角関係
世間からの司への批評に我慢の限界を迎えて司を攫って隠しちゃったいのり、そんな彼女に真正面から喧嘩を売りに行く夜鷹、二人がバチバチにバトっている中割と強かに生きてる司、そんな三人のお話。
※いのりが金メダリストになった後の話です
※よだつかはまだ付き合っていません
※いのつかは親愛以上恋愛未満という感じ
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いのりは直ぐに物を失くしちゃうから、大事な物はこの箱に入れておきなさいと幼い頃に母に言われた。
姉からもらった綺麗なヘアピン、母が見つけてくれた四葉のクローバー、父から貰ったお気にりのキャラのボールペン、それから司先生に貰った折り紙のメダル、段々とメダルの数が増えちゃって箱に収まらなくなっていのりの大事な箱はどんどんと増えていったけれど、でもどれも捨てることなんて出来なくて圧迫されていく部屋に何度も母から苦言を呈されたけれど、それでもいのりは捨てることや諦めることが苦手だったのでどうしようもなかった。
大事な物は失くさない様に大切に箱にしまっておかないといけない。傷つかないように、誰にも奪われないように。
いのりにとって司は太陽だった。自分の人生を照らしてくれる正に神様のような人。きっといのりにとってのスケートは司の形をしている、それくらい彼のスケートに憧れ追い求めいのりは世界一とも言われるステップを身に付けた。でもアイスダンスの選手であったという司のスケーティングこそいのりは今でも世界一だと信じている。というより実際そうだとさえ思っている。だって、彼程美しいスケートに出会った時の感動は今でも忘れられない、新しい振付を行う際に手本として司が踊ってくれる時間がいのりは何よりも大好きだ。スケートが上手くて、優しくて、何処までもいのりを信じてくれる私の、私だけの先生。それなのに、世間はどうやら見る目が無いらしい。
幼い頃ははっきりと分からなかったけれど、スケートの世界はかなり厳しい実力主義らしい。アイスショーの出演だって実績がものを言うし、スポンサーだって余程の実力者じゃないと付いてはくれない。それはコーチでさえそうで、元メダリストの鴗鳥やライリーがコーチとしてメディアで取り上げられる一方、いのりの司は何時まで経っても所謂ネタ枠としてしか扱ってもらえない。いや確かに明るくて面白い所も司の魅力ではあるんだけど、本当の司の魅力を誤解されている気がしていのりは不本意でもあった。だって、スケートがやりたくても出来なかった弱いままのいのりを掬い上げて、こうして世界で戦えるまでに成長させてくれた司のコーチとしての手腕はそれこそ天才的だ。日本中のコーチ達が喉から手が出る程欲しているハーネスの技術を身に付けた司のお陰で、いのりは今では光と対等に渡り合える程の高難易度ジャンプを幾つも習得したし、司の表現力溢れる手本をトレースして自分の演技に落とし込むことでいのりのPCSは劇的に伸びた。きっとコーチとしての司を欲しがるクラブは多い。まぁ司はいのりのコーチなので誰にも渡さないけれど。
それはそうとして、兎も角いのりはうんざりしていた。世間から寄せられる司のコーチとしての実績を疑う声や、いのりに才能があったお陰で有名になれただの嘲笑するくだらない声、そういった耳障りな音が司に届かないことを願っていたけれど、多分いのりよりもずっと賢くて鋭い彼は気付いているのだろう。それでも今日もいのりを心配させない為に何時もの快活な笑顔で笑うから、いのりも何も知らないふりをするしか無いのだ。
それもきっと世界の頂点に立ちさえすれば、四年に一度のあの祭典で金メダルを獲得していのりの存在を証明しさえすれば自ずと消えると信じていたのだ。まぁ、その憶測は甘かったのだけれど。
金メダリストになった事で変わったものは多くある。色んな人達から向けられる視線に込められた感情も十人十色だ。それでもいのりには関係なかった。自分の大事なものさえ変わらなければそれで良かったのだ。でも、クラブを移籍しないか、自分を新たにコーチにしないかという声には辟易した。クラブの移籍はまぁ今後の成長のために考えるのは一理あるとしてもコーチに関しては言語道断だ。確かに、光のように新たなコーチを得て得られる知見というのもあるのかもしれない、それでもいのりにとってスケートを学びたいと思えるのは司だけだったし、司と共に新たな知見を得て学び成長していく過程がいのりは大好きだった。というか司は今でも日々コーチとして成長しており、今だに新たな練習法や表現の幅を広げる為の工夫を提案してくるので、司から全てを学び尽くしたと思ったことは一度もない。寧ろいのりの方が置いていかれないように闘争心を燃やしているくらいなのに。
とはいえ、流石に量が増えれば苛立ちも増す。それにメディアの明からさまに司を無視していのりの功績だけを引き立てている報道にも腹が立つ。何が無名のコーチと歩んだ天才だ、あたかも環境に恵まれない中努力して己の才能だけで勝ち進んできた天才だとでもいうように書き立てやがって。いのりのライバルである光のコーチがあの夜鷹純であると公表されていることも加味しているのだろうが、それにしたって司を蔑ろにし過ぎだろう。
何度だっていうが、いのりは実に苛立っていた。いっその事全世界の前で司の素晴らしさを叫んでしまいたいくらいだった。きっと青い顔の司が必死に制止してくるだろうからやらないけど。それに腹が立つのはあの人にも。
唯一司を救えるであろう人、誰よりも司の根底に根を張っているくせに、いつも好き勝手に彼を引っ掻き回してその感情を弄んで、それなのに自分の感情には気付かない鈍感。でも、だからこそあの人なら司を救ってくれるかもしれないとさえ思っていたのに。
でももう良い、今更あの人に期待なんてしてやるものか。大事なものは大切にしまっておかないといけないのだから。
あっ、これは…すこ