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世界はそれを愛と呼ぶんだぜ/柿ノ木の小説

世界はそれを愛と呼ぶんだぜ

13,000文字26分

何故か再び始まった2回目の人生でスケート選手として頭角を表していた司。しかしその世界には夜鷹の姿がなく意気消沈していた最中、彼は天涯孤独の身となった子供の夜鷹と出会い共に暮らす事になる。
かつて夜鷹によってスケートの世界に導かれた司が、今度は夜鷹をその世界へ導いていくお話。

※天涯孤独の夜鷹純(8歳)と人生2週目の明浦路司(20歳)
※題名はとある歌のタイトルより

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これが2回目の人生だと司が気づいたのは5歳の時だった。あの日は例年にない寒波の影響で家の前の道路がスケートリンク並みにカチコチに凍っていた。それを見た5歳児は、大いにはしゃいで駆け寄り滑るそれに見事に引っ掛かりそうして盛大に転んで頭を打ちつけたのだ。そして慌てて駆け寄って来た兄の顔をぼんやりと見上げた瞬間、あコレ2回目だ、と司は何故か突如として理解した。

はてさて、スケート選手にはなれなくともコーチとして多大なる功績を残し幕を閉じた筈の己の人生が何故どうしてこうして2回目を送っているのか。初めはこの非現実的な事態の原因を唸るほど考え、熱を出し、再び考え、そして司はこう結論付けた。

「まぁ良いか!」

元来寝れば切り替えられる司が腹を決めるのに掛かった時間は短かった。そうして司は再び明浦路家次男として成長した。とはいえ基本的に前回同様この家には司をスケート選手に出来るだけのお金はない。こればかりは如何に前世の知識があろうともどうしようもないので、司は歯軋りをしながらも粛々と柔軟やバレエの練習をするに留めた。一応両親にも打診はしてみたがやはり了承は得られなかったのだ。
そうして時は過ぎ、気づけば司は中学を卒業していた。卒業後は両親の反対も押し切って働き出し、スケートの為に資金を貯めた。しかし此処で問題がある、テレビや新聞そして雑誌、どんなメディアにもあの司が恋焦がれたスケートの神様の姿がないのである。真坂スケートをしていない?それともこの世界にはそもそも存在しない?そんな可能性が頭を過った瞬間司を襲ったのは言いようもない程の恐怖だった。それでもきっと前回とは異なり生まれる年代が違うのかもしれない、などと自分に言い聞かせて司はスケートを続けていた。
以前同様スケートを始めた時期が遅かった司は、同年代よりも随分と遅れてバッチテストに合格した。それでも前世で染みついた知識と技術は今回も受け継がれたらしく、ストレートでテストに合格し続けその才能を発揮していく司の姿は、次第にスケート界隈で話題になりつつある。現に出場した大会でも軒並み一等輝くメダルを手にし続けた。そうして20歳の時、遂に訪れた全日本選手権で司は念願の金を獲得したのだ。

そんな最中だった、司が突如として実家に呼び戻されたのは。


母方の大叔父に当たる人が1年程前に逝去したらしい。そもそも母の実家は割と裕福な方で、更にその大叔父ともなれば国有数の資産家だった。今世で初めて知った話だけれど、そもそも母は実家とは折り合いが悪かったのでそれも無理はないのかもしれない。そうして当時はその莫大な遺産が原因で大層揉めに揉めたそうだ。まぁそれはそうだろうなと納得しつつそれからどうなったのかと問えば、母はなんとも言えない表情で言い淀んだ。

「あの人の子供は随分と前に事故で亡くなっていたし、既に奥様も亡くなっていたから親戚が相続するものだと思っていたのだけれど……実は、隠し子がいたのよ」
「えぇ?」
「しかも弁護士が遺言状を持ってきて、全ての遺産をその隠し子に相続させるって」
「おぉ……」
「とはいえその子当時はまだ7歳だったし既に母親も他界していたから、誰が面倒を見るかで揉めてね」

それは何とも酷な話だと司は思わず眉を顰める。この場合の揉めるは自分は面倒を見たくないので他者に押し付けるのではなく、その莫大な遺産を目当てに子供を引き取ろうとする者が大半ではなかったのだろうかというのは想像に難くない。司の予想通り、子供はその後とある一家に引き取られるも上手く馴染めず、僅か一月で別の家へ、そして再び別の家へ、というのを繰り返しているらしい。それが既に1年も続いているというのだから流石に怒りも湧いてくる。

「それで、もうその子を引き取れるのがウチくらいだって言われて」
「いや、それは無理じゃ……」

まだ弟二人は未成年の育ち盛り、お世辞にも資金力に余裕がある訳でもないのにこれ以上子供を養う余裕はないように思える。それともまさか、その子を明浦路家で受け入れるので司には帰ってきて助けて欲しい、ということだろうか。そう思わず身構える司に母は気付く事なく、重いため息を吐く。

「試しに1日その子と一緒に過ごしてみたんだけど、どうも……ねぇ?結構変わった子で誠と健が嫌だって言っちゃって」
「へぇ?」
「確か写真が……あぁ、ほらこの子よ」

母から差し出されたスマホを何気なく受け取り司は途端に金縛りにあったように固まった。烏の濡羽の様な漆黒の髪、何処までも凍てついた夜の月の様な瞳、幼いけれど間違いない、というか間違う筈もない。其処に居たのはかつて司の人生を狂わせて生涯恋焦がれた存在である、夜鷹純だった。どうして、なんでと自問自答しながらも何処か司は安堵してしまう。あぁ、あの人がいる。この世界にも夜鷹純は存在する!そう浮かれる司を他所に次に母の口から飛び出た言葉に思わず司は肩を大きく揺らした。

「ウチで面倒見れないなら後はもう養護施設にって……」
「それは駄目だ!!」

それでは夜鷹はスケートが出来ない。スケートをするに当たっての苦労は司は選手としてもコーチとしても良く知っている。だからこそその提案は受け入れられなかった。暫し悩んで、それでもどうしても諦めることが出来なくて司は勢いよく母に詰め寄った。

「俺が引き取る」
「はぁ!?だってアンタ、まだ20歳なのよ!?」
「法律的には問題ないだろ」
「そりゃ、そうだけど」

これは自分のエゴなのかもしれない、もしかすれば今まで以上の苦労を彼に強いてしまうのかもしれない。それでも氷の世界でしか生きられないと嘆いていた彼をこのまま見捨てるなんてことは司には到底出来やしなかった。


コメント

  • 7月9日
  • 剣崎♪
    5月31日
  • 伊藤
    3月7日
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