KADOKAWA決算から考える、「なろう・異世界系」偏重の先にあるもの
ミステリーを書いている側から見た、これからの小説投稿サイトの空気
KADOKAWAの2026年3月期通期決算説明資料が、創作界隈で大きな話題になっています。
特に注目されたのは、国内出版事業における収益性悪化の要因として、同社が「既存の勝ちパターンへの過度な依存」を挙げ、その中で「『なろう・異世界系』など実績のあるジャンルへの偏重」によって市場が飽和し、収益性が悪化したと説明している点。
さらに、「多様性の深化が不足し、企画が類型化」「斬新な企画や新ジャンルへの挑戦が減少」とも書かれていました。
もちろん、これをもって「なろう系が終わった」と言うのは、かなり乱暴だと思います。
なろう系・異世界系は、間違いなく一時代を作ったジャンルだと思っています。
読者が求める快感をわかりやすく提供し、Web小説から書籍、コミカライズ、アニメ化へとつながる巨大な流れを作りました。
その功績まで否定する必要はないのかなと思いますし、これからもそれが好きで目指していく作家さんもまだまだおられると思います。
ただ、今回の決算資料で示されたのは、ひとつのジャンルそのものへの否定ではなく、「売れた型を繰り返しすぎた結果、企画が似通い、市場が飽和した」という問題だと思います。
これは創作をしている側から見ても、かなり重要な変化ではないかと感じています。
「勝ちパターン」は、いつか勝ちパターンではなくなる
Web小説の世界では、ランキングに乗りやすいジャンル、読まれやすいタイトル、人気のある設定があるように思います。
それ自体は自然なことです。
読者が多い場所に作家が集まり、出版社もまた商業的に可能性の高い作品を探す。
すると、実績のあるジャンルに作品が集中していく。
これは誰か一人が悪いというより、市場の仕組みとして当然起こることなのだと思う。
しかし、同じ成功パターンが増えすぎると、読者の側にも「またこの感じか」という疲れが出てきます。
出版社の側も、刊行点数を増やしても、一作ごとの売上規模が小さくなっていく。
実際、KADOKAWAの資料では、刊行点数の増加がヒット作創出に結びつかなかったこと、1タイトル当たりの部数減少による収益性低下、作品の小粒化なども課題として挙げられていました。
つまり問題は、単に「異世界ものが多い」ことではなくて。
似たような企画が増えすぎて、読者に新鮮さを届けにくくなったこと。
数を増やしても、大きく刺さる作品が生まれにくくなったこと。
その結果、出版社の利益構造としても苦しくなってきたこと。
ここに、本質があるのだと思いました。
では、これから空気は変わるのか
私は、少しずつ変わる可能性があると思っています。
KADOKAWAは今後のアクションプランとして、「多種多様な作品の創出」「ジャンル戦略の再構築と作品開発力の強化」「企画提案・精査の強化」などを掲げています。
さらに、宣伝・販促を分散させるのではなく、戦略タイトルへ集中的に投下する方針も示していて。
これは作家側から見ると、かなり大きな示唆があるように感じました。
今までは、Web小説投稿サイトでランキングに乗りやすいジャンルを書くことが、商業化への近道に見えやすかったのは事実だと思います。
もちろん今後も、その傾向が完全になくなるわけではないと思う。
しかし、少なくとも大手出版社の側が「同じ勝ちパターンだけでは苦しい」と明言した以上、今後はもう少し違うジャンル、違う作風、違う読者層を意識した作品にも、目が向けられる可能性がある。
それは、ミステリーを書いている私にとっても、無関係ではないと思っています。
ミステリーにとっては追い風なのか
では、この流れはミステリーにとって追い風なのか。
私は、正直まだ厳しいと思っています。
ただ、悲観しすぎているわけでもないんです。
ミステリーは、異世界ファンタジーやラブコメのように、Web上で一気にランキングを駆け上がるタイプのジャンルではない。(もちろん極論作品や作者様によりますけれど)
特に私の書いているジャンルの本格ミステリーや倒叙ミステリーは、読者にある程度の集中力を求めます。
設定のわかりやすさや即効性のある快感だけで読ませるジャンルではないのも事実です。
一方で、ミステリーには強みもあります。
それは、企画の差別化がしやすいこと。
犯人が最初からわかっている倒叙ミステリー。
動物たちの世界を舞台にした社会派ミステリー。
日常の違和感から始まる短編ミステリー。
ホラーやファンタジー、SFと組み合わせた変則ミステリー。
ミステリーは、構造そのものが作品の個性になるジャンルだと思う。
ただ「誰が犯人か」だけではなく、「どう追い詰めるのか」「なぜ罪を犯したのか」「読者にどんな視点の反転を与えるのか」によって、作品の印象が大きく変わる。
もし出版社が今後、本当に「多様な作品」や「新しいジャンルへの挑戦」を求めるのであれば、ミステリーにはまだ可能性があるのではないか。
ただし、それは「ミステリーだから拾われる」という意味ではなくて。
むしろ、ミステリーであっても、単に昔ながらの形式をなぞるだけでは厳しい。
これから求められるのは、
ジャンルとしての強度があり、なおかつ一言で説明できる新しさがある作品
ではないかと思う。
カクヨムとnoteをどう使うか
私は現在、カクヨムとnoteの両方に、自分の代表作である倒叙ミステリー連作短編集『DOG』を置いています。
これは、単に作品を公開したいからだけではないんです。
新人賞や公募に挑戦している中で、もしどこかで作品や名前を知ってもらえたときに、「この人は何を書いているのか」がすぐにわかる場所を作っておきたいからです。
また、KADOKAWAはnote社との資本業務提携にも触れ、「note」プラットフォームを活用した著者の発掘や、グッズ・イベントを含む創作エコシステムの開発にも言及しています。
この流れを見ると、今後は単に「投稿サイトに作品を置いておく」だけではなく、作家自身がどんな考えで書いているのか、どんな読者に届けたいのかを含めて、外部から見える状態にしておくことが重要になるのではないかと思う。
カクヨムは作品置き場として存在感があり、
noteは、作品の背景や作者の考えを伝える場所として強みがあります。
だから私は、カクヨムには作品を置き、noteでは作品だけでなく、創作についての考えや、ミステリーというジャンルへの思いも書いていきたいと考えていて、それを少しずつ形にしています。
「異世界の次」を誰かが探している
今回の決算資料を読んで、私は「なろう系が終わる」とは思いませんでした。
むしろ、なろう系・異世界系は今後も残ると思います。
ただし、以前のように「この型なら売れる」という単純な状況ではなくなっていくのかもしれない。
出版社も、読者も、次の何かを探している。
それは新しい異世界ものかもしれないし、まったく別のジャンルかもしれない。
ミステリーかもしれない。
あるいは、既存ジャンルの組み合わせから生まれる、まだ名前のない作品かもしれない。
作家側にできることは、流行を完全に読むことではない。
それはたぶん無理でしょう。
ただ、ひとつだけ言えるのは、「今売れている型に寄せること」だけが正解ではなくなりつつあるということ。
むしろ、これからは自分が本当に書きたいものを、どうすれば読者に届く形にできるのか。
そこを考え抜いた作品の方が、結果的に強くなるのではないかと思っています。
私自身も、倒叙ミステリーという、決してWeb小説の中で一番読まれやすいとは言えないジャンルを書いています。
それでも、犯人視点で物語が進む面白さや、罪を犯した者が少しずつ追い詰められていく緊張感には、まだまだ可能性があると信じています。
KADOKAWAの決算資料は、単なる企業業績の話ではなく、創作する側にとってもひとつの転換点を示しているように見えたんです。
勝ちパターンの飽和。
企画の類型化。
多様性の不足。
そして、新しい作品への再挑戦。
その空気の変化の中で、ミステリーにも、もう一度光が当たる余地はあるのではないか。
そう期待しながら、私はこれからも、自分の作品を書いていきたいと思っています。
拙文を最後までお読みいただきありがとうございました。
何かお心に触れるポイントなどがございましたら、気軽にコメントなどいただけましたら、とても嬉しいです。


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