神はよかれと思ったが
神が「せや!スケートへの情熱を奪ったろ!」と、☀から⛸への情熱を良かれと思って奪う話です
原作軸未来時空のよだつかです(たぶんできてる)
大注意:神が出ます
注意:本誌の衝撃がまだ抜けていないので、スカッとするタイプの話ではないかもしれません
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神様は言われた。
『もうこれあかんやろ』
神は明浦路司を見て言われた。
『この子、スケートのこと諦めた方が幸せになれる思うわ』
神は明浦路司を哀れみ、同時に、なんや、とも思った。
明浦路司は神が作ったわけじゃなかったけど、ぴかぴかでぽかぽかで、ええやん!思っていたのだ。
それが、なんや。苦しんでばっかりで、なんや。
神が見守るとか目をかけるというのは影響が大きいため、あくまで横目で、たまに見て、ちらっと眼に入っちゃったので位の感じ。
空間に小窓を開けて神は覗いている。
明浦路司はさっき夜勤のアルバイトから忍び込むように帰ってきて、もう夜明けも近いような時間。
さほど見分けのつかないみすぼらしい寝巻に着替えるとベッドに倒れ込み、スマートフォンのアラートをセット。
すぐに眠り始めた、だがどうも眠りは浅いらしく顔色は悪い。
小窓の端をダブルタップするとさらに一段階深く、つまり夢の中まで見ることができる。
明浦路司の夢を見てみれば、そこはたくさんの他人だらけだった。
結束いのりがスケートを滑り、失敗し、また滑り始める。それを加護一家が応援している。高峰瞳、鴨川洸平、金弓美蜂……
いのりが3Lzを転倒する、司の夢の肋骨がきしむ。
いのりが泣く。
いのりが笑う。
『きみはまだ滑れるはずだ』
『きみはいいコーチになれるかもしれないね』
お守りと言うにはあまりにも冷たい声ががらんと響いた。
肌身離さずにいれば冷え切ってしまいそうなぐらい。
『やりたい事も言えなかったくせに』
『まだ捨てられる犠牲』
『今更未練でもあるのか』
『親ガチャじゃない親ガチャじゃなかった』
『あの人たちはいい人だった』
『才能ある子どもに乗っかって運がいいよね』
『みんな、瞳さんや洸平先生に教えて欲しい』
これらは司の声だった。
『よしよし』
神は明浦路司を気の毒に思った、神はサッと遥かな高みから手を伸ばして、明浦路司からスケートへ情熱を取り上げた。
すると司の寝顔はすぐに安らかになり、いちだん寝息を深くする。
いいこ、おやすみ、もうこれで苦しまなくていいからね。しあわせになるんだよ。
と、ついでに祝福のつもりで額に『スケートへの情熱は回収した 神』と書いておいた。
司の情熱を神は大切に宝物を入れる金庫にしまっておいてやった。尊いもの、美しいもの。
誰か知り合いの神が訪ねてきたら見せびらかしてやろうと思う。
なあ~、これええやろ、ええやろぉって。
「ふわ……なんかよく寝たなあ、ちょっとしか寝てないはずなのにめちゃくちゃ身体が軽い!」
起床した司は自分の体に起きた変化に戸惑った。だがそれは悪くない変化だ。
今日の予定は、羊さんを病院に送って……、その後学校へ。夕方からいのりさんのレッスンだけどどうしよう、一回車を置きに来ようかな。
洗面所でじゃぶじゃぶと顔を洗う。と、濡れた前髪の間から見える額に違和感があった。
鏡にうつっているのにその文字は司にもはっきり読める。
『スケートへの情熱は回収しました 神』
「えっ」
明浦路司のスケートへの情熱は回収されてしまったそうだ。そう書いてある。
そして、司はそれが悪戯ではないことがわかった、わかるのだ。
珍しくニット帽を深くかぶって出勤した司に、瞳と洸平は顔を見合わせる。
「どうしたの、今日けっこう暑いよ」
「寝ぐせ?」
「……じつは」
帽子を取る。神がつけた印はそれを見た人間へ認識を通すような効果をもたらす、瞳も洸平も『司からスケートへの情熱がなくなった』を受け止めた。
「……」
瞳が天を仰いだ。どうもこのかわいい後輩はよくないものに目を点けられることが多い。
「えーと……ちょちょ、ちょ~っと滑ってみてもらえる?基礎のステップでいいから」
「う、うん」
司は慣れた手つきで靴ひもを結ぶ。そのスピードに衰えはない。
氷に乗る、司もこころなしか緊張している。
「いきます」
身体に問いかける、身体は特に不調なく氷を押した。
「……できてるわね、」
結果として、滑りに全く問題はない。一般滑走の人が「滑ってるだけなのにきれいねえ」と言うのも聞こえた。技術は失われていない。
「司くん、どんな感じ?違和感とかない?」
「うん、滑り方はわかるよ。どう滑ったらどう見えるかもわかる。つまり体が覚えてるって事なんだろうな、20回やったら20回同じことができると思う」
ひとまず瞳はだれより深く安堵した。
この後輩がどんな思いで生きてきたか!文字通り薄氷を踏んで積み上げた技術が失われていたら、冗談ではなく死んでしまうのではないかと思ったからだ。
「俺にもいつもと変わらなく見えた」
じゃあ情熱がないって、どういうことだろう。
「そっか」
情熱が奪われたと聞いたにしてはあまりに普通すぎる。瞳は食い入るように見つめていたから司の唇が動いたのがわかった。
司は声に出さずに、「こんなものを?」
ぞわっと瞳の背中が騒いだが、もう司は苦笑して、
「とりあえずいのりさんのシーズンが終わったばかりで本当に良かった!」
「っそうね、ああ、いのりちゃんにも説明しないと……今日夜からよね」
瞳が青ざめているので司も申し訳なくなったらしい、
「ごめん、俺、たぶんもうここには――イデッ」
洸平がパンと背中を叩いた。言わせてたまるか!
だが司の方が強かった。
「情熱のない人間が未来のある人間のコーチをやるわけにはいかないよ」
バン、と今度は瞳が司ののんきな背中を叩く。うるさい、瞳と洸平の方が青ざめ、嫌な汗をかいていた。
鼻の奥の粘膜にぶつかる冷たい風、子供のはしゃぎ声、氷を削る音、エッジガードをつけて歩く特有のトコトコとした足音、保護者さんの香水の匂い、天井が高いから音が反響して、
そのど真ん中のリンクは真っ白だ、銀盤と評されるそれは輝いていて静かに冷たい。
司はこの真ん中にたったひとりで立ちたかった、次に、彼女とわずかなズレも隙もなく踊りたかった、それからショーの群舞でもいいから出して欲しくて、さいごに、
あの時自分が出会いたかった理想のコーチになりたかった。
かたちをいくつもいくつも変えてまでしがみついていたのはここだ。
でもいま、このリンクに司は何も思うところがない。
(そっか)
司は納得した。
(ここは俺の居場所じゃなくなったんだな)
いや、俺の居場所だったことなんか一回もなかったかもしれない。
ここじゃなきゃいやだ。ここにいさせて、どうか、ここじゃなきゃだめなんだ。
失われた衝動の輪郭の一つに触れた。
でもそれがわかったからなんだというのか。仕事の時間だ。一通り初心者向けコースのレッスンや体験希望の人に教える。
「先生、教え方が上手ですね、すごくわかりやすいです」
とある体験希望の女性はほっとしたように笑った。お世辞を言っているとかそういうわけではなさそう。
「ありがとうございます」
「情熱がないって書いてありますけど……」
「すみません。そうらしいです」
「そうなんですか……」
そうなんです、司は繰り返した。
休憩になったので司は下のコーヒーチェーンではなく、少し離れた喫茶店へと行った。
誰にも会いたくなかったからだ。誰にも会いたくないと言うか、誰かの反応を受け止められる気がしなかった。
思考の整理をしようと思ったのだ。
しかし司の思考整理とは脳内会議のようなものではなく、裁判いや糾弾に近い。
はじめに〇〇ありき、と唱える魔術がある。
それで言うならば明浦路司のスケートに対する情熱は、はじめに夜鷹純ありき、となる。
夜鷹純。
夜鷹純。
夜鷹純。
三回唱えて目を閉じる。
俺は夜鷹純になりたかった。
あの人と同じ景色を見たかった。
あの人みたいに氷の世界でたったひとり立ちたかった。
氷と俺だけになりたかった。
あそこまで行きたかった。
だからシングルの選手になりたかった。
親には言えなかった。
お金がなかった。
選択肢は全部間違えた。
そうだ、高校生の時にこっそり大会に出場したことがあったな。
スパンコールすらほとんどない衣装で。
跳ばなきゃ、諦めたくないって思った。
ジャンプ全部転倒。
運営の人に怒られるかと思いきや「怪我しなかった?」と優しく微笑まれた。
負ける事すらできなかった。
親切にしてくれた同好会の人間関係の輪を乱した。
匠先生に拾ってもらって、アイスダンスの選手に。
加護さん一家に援助してもらって。
芽衣子さんに表彰台にたつ俺を見せられなかった。
ああ。
結局何一つ成し遂げられなかった、自分の時間とお金だけじゃなくて、他人にも迷惑をかけた。
氷にしがみつく資格なんかもうなかった。
なのに今更別の道を選べなくてスケートにしがみついてた。
みっともないな。
あげく才能のある子供の夢にタダ乗りした。
最悪だ、他に何かできるか今更考えるのが面倒だっただけだ、勢いで乗っかってばかり。
こういうのをテイカーって言うんだろうか。
いや俺は恥ずかしい人間だ、現実が見えてなかった。
とりあえず家と仕事を探さないと……
出るわ出るわ。
自分を責め立てる言葉が並んだ、だが、司はもう苦しんだ顔をしない。
恥ずかしいやつだなとか、申し訳ないとか、迷惑をかけてバカだったなと思うが、辛くも悔しくもない。それだけだ。
傷はあるがそこに血が通っていない、そんな感じ。流れる血がない。痛くない。
「とりあえず、一人暮らしして、仕事を探すか……」
声に出してみる、わざわざ口に出したら何か変わるだろうかと思った。
だが悲壮感はなかった。突然奪われたのだからもっと湿っぽくなるのかと思ったがそんなこともない。
ネットバンキングアプリで口座の残高を確認する。
貯金は独り暮らしを始め、家具家電を揃えるにはは十分すぎるぐらいあった。
ずっといてくれていいからね。
優しい人たちの声を思い出す。
あの人たちに申し訳ないとか独り暮らししたいとか口先ばっかりだ、俺が居たかったんだよな。
あたたかいあの家は、俺の家だった、でも俺にはちゃんと家族がいた。
なのにあの人たちに甘えて……不誠実だったな、俺は。
途中、一人暮らししたいなあなんて贅沢を言うぐらい甘えていたんだなと思うとそれは胸が痛かった。
離れた席で三十代と思われる男女が雑誌を見ながら親し気に喋っている、付箋がいくつもついて、見れば旅行雑誌だった。
左手の薬指に指輪を探すとはたしてそこに指輪がある、なんて、びっくりした。まったく関係のない他人が既婚者かどうか考えることも俺ってできたんだ。
俺もあんな風にできるのかな。
スケートを好きじゃない俺を好きになってくれる人?いや、そもそも、俺のスケートにそんな価値はなかったんだ。
俺もスケートに関係ない人を好きになってもいいだろう。
司は気づいた、心を大きく占めていたあの黒い服の男の記憶を触ってももう、なにも痛くないことに。
ちゃんと思い出せる、俺が憧れていた人、口と性格が悪くて、俺はあの人に勝ちたかった。
面白いことに、彼の顔の格好良さや体のみごとさ、そして指先の執拗さとか、意外にも旺盛な欲求とか、キスが好きな事とか。
好きだった。好きだった。嘘じゃない。今も好き。
でもあれはもう、俺のものじゃなくなる。
なぜって彼と俺を繋いでいたのはスケートだったからだ。
いのりのことを思うと申し訳なくなった。技術力がなくなったわけではないがコーチを続けていくわけにはいかない。
司の理想のコーチというのは選手と一緒に歩き、選手の目になり、導く存在で――
いや?そこに俺の情熱って必要か?むしろ、俺の一喜一憂はいのりさんにとってマイナスに働くことが多くなっていたわけだし。
どうだろう、俺の技術力だけでも必要かいのりさんには選んでもらった方がいいだろうか。
本当にいのりさんには幸せになって欲しいな。俺にもう一度夢を見せてくれたことを感謝している。
そして勝って欲しい、あんなにがんばった子にご褒美をあげて欲しい。
でも俺はもう彼女を導けない、導きたい気持ちがもうない。
やっぱりそんな俺が関わってはいけない。あの子に不純な俺の汚れがついてはいけない。瞳さんにまた迷惑をかけてしまった。
自分を責める言葉は繰り返されるが、痛くない、辛くもない。
そうだなあ、俺って、しょうもないなあ。どうしようかな。どうにでもなる。
まずは仕事だ。30歳を過ぎてもまだ仕事は選ばなければなんでもある。
午後の仕事は中高生初心者のレッスン、夕方が社会人初心者向けレッスンだ。
どっちも全く問題なく進む。
瞳から、まずいのりの母に連絡をし、状況報告を済ませた。そのうえでいのりにも今日伝えると説明をする。
「いいこと、絶対に結論を急がないのよ」
「う、うん」
「失踪なんかしたら草の根毟っても探すからね」
「ひぇ……」
コーヒーを飲みながら求人サイトに登録したことを言ったらぶっ飛ばされそうである。
年金やら国民健康保険の手続き、さらには単身者向けアパートの賃貸情報まで見てしまった。
嬉しいな。
?
嬉しいってなに。
「司先生からスケートの情熱がなくなっちゃった……?」
いのりはぽかんと目を開いた。この顔をしている時はうまく言葉が入らないぞ、司は経験から知っている。
「そう、幸いシーズン終わったばかりだから、メインのコーチを瞳先生にして――」
だから貴方の練習には影響が出ないようにするからね、と続けるつもりだった司は早々に地雷を踏んだ。
「なんで情熱を取り戻すって言ってくれないんですか!なんで全然辛そうじゃないんですか!」
司が辛そうにすると気負ってしまうはずのいのりが叫ぶ。
「エ!?」
「司先生じゃなきゃ嫌だ!!やだ!やだってわからないんですか!?どうして!情熱返してもらってきてください!いますぐ!行かないなら私が行きます!どこに!?」
「エ!?」
休憩室の外まで響き渡る大声。司の額を見て事情を知っていた保護者さん達も顔を見合わせた。
「ヤダーーッ!!!!」
「いのりさん」
もはや半狂乱のいのりへ司は静かに言った。
「俺をそんな風に言ってくれてありがとうね」
いわゆる、「まずは、ありがとう」と切り出そうとしたが逆効果である。
「ヤダーーッ!!!」
話し合いどころじゃなくなってしまった。ほぼほぼコアラみたいにしがみつかれてしまった。
「ありがとう、いのりさん」
「ヤダーーッ!!!」
嬉しいよ、ごめんね。
帰宅し、事情を聞いた加護耕一は、まず、ものすごく怒った。
「横暴だよ、司くんの情熱を勝手に、ふざけてる」
いのりも耕一も司のスケートへの情熱が奪われたことを怒ってくれる。
そこ対して共感をできないところが申し訳なく、そして、そんな申し訳なさしかないのが申し訳なかった。
「まあまあ……すみません」
「司くん悔しくないの!?取り返そうよ!」
「悔しいって言うか、ないからわからないっていうか……」
「とにかく結論は急がない事、そして、どうしても、どうしてもっていうならうちの正社員になればいいから」
「さすがにそう言う訳には」
社長の顔で耕一は言った。
「前にも言ったはずだよ。芽衣子は司くんが選手だから応援してたんじゃない、司くんが頑張ってたから応援してたって」
「……でもおれにはもうスケートへの情熱がないんです」
ないことを告げる。じわっと司の心臓に広がるものがあった。
彼女への恩返しもまた、司のスケートへの情熱の一つだった。またひとつ輪郭をひろう。
「僕は最初は芽衣子の恩返しのつもりで司くんを応援してたけど、うちを、羊を守ってくれた司くんを応援したいんだよ。それがスケートでも、そうじゃなくても」
でもねと耕一は続ける。
「でも、僕は司くんがそれだけ夢中になったスケートのこともすごいなって思ったんだ」
「……ありがとうございます、そうまで言ってもらってうれしいです、すみません」
数日経過した。事態はなべ底みたいに煮えている。
司にとっていのりの献身が一番申し訳なかった。
「先生、見て」
思いつめた顔で現れたいのりは笑顔をつくり、一番最初に踊ったプログラム、木星を踊って見せた。
「私、先生が踊ってくれたのを見て、いちばん踊りが上手い子になりたいって思ったんです」
音楽に合わせて、いのりは懸命に踊る。
「どうですか?ねえ、先生」
「すごくきれいで、上手で、感動したよ」
「!」
じゃあ、といのりは顔を明るくするが、司は視線をそらした。
「きれいだと思うし、エッジの使い方やスケーティング、腕の振り下ろしかた、バックスクラッチも、フライングシットスピンも……本当に素晴らしい、いのりさんが身に着けたすべてに感動する」
「なら」
「……でもそれは、いのりさんの努力の結晶だよ」
いのりは今日もぐずぐずと泣きだした。小学五年生に戻ったみたいに泣いた。
先生じゃなきゃ嫌だ、先生がいいんです、こんなに言ってるのに!なんで!どんな形であっても先生がいてくれたら、と言う。
けれど司は「ごめん」としか言えなかった。いのりの本気に対して気休めなんか。
このレッスンだって無料じゃない、むしろ一分一秒ずっと高いお金を払っている。
さらにはリンクには他の生徒もいる、事情をおおむねわかっているとはいっても雰囲気は悪い。
なのに初心者レッスンや子供の体験レッスンでは教え方がうまいと褒められてしまう。
情熱が失われたことで冷静にアドバイスや指導ができるようになるかもしれないと思ったが甘かった。
今の司のかたちは、いのりのもとめる司のかたちではない。
誰に求められたかった?司は誰かに求められたかった、けど、いのりを知ってしまったら、一番求められたいのはいのりになってしまった。
いのりだってそうだ。
やはりアシスタントコーチとして残るのは不可能だ。冷静に司は判断する。
こんな俺が貴方の側にいるのは貴方のスケートに悪影響なんだ、と言わなければ、それが最後に残った俺のスケートへの誠実だと思う。
その夜司はスマートフォンでいのりの動画を見た。
本当にきれいだな、難しい事をやってるな、すごいな、成長している、えらい、素敵だなと思う。いのりのおかげでルクス東山にシングル希望女子も増えた。
でも、司にとっては「すごいな」までだった。
何回も何回も何回も見た動画で、見るたびに何か発見があったはずなのに。
知らない国のお祭りを見た時みたいだ。
きれいだな、すごいな、たくさんがんばったからね。俺はその努力をずっと見ていたから。
別に司はスケートを嫌いだとも思わない、きれいだと思う、でも、自分が当事者という意識がもう持てない。
動画の中には当然夜鷹純のものもあった。
司はあえてそれを再生しなかった、少し怖かった。何故怖いかって、それは。
疲れたな、眠ろう、時間はいくらでもある
俺の人生は誰かに申し訳ないと思ったり、後悔すること、迷惑をかけることばっかりだったなあ、どこか他人事にして笑ってみる。
いのりさんへの申し訳なさだけは、いつまでもなくさないでいようと司は決めた、司はまたしても、彼女に大きな傷をつけてしまった。
申し訳ないけど、申し訳なさで眠れなくなることはなくてその日もしっかりと眠れてしまう。もう夢も見ない。
翌日出勤中、小学生低学年ほどの兄弟が自転車で司の横を走っていく。弟の自転車には補助輪がついていた。
補助輪。
そうだ、これだ。俺はいのりさんの補助輪だったのだ、そう思うのはどうだ。
彼女がスケートを始めて、軌道に乗るまで補助をする、それが俺だ。
補助輪はいつか外れるものだ。外した直後不安定になるかもしれないけど、体にはもう乗り方はしみついているはずだから、いずれ慣れる。
うん、いいな。俺はいのりさんの補助輪だった!そう思うことにした。
いのりさんにはちゃんとご両親やクラブの友達、瞳さんや洸平くんもいる、それに美蜂先生だって。
きっとわかってもらえる!はあ、気が楽になった。よかった。
肩からユルッと力が抜けて、ぐうっとお腹が鳴る。朝ごはん足りなかったな、コンビニでサラダチキンでも買おう。
神様は優しかったので、司から技術を奪って情熱を残すような残酷なことはしなかった。
『そんなひどいことするわけないやないの』
人外の心外ってか。記憶も技術もそれは人間のすばらしい過程だ、取り去るなんてとんでもない。情熱だけだ。
司はコンビニでサラダチキンとコーヒーを買った。リンク近くの公園のベンチに腰を掛ける。
そういえばコンビニのコーヒー、ちょっといいやつを買えるようになったんだなとささやかな感動がある。
スマホを覗き込むとインストールしていた求人アプリに通知が来ていた。
「お、新着求人」
自分でもガラガラだと思っていた職務経歴書なのに、一次面接通過の通知が二件も。
どちらもまったくスケートとは関係がない職種だ。
耕一はああいってくれたけど、せめて、最終的に耕一の会社に勤務することになったとしても、流されるのではなく、他も見たうえで自分が選びたいと思ったのだ。
それが誠意と言うものだろう。
求人アプリはどうしてかずいぶん容量を食う、もともと司のスマートフォンはいのりの動画や練習風景の写真、資料などでパンパンだ。
写真のフォルダを開く、誤動作背面ダブルタップのスクリーンショットを消しても焼け石に水すぎる。
まだ司は結束いのりのアシスタントコーチである。いのりのレッスンに使う動画以外で何か消せるものはないかと探す。
夜鷹純の動画を司は一括選択で削除した。スマートフォンは軽快に動き出した。
「先生!」
「おはよう、いのりさん」
いのりの顔が曇った。ここのところいのりは司の顔を見ては、情熱が戻ってきていないかと確認する癖がついてしまっている。
変化なしだとわかって、声が歪んだ。
「……おはようございます……」
「おはよう、いのりさん。今日もよろしくお願いします」
申し訳ない顔をするのは簡単だが、司は笑顔を保ち続けた。
いのりの顔を見るのはやはり辛い。でも、辛いからってなんだ。辛いだけだ。
コーチとしての誇りやスケートに対する情熱ではなく、司は社会人としての経験から「即日辞めまーす」などとは言わなかった。
シーズンオフとはいえいのりに悪影響を出すことは避けるべきだ。
幸い技術や記憶は失われていないため、いのりが落ち着くまではこのままで居させてほしいと結束夫妻や瞳にも頭を下げている。
お金を貰う訳にはいかない、とも言ったが逆にそれははねつけられた。
あのひとみたいに、靴と手袋だけを置いて消えられたらよかったのにな。そんなことを思わないでもない。
「いきなりいなくなったりするなんて、そんな鮮やかなこと、俺なんか」
理凰は慎一郎に頼み込んだ。明浦路先生が辞めるのなら名港ウィンドに呼んでくれと。
慎一郎が予想している数段冷静な声だった。しかし、ぐっと握った拳は微かに震えている。
俺は失いかけてた情熱を明浦路先生に取り戻してもらったから。俺が今度は先生を助けたい。
できることがあるなら、なんでも。父さん、お願い。
理凰が直接司のところに走っていって言わなかったのは、感情が溢れ出してしまいそうだったから。
それから、かつて自身もきっとしていただろう、諦めきった顔を見たくなかったから。
追い詰められたいのりは周囲へも後ろ向きな姿勢を見せ始めた。
タイミングの悪いことに、オフシーズンの気合の入れ方、モチベーションの保ち方についてという取材が入ってしまう。
「結束選手のように、スケートに対する情熱を持ち続けるためには」
「じょうねつ」
「はい、やはり情熱がないと、続けていけないと言いますし――」
「関係ありません」
いのりは強い口調ではっきりと言った、同席していた瞳が止める間もなかった。
「司先生の情熱を取り返して、私は司先生を取り戻します」
あまりに必死な様子に、取材者は不健康なものを感じる。自分の情熱とは他人だとでも言ったようにも聞こえる。
彼女は結束いのりのファンでもあった、これはなにかよくない事が起きているのではないか?
web記事の一部に動画が挿入されるが、「司先生の情熱を取り返して」という部分をあえて引用した。
神が司の額につけた、『スケートへの情熱は回収しました 神』という書きつけはそれを見た人間に理解をもたらす。
それは直接精神に作用するようなものだったが、弱点がある。写真や動画などを通してまでは及ばないという点だ。
『結束いのりのコーチ、やる気なくして辞めそうとかマジか』
そんな心無い声がじわりじわり、ひろがっていく。
当然それを耳にした司は、思ったより終わりは早いかもしれない。したはずの覚悟をもう一度おさめなおす。
家の鍵をかけた後で司は「ガチャッ」と言う。そんな感じだ。実行と、反復。
そうだ、この話をあの人にしたな。
『家の鍵をかけた時、「ガチャ」って言うといいんですって!そうすると家の鍵をかけたかわからなくなることないですから』
『へえ……』
『あは、でも貴方には関係がありませんでした。貴方の家はオートロックだし、それにガチャなんて言わないし』
『僕に関係がなくてもいい』
『え』
『君が話すなら、僕は聞く……気に食わない話なら怒るけど』
司はとうとう深いため息をついた。この話は徐々に大須をホームリンクとする名城クラウンやグラビティ桜通には伝わっているが、狭い世界の横のつながりで話は広がっていく。
名港ウィンドヘッドコーチ 鴗鳥慎一郎から突然の個人的な貸切だが、ぜひ来ないかという誘いは昨日あり、そしてそれは今日だった。
深夜でもしろくまばゆいリンクには金銀が並び立っている。
銀の鴗鳥慎一郎は息子理凰や周囲から話を聞いていたが、それでも司の額を見て眉をひそめた。
司は自分の額を指さし、つとめて明るい口調を心掛ける。
「と、いうわけでして……」
「……」
金の夜鷹純は沈黙をしたままだ。
とうとう司は夜鷹の反応を盗み見た、どうでもいいと言うだろうか、それとも、悲しんだりしてくれるだろうか――
悲しむ?そんな、あさましい。俺ってそう言うところがあるよな。
だが純は背を向けるとリンク中央に滑り出した、音もなく声もなく滑り始める。
いつもの練習ではない、ジャンプシークエンスでもない。ただのコンパルソリーだ。
「……?」
司の記憶にあるどの滑りとも違った、しかも夜鷹はジャンプを跳ばない。大げさなな振り付けもない。
ただまっさらなリンクに刃のついた靴で引っかき傷をつけるだけ。それが息を呑むほど美しい。
「……」
永遠に続くと思われたそれは唐突に終わりを告げ、珍しく夜鷹は司の方をまっすぐに見た。
この貸切で夜鷹が司をわざわざに気にすることは珍しいほうだ。
司は手袋の手のひらをパチパチと大きく打ち鳴らした。
「基礎の滑りだけなのに、すっごくかっこよかったです!」
「……これは君だよ」
夜鷹の声は暗かった。
「え」
「僕を追いかけて、君が求めて、君が僕を通して究めたスケーティング。今のはそれを僕が追っただけ」
「……」
「……ねえ、君の衝動は何?」
月色の瞳に一滴こぼすように、夜鷹の瞳孔が黒く拡がった。
視線に射貫かれ、司は拍手のかたちのまま硬直した。そして、困ったように、「……貴方だったはずなんですけどねえ」と笑った。
夜鷹は舌打ちをしようとしたが口の中がひどく乾いていてそれもできなかった。
「お疲れさまでした、それでは失礼します」
これで最後かもとか、そうしたことは司は言わなかった。それでも空気はじゅうぶんに沈んで重い。
走り去った司の背をしばらく見送ってから、夜鷹は慎一郎に言った。
「……笑った」
「うん?」
「……以前の彼なら泣いたはずだ。僕が誰かを追ってまで滑ったあのスケートをただ、美しいとかかっこいいなんてありふれた賛辞で済ませるなんて」
「純くん?」
「許さない」
夜鷹は激怒していた。
暇もツテも体力も持て余している夜鷹はさっそく元凶の神を探し当てるとタクシーで乗り込んで訪ねた。
現れた下働きに夜鷹は単刀直入に言い放つ。
「返して」
「ご本人様確認できる写真付きの身分証明書はありますか?マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど」
「……はい」
夜鷹はパスポートを出した。
「これは明浦路司のものではありません、代理返却申請は原則認められません」
「チッ!」
「次回は印鑑もお持ち下さい」
「チッ!」
下働きから報告を受けた神はううんと不思議がった。
「スケートのこと諦めた方が幸せになれると思うんやけどねえ」
「おっしゃるとおりかと」
「そうよなあ」
すこし、神は考えた。
「でもまあ、あの真っ黒いの河んところの神のお気に入りやからね。もっかい来たらしゃーない、返したって」
「かしこまりました」
「あ、ちゃんと印鑑貰うんやで、言った言わないはいっちゃんアカンのよ」
「かしこまりました」
それからまた、しばらく。
『でてきて』
夜鷹は昼間の大須観音へ司をLINEで呼び出した。あの夜鷹純が何か無理を通そうとするならきっと氷の上に他ならないはずだ。なのに、昼間の大須観音。
心配する瞳や洸平だったが、司は笑っていってきますと言うので見送るほかない。
「すみません、お待たせし」
昼間の日差しの中に立つ夜の化身みたいな男、逆に眩しくて司は目を細める。
夜鷹はくすんだ金色の飴玉みたいなものを手のひらに乗せていて、それを突き出した。
「これ」
「?これは?」
「君のスケートへの情熱」
「エ!?」
「大事なものだよね」
夜鷹純が、明浦路司のスケートへの情熱を取り返してきて、さらにはそれを大事なものだと言った。
なんだか司は成仏しそうになるが、踏みとどまる。
「そんなわざわざ、俺のために」
「早く受け取って」
司は言われるまま情熱へ向かって手を伸ばしかけて、引っ込めた。
「?」
「……本当にすみません、俺」
申し訳なさそうに司は言った。
「俺、それはもう、要らないです」
夜鷹は耳を疑った、こんなときに出せる言葉を夜鷹は知らない。しかもここは昼間で、しかも氷の上ではない、スケート靴も履いてない。
「俺、スケートではずっと間違ってたし、もしかしたらまだ別の道があるかもしれなくて、そっちはうまくやれるかも……」
司は申し訳なさそうに言うが、それはスケートに命を捧げた夜鷹を否定する意図はないというだけだ。
「まあ、もちろんめちゃくちゃお金持ちとかそういうのは無理ですけど!でも、働いて普通に生きて、趣味なんか見つけて……あ、結婚とか!」
とうとう夜鷹は癇癪を起した。バチンと夜鷹は司の口をあいている方の手のひらで叩くように塞ぐ。
「!」
司は目を白黒させた。師匠と弟子そろって乱暴!でも、泥を食わされない分師匠の方がちょっと育ちがいいな。
夜鷹はぞろぞろと濁った呼吸をうめき声とともに漏らし、手のひらの情熱を握ると司の胸に押し付けた。
きみはこれを捨ててはいけない、早く取り戻せ、そして、そして?
「ぷはっ、やめてください!」
顔を背けて手のひらから逃れた司があげたのは拒絶だ。
なぜ
喜ぶはずだ
これは奪われたきみの、スケートへの情熱だ
夜鷹から見たって、夜鷹から見たから美しく尊いもの、まばゆくかけがえのないもの、決して捨ててはいけないはずのもの。
奪われるほど重く価値のある、けど、奪われるなんてぶざますぎる、ゆるすな。僕は許さない。あきらめようとするな。
「……早く受け取って」
いいえと司は首を横に振った。
「貴方が、貴方のような人が俺なんかの情熱を、これを価値のあるものだと思ってくれたことを、俺は嬉しく思います、でも」
でも。
「俺はその片想いを手放して、とてもいま、楽、そう楽なんです。辛くも苦しくない、もしかしたらそのうちそこそこ幸せになれるかもしれない……」
夜鷹は躍起になって、とうとう取るに足らないと言った子供のことまで持ち出した。
「きみは、あの子供を突き放すの、無責任だね」
言ったがそれはかえって司の笑顔を深めるだけだった。
「ふ、貴方だって狼嵜選手の手を離したでしょ」
「君なんかと、君ごときと一緒にするな」
「す、すみません」
司は手に入れたばかりの自説を披露する。
「えっと……確かにいのりさんがスケートをやるには俺というきっかけが必要でした、でもそれは自転車の補助輪みたいなものです。いずれ外すもので――」
「僕は自転車なんか乗らない」
ぴしゃりと最後まで聞きもしない。
子供みたいだと夜鷹は思ったし、司が困ったように笑うから、こめかみがどくどく言う。
もう聞きたくなくて、かといってちっぽけな飴玉みたいなその情熱を捨てることもできなくて、夜鷹は本当にただの思いついて、司の情熱を指に摘むと見せつけるように自分の口に含んだ。
「何をするんですか!出して!」
慌てる司がおかしかった。まるで毒でも飲んだみたいな顔をする。
君のスケートへの情熱が毒なわけがない、仮に毒だったとしても、それは僕を絶対に殺さない。
情熱は甘くて苦くて、中からどろりとこぼれて、鉄錆みたいな匂いがして、砂みたいにジャリジャリしている、少ししょっぱい。
これは涙の味だ。夜鷹にはわかった。知ってる。
そのまま夜鷹は呆然とする司の胸ぐらを掴んでキスをした。司の体には力がまったく入っていなかったのでたやすかった。
擦り減りの少ない奥歯で噛み砕き、煙草の味の残る苦い舌の上で転がし溶かし、味を味蕾と脳に叩き込み、その上で砕けた情熱を司の喉の奥へと押しやった
「……」
砕けた情熱のかけらを飲み込まされて、司はひどく辛そうな顔をして胸を押さえる。
押し込まれた情熱のぶん、ひとつぶ涙が目尻から転がり落ちた。
「ひどいあじ」
夜鷹は露骨な舌なめずりをしてみせた、昼の最中なのに夜を感じさせるいやらしい舌なめずりだった。
「……ですねえ、はあ」
呆然と司はベタベタの口回りをそのままに。はあ。
はるかな高みから神はその様子をすっかりご覧になっていて憤慨した。
『あっひどい』
ひどい、とは非道いと書くこともある。道から外れると、外道。
「……また片想いしろって言うんですね」
すっかりうつむいた司の声は小さい。夜鷹は口に残る情熱の味を確かめているので、煙草を吸わなかった。大須観音境内は禁煙です。
「うん」
はるかな高みの神は、トントンネチネチと夜鷹を睨む。もちろん夜鷹はその頬に何一つ感じすらしない。
『無理やりなんて、けだもの!』
「はぁ……」
司はまだ、顔を上げない、肩を落として表情は夜鷹から見えない。
ほれみたことか、神は気の毒がる。
『気の毒になぁ、辛かろうになぁ、』
「……怒ってる?」
『ええよ!許す!怒ってええよ、ダーンと怒ってええ』
「胸が……苦しくて、変な感じがします、肺が重くなるみたい」
泣き笑いの顔を上げた司は、濡れた砂山がくずれるみたいにもろもろと言った。
「また片想い、するのかあ……」
「うん」
「はぁ、まあ、……あーあ」
「……苦しい?」
「さあどうでしょう、わかりません、……貴方ならこう言うんでしたっけ、俺が飽きるまでなら、なんて、はぁ」
司は口元を拭ってもう一度ため息をついた、しゃがみこんで、膝を抱える。
とても手放しで喜んだりなんかしていないだろうことは夜鷹にもわかった。
司は片想いと言った。
司はずっと、氷とスケートに片想いをしている。片想いは夜鷹の知る世間一般から見ても、辛い事だろう。
君はもう一度片想いをしろ。そうなると僕は酷い事をしたのかな。夜鷹は今更思った。
『うーわっ、最悪や』
神がはるかな高みで大声をあげた。まあ、またしんどそうやったらもっぺん情熱取り上げたろ、と思ったのだが。
司のスケートへの情熱を一度夜鷹が噛み砕き、溶かしてもういちど司に与えたせいで取り出しやすい形ではなくなっている。
どころか、夜鷹とも混ざり合ってしまっている。これはもう、簡単ではなくなってしまった。
しかもここは大須観音、テリトリーの外も外。手を出せない。
いびつな形で取り込んだ情熱は以前と全く同じとはならないだろうし、なんなら体に行き渡るまで時間もかかるだろう。
まったく余計なことをするものだ。そんなものをかかえさせて!
『かわいそうになあ、きのどくになあ、』
うずくまった司の後頭部をずっと夜鷹は見ていた。つむじがふたつある、かわいい頭だ。
夜鷹は求愛としてのスケートを求めて欲しくて言った。
「…………なにかしてほしいことはある?」
「…………」
しばらくして司が言った、
「……こおりに、のりたいです」
夜鷹は司から見えないところで、はっきりとわかるほど唇の端を吊り上げて笑った。
パンと軽く司の頭を手のひらではたく。
そこは僕のスケートを見たいと言うべきじゃないのか。君の衝動は僕なんじゃないの。
「……ああそうか」
そうか、求められたいという、これが。これも。