『明/浦/路/司 囲い込み計画』
よだつか+加護親子(コメディ、6話放送前)
夜鷹純には不満がある。それを解消するために加護邸を訪れた。
そこで思わぬ提案をされるが……
6話の予告の現役うらじに意識を焼かれました。推しの羊さん登場で咽び泣きました。よだつか+加護家に幸せになってほしくて3世帯住宅計画を勝手に立てました。普段はXでポソポソ妄想を吐き出しています。今回はXで公開したものを少し修正+おまけ小話6話つけ、6話公開記念としました。
幸せになってくれみんな泣
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『 明浦路司 囲い込み計画 』おまけ小話6話付き
※すでに(奇跡的に)デキがっているよだつか
「え、なんでここに……」
引っ越しの荷物を抱えていた司は、新居の前に当然のような顔をして佇んでいる黒尽くめの男を見て、思わず目を見開いた。
「僕もここに住むから……」
「は?」
「あ、早かったね〜、純くん。引っ越し業者さんは、もうすぐかなぁ」
先程まで司の運転する車に乗っていた加護は、新居の玄関前に佇んでいる夜鷹純を見ても、まったく動じていなかった。
「は?」
慣れた手つきで鍵を開け、真新しい住居へと入っていく加護と夜鷹
「司くん、入らないの?」
小さなリュックに大切なものだけを入れて背負っていた羊は、呆然と立ち尽くす司を下から見上げた。
「え、羊さん、今、何が起こってるの?」
理解が追い付かない、脳が考えを拒否する。ありえない人が、ありえない場所にいる。司は、自分の貧弱なキャパシティを超えた事態にただただクラリと眩暈を覚えるしかなかった。
◇◇◇
1年前……
夜鷹純は久々の逢瀬のその日、昼間から彼を押し倒し、爛れた情事に耽っていた。
夜の帳が下りた頃、ベッドを温めていた体温が、もぞもぞの動き始める。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃいましたか。俺、帰りますね。えーっと、俺のTシャツどこ行った?」
先ほどまで閨を供にしていた相手の、その素っ気ない対応に、夜鷹は無表情だが、内心は不満を募らせていた。
「……泊まっていきなよ」
「明日は朝9時に羊さんの病院の予約を入れているので無理です!……あ、あった!」
ベッドと床の合間からヨレたTシャツを探し出した司は、それを軽くはたくと、手慣れた様子で着始めた。
もうすでに着古したジーンズは履いてしまっていて、ほどよく筋肉のついた肩甲骨周りが動くのを眺めながら、夜鷹はジーンズと腰の隙間、ボクサーパンツの内側に指を差し入れ、こちらへと引き寄せた。
「ひっ!俺もう帰らないといけないんです!」
司は、慌ててジーンズのウエストを両手で抑え、ベッドに逆戻りしないように抵抗する。
夜鷹の指が抜けた瞬間、彼はバタバタと上着と荷物を探し出し、逃げるように寝室から出て行ってしまった。
― 気に入らない。
夜鷹はベッドサイドの煙草を手に取ると、苛立たし気にそれに火をつけた。
せっかく手に入れた相手だ。彼と一生を共にすると《自分の中では》既に決定していたし、すぐに同棲に持ち込めると思っていた。身体からグズグズに溶かして依存させてしまえば、手の中に堕ちてくると思っていたのだ…………当初は……。
だが、相手はかなり難敵だった。自分の意志は決して曲げない。夜鷹が色々な手法で誘惑をしようとしても、あっさり逃げてさっさと自分の巣へと帰ってしまう。
夜鷹は最終手段をとることにした。
友人の慎一郎は、彼の相談に引きつった顔をしていたが、最終的に「確かに、挨拶はしておかないといけないからね。でも純くん本当に大丈夫?」と気遣わしげに彼を心配し、先に手紙を書いた方がいいとアドバイスまでしてくれた。(慎一郎が書いた厚い手紙も同封した)
「えーっと、夜鷹純さんだよね。加護耕一です。はじめまして」
ちょっと困った顔だが、フレンドリーに接する加護相手に、暗黒オーラを背負ったままの夜鷹は、小さく頷いた。
「……夜鷹純です」
「えーっと、いただいた手紙の内容だと、夜鷹さんは、現在司くんと交際していて……できれば同棲したい……と」
「えっ!司くん、また出て行っちゃうの!?」
リビングのドア越しにこっそりと聞き耳を立てていた加護の娘 ― 羊は、父親の放ったその言葉に、思わず飛び出してしまった。だが、夜鷹と目が合ったことにビクっと驚いて、慌てて加護の後ろに身を隠す。
「うーん、そうなんだね。まぁ、交際に関しては、司くんが納得しているんだったら良いけど、この家を出るのはなぁ……」
さも困ったとばかりに頭をかいている加護に、羊も後ろで何度も頷く。
「い、嫌……せっかくまた司くんと一緒にいられるのに……」
羊は勇気を振り絞って、加護の後ろから魔王のようなオーラを放っている夜鷹へと対峙する。
「だよねぇ、うーん。」
「……お父さん」
「うーん。夜鷹さんは、司くんと一緒に住みたい。で、僕たちは、司くんに出て行ってほしくない……」
加護は、うんうんと唸りながらも……名案が浮かんだとばかりにパッと目を輝かせた。
「じゃあさ、いっそのこと、家、建てちゃう?」
◇◇◇
そして、現在
冒頭に戻り、司は、真新しいリビングで頭を抱えていた。
そう、おかしいなとは、司は気づいていた。身の回りにあった少しづつの違和感。
最初は「この家は借家だし、土地を買って新たに家を建てようと思う」と宣言した加護の言動だ。
「金持ちはすごいな」と思いながら、モグモグ朝食を食べながら聞いていたが、羊はウキウキと分厚いパンフレットを司へと見せてきた
「内装は私の好きにしていいってお父さんが言ったから、司くんも一緒に選ぼうね。」
「いや、俺は……一番狭い部屋でいいので、1室借りられれば十分ですし……」
「遠慮するなよぉ。水臭いぞ!司くん」
「そうだよぉ、一緒に選ぼう?私は書斎を作るの。私だけの図書館!司くんは、トレーニングルームとか、あっ、ピアノには防音室とかいるでしょ?」
「……防音室?羊さんピアノ弾けたっけ?」
トレーニングルームなら分かる。司が日々自重で筋トレなどをしているからだ。だが突然の防音室とは……
「っ!!!え、えっとぉ、私が部活とか……そう、吹奏楽部とか、合唱部とか入るかもしれないしぃ~」
慌てた様子を羊を、司は不審に思いながらも、確かにその可能性は捨てられないと思った。実家にいた頃、弟が急に軽音部に入ってギターをかき鳴らし始めたのを思い出したからだ。ハッキリ言ってかなり煩かった。
「羊さんは帰宅部とか、文芸部かと思ってたけど、せっかくだし学生のうちに色々体験するのも良いことだしね。俺みたいに突然フィギュアスケートに目覚めるかもしれないし」
「そうそう!」
次に、夜鷹が急に禁煙し始めたことだ。
なんか最近あまり吸ってないなぁとは思っていたが、その代わりに司への接触が多くなった。外出先で出くわすと、人気のない場所に引っ張り込まれ舌を入れるキスをされるし、家で急に耳たぶを舐られたり、酷いときは急にTシャツをまくられて乳首を吸われた。そんな雰囲気もなく突然だ。最初は驚いて、そんな行動を取られる度に悲鳴をあげてたが、「……口寂しい」とポツリと告げられてから、あぁ禁煙の影響かと納得して気にしなくなった。
海外大会の録画を大型TVを見ている時、首筋をガブガブ甘噛みされても、突然指をしゃぶられても、「まぁ禁煙中だしな」と動じないようになっていた。
「純くんはねぇ、羊がいるから禁煙してくれたんだよぉ。頑張ったねぇ」
「え?純くん呼び?いつのまにそんなに仲良くなってるんですか」
加護はにこにことしながら「そりゃあ、司くんの彼氏だしね。ご挨拶もいただいて、これまで交友を深めてきたのさ!驚いたでしょ」といった。
夜鷹純と交友……あまりに似つかわしくない言葉に司は顔を引きつらせる。
「もしかして、羊さんも?」
「最初はいつも通り、人見知り発揮していたけど、純くんはグイグイ行くタイプじゃなくて、すごい静かだし、物腰も柔らかいし、結構すぐに仲良くなってたよ」
この人が?いや、スケートが関わらないと、比較的平静な人だった。浮世離れしまくってるけど……意外と精神年齢が同じくらいなんじゃないか?羊さんと……
「家を建てるにあたって、僕が全額出そうと思ったけど、純くんも譲らなくてさ……。純くんの資産、全部教えてもらっちゃった!で半分出してもらったよ!」
「え!?俺も知らない夜鷹純情報ですか?Wikiに載ってないヤツ!!!」
「……管理会社に任せてるからね」
「うわぁ、セレブ発言……世界が違う」
司は再び頭を抱えた。この人どれだけ金持っているのだろうと普段から疑問に思っていた。慎一郎からは、現役時代に世界的大企業のスポンサーや熱心な数多くのパトロンたちにより一財産築いたとは聞いていた……ちなみに今でも金だけ惜しみなく出す大富豪のパトロンが何人もいるらしい。ナニソレ……フィギュアのトップ選手の世界マジで怖い。ライリー先生のとこも異様な雰囲気だったし……
「ほらほら、お家公開だよぉ、司君も立って立って!」
広い車庫に、荘厳な門扉に、広々とした豪華なエントランス。
扉を開くと何畳あるのかと考えるのも嫌になるぐらい吹き抜けの広いリビングダイニングに最新のアイランドキッチン。
壁際には大型テレビに巨大なソファがL字を越してコの字型に配置している。ソファとダイニングテーブルだけで何十人過ごせるのだろう。ホームパーティーでもする気かなと司は目を遠くした。
そして、部屋の隅の置かれている白いピアノ……
「もしかして、羊さんが言ってた防音室って」
「純くんがいままで使ってたグランドピアノは、司くんたちの家の防音室の方にあるよ。こっちは新しいピアノ。白くて可愛いでしょ?」
「『純くん』呼び?……羊さんいつのまにそんなに仲良くなったの……」
赤ちゃんの時から見守ってきた可愛い羊が、突然取られたような気がして、司は焦りパニックになっていた。
「純くん、一度聴いたらピアノで弾けるんだよすごいよね。この前、司くんと一緒に見に行った映画のインストも軽々弾いてくれたの!」
数週前、羊がずっと愛読していた海外ファンタジーの実写化映画を、公開初日に一緒に観に行った。既にパンフレットが売り切れていたため、名残り惜しそうにしていたが、後日、リビングでニコニコとそのパンフレットを眺めていたので、父親と一緒にまた観に行ったのだろうと思っていたが
「もしかして、この人と一緒に映画に行ったの?」
よく職質受けなかったな。黒づくめの男と、少女って怪しさ満点だろ……
「うん。その後ね、鼻歌うたってたら、「その曲好きなの?」って言って、弾いてくれたの。映画で聴いただけなのに、完璧だった!」
ルンルンと嬉しそうな羊の姿に、司は内心で悔しさにハンカチを噛んだ。
「……君も、その暗記力あったら、すぐ弾けるようになるよ」
夜鷹は、司をちらりと見ながらそう呟いた。確かに、スケートの振付などは1度で暗記できるが、楽器はさすがに違うだろう。
「譜面が読めなくても、僕の指を覚えればいいよ……」
「……まず、その指が動きませんって」
羊さんが手を離れていったようなショックから、司は小さくため息を吐いた。
「司くん、こんなところでバテてたら、次の部屋を紹介できないよぉ。ちなみにこのリビングは共用棟。吹き抜けの2階建てで、そこの吹き抜け階段を登った先の部屋が、ゲストルーム!そして、将来は3世帯にする予定だから!」
「は?3世帯?どういうことですか?」
「えーっとね。このリビングの建物が中心にドーンとあって、今は2階建て2棟が廊下で繋がってるんだよ。」
「将来的にはもう一棟、羊が結婚したら建てようかなって、今は庭になってるけどね。」
「…………理解が及びません。脳が拒否してます。」
司は混乱のまま目をぐるぐると回した。
「あっちの扉が、私とお父さんの部屋がある棟に繋がってるの。バスルームにトイレに、私の図書館と、お父さんの仕事部屋。2階にそれぞれのお部屋もあるんだよ。」
羊は司に一緒に内装選んだよね?と可愛らしく首を傾げた。確かに、体の弱い羊が自分の書斎に籠ったまま読書に耽っては困ると思い、本棚だけの内装にさせ、読むのはリビングか自室にした方がいいとアドバイスはした……
「で、もう一個の扉から行ける方が、司くんと純くんの部屋がある棟。バスルーム、トイレ、鏡付きのトレーニングルームに、ピアノがある防音室。2階にはそれぞれのウォークインクローゼット付きのお部屋もあるから、好きにしてね!」
「ははは、すごいね……」
司はその規模に、頭をクラクラさせた。
同性と付き合っている、それも、相手を紹介もしていないはずなのに、その相手は加護家の人たちに当然というように受け入れられている。あまりの事態に、すべての思考を放棄した。
「どうだい、純くん。結構いい感じだろ」
「……そうだね」
「え!そこタメ口?」
加護に対してタメ口で話す夜鷹を見て、司は彷徨っていた意識を現実に引き戻した。
「あはは、僕達はマブダチになっちゃったんだよ!君達の喧嘩の仲裁は任せてくれ!」
夜鷹純と加護さんがマブダチ?なんか、今世紀最大の衝突事故がおきてないか……
「もぅ、お父さんったら!」
羊はプンプンしながらも、将来は建設予定、現在は庭となった場所を、司の手を引きながら案内してくれた。
広々とした庭には、羊のリクエストから、可愛いらしいブランコと、ガゼボが設置され、中にはテーブルセットが完備されていた。
「これで、司くんがお外でトレーニングしてる時、私もここで見学できるね」
「そ、うだね……」
軽いランニングもできそうだなと司は現実逃避した。
桁が違う。映画のような大豪邸の様相に目眩を覚えつつも、意気揚々と新築の案内をしてくれる彼らに、司は付き従うだけだった。ツッコミが追い付かない……
その後、遅れてやってきた引っ越し業者に荷物を配置してもらう作業をして、夕飯は宅配寿司を取った。
夜鷹は食事の時どうするのだろうと司は思っていたが、寿司のネタ1枚だけ食べて、後は高そうな水を飲んでいた。案の定、シャリは司のもとにやってくる(羊の分含む)
そういえば、この人、鴗鳥先生宅で、食べもしないのに普通に食卓に混ざってるらしいし、結構マイペースなのか?
モグモグと寿司を食べる司を、夜鷹はいつも通り対面からじっと眺めている。夜鷹の部屋にお邪魔した時も、袋のままのカットキャベツやサラダチキン、おにぎりを食べていると、彼は当然のように目の前の席に座り、司の食事風景をじっと眺めているのだ。
「いります?」「いらない」がよくある応酬だ。ほんの時々、一口だけ食べる時がある。毎度、明日は雨かもなと失礼な考えをしていることは内緒だ。
やっとのことで、部屋の片付けを終えて、風呂に入り、真新しいベッドルームに着く。
でかいベッドの鎮座する様子に、司は何とも言えない座り心地の悪い思いをしていた。
とにかく、ベッドに正座をして交代で風呂に入った夜鷹を待つ。今日のことを問いただしたかったからだ。
「……寝てないの?」
「聞きたいことがあるんです」
夜鷹はシャツのボタンをとめながら、ベッドへと腰かけた。
つい、いつもの癖で、夜鷹の頭に置かれたタオル取り、濡れ髪をタオルドライしてしまう。
「いつの間にこんな話しになってたんですか」
「……僕が一緒に住もうっていっても君は断っただろう?」
「……そりゃあ、加護さんの家に下宿させてもらってる身ですし。勿論、いつかは独り立ち……ってアレ?俺、独り立ちできる可能性消えて…る?」
先程、加護から、家賃は夜鷹の方でよろしくねと言われたのだ。区分所有的に司の部屋は、夜鷹の持ち物らしい。家賃の相場が分からない。絶対高いはずだ。
司を支援したくてたまらないお人好しの優しい加護と違って、この人は多分、相場通り提示するだろう。
それも、彼らの言動から、この家は司の為だけに建てられたらしい、その好意を捨てること選択など……できるはずがない。
少し顔を引き攣らせながら司は、夜鷹の表情を見た。
魔王が、嘲笑ってる
「一生かけて、体で支払いなよ」
End
気づいた時には、加護親子と夜鷹純に囲まれて、かごめかごめ状態で逃げ道を塞がれてた司先生でした。おしまい。
以下おまけの小話6話
1◆すべてはトランプで◆
〈 計画段階の時間軸 〉
ピンポーンとチャイムを押し、玄関のカギを開ける。司は下宿先のドアを開き、あれ?と首を傾げた。
だいたいいつもは、羊か、加護が「おかえり!」と玄関に飛び出してくるのに、今日はなんだかリビングがバタバタ騒がしい。
司は疑問に思いつつも靴を脱ごうとした。なんとなく見覚えのある漆黒の革靴……加護はいつもブラウンの靴を好んで履いている為、珍しいなという思いと、そういえばあの人がこんな感じの靴履いていたなと思い出した。
リビングに入ると、何故かゼーハーしている加護と羊の姿が見えた。
「司くん!はやかったね!」
「工事が延期になったので、今日のバイトも無くなったんですよ」
「そ、そうなんだ!」
「加護さん、靴新しくたんですか、黒なんて珍しい」
「あははは、フォーマルスーツの時は、やっぱり黒だしね」
何か加護が必死に羊に目線を送っている。司が何だろうと思ったら、テーブルの上にトランプがある。三つと―山に分かれて……
羊が慌ててトランプをグシャグシャとかき回し始めた。
「羊さん、トランプしてたの?」
「そ、そう!!が、がっこうで流行ってて!」
「へー。懐かしいな」
「つ、つかさくん、アイス食べたくない?」
は?なんだ突然とばかりに司が首をかしげると、財布から万札を取り出した加護がそれと司にぎゅっと渡した
「僕、ダッツ食べたいなぁ。羊も食べたいよね!!」
「う、うん!」
「こんな時間に?」
「さっき、CMやってたんだ!ほら、悪いけど、近くのコンビニで!よろしく、期間限定のものと、アソート!!あと司くんの食べたいもの!!」
なんかおかしいなと司は思いながらも、加護親子に促されコンビニへと足を延ばした。
「ごめんね純くん、こんなところに……」
実は先ほどから加護邸を訪れていた夜鷹純は、焦った加護親子に促され、キッチンに屈んで隠れていた。
別にバレてもいいと夜鷹は思っていたが、バレたら絶対に今の計画が阻止されると断言する加護たちに説得され、身を隠していたのだ。
今日は、新築の打ち合わせと、最近の恒例行事『司の休日優先権』がトランプにて争われていた。
露天風呂付客室で羊と司と一緒にゆったり過ごしたい加護。
温泉は一人で入るのが嫌だから、司と2人で駅前の大型書店に行って、その後期間限定のキャラクターカフェに行きたい羊。
前日から泊まり込みで、翌日夕方まで司を独占したい夜鷹。
トランプの勝者から順番に、司の休日の予定を抑えられる(本人が了承してくれるかは別)仁義なき戦いが幕を切っていたのだ。
「とりあえず、僕が一抜けしたから、今度の休みは僕がもらうね…」
見送りに来た加護親子へとそう言葉を残して、夜鷹純は加護邸をあとにした。
2◆リビングにて◆
「純くんの髪、まっすぐストレートで羨ましい」
「……そうかな」
「私なんて、もわもわ、ボンッてなっちゃう」
「……僕はかわいいと思うよ」
「!!!!」
「あれー羊、なんで司くんの足の間に隠れてるんだい?」
「んんん」
「あはは、あの人のせいです。」
「えー純くんったら、うちの娘に何してくれてるの?」
ガハハと笑う加護に、司の股の間に蹲っていた羊は、おそるおそる司を見上げた。
「……司くんは、あの綺麗なお顔に口説かれて、平気なの?」
「いっつも記憶ブッ飛んでるから問題ないよ」
「ええー全然問題有りじゃん」
「無自覚は恐ろしいんですよ、加護さん」
夜鷹はその時知った。
司にどれだけ誘いをかけても、毎回華麗にスルーされているなと思っていた。だが実際は、固まって思考停止していたのだと。
ではどうしたらいいか……
そのまま押し倒せばいいのだ。
ゾクッと背筋に悪寒が走った司は、慌てて辺りを見回したが、何も異変は起きていなかった。
3◆何事もほどほどがいい◆
それは、何気なく司が溢した一言からはじまった。
朝の情報番組をつけて食事をしていた時、最新のスイーツ特集が流れたのだ
「美味しそうだねぇ」
「あれ、司くんって、そんなにケーキ好きだっけ?」
加護が、経済新聞を見ていた手を止めると不思議そうに首を傾げた。
「ケーキって言えば、俺の中で誕生日と、クリスマスぐらいですからね。好きっていうより、憧れ的な面が多いかなぁ。男3人だったし奪い合いみたいな」
「へぇ~」
話題はそれで終わった。そのはずだった。
「純くん、ケーキ買いに行こう!」
学校から帰宅した羊は、リビングでスケート協会からの資料を眺めていた夜鷹へと身を乗り出した。
司は現在スケートのコーチ中、耕一はまだ仕事から帰ってきていない。
同居計画が実行されてから、夜鷹がコーチ業で外出する夜までの時間、羊と司はリビングで2人でいることが多かった。
女の子一人を在宅させる心配もあり、加護が早く帰宅できない時は、外注の家政婦などに延長を頼んでいたのだが、夜鷹の了承を得て、特段の予定がなければ夜鷹が在宅することにしていた。
「……ケーキ?食べたいの?」
「違うよ!ほら、朝、司くんが言ってたじゃない!ケーキ!」
「……あぁ、でも、それって、どこに売ってるの?」
夜鷹は甘党の慎一郎の影響で、ケーキ屋の存在は知っていた。だが、自分で買いに行くことなどないので、場所までは分からない。というか興味がない。
「ふふん!司くんがよくアイス買ってくれる店がね!ケーキ屋さんなの!そこだったら知ってる!」
夜鷹は、羊の先導で街へと繰り出した。「純くん、ぼーっとしてて迷子になりそう」という羊の言葉より、少女に手を引かれながら……
2人が着いたところは、全国展開する大手洋菓子チェーン店。洋菓子以外にも和菓子も、アイスクリームもお手頃価格として有名なところだ。病院後、検査疲れでぐったりとしている羊に、司がご褒美でアイスを買ってあげる時、よくこの店を利用していた。ばら売りのアイスは少し小さめで、小食の羊にぴったりだった。
「……どれにするの」
「え……とぉ」
ガラスケースの中のキラキラとしたケーキを見つめながら羊は悩んだ。
平日の夕方、黒づくめの細身の男と可愛らしいお嬢様風の女の子の光景は少し異様で、偶然居合わせたお客は遠巻きに彼らを観察していた。
「お決まりでしたら、お伺いしますよ?」
元気な店員の言葉に、羊は一瞬びっくりして、夜鷹のコートの後ろに隠れる。
「……じゃあ、全部」
面倒になった夜鷹はそう言って、店員と周りの客をドン引きさせた。
「じ、じゅんくん、それはダメだって。そんなに買ったら司くんに怒られちゃうし、持って帰れないよ」
まぁそれもそうかなと納得した夜鷹は、羊の言葉を促した。
「イチゴのもおいしそうだし、くまちゃんもかわいいし……でも、あっちも……」
「……1人用の、全種類1個づつ詰めて……」
夜鷹の声に促され、店員は慌ててケーキを詰め始めた。
そして、夜、コーチ業の終わった司が家に帰りついた時、ダイニングテーブルが色とりどりのケーキだらけになっていた。
「え?なに、今からパーティーでもあるの?」
ドン引きした司の様子に、羊は嬉しそうに「司くん朝言ってたでしょ!純くんと一緒に買ってきたの!」
「う、うわぁ、ウレシイ……ナ」
「ただいまぁ、お土産買ってきたよぉ!」
丁度、タイミングよく帰宅した加護は、片手に箱を抱えていた。
「もしや……」
「ホールケーキ買ってきちゃった!あっ、みんな考えることは同じだねぇ」
高そうなフルーツが盛りに盛られたの純白のホールケーキが、どんっとテーブルに置かれた。
「わぁ、すっごい豪華に見えるね。ケーキ屋さんみたい!」
「な、なんで、あなたたちは、そう極端なんだ!!!」
頭を抱え、叫びだす司に、夜鷹はさらりと逃げだそうとした。絶対に説教が長くなると確信していたから。だが、ガシッと腕を掴まれる
「みんなで、なかよく、たべましょうね?」
目の座った司に促されるまま、夜鷹は渋々席に戻った。
「じゃあさ、せっかくだし、ホールケーキから食べようよ。いいよね司くん」加護の言葉に憔悴顔の司が頷くと
誕生日用のロウソクを貰ってきていた加護が、ホールケーキにそれをブスブスと豪快に刺し、夜鷹が手慣れた様子で火を灯し、電気の消された室内で、羊がバースデーソングを歌いだした。
『はっぴーばーすでーでぃあ司くん♪はっぴばーすでーとぅゆー♪』
何故か司は祝われていた。誕生日でもないのに……
現実逃避した司は、ケーキのロウソクの火を一息で吹き消した。
『わーおめでとう司くん!』
「……よく分からないけど、ありがとう!」
「……とりあえず、慎一郎くんたちにあげればいいんじゃないの?」
本日の成果は、加護が8等分されたケーキ1切れ、羊が半切れ、夜鷹が上の果物とクリームを少しだけ……自分用の1切れと、彼らが残したものを司はモグモグ食べていた。うまい。超うまい。絶対高級店のヤツだ。それは認めるが、明らかにカロリーオーバーだ。
せっかく加護が買ってきてくれたので、明日までにホールケーキは攻略するとして、羊&夜鷹が買ってきたカットケーキたちは、羊がいると主張したクマのケーキを残して、すべて箱に詰めなおし、鴗鳥邸に運ぶことにした。
「……鴗鳥先生、めっちゃスイーツ食べてたしな……」
深夜、夜鷹と2人でケーキの箱を抱えて、鴗鳥邸に行き、司はペコペコ頭を下げた。
お礼にと、なんか高そうなお茶の葉を貰ってしまった。
「こういうのは、程々でいいんですよ。程々で……」
帰り道、ため息を吐きながらそう言う司に、夜鷹は程々という言葉を思い浮かべた。
夜鷹の頭の中で、ケーキの程々の量は、大の甘党の慎一郎とその一家だ。あれが程々……
こうして、彼らの認識の齟齬が続き、近い将来、司の胃を再び苦しめることになることは既に確定していた。
4◆朝のひととき◆
朝食は、大抵、司が作る。
家事代行業者に夕飯や日々の掃除は頼んでいたが、朝は早起きな司が希望して作っていた。
真っ白な平皿に、ふわふわのスクランブルエッグ少量(ゆで卵や目玉焼きだと羊がなかなか食べてくれない)、タコの形になったウインナー1個(司が切っている)、カットレタス数枚と小さめ冷凍ブロッコリー1個、そしてミニトマト。それに柔らかい小ぶりのロールパン1個。食べてくれる日は子供用の小さいヨーグルト。そして牛乳で作ったミロかオレンジジュース。これをだいたい羊用に用意していたが、現在は同じ皿が2枚だ。夜鷹用だ。最初はいらないと言っていたが、羊さんが真似すると抗議すると、パンさえ隠そうとする羊の年齢の割に小さい体と、モグモグ食べる司の伸びきったムキムキの身体を見比べて「……わかった」と渋々了承した。
司と加護は、どんと置かれたフライパンから自分でとって食べている。ウインナーも夜鷹と羊の2個以外はそのまま焼いている。時々失敗作の不格好なもの混じっているが……
「羊さん、もうちょっと食べれそう?今日体育あるんだよね?できるだけ食べようね……」
自身のトースト2枚を焼きながら司がキッチンから伺うと、羊と隣の夜鷹は、むぅと同じような顔をして、朝食を食べていた。2人とも咀嚼回数長すぎないか……
「司くん!」
食べきったとばかりに、自慢げに空になった皿を見せてくれる羊に、司はにっこりと笑顔を浮かべた
隣の夜鷹の皿は、まだまだだった……
5◆羊さんのために…◆
「がっこう、いきたくない……」
突然の羊の宣言に、食事後リビングに激震が走った。
「え、え、え、ど、どうしたの急に!!」
焦りまくる司に、何か変な動作をとっている加護……
夜鷹は無表情のまま「行かなければいい……」と言って、司に激怒された。
「羊さん、お、お、おともだちとか、せんせいと、なんか、うまくいかないなぁ…とかそういう感じ…?」
声を震わせながら問う司の頭の中は、イジメられてシクシク泣いている姿や、先生に体罰をされ頬を打たれた姿がグルグルと巡っていく。どんどん悪い方向に悪い方向に考えは向かっていく。どうしよう、うちの羊さんがイジメられてたら、学校乗り込んでもいいかな。いいよね……。ダークサイドに堕ちかかっている司を眺めていた夜鷹は「はぁ」と小さく息を吐きだした。
「……どうして、いきたくないの?」
それ、直接聞いちゃう!!??とばかりに司と加護が驚くと、羊はメソメソとしながら
「クラスの出し物のダンス、できないの……」
「ダンス?」
最近のカリキュラムにはダンスが取り入れられていると聞いたことはある、だがあくまで教育機関。頑張りを評価するということで、無理強いはさせないはずだ。羊の体育の成績がいつも地を這う評価でも……
「え、でも羊さんが一生懸命やってるのを、先生たちは見ていてくれてるでしょ?」
「違うの。授業じゃなくて、今度の宿泊学習のクラスの出し物で……クラスの子たちと踊ることになったの。」
「ええぇ」
羊曰く、最近はSNSとアイドル達のダンスの流行で、どのクラスも出し物はダンスと一択となっているみたいだ。
「ほら、苦手な子もいるし」
「みんな、バレエとか、新体操、それにピアノとかバイオリン習ってるんだもん。私だけリズムも合わないの」
羊の通う私立校は、お嬢様ばかりだ。身体が弱くて習い事の類をしたことがない羊にとっては、かなりつらいことかもしれない。
もういやだ。とグズグズする羊の背をさすりながら、司は悩んだ。これは……
「ねー羊、こういうのはさ、プロに習ったら方が良いんじゃないかなぁ」
加護は羊の隣に座ると、ふわふわの頭をぽんぽんと撫でた……
「うちにはダンスのプロが2人もいるじゃない。めっちゃ踊り上手いよ!それに羊と同じくらいの年の子に教えている現役コーチ!これは使わずにはいられないでしょ!」
「ぅ゛」
「そうだよ!羊さん!俺たちが責任をもって羊さんを踊らせてみせるよ!!」
とにかく、羊のヤル気を出して、みんなと一緒に踊っても違和感のないぐらいに仕上げたい。司はメラメラと意気込んだ。
「ダンスの見本あるかな?」
司の言葉に、羊はスマホに保存していたお手本になったアイドルのPV、そしてその振付師のダンスのポイント講座の動画を見せてくれた。
「これはまぁ」加護はそれを見てあららと声をだした。
クール系のダンスではなく、可愛い系、それも見るからに可愛らしい女の子の動作が組み込まれている女の子アイドルのダンス振付だった。猫の耳を思わすような仕草に、ハートを作る仕草、腰もかわいらしく振っている。なのに、脚のステップや手の動きは初心者向けでない。
これを羊さんにマスターさせるのか……俺が……。
司は想像以上の可愛さのダンスに冷や汗をかいた。
「……さっさと踊りなよ」
明らかに面白がっている様子の夜鷹に、司は頬を引きつらせながらも、羊の為に全力を出すしかなかった。
加護が音源をかけてくれると同時に、司は全身全霊で踊り切った。ウィンクもスマイルを出す場所も完璧だ。
「すごーい司くん!!アイドルみたい!」
一度見ただけで踊れるという司の特技を初めて目の当たりにした羊は、単純に感動していた。司は羞恥心で消えかかっていたが……
「じゃあ、羊さんがどこまで出来るか見てみよう。俺も一緒に踊るから」
「うん」
羊がやっと立ち上がり、よしっと意気込むのを見て、司は気合を入れなおした。
そして、途中から、夜鷹の指示の下、彼がピアノで弾くわざと遅くしたメロディに合わせて、同じ場所のステップを何度も繰り返し確認し、それをこなした結果。どうにか見られるレベルまでダンスが仕上がっていった。
汗だくになった、司と羊は、休憩にスポーツドリンクを飲み、ふぅと一息ついていた。発表まで続ければ、どうにか間に合うだろう。
「……なかなかの見ものだったね」
さもおかしそうに司の全力キュートダンスをそう評する夜鷹に、ダンスでハイな気分になっていた司は、ついカチンときた。
「……夜鷹純ともあろう人が、さっきのダンス、踊れないなんてことは……ないですよね」
「君……誰に言ってるの」
「おーっとそこ、喧嘩はダメですよぉ。」
加護は羊の汗をタオルで拭いながらも、司と夜鷹のバチバチとした火花が散りだした間に、慌てて入り込んだ。
「ほらほら、どうどうどう。こういう時はね、実際対決する方がいいと思うよね。羊」
「?…う、うん。」
「ではでは、第一回、司君と純くんのダンス対決を行います!ジャッジは羊!公平な判断お願いしますよ」
「ぅ、うん。」
そして、ダンスハイになった司と、プライド激高男の夜鷹との、アイドルキュートダンス対決の幕が上がった。
可愛さ全開、アイドルの仕草や表情まで完コピ状態の司と、何故かすべての動きが優雅に、そしてセクシー見える夜鷹
「お父さん、同じダンスなのに、なんでこんなに違うの?」
「不思議だねぇ。両方とも演技派だ。現役時代も生で見たかったねぇ~」
2人の本気ダンスを加護はスマホで撮影しながら、面白がってみていた。
「「で、どっち!!」」
ダンスを踊り切って、羊が拍手をしようとした瞬間、負けず嫌いの二人から審査結果の催促が来た。
「えーっとぉ、えーと、純くん……かな」
「当然だね」
「な、なんでっ!!!」
「2人とも、完璧だったけどぉ、司くん、ちらちら純くんのほう見てたじゃない?そこが減点かな?」
「いや、だって、夜鷹純が踊るんだよ!それもアイドルのダンス!見ちゃうじゃん!!!見なかったら、一生後悔しちゃうじゃん!」
俺も正面から見たかったと泣き喚く司に、夜鷹はフッと尊大そうに鼻を鳴らした。
あははは、と加護はそのやり取りに笑いながらも、先ほど撮っていたダンスを、こっそりとスマホに保存した。
ダンス対決後「敗者は今夜覚悟しなよ」と夜鷹に囁かれ、言葉通り、司は散々な目にあった。
あの日の事を思い出して、思わず腰を擦っていると、スケート場の待合室から見知った子供たちの声と聴きなれた音楽が聞こえてくる。
「あれ、みんな帰らないで、何してるの?」
「見てみて司先生、このダンス!」
「あぁ、流行ってるんだよね」
どうにか先日、宿泊学習日前日に羊はダンスを完璧にマスターした。親バカの加護が用意したアイドル風の洋服を着て、司たちの前で一人ステージで踊ってくれたのだ。最高の可愛かった。偉い子すぎて5000億点あげたかった。司と加護はノリノリで応援し、夜鷹はいつも通り冷静に眺めていたが「……悪くないんじゃない」と彼なりの高評価を叩き出した。
先日の感動的な一夜に、ほろりと内心で涙をこぼしながら、彼らが注目してるスマホを覗き込んだ。
「……これ……」
「司先生も知ってる?いまバズってるダンス動画。顔は隠してあるけどダンス超うまいお兄さんたちが女の子アイドル曲を全力で踊ってるの」
「へ、ぇ……」
顔も隠されているし、背景もぼかしが入っているが、確実にその姿は見覚えがある。といか、本人だ……分からないはずがない。
「絶対プロだよね。芸能人かなぁ」
「…………」
翌日、そのバズリ動画の投稿はアカウントごと消された。だがインターネット社会、デジタルタトゥー、その動画は伝説となって「実は大物アーティストが踊ってるのでは?」と話題になり、都市伝説化していった。
6◆ひつじとたか◆
「純くん今日は、これ見よ」
重そうなアルバムを抱えてやってきた羊の姿に、夜鷹は頷いた。
ソファーの前のローテーブルにアルバムを開く。
羊の幼い頃の写真だ。
羊を抱いた母親の芽衣子と、いまより少し若い耕一、そしてはにかんでいる少しあどけない表情の司。
羊は時々、耕一も司もいない、夜鷹と2人だけの夜、こうして昔のアルバムを持ち出してくる。
夜鷹は最初、若い司が見られるということに興味がそそられて、一緒にそれら見ることにした。司のアイスダンスの演技や、練習風景の映像など、加護家が保管していたからだ。
淡々とそれらの映像や写真を無表情で眺めていた夜鷹をどう思ったのか…そのうち、羊は夜鷹と2人だけの夜に限り、母親との思い出のアルバムを持ってくるようになった。
そして、母親との曖昧になった想い出や、ちょっとした願望や後悔を、夜鷹にぽつりぽつりと語るのだ。
「お父さんと司くん……すぐ泣いちゃうから……」
ちょっと困ったような羊の表情に、夜鷹は「……そうだね」と小さく返した。
これは、羊と夜鷹、2人だけの秘密の時間 ー
おわり