3億円の工場が、撤去費1億5000万円で再建を断念
がれき撤去費が、再建そのものを難しくした例もある。片山氏が過去に担当した顧客では、火災によって約3億円の工場が焼失した。建物を失っただけでも大きな損害だが、撤去業者から示された金額は1億5000万円。建物価格の半分に相当した。
「15年以上前の事例ですが、撤去費用だけで1億5000万円かかりました。建物を片付けたあとに、もう一度工場を建てる資金も必要です。最終的に、その会社は再建できませんでした」
工場を建て直すには、まず1億5000万円を投じ、何もない状態へ戻さなければならない。その後に土地の整備、設計、資材の調達、建築工事が続く。
保険で建物の損害が補償されても、撤去費まで十分に出なければ、手元の資金は急速に減っていく。事故前と同じ事業を再開できるかどうかは、建物の保険金額だけでは判断できないのである。
火災保険には、損害を受けた建物や設備の残骸を処分するための「残存物取片付け費用」が設けられている商品がある。
見落とされやすいのが、その支払い上限だ。片山氏によると、片付けにかかった実費を広く補償する設計がある一方、損害保険金の10%や30%などに限られる契約もある。
実際、企業向け保険の現行商品にも、残存物取片付け費用を「1事故につき損害保険金の10%」までとする設計がある。商品や契約条件によって補償内容は異なるため、保険金額だけでなく、費用補償の上限まで確認する必要がある。
仮に建物の損害に対して3億円の保険金が支払われ、残存物取片付け費用の上限がその10%に設定されていれば、補償されるのは最大3000万円だ。撤去に1億円かかれば、残る7000万円は企業側が負担する。
「保険を選ぶ際、多くの人は最初に保険料を比べます。建物にいくら出るかは見ても、燃えた後の片付けにいくら出るかまでは、なかなか確認しません。大きな物件ほど、残存物取片付け費用の上限が重要になります」
安い保険を選んだつもりでも、事故後の持ち出しが大きければ、結果として高くつく。
保険証券で目立つのは建物の保険金額だが、再建を左右する数字は、その脇に記された片付け費用の上限かもしれない。
■著者プロフィール・片山美典(かたやま・よしのり)
プロフェッショナル・カムイ株式会社 代表取締役。企業の事故、トラブル、リスク管理、損害賠償に詳しい法人向け損害保険の専門家。製造業、運輸業、建設業、医療・介護事業など、幅広い業種のリスク対策を支援している。企業で起こりうるトラブルの事例や、発生時の対応、コスト面を踏まえた備えについて発信している。