You belong to me
tksが事故って入院(軽傷)するお話。
inrちゃんが金獲ってる未来if。
作中でのよだつかは法に則ったパートナーです。
よだ → → → → → ← つか。
このあとお風呂回にしたくて書いてますがとても難産...叡智は難しいですね。
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司が事故に遭った。
出勤途中、車に轢かれそうになった子どもを庇ったらしい。
幸い大きな怪我はなかった。車の速度はそれほどでもなく、子どもを車道の外に押し出したあと身構えたようで、数ヶ所の打撲と擦り傷で済んだ。普段から鍛えていたのがよかったのだろうか。今後は筋トレについてはあまり言えなくなってしまったな、と夜鷹は少し眉を寄せた。
ただ、道路に倒れた際に頭をぶつけ、司が目を覚ましたのは事故から丸二日経ってからだった。
「司」
「あ、純さん! 来てくれたんですね」
司が目覚めたとの連絡を受けて急いで駆けつければ、そこには呑気に桃を頬張る司の姿があった。
頭には包帯を巻いているし、身体のあちこちに湿布や傷用テープは貼られているものの、その笑顔は以前と変わらない。
むしろこの二日間心労でほぼ一睡もできずにいた夜鷹にとって、大きな窓から差し込む太陽を背負った司は燦然と輝いて見えた。このサングラスはだめだな。違うの買わないと。
「心配させちゃってすいません。なんか自分としてはよく寝たなーくらいの感覚しかなくて」
あはは、と頭をかく手を取り、その体をそっと抱きしめる。
「⋯⋯心配したよ」
万感の思いを載せた言葉は、少し震えていた。
「ほふぇんははい」
「桃いつ口に入れたの。あとちゃんと飲み込んでから喋って」
二人で顔を見合わせて笑った。
元気そうには見えるけれど念の為、ということで、司はあと数日かけて精密検査をすることになった。
出された食事もぺろりと平らげ、お見舞いという名の差し入れをも「病院食じゃ全然足りなくて!」と満面の笑顔で食べ尽くす勢いの司に、見舞いに訪れた誰もが安心したものだ。
微熱はあるものの概ね良好のお墨付きをいただき、事故から一週間で無事司は帰宅することができた。
邦和リンクから車で三十分ほどの、東区にある高層マンション。ここが現在の二人の住まいだ。二十七階の2LDK、おあつらえの南向き。
元々は夜鷹が一人で住んでいたが、部屋は余っているし、君は部屋代が浮いて出費を減らせるし、なにより恋人同士になったのだからと説得に説得を重ねてようやく同棲に漕ぎつけたのは、交際開始直後である一年と五ヶ月前のことだ。
自己肯定感が低すぎ、なおかつ『夜鷹純の限界オタク』だそうな司に恋心を自覚させ、恋愛関係にまで発展させるのは至難の業だった。なにしろ口説こうとすると顔を真っ赤にして「俺なんかに告白する夜鷹純は解釈違いです!!」などと叫び走って逃げるのだ。どうしろと。
しかし夜鷹の愛情表現はエイヴァからの刷り込みなので、だんだん派手になる告白方法に耐えられなくなった司が半ば降参する形でまとまったのだった。この時の作戦参謀はエイヴァ(と慎一郎)だったのだが、「これでだめなら次はチャーターしたヘリからスカイダイビング。開いたパラシュートにメッセージを」「もうだいぶ方向性違ってきてないかな」というやりとりがあったので、お互いのためにもここで成就してよかったとほっとしたものだ。
交際から一年を過ぎた頃、ごく親しい人間のみ呼んで人前式も行なった。
マリッジリングはゴールドとプラチナのメビウスデザインで、中央には互いの目の色を模したイエローダイヤが埋め込まれている。本当はさらにメレでリングをぐるりと囲い二重の意味でエタニティにしたかったのだが、そこで司の猛反対に遭った。グローブに引っかかりそうで怖いとか高価すぎて普段使いには向かないとかきゃんきゃん吠えてかわいい司を堪能できたことに満足し、その代わりリング裏にメッセージと互いの誕生石を入れることで仕方なく夜鷹が折れてやった形だ。リングの値段も司にはゼロをひとつ少なく伝えていて抜かりない。
ちなみにこの指輪の説明を司会を買って出た慎一郎がしたところ、招待客がどよめいた。「重すぎる」「札束で窒息しそう」「文字通り囲われてる」だなんだと聞こえたが、まったくもってその通りなので夜鷹は一切聞こえなかったふりをした。
さて、誓いの言葉を述べ、指輪の交換、誓いのキス、宣誓書へのサインを済ませ、司はようやく名実ともに夜鷹のものになった。誓いのキスのあと感激で目を潤ませた司があまりにもかわいく扇情的だったので思わず抱き上げてしまったが、その場にいた全員から全力で止められたのでそのまま控室に駆け込みたい衝動は一旦抑えられた。
その後のパーティ、初夜を経て、翌々日( ← )には役所でファミリーシップを申請した。夜鷹はオリンピック金メダリスト、司は金メダリストのコーチとしてそれぞれ有名人であるため、申請後からマスコミの取材依頼が山ほど来た。中にはかなり強引なものもあって夜鷹を盛大にイライラさせたが、最近ようやく落ち着いてきたところでの今回の事故だったのだ。
怪我はあるものの本人的には至って元気な状態での入院生活はかなり堪えたらしく、
「あー、やっぱり家がいちばんですねえ」
と、一緒に暮らすようになってから二人で選んだソファにダイブして、司は幸せを噛みしめている。初めこそ「こんな高級店のソファでなんて寛げませんよ!」と買い替えに断固反対していたが、最終的には細部まで妥協しない細やかさを如何なく発揮し、選びに選び抜いた司お気に入りの逸品だ。
「司、おかえり」
座面に頬ずりしているところに覆い被さり、そのままそっと抱き締めた。
「君を、⋯⋯失うかと⋯⋯」
事故の報せを受けて駆けつけた病院で見たのは、ベッドに横たわって眠る司の姿だった。日に焼けて健康的な肌は今まで見たこともないほど白く、頭や腕に巻かれた包帯がより痛々しさを煽る。聞けば事故から一度も目を覚ましていないという。目立った大きな異状はなくバイタルも安定していて問題はない、目覚めるのをただ待つしかないと。
目の前が真っ暗になった。『頭を強く打って✕✕』などというニュース映像が頭を過る。
僕の司、僕の太陽。輝く金の髪は光に溶け、榛色の目は僕とは違って柔らかく温かい。
明るくて人当たりがよく誰にでも優しい。鬱陶しいほど褒めてくる。笑顔が全力で全開。ただ自分のことは無価値と思い込んでいて時折暗い影が差す、愚かで可愛い僕だけの司。
「純さん」と初めて名前を呼んでくれた日のこと、初めてのキス。真っ赤な顔で涙を浮かべて僕に手を伸ばす仕草。
僕に似たスケーティング、繊細な指遣い。僕を見上げて、そっと咥えて。
抱きしめた肌の温もり、奥歯まで見える笑顔、駆け寄ってくる時の大きな足音。
僕を呼ぶ優しい声、繋いだ手のひら、汗ばんで上気した肌。
血の気の引いた、動かない司。
思わず涙が溢れそうになり、ぐ、と眉間に皺を寄せて堪えた。
「純さん」
司の両手が、夜鷹の頬を包む。
あたたかい。
生きてる。動いている。
「ただいま。心配かけて、ごめんなさい」
「⋯⋯うん」
体を起こした司に抱き寄せられて、髪にキスを落とされた。
見上げると、困ったような笑顔の司がいる。
ああ。
ようやく、ちゃんと呼吸できた気がした。
「⋯⋯君は僕の寿命を十年は縮めたよ」
「エッ」
「心労で白髪も増えたかも」
「⋯⋯もしほんとに増えてても夜鷹さんのかっこよさに変わりはないですよ。むしろ渋さが増してもっと好きになるかも」
ちゅ。夜鷹の前髪をかきあげて、星みたいな白髪に口付けた。
「⋯⋯」
「純さん?」
ぎゅぅっと目をつぶった夜鷹の顔を覗き込む司。自分でやったことなのに照れているのか、頬を赤らめて小首を傾げている。
ふ──⋯⋯と長い息をついた。
落ち着こう。司は狙ってやってない。天然でこれなのだ。僕が自分で、勝手に、この子に誑し込まれてるだけなんだ。
「⋯⋯もう本当に体はなんともないの」
「はい! 体力あり余ってます!」
「そう。なら」
ソファの背もたれに手をつき、夜鷹は司の耳に唇を寄せた。
「お風呂入ろう。洗ってあげる」
途端に耳まで真っ赤に染まった司を見て、夜鷹は少しだけ溜飲を下げた。
こちらはもちろん、狙ってやっている。