安倍元首相と山上被告 一線を越えてしまった同士の邂逅 鈴木エイト[ジャーナリスト/作家]
「自分は右翼なんです」と語る山上被告
──山上被告が自分を右翼だというのは、前からそういう認識なのですか? 鈴木 そうですね。ツイッターとかでも、ネトウヨ的な投稿はしていました。もともと右翼的な思想を持っていたというのはある程度知られてるんですけど、ただそれは韓国発祥の教団に家庭がめちゃくちゃにされたということからくる嫌韓感情が基になっていた。その点においても、韓国に厳しい姿勢をとっていた安倍さんに対するシンパシーがあったということです。彼が言うには、安倍さんが韓国に対して強気な対応をしていたのは、背景に統一教会問題があって、その折り合いをつけていく中で、韓国に対するマイナスの感情があったんじゃないか。その点でもシンパシーを感じていたというところはあるんですね。 だからいわゆるネトウヨ的なものとは微妙に背景が違う。彼は安倍晋三という政治家に強いシンパシーも抱いていた。この本で明らかにした安倍氏の責任を問う彼の姿勢は高裁の審理で、反省してないというマイナスの影響につながる可能性もありますが、検察が控訴して今より重い判決になることはないため、裁判官に理解してもらえるような立証をすべきなんじゃないかと思うのです。 彼を支援しているのは左派の人が多い中で、「僕は右翼なんですよ」みたいな話をする。支援してくれる人たちの自分への印象が裁判が終わると変わるかもしれないと気にしてたんじゃないかというのはあります。教団の被害者だからかわいそうだみたいに思われるのは不本意だというような感触はありましたね。 教団の被害者というところと、安倍晋三という政治家に対する思いという、この2つのマイナスの相乗効果で事件が起きたんじゃないかというのが私の見立てなんです。彼は遺族に対する謝罪はしてるんですが、安倍さんへの謝罪は公判でしていない。安倍さんに対して、やっぱり統一教会にあそこまでコミットしたのは間違いだったんじゃないか、安倍元総理が亡くならなければならなかったような事態に発展したこと自体が間違いだったという、そういうニュアンスも入れている。いろんな意味を含めている供述なんじゃないかというふうに見えます。 ──法廷ではちゃんと説明できてないかもしれないけれども、彼自身の中では整理されているということですか? 鈴木 そもそも彼の場合、法廷のやり取りを聴くと、聞かれたことには答えるんですが、自発的にこれはこういうことなのですという発言はしていないんです。 だから一番最後の被告人最終陳述で、そこを含めて全部語るのかと思ったのに、そうではなかった。一番コアなところは最後まで語らなかったんですね。彼の真意というのはやっぱり伝わっていなかったと思います。そこを明らかにしていくのが、今回の本のテーマでもあるんです。 最初は傍聴録だけの予定だったんですよ。ハードカバーの単行本じゃなくて新書の予定だったんですね。それが、山上被告に面会して、いろいろ核心をつかめたことで、単行本に変わったんですが、最後の24ページくらいからどんでん返し的な展開になるんです。でもそれが完全に転換してるわけじゃなくて、傍聴録の中で検証したものとつながっているので、読み物としてもかなり面白いものになってるんじゃないかと思います。