安倍元首相と山上被告 一線を越えてしまった同士の邂逅 鈴木エイト[ジャーナリスト/作家]
安倍元首相と旧統一教会との関係
──安倍元首相も結局、統一教会を選挙の時に利用できると、それこそ「折り合い」をつけていた可能性はありますね。 鈴木 安倍さんの政治家としての認識では、統一教会は選挙協力してくれる人たちでした。私はちょうど2005年頃に安倍さんに選挙の相談に行った人から、銃撃事件の後に連絡をもらったことがありました。「納得できないから」と連絡をくれて、会って話したら、その人は2005年の時点で、一回落選してたんですが、国政選挙に再挑戦したいと安倍さんのところに相談に行った。そしたら「君はどこか親しくしている宗教団体はないのか」と聞かれて、その人が「統一教会と仲良くしてます」と言ったら、安倍さんは「いや、あそこはダメだ」と。「あんなところと付き合っちゃいけない。自分の父親や祖父は親しくしていたけれど、僕はあの教団は嫌いだ」と言ったらしいんです。その人はそのことが印象に残っていて、銃撃事件後、安倍さんと教団の関係が大きく報じられたのを見て、「納得できない」と連絡をくれたんです。 教団と一定程度の距離を置いていた安倍さんが、2013年の参院選を機に教団と近しくなり、選挙協力で密接につながっていて、あのビデオメッセージにまで至った。それまで折り合いをつけて抑圧的に付き合っていたのが、選挙をめぐっての打算もあったんでしょうが、山上被告から見たら一線を越えてしまった。今回弁護団は、いろいろ制約があったみたいなんですが、安倍さんと統一教会の関係性を法廷でものすごく強調して立証したわけじゃなかった。そこをやっぱり立証した上で動機の核心に触れていかないと、裁判員たちに理解してもらうのは難しかったんじゃないかと思います。 ──エイトさんの本だと、ある意味弁護団の方針を批判しているようにも見えるけれど、それについて弁護団はどういう受け止め方なんですか? 鈴木 この間、弁護人と話をした時に、「弁護団批判してますけどすみません」と一応言いました。求刑通りの判決だったので、そこはちゃんと指摘はしたんですけど、弁護団としては別に怒ってはなかったですね。この本の内容に関しては、認識の差もあると思うんですけど、ただ少なくとも彼の動機面を深く立証できなかったことは事実だと思います。控訴趣意書をあと2カ月ぐらいで出すと思うんですが、やっぱり「なぜ安倍さんだったのか」という動機のコアな部分は主張していくべきじゃないかという話はしました。 弁護団はこれまで4人でしたが、松本恒平弁護士が抜けて、代わりに勝俣彰仁さんという、「全国霊感商法対策弁護士連絡会(全国弁連)」の弁護士が入った。その人が入ったということは、やっぱり山上被告の成育歴とか、そのあたりを強調していく流れにはなると思います。 ──安倍さんとの関係は、なかなか一言で言うのは難しいと思うんですが、山上被告は、兄と祖父は相当統一教会を批判していたけれども、10代の頃集会に出たりしてますよね。 鈴木 母親などの誘いでセミナーへ行ったりしていました。祖父と兄がすごくお母さんを責めているなかで、その間に入ってって、家族の中の緩衝材みたいになっていた。中学時代が一番きつかったと思うんですけど、そんな形で母親を守っていた存在でもあった。でも後々、それが良くなかったんじゃないかという認識を持つようになっていきます。 彼の成育歴について言えば、幼少期の4歳の時に父親を亡くしてるんですが、中学の時に母親が入信する。その家庭の中での自分の立ち位置の問題もあったし、彼の中ではお兄さんが自死した時の衝撃が一番大きくて、やっぱりそのお兄さんの復讐なんだということは言っています。で、そのお兄さんへの復讐、弔いというのが、最終的に安倍さんに向けられた。そこの「飛躍」の部分が立証できなかったところですね。