安倍元首相と山上被告 一線を越えてしまった同士の邂逅 鈴木エイト[ジャーナリスト/作家]
実際に会ってみた山上被告の印象は…
[はじめに]安倍元首相銃撃事件の山上徹也被告の裁判を傍聴し、本人とも面会を重ねている鈴木エイトさんが新刊『アンビバレント』を上梓したのを機にインタビューした。山上被告の犯行動機や旧統一教会、安倍元首相との関係など、裁判傍聴や面会から判明したことを語ってもらった。(編集部) ──山上被告の裁判についてはほとんど傍聴しているのですね。 鈴木 第3回公判を除いて全て傍聴しています。雑協(日本雑誌協会)の取材枠で傍聴したことが多いけれど、終盤の何回かは雑協の枠がいっぱいだったので、フリー記者として傍聴券を申請して入ったこともありました。雑協への申請も、最初は『週刊ポスト』でしたが、『週刊現代』『週刊文春』など依頼のあったいろいろな媒体で申請しました。 ──著書『アンビバレント 山上徹也が私だけに明かした謎の核心』(講談社)にはその裁判報告が詳しく載っていますが、傍聴メモをもとに書いたのですね。 鈴木 はい。雑協の枠で傍聴した時には、傍聴した他の記者のメモも回ってくるので照らし合わせています。全体の流れと彼の言葉尻だとか、そういうものをできるだけ正確に再現したいと思いました。 最初の原稿には他の証人の尋問での発言も載せていたのですが、そうすると倍くらいの分量になってしまったので、被告人質問を中心に整理して、他の証人の発言はだいぶカットしています。 ──この本を読んだ限りでは、山上被告は、自分の証言についても何が問われているかきちんと問題を把握したうえで発言していますね。 鈴木 彼は法廷でのやり取りも全部覚えていて、『アンビバレント』の記述についても、ここはこうでしたと説明してくれました。 法廷での彼の供述について言えば、正直に答えており、自分の発言とかやってきたことを客観視して話してるんです。言葉尻とか細かいニュアンスにいろんな思いを込めているのですが、新聞などのメディア報道だとかなり省略して書かれてしまう。発言のニュアンスが伝わってないところが結構あった気がします。 ──実際に傍聴し、面会もした過程で、何か印象が変わった点はありましたか? 鈴木 法廷で見ていた山上被告は暗い印象で陰鬱な感じだったんですが、実際に会ってみると違う印象を受けました。これまで5回会っていますが、ちょっとはにかむような笑顔を見せたり、時々自虐的なジョークを言ったりもします。 ──裁判のひとつの山場は、安倍晋三元首相の妻の昭恵さんが法廷に姿を見せた時だと思いますが、残念ながら双方が直接言葉を交わす場面はなかったのですね。 鈴木 法廷に昭恵さんが来た時に、被害者参加制度を使って被告人に質問することをしませんでした。最初からしないつもりだったのか、よくわからないのですが、この日、なぜ自分の夫が殺されたのかという動機の核心部分について、山上被告は「本筋じゃなかった」という言い方をしました。それで昭恵さんとすれ違いが起きてしまい、一番重要な部分について昭恵さんが望んでいた答えではなかったんじゃないかと思います。直接、謝罪がなかったということを、のちの被害者陳述で代理人が言ってました。山上被告は全ての証拠調べ等を聴いた上で、最後に謝罪をすると決めていたので、すれ違いが起きたんだと思います。そして結局、被告人最終陳述で山上被告は何も言わないままでした。あの時点で何を言っても無駄じゃないかという感覚に陥ったんじゃないかという気がします。