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魔法か運命、あるいはまじない/ちゃんの小説

魔法か運命、あるいはまじない

18,976文字37分

魔法使いかわいい、書きたいな……せや!🙏さんが☀️先生と出会う前に異世界のお店へ迷い込んだっていうお話にしよ!

お店はゆるゆるですがホリックをイメージしています。どれだけゆるいかというと、対価はツケ払いリボ払い出世払い可!みたいなゆるさです。
せりふも一部、ユーコさんのものです。

※前半は🙏さん視点でずっと🙏さんと魔法使いの☀️先生の話です。🦅さんは途中からしか出ません。
※後半はらぶらぶちゅっちゅ♡な熟年夫婦であり新婚夫婦である魔法使いよだつかです。なので🦅さんが甘々です。
※🙏さんが成長している描写があります、試合結果ももちろん捏造です。
※🙏→☀️への執着が重め、🙏→🦅へはちょっとバチバチ気味です。

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1.結束いのりの昔のはなし


 
 いのりにはときどき、思い出す出来事がある。

 あれはコーチに出会うまえの、まだ日差しがやわらかい夏きざす朝のこと。昨夜の大雨で公園の土はぬかるみ、水たまりを避けるのもむずかしかった。そんななかいのりは、靴の汚れや爪が真っ黒になるのにもまったくかまわず、ずっと地面を掘っていた。
 「ミミズ、どこ……?」
 雨あがりの土からはいつもたくさん出てくるのに、なぜか今日はまだ一匹も見つからない。リンクの営業時間までに捕まえないと。夕方までというタイムリミットがあるから、できるだけ長い時間氷の上にいられるよう、早く。場所を変え何度探すも、やっぱり見つからない。
「いない……」
 いのりは目のおくが熱くなった。どうしよう、このままじゃあ瀬古間さんにミミズを渡せない……。地面にぽつりぽつりと染みができてゆく。涙でなく、昨日の続きの雨だった。まわりのひとびとは屋根のある方向へ駆け足になる。いのりも風邪をひけばほんとうに練習ができなくなってしまうと焦り、商店街へ急いだ。

 個人経営の店が軒を並べる商店街、そのすき間の細い路地に身体を滑り込ませ、いのりは雨宿りをした。気温が暖かいとはいえ、雨に打たれた身体は冷える。自分を抱きしめるようにして止むのをまっていると、背後に妙な熱を感じた。壁に当たっている部分が、じわりと暖かい。カイロを貼っているみたいに、とても心地よい。この路地の背中側には中華料理屋があり、ここへ入るまえ逆さ福の赤い看板が見えた。そこから湯気でも出ているのだろうかと後ろを振り返ると、ドアノブがあった。壁だと思っていたが、ここは店、または家の裏口だったのだ。
「……こんなのあったかな?」
 ここにいると出入りの邪魔になるだろうと思い移動するため身体を動かした、そのとき。
 ──ぴぃー……。
 小鳥のような、か細い声がきこえた。耳を澄ませ元を辿ったさきは、いのりの足元でぴょこぴょこと飛ぶ、黄色くてまあるい生き物が……。必死にドアノブを目指しジャンプをしているが、わずかに届かない。小鳥や鼠でもなく、おぼえのない生き物にいのりの目もまあるくなったが、なんだかかわいくてつい、助けてやりたくなった。
「えっと、中に入りたいの?」
 怖がらせないよう、つとめてやさしい声を出すと、その黄色はいのりを振り返った。つぶらな橙のひとみ、ちいさな口、震える身体、右目の下の控えめにあるほくろ、ふくらんだほほを伝う涙……。
「……かわいい」
 知らない生き物なのに、すこしも怖くなかった。いのりがドアノブに触れるとやはり暖かく、そのまま奥に押すと、ぎぎ……という古めかしい音を立ててその扉は開いた。そのわずかな隙間から、黄色い生き物は屋内に入っていった。
 いのりも好奇心が勝ち、生き物が走っていった先をのぞいた。その瞬間、白い光が視界いっぱいに広がりぎゅっと目を閉じた。



 「お前また勝手に外へ出てたな!?……うわっびしょ濡れ!っもー!」
 
 雨音が止んだ。不思議なにおいがした。集中すると、いつも母が食前に飲んでいる薬とおなじ匂いだと気が付いた。ゆっくり目を開ける。飛び込んできた光景は、部屋一面のぎっしり中身が詰まった本棚、用途がわからない道具たち、散らかった書類、そこに書かれた読めない文字。いのりはすぐに理解した、ここは商店街じゃない。奥には校長室にあるような黒い机と椅子が見えて、そこには金髪の男性がひとり座っていた。遠目でもわかるほど背が高く、あの黄色い生き物をなにやら叱っているようだ。
 いのりが後ろを振り返ると、そこにドアはもうなかった。その瞬間、やっと恐怖が襲ってきた。どこだろう、知らないところに来ちゃった、怖い、帰れないかもしれない……。恐怖は涙になり、とうとう嗚咽が漏れる。すると、その声でやっといのりに気付いた男性は椅子から立ち上がり、驚いた声をあげた。
 
「あれ?お客さんかな……え、いのりさ……ッ!?」
 
 男性は慌てて自分の手で口を塞いだ。おろおろしながらこちらに向かってきた彼を見上げると、やはり思っていたよりずいぶん大きく、そして不思議な格好をしていた。うぐいす色のマントを羽織っていて、その下はおとぎ話に出てくる王子さまみたいな格好だ。しかしよく見てみるとところどころに星が散らばっており、王子さまというより魔法使いだ、といのりは思いなおした。彼がさらに近付くとその身体はより大きく見えて、いのりの身体が強ばった。
 ──勝手に入ったこと、謝らないと……!
「ごっ、ごめんなさい!勝手に入ってしまって!」
 このひとが、ものすごく悪い魔法使いだったらどうしよう、家に帰してもらえないかも、食べられちゃったら……。いのりは頭の中に悪い想像を駆け巡らせ、また涙がぼろぼろ零れてしまう。
 「だ、大丈夫だよ!ちゃんと家には帰れるし、人間は食べたりしないから……!悪い魔法使いではない、と思う……!」
 だからいちど落ち着いて……!
 魔法使いは悪い想像を次々否定した、いのりのこころの声を読んで。それに気付いたいのりはまたおそろしくなったが、必死に訴える彼の目は、なぜか信用できそうな気がした。いのりが泣き止むまでゆっくり待ってくれた魔法使いはだんだんと、慈愛に満ちた表情へ変わっていった。
「……大丈夫?落ち着いたかな?」
「は、はい……」
「まずは、驚かせてごめんね。家にもちゃんと帰すから、すこしお話をしよう」
 彼は膝を地面につけ、いのりと目線を合わせた。やっぱりそのひとみはやさしくて、いのりに安らぎをもたらせた。
「はい……その前に、きいてもいいですか?」
「うん?どうしたの?」
「おじさんは……魔法使いですか?」
 すると彼は目を丸くさせたあと
「ははっ、おじさんかー!」とからから笑い、そして「うん、そうだよ」と応えた。
 
「あなたがどうやってここに来たのか、訊いてもいい?」
「えっと……」
 いのりが説明しようとすると、さっきの黄色くて丸い生き物がひょっこり魔法使いの首元のマントから顔を出した。
「ぴぴ」
「……ああ、そういうことだったのか」
 その子がここに入りたがっていて、そう伝えようとしたが、そのまえにふたりの会話が始まった。その生き物の言葉に納得したように魔法使いは頷く。
「こいつが困っていたところを助けてくれたんだね、ありがとう」
「い、いえっ!……わたしもごめんなさい、覗いたりしてしまって……」
「大丈夫だよ!むしろお礼をしないといけないから助かったよ」
「お礼とか、大丈夫です!」
 いのりが顔のまえで手を振ると、魔法使いはすこし困ったふうに笑う。
「それはだめなんだ、何かをしてもらったのならお返ししないと。──ここは、そういう〝店〟だから」
 とつぜん、部屋の空気が張りつめた。薬のにおいが強くなる。風も吹いていないのに、電球が揺れている。ほほをかすめる空気が冷たい。なにかとんでもない──非現実的な空間にいるという実感が沸いた。
「ここに入れたということは、お客さんとして対価を払い、叶えたい願いがあるということ」
 タイカ、の意味は知らないが、自分がここに招かれたということはわかった。魔法使いの右目の下にはほくろが居座っている、黄色くて丸い生き物とおんなじだ、と関係ないことを考えた。
「こいつを助けてくれたお礼として、ひとつ叶えましょう。──あなたの願いはなんですか?」
「願い……」

 今日、いのりはいつものようにスケートリンクへ行くはずだった。入場料としてのミミズをたくさん集めて、それを受付の瀬古間さんに渡し、時間いっぱいまで練習するつもりだった。でも、なぜかミミズが見つからなかった、あの子たちがいないと、いのりはスケートが出来ないのに……。いのりにとってスケートはただの憧れではない、こころの支えだ、お守りだ。なんにもできない自分にも持ってるものがあると、唯一思えるもの。

「スケートが、したい……」
「え?」
「わたし、スケートがしたいです……!」

 いのりの願うものといえば、いまはただそれだけだった。スケートがしたい。スケート選手になりたい。金メダルをとりたい。わたしも、あんなふうになりたい。
 魔法使いは眉を下げる。そして「そっか、こっちはスケートが好きなんだな……」とつぶやいた。

「こっち……?」
「ううん、なんでも。……ごめんね、あなたの願いは大きすぎて、叶えられないんだ」
「な、なんで……?」

 魔法という、裏技のようなものを使っても自分がスケート選手になれないと突きつけられたようで、いのりはとてつもなく哀しくなった。どうして、なんで。魔法使いなのに……。このやるせなさをぶつける先がなく、唇を噛んだ。
 魔法使いにはそれさえも筒抜けだったのか、あわてて付け加える。
「俺たちは、って意味だよ。あなたの願いは、もっと違うかたちで実現しなければならないんだ」
 それが運命だから、という彼の言葉がしんとした部屋にやけに響いた。
「運命をねじ曲げようとすると、対価はとても大きくなる。あなたひとりでは払えない。だから、その願いはこれから来る、出会いのなかで叶えていくんだ」
「出会い……」
 彼が言っていることは半分もわからなかった。わからなかったが、自分の願いを否定されなかったことにひどく安堵した。このまま、スケートを続けていいんだって言ってもらえたような気がした。いのりが落ち着いたことがわかった魔法使いはほっと息を吐いた。
「ほかになにかないかな?たとえば……明日の給食に好きなものが出ますように!とか……」
「ほかに……」
 いのりはしばし思案した結果、願いを口にした。
「じゃあ……今日、ミミズがたくさん見つかるようにしてください!」
「ミッ……!?」
 魔法使いは「こっちもか……」と、なぜか青い顔をひきつらせた。
「オホン、……ミミズがたくさん見つかるように、ですね。わかりました、始めます」
「は、はい!」
 ぱちっと照明が消えた。どこからか風が吹き込み、埃が舞い上がったのを窓から差し込む光でよく見えた。魔法使いはいのりの両手をすくい上げる。彼の熱が移ったかのように、指のさきまで熱くなった。
「あなたの願い、叶えましょう」
 しっかりと見つめ合った金色の目が強くきらきら光り、それはまるで星空みたいにきれいだった。思わずいのりが魅入っていると、数秒後、またあの大切なものを見るようなまなざしに変わった。
「……はい、終わったよ」
「……終わった?」
「うん、これでミ、ミミズがたくさんとれるよ……」
 魔法使いは一瞬だけすこし嫌そうな顔をしたが、すぐに笑顔に戻った。

 その日のいのりは、どうやって店を出たかは覚えていない。ただ、気が付くと両手いっぱいのミミズをたずさえて受付へ持っていったことだけは確かだった。

 後日、また逆さ福の反対側にある路地を訪れてみたが、そこには年季の入った壁があるだけで、ドアノブの跡形もなかった。何度かチャレンジしてみても結果は同じだった。いのりはあの日奇跡が起きたのだろうと考えた、なぜか幻や夢だとは思えなかったのだ。
 


 それっきりだと思っていた魔法使いとの二度目の邂逅はゆくりなくやってきた。

 ある日の学校帰り、大雨に捕まってしまった。傘を持っていないいのりはこのまま走って帰ろうとしたが、このうすい灰色の空が魔法使いの店の壁を思い起こさせ、また商店街の路地に入る。今日の中華料理店は定休日らしい。屋根に入ったいのりは、ぬれたあたまを左右上下に振り水分を飛ばす。諦め半分、期待半分というこころもちでドアノブを探したが、やはり見当たらなかった。
 ──もう会えないのかなあ
 いのりがすこしがっかりしたとき、知っている声が聴こえた。
 ──ぴい……
 いのりはすぐさま足元を確認した。するとまた、あの黄色くて丸い生き物が……。ひどく頼りないその声が、いまのいのりにとっては福音だった。
 「あなた、また入れないの……?」
 黄色はまえと同じく、ドアノブを目指してジャンプしている。わずかに届きそうで、届かない。いまだ氷上でジャンプを跳んだことがないいのりは、その跳躍力を羨ましく思った。

 「開けてあげるね」
 暖かいドアノブに触れ、扉をゆっくりと奥へ押す。すき間から黄色が入ったのを確認したあと、また白い光が視界いっぱいに広がり、気が付くと薬のにおいが充満した部屋にいた。

 「また来たのぉ!?」
 「こんにちは……」
 「挨拶できてえらい!……じゃなくて!」
 魔法使いはいのりの来訪が予想外だったようで、かなり驚いている。「お前、また助けてもらったのか!?」と黄色に詰め寄っていた。前回と変わりなく、母の薬のにおいにたくさんの本と道具、読めない文字が目の前に広がっている。ただ一点、違うところがあった。
 「帽子……魔法使いみたい」
 「ん?……ああこれ、正装なんだ。店にいるときはかぶっておけってよだ……店主がうるさくて」
 一応、魔法使いだからね、と彼は恥ずかしそうにほほをかいた。さきの折れたマントと同じ色の三角帽子は、ほんとうにおとぎ話で出てきそうで、前回より格好よく感じた。いのりがきらきらしたビジューに見惚れておると彼はすこし悲しそうな表情をした。

 「前回も言ったけど……ここは強い願いをもった人間だけが入れるんだ。だからまた訊くけど……」
 ──あなたの願いはなんですか?

 いのりがスケートを望む強さを彼は知っている。それを自分では叶えられないことも。だからこんなにも、つらそうに自分の無力を嘆いた顔をするのだろう。まだ二回目なのに、いのりはこの魔法使いがずいぶんと自分にこころを砕いてくれていることを理解していた。彼がじゅうぶん信用に値する人物だというのも。

 いま、いのりが望むもの。……じっくりと考えたが、やっぱりスケート以外は思いつかなかった。それなら前回と同様、氷上にできるだけいられるような願いに決めた。

 「……明日の球技大会が中止になってほしいです」
 「球技大会?」
 「なくなれば、明日は練習できるから」

 ここ最近、選手たちの大規模な試合が続くこともありスケートリンクは貸切が多く、いのりの授業が終わるころには一般開放をされる日が少なくなっていた。もう何日も氷に乗っていない。今日も設備点検の日だ。そして明日、やっと貸切のない日がきたと思ったら、学校行事である球技大会が入ってしまった。球技なんてできっこないし、なによりようやく訪れたスケートができるチャンスを逃したくなかった。明日の予報は晴天、中止は望めそうになかったが、魔法使いならできるかもしれない。
 話を聞いた彼は「……やっぱりスケートなんだね」と曇った表情を見せる。この願いは大きすぎたのかな、と不安になり、いのりは俯いたが、すぐに「わかりました!あなたの願い、叶えましょう」という言葉が降ってきて安心した。
 魔法使いはいのりの両手をすくい上げる。照明が消え、風が吹き、足元で埃が踊った。熱が移り、身体ぜんぶがぽかぽかした。お風呂に入っているような心地だ。彼の金色が強くかがやき、それを見ていのりは、いいなあ、金メダル、欲しいな……と胸中でつぶやいた。
 
 「はい、終わったよ」
 目の前の魔法使いは「明日は傘を持ってでかけてね」と、晴天のような顔をして笑った。
 翌日、予報が外れた豪雨のなか、ひとり傘をさしリンクへ急ぐいのりの姿があった。

 それからいのりは、雨の日にだけあの場所に行くと黄色い生き物と会えることがわかった。あるときは泥濘にはまっており、あるときは水たまりで溺れていた。それを助けては店までおくり届け、お礼として願いを叶えてもらう。魔法使いいわく、黄色いあの子は珍しい種のようで、それの救助はちいさな願いを叶える対価になり得るらしい。いのりの望みはすべてスケートに関することだけだ。魔法使いはいつもそれを、なにか言いたげな、奥歯にものが挟まったような顔をして聞いている。


 「どうやってそこに登ったの……?」
 「ぴぃ……」

 その日の黄色くてまあるいあの子は、中華屋の軒先から降りられなくなっていた。いのりは傘を逆さにして広げ「おいで」と声をかける。パーツは少ないのに表情豊かなその子は気合を入れた顔つきで飛んだ。この前テレビで見た、スカイダイビングにチャレンジする芸人みたいだった。傘のなか無事に入ったその子はトランポリンのようにいくらか跳ね、いのりの肩に飛び乗った。いのりもほっとし、傘をたたんでドアノブを探す。いつもとおなじ暖かさだった。

 「きみ、誰?」
 凪いだ水面にしずくをひとつ落としたように、その冷たい声は響いた。たくさんの本、薬のにおい、読めない文字、知らない道具。いつもどおりのはずだが、そこにいる人物はいつもどおりじゃない。校長室の椅子と机、そこに着くのは──黒の魔法使いだった。夜空色の長いマント、炭のような髪の毛、細身の身体、なにもかもが黄色の魔法使いと正反対だ。遠目からでもわかる、鋭い視線がいのりを射抜く。
 
 「……え、……えっと、その、わ、わたし」
 「ああ、きみたちが贔屓している客か」
 抑揚のない声にいのりが溢れ出る恐怖を抑えつけていると、肩に乗ったあの子もちいさく震えた。「……ほんとうにあの子どもには甘いな」と黒の魔法使いはため息混じりに呟く。ゆったりとした動作でいのりの元へやってきた彼は、近くで見ると背は高く体格もよかった──黄色の魔法使いほどではないが。
 「……あの子の筋肉がつきすぎなんだよ」
 眉間にしわを寄せたのを見て、彼らがこころを読めることを思い出す。なるべくあたまを空っぽにしながら、「あ、あの……魔法使いさんは……」と尋ねた。
 「買い出し中。……ねえ」
 彼はしゃがんでいのりと目線を合わすが、なぜか見下ろされているような心地になった。じいっと、月のようなひとみがいのりを見つめる。何週間かまえに国語の授業で習ったことわざを思い出した。なんだったかな、蛇と蛙がなんとか……。
 
 「きみのほんとうの願いは──」
 「ただいまー!!」
 黒の魔法使いの言葉を遮ったのは、よく通る、おおきな声だった。背後の扉から入ってきた黄色の魔法使いはいのりの顔を見て笑顔になる。
 「いらっしゃいませ、今日も来てたんだ、ね……」
 そして黒の魔法使いといのりを交互に見て、ざあっと顔を青くした。
 「あなた……俺のお客さんに変なこと言ってないでしょうね!?」
 「なにも言ってないよ……まだ」
 「まだってなんですか!このひとになにかひどいこと言われたりしてない!?」と、慌てた様子でいのりを質した。
 あなたたち相性がよくないから……。もし嫌なこと言われていたら……。
 と、矢継ぎ早でいのりに様子をうかがったので、ひとつひとつに首を振っていった。彼は安心したように眉を下げ、来客用である木製のチェアへいのりを促した。黄色いあの子は「ぴ」とひと言鳴いて、彼の元へ戻っていった。
 彼がいのりをかまっている間、黒の魔法使いは奥の机へ戻り不遜な態度で足を組んで、煙草を吸っていた。紫煙が不思議なかたちに渦巻き、見ていると目がまわりそう。これも魔法なのだろうか。
 「ちょっと!お客さんのまえで吸わないでくださいよ」
 小言を吐きながら持っていた袋を机に置き、そしてそのまま咥えていた煙草を奪い取った。彼の掌中へ消えていった吸い殻のゆくえを考えていると、黒の魔法使いがふん、とひとつ鼻を鳴らす。
 「口さみしくさせたきみが悪い。代わりになってくれる?」
 「な、なに言ってんですか!お客さんのまえで!」
 燃えそうなくらいに顔を真っ赤にさせた黄色の魔法使いはそろっと上目でいのりをうかがった。目が潤んで眉が下がっており、「い、いまのは」となにかあうあう唸っている。いつも凛として頼もしい雰囲気をまとっている彼の、初めての表情を見たいのりは、なんとなく息苦しさを覚えた。心臓がばくばくと鳴っている。空気を変えたくて、「お買い物に行ってたんですか?」と訊くと、顔の赤みが若干引き、「そ、そうそう!来客用の美味しいお菓子買ってきたんだ」と袋の中を探し始めた。
 
 「野菜、肉、魚……ずいぶんたくさん買ってきたね」
 「だって、あなた俺が作ったやつしか食べないじゃないですか……」
 「一口も食べなかった昔よりマシだろ」
 「今も一口ずつですけどね……」

 レジ袋くらいの大きさのエコバックから、どんどん出てくる数多の品物。数種類のお菓子だけ選り分け、食材は机上に置いたそばからどこかに消えてゆく。そういえば、以前も雨にぬれたいのりを拭くためのタオルがどこからともなく現れたなあ、と思い出した。魔法使いが言うには、〝倉庫〟に入れておくといつでも出し入れが可能らしい。非現実的な光景に慣れつつある自分がおかしかった。その間もふたりは「今日はあれがいい」「鮭のシチューですか?」「うん、あれがいちばん飲みやすい」「美味しいって言うんですよ」と穏やかに話している。いのりは、なんだか自分の両親を見ているような気もちになった。
 「明日はあれ」
 「え、またですか?先週もその前も出したのに?俺はもう飽きましたよ」
 「僕はきみの料理に飽きることはないよ」
 「……もー」
 文句を言ったはずのその声は、とても嫌がっているようには思えなかった。だって、うすく色づいた顔も、恥ずかしそうに顔を逸らす仕草も、いつもよりちいさい声も、明らかによろびの色を含んでいたから。自分に向ける慈愛の満ちた表情とはすこし違う、その見ているこちらが恥ずかしくなりそうな光景に、思わずいのりは自分の靴を眺めることになった。このふたり、どういう関係なんだろう……。

 「あ、ごめん、食器がないや……〝倉庫〟にもないから取ってこないと」
 ちょっとだけ待っていてくれる?といのりに言い残し、彼は姿を消した。

 しんとした店内、ふたたびいのりと黒の魔法使いはふたりきりにされ、重たい空気が流れる。意外にもそれを破ったのは、彼であった。

 「待っていても時間の無駄だな。……まずは用事を済まそう」
 ──きみの願いはなに?

 すこし面倒くさそうに問われ、いのりはむっとした。黄色の魔法使いはいつも丁寧に訊いてくれるのに、この黒いひとときたら!
 黒の魔法使いは、おそろしい。そして、見ていると、正体不明のいらだちと焦燥がおそってくる。なぜだろうか、なにか気に食わないことをされただろうか。まだ数えるほどしか言葉を交わしていないのに?願いを問われたが、いのりは黒い彼のことがどうしても気になり、さきほどの疑問を昇華することにした。
 
 「あの!……黄色の魔法使いさんとは、どのようなご関係で……?」
 できるだけ丁寧な訊き方をこころがけたが、ニュースで流れる週刊誌のインタビューみたいになってしまった。
 いのりは、まだ会って数回たらずである黄色の魔法使いのことを、なぜか心底信頼していた。ずっととなりにいて欲しいと思った。彼といればいつか夢が叶うと確信した。彼の魔法をもっと近くで見たかった。この感情がなにかはわからないが、そんな彼の〝特別〟な表情を引き出した、目の前にいる黒の魔法使いがなにものなのかを知りたかった。
 黒の彼はいのりをためつすがめつ、そして値踏みするように視線をおくった。そして、優雅な動作で肘をつく。
 「……そうだな、〝好い仲〟と言っておこうかな」
 「いいなか……」
 いのりはその言葉を知らなかったが、満足気な彼の顔から、いのりが欲しかったものをすでに手に入れているのだろうと思った。ますますいのりの中で、嫌なひと、になってしまった。

 「満足した?じゃあ、改めて問うよ」
 ──きみの願いは、なに?

 今度の言葉は黄色の魔法使いのものと同じくらい、ずしんと胸の奥に響く。薬のにおい、どこからか入ってくる風、窓から差し込む光は──彼の顔を照らした。そのとき初めていのりは、彼の目も金色だと気付いた。そう、金色だ。いのりがなにより欲しいもの……。

 「金メダルを、とりたい」

 勝手に出た言葉に、いのりはとても驚いた。選手でもない、ずるで入場しているやつが何を。ジャンプのひとつも跳べていないのに、コーチもいないのに、誰にも言ったことがないのに……。でも、諦められない。ここに来てあの黄色の魔法使いに会うと、叶いそうな気がするから。諦めたくない、やりたい、やりたい。
 
 「願い続けていれば叶うこともある、それほどヒトの願いというものは強い」
 黒の魔法使いは、おそろしい。そして、見ていると、正体不明のいらだちと焦燥がおそってくる。なぜだろうか、それはいのりが喉から手が出るくらい欲しいものをぜんぶ、持っているからかもしれない。金メダルを、そしてそれによく似た笑顔のあのひとも。
 「しかし、願うだけで叶うのなら、世の中に争いなんて起きないだろうな」
 回りくどくてなにを言いたいのかわからない、そんないのりをかけらも気にせず、彼は続けた。
 「運命は決まっている。行動や言動が、その運命を引き寄せる」
 大きい声じゃないのに、耳に入ってくる。逸らしたいのに、目が離せない。金色があやしく光る。
 「迷惑をかける?なんにもできない?わがまま?…… どうせ諦められないくせに、よく言う」
 
 「覚悟を決めろ」

 気が付けば外にいて、妙な焦りだけを胸に家へ急いだ。それ以降、いのりはもう黄色いあの子とはいっさい会えなかった。そのさらに数日後、明浦路司にミミズ入場が見つかり、おじさんと呼んですこしだけ彼を傷付けることになる。

 


 どうしてそれをいま思い出したのかといえば、いのりの親愛なるコーチの幸福がかかっているからである。

 これは〝いのりの〟司先生の話である。彼は最近、妙にそわそわしていた。それはとある人物のせいであるということは、じきに成人を迎えるいのりにはお見通しだった。
 夜鷹純。いのりにとったらライバルでありよき友人である光の元コーチ、というところだ。もちろん映像で彼の演技を見たことがあり、技術・演技ともにすぐれていて、そのうえ出来栄え点も高く、スケートの神様と讃えられた所以も納得した。しかし、いのりにとっての理想は司であり、勝つべき相手は光である。なので正直に言うとあまり興味がなかった。昔にちょっと嫌なことを言ってきたおじさん、程度である。しかし司にとっては違うらしい。あのひとを見てスケートを始めたんだ、とぽつりとこぼしていたのを思い出す。そんなふたりは数年に渡って秘密裏に交友を深めていたらしく、最近はひんぱんにここ、大須に来るのだ。
 なんでも、夜鷹がいのりの実力をみとめたのだとかなんとか。
 
 去年のグランプリファイナルのことである、当然のように出場したいのりと光はそこで戦い、初めて光を抑えて金メダルをとった。点数を見てしばらく呆然としていたいのりと司だったが、じわじわと実感が沸き、その間抜けな顔にお互い笑いあった。はじめて銀色をむねにかけた光は、悔しそうにいくつぶもの涙を流していた。彼女のそのような泣き顔は初めてだったが、数日後、晴れやかな笑顔で「次は負けないよ」と布告した光は、やはり強い選手だった。
 夜鷹が初めて大須に現れた日は、名古屋が珍しくまっ白になった日だった。吹きすさぶ大雪のさなか、受付を通り入ってきた彼は、真っ黒の装いにまばらの雪が積もっていて、星空を体現しているかのようで。ブリザードの日に現れたものだから、クラブの小学生から裏で「冬将軍」と呼ばれてるという話は、いまでもひみつである。
 「夜鷹さんから、いのりさんに伝えたいことがあります」
 真剣な様子の司がふたりの間に入り、夜鷹に目配せをした。その瞬間理解する。司はあの日、夜鷹がいのりに言い放った「一生かけようが光に勝てる事はない」を、撤回させたがっているのだ。または謝罪をさせようとしているのかもしれない。司だけがやたらと気にしていたこの言葉、実のところいのりにはかすり傷ひとつにもなっていないというのに。
 夜鷹とばちり、目が合う。歳をとっても変わらぬこの金色のかがやきを、どこかで見たことがある。どこだろう。ずいぶん昔、まだわたしが冷たい気持ちだった、あのころ。そうだ、これは、黒の魔法使い──。
 類まれな体験をしたというのに、この瞬間まですかっと忘れていた。司と出会ってからは、生活と脳内の割合がスケートで占めてしまっていたから。
 よく思い返してみると、黄色の魔法使いは司とそっくりだった、居座るほくろもよく通る声も。そして、黒の魔法使いは夜鷹純に似ていた、抑揚のない声も歯に衣着せぬ話し方も。あちらのほうがもっと老成していた雰囲気ではあったが。おぼろげだった記憶が鮮烈によみがえってゆき、脳内に強烈な風が吹いたみたいだ。
 いのりが最後店に訪ったあの日、どうやって帰ったかは思い出せない。黄色の魔法使いが戻るまえに店を出たからお菓子を食べ損ねてしまい、後日それをすこし後悔していると、黄色の魔法使い──ではなく、司にミミズ入場が見つかった。
 司は名古屋中のクラブの連絡先をいのりに渡して去った。しかし勇気が出ないいのりは、母に言い出せないまま数日を過ごした。広げてはたたみを繰り返し、しわくちゃになってゆく紙、それを見て涙をこぼした。──親切なおじさんがくれた、これも無駄になっちゃうのかな。
 自分はなんにもできないから。ほかの子よりもう大きいから。家族を困らせるから。これはわがままだから。やりたい、やりたい、スケートがやりたい……。
 そのとき、いのりはある言葉を思い出したのだ。

 『迷惑をかける?』
 ──うん、いつもお母さんを悲しませてるし、怒らせちゃう。宿題もひとりでできないから、お手伝いしてもらってるんだ。お母さん、いつも忙しいって言ってる。
 『なんにもできない?』
 ──勉強も、体育も苦手で、いつもクラスの子に迷惑ばかりかけてしまう。グループ活動ではなにもしなくていいって……。わたしバカだから、忘れものも多くて、勉強もできなくて、先生もいつも困った顔してるの。
 『わがまま?』
 ──こんなのわがままだ、家族を困らせてしまう。やさしいひとたちばかり大変で、わたしのために我慢して……。お姉ちゃんみたいになんでもできる子だったら、よかった。
 『どうせ諦められないくせに』
 ──……そうだよ!だって、それでも諦めきれないんだ。リンクへ行くのを止められない。ずるをしてでも、下手でも、どうしても絶対にやりたいんだ。ほんとはまねっこじゃ嫌だ。……あの子たちみたいに、ちゃんとスケートがやりたい。クラブに入りたい。教えてもらいたい、選手になりたい、金メダルが欲しい!

 あたまの中で黒の魔法使いが『覚悟を決めろ』と、あの怖い声で言った。始めるのが遅くても、下手でも、馬鹿にされても、嫌がられても。傷付く覚悟はできた。
 いのりは階段を駆け下りる。いいにおいがした、母がキッチンで料理をしているところだった。そのうしろ姿に声をかける。母は「ごめん、いま忙しいからあとにしてくれる?」と答えた。

 「いまがいい!」
 「いのり……?」
 「お願い、お母さん、話を聞いて欲しいの。あのね、ごめん、ごめんなさい、わたしー……」
 あのとき、お守りのように紙を両手で握り、いのりは望みを伝えたのだ。


 そうだ、覚悟を決めたんだ。家族に負担をかけること、誰かに迷惑をかけること、キャリアの差にぶつかること、ひとに注目されること、そして挑戦を馬鹿にされることも。

 

 「いらないです」
 
 いのりは司ではなく、夜鷹の目をみつめ返した。
 「わたし、夜鷹さんによく似たひとのおかげで覚悟ができたんです、これからたくさんの壁にぶつかる覚悟を」
 司は「いのりさん……?」と視界のはしで戸惑っていて、夜鷹も訝しげに眉を寄せた。
 「全日本ではまた光ちゃんが金メダルをとりましたが、次は、そしてその次も、わたしがとります」
 夜鷹は挑戦をもう止めはしないだろう、今度はいのりの宣戦布告に対してなんの反応もなかった。いのりはもうひとつ付け足す。
 「それに、わたしは夜鷹さんの言葉はひとつも気になりませんでした。あのあとちゃんと、司先生が否定してくれたから」
 ね、司先生?とほほえみかければ、「そうなの……?」とめんくらった顔をしていた。彼がなるべくいのりに夜鷹の話をしないようとこころがけていたのは気付いていたので、わずかばかり申し訳なくなった。夜鷹はそのやり取りを見てさらに眉間のしわを深くしたが、「らしいよ。もう帰る」と司に言い捨てて出口へ足を向けた。
 「あ!夜鷹さん!……いのりさん、余計なことしてごめんね、ちょっと夜鷹さんに用事があるから追いかけてくるよ」
 「はい!アップしておきます」
 その日以降、司は夜鷹の話をするようになったし、なぜか夜鷹もひんぱんに大須へ来るようになった。慎一郎を加えた三人で夜中のスケートリンクで遊んでいるらしく、司を律儀に迎えにきているそうだ。


 深夜練習が始まるまえの休憩時間に夜食を終えたいのりが見たのは、スマートフォンをたずさえた、難題に取り組む受験生のような雰囲気の司だった。彼の指は入力しては消し、を繰り返し、液晶に照らされた青白い顔はひどく困惑しているようだった。いのりが声をかけるとさっとスマートフォンをかばんへ片し、身軽にこちらへ寄ってくる、いつもの親しみやすい笑顔で。
 「そろそろ時間だね」
 「はい、……司先生、あのひとからなにか連絡あったんですか?」
 あからさまに司は身じろぎをし、な、なんで?と訊いた。
 「女の勘ってやつです!」
 「そっかあ~……そうだよ、あのひとから困った連絡がきてさ」

 夜鷹との親交を隠さなくなった司は彼のことを〝あのひと〟と呼ぶ。相手はかなりの有名人だ、まわりに聞かれてもさしつかえが出ないようにという配慮だろう。眉を下げて笑った司のおもてをのぞき込むと、観念したようにため息をついた。

 「今度あのひとのうちへ行くことになったんだけど、あ、ノービスの頃の映像見せてあげるって言われて」
 「ファンですもんね」
 「そうそう、つられちゃって……。まあそれで、指定された時間がちょうど仕事終わりだからご飯食べてから行きますって返事したらね」
 はあ、と今度はおおきくため息をついた。ずいぶん参っているようだ。
 「外食するならなにか作れって言われて……二人分」司はピースをした。
 夜鷹純が食べないことはいのりも知っている、以前光から聞いていたからだ。司は「あのひとなにを食べるんだよって思ってリクエストを訊いても〝なんでもいいよ〟しか返ってこない……世の主婦たちの気持ちがよくわかる……」とあたまを抱えている。
 そんな無茶ぶりは放っておけばよいものを、彼は律儀にも叶えようとする。目上の人物というのもあるが、元来、ひとの世話をしてしまう性分なのだろう。──とくに、かつての憧れに頼られたとなれば、もっと拒否できないのかもしれない。

 いのりは夜鷹がやっぱり苦手だった。胃に落ちる冷たい声も、抑揚のない話し方も、──いのりの大事なものを奪っていきそうなあの月のような目も、嫌なままだった。しかし思い出したのだ、黄色い彼の〝特別〟な表情と、それを自分では引き出せないことを。
 いのりはここでひとつ、不本意なおせっかいを焼くことにした。
 「ここは、鮭のシチューです、司先生」
 「鮭?え?鶏じゃなく?」
 「絶対、ぜえったい、鮭のシチューが正解です」
 なんで……?と顔に書いてあるのを見ぬふりし、いのりは続ける。
 「悔しいですが、ええそれはもう不本意ですが、司先生の幸福のためならわたしはあのひとにすこしくらい貸すことも厭わない」
 「なになに、どうしたのいのりさん!?」
 「ここでアシストするのも嫌だけど、黄色の魔法使いはあのひとといることですごく幸せそうだった……」
 「魔法使い?なんの話?」
 「熟年夫婦みたいなやり取りはもう見たくないですが、……あの司先生は満ち足りた顔をしていたから」
 魔法使いが言った〝運命〟があるのなら、きっといのりと光、司と夜鷹の出会いもそうなのだろう。出会うべくして出会ったふたり。司とよく似た彼は夜鷹とよく似た彼とともにいることで、このうえない幸福を感じている様子だった。そんな未来を見てしまったものだから、いのりはもうふたりを応援することを決めた。夜鷹が司のあの表情を引き出せるのなら、まあすこしだけ譲るのも、ゆるしてやらないこともない。……ほんとうはとっても嫌だけど!
 あたまからいくつもハテナを出している司へ、いのりは空にこぶしを突き出し宣言をした。
 「鮭シチューがきっかけで〝好い仲〟になったとしても、オリンピックで光ちゃんに勝つまではわたしだけの司先生ですから!!」
 「だからなんの話!?」


コメント

  • 鳴海

    いのりさんと魔法使いよだつかとたぴのすこしふしぎ話!魔法使いの世界でも師弟は師弟でよだつかは結ばれているのが嬉しかったです。黒の魔法使いさんの『好い仲』という言い方が好きです。そしてそんな彼を『嫌なひと』と思ういのりさん…!(好き)

    6月21日
  • みりん
    5月25日
  • ととた

    本誌前に読むと決めていました、最高です!

    5月24日
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