人間が使う「光の種類」を変えることで多くの昆虫を救えるかもしれない
昆虫は生態系において非常に重要な生物であり、中には野菜や果実の花粉を媒介する昆虫もいることから、人間の農業にとっても大切な存在です。近年は世界的な昆虫の減少が問題視されていますが、「人間が使う照明の種類」を変えることで昆虫の減少を軽減できる可能性が、新たな研究によって示されました。
Optimised light sources reduce nocturnal insect attraction at railway stations - ScienceDirect
BALIN - LIB
https://leibniz-lib.de/en/research/projects/balin.html
Scientists Reveal The Simple Change That Could Save Millions of Insects : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/a-simple-lighting-swap-could-save-millions-of-insects
これまでの研究では過去数十年で昆虫が大幅に減少していることがわかっており、その原因としては人間の開発による生息地の減少や環境汚染、病原体の蔓(まん)延、外来種による侵略や気候変動といったものが指摘されています。人間が足元などを照らすために使っている夜間の人工照明も、昆虫の自然な行動を阻害するため、昆虫の生息数に悪影響を及ぼす要因のひとつと考えられています。
科学系メディアのScienceAlertは、「無脊椎動物の60%以上は夜行性であるため、生息地内の人工光は彼らの最も活動的な時間帯に影響を与えることになります。これは広く蔓延している問題です。世界中で鮮やかなナトリウムランプやLEDライトが、主に人々の安全のためという名目で車道・歩道・鉄道・商店街・その他建築環境のほぼあらゆる場所を常時照らし出しています」と述べています。
一部の推計によると、ガのように静止した人工光源に引き寄せられる昆虫の3分の1は、疲労や捕食によって朝を迎える前に死んでしまうとのこと。また、ニュージーランドのカマドウマ科昆虫であるウェタは夜間の人工光を避ける習性があるため、常時照明が当たっている範囲は生息地として利用できなくなってしまいます。
ドイツのライプニッツ生物多様性変化分析研究所の研究者らは、「ドイツの夏の夜には、毎晩約10億匹の昆虫が人工光源の影響を受け、多くが死んでいると推定されています」「近年の光害の世界的な増加と夜空の明るさの増大は、昆虫の多様性にとって大きな脅威となっており、国内外の自然保護にとってますます重要になっています」と指摘。そこで、人間が使う「人工照明の種類」を変えることで昆虫の命を救うことができるかどうかを確かめるため、ドイツ北東部のヴェスターヴェラント自然公園で実験を行いました。
研究チームが着目したのは、ヴェスターヴェラント自然公園の敷地内を通る鉄道の駅です。これらの鉄道駅は自然公園内にありますが、利用者の安全のために夜通し照明がつけられていることが多く、昆虫が引き寄せられているとのこと。以下の地図は、緑色の範囲がヴェスターヴェラント自然公園を指しており、黒い点が実験地点となった鉄道駅を指しています。
対象となった鉄道駅は、実験前はすべて2000K(ケルビン)の温白色高圧ナトリウムランプ(HPSランプ)で照らされていました。このタイプの照明はLEDよりもランニングコストが高いため、近年ではよりエネルギー効率のいいLEDに置き換えられつつあります。
研究チームは人工照明の種類による違いを調べるため、各鉄道駅のライトの一部をクールホワイトの4000KのLED照明に、一部を琥珀(こはく)色の1800KのLED照明に変えて、残りは従来と同じ2000KのHPSランプのままにしました。また、照明が当たっていない隣接地域も対照地点として監視し、照明区域外での昆虫の活動も調べたとのこと。
これらの地域で活動している昆虫の種類や数を測定するため、研究チームは2023年7月~10月、そして2024年4月~7月にかけてわなを仕掛けてサンプルを採取。その後、AIベースの画像解析とDNAメタバーコーディングを用いてこれらのサンプルを分析しました。
データを分析した結果、青色光の含有量が少ない琥珀色の1800KのLED照明は、従来の温白色の2000KのHPSランプやクールホワイトの4000KのLED照明と比較して、光に引き寄せられる昆虫の種類や数が著しく少ないことが判明。貴重な絶滅危惧種や法的保護対象種を引き寄せる数も少ないことが確認されています。
以下のグラフは、各照明の発光スペクトルを表したもの。昆虫を引きつけにくい1800KのLED照明はスペクトル組成が狭く、短波長の青色光が欠如していることがわかります。
今回の実験結果を受けて、ヴェスターヴェラント自然公園内にあるすべての鉄道駅の照明が、1800KのLED照明に交換されたとのことです。今回の実験は鉄道駅で行われましたが、街灯・庭・公園・商店などの照明でも同様の昆虫保護効果が期待できます。
しかし、昆虫の種類によって光に対する反応は異なるため、照明を交換する戦略がすべての昆虫に等しく有効とは限りません。また、今回収集されたサンプルは夜行性かつ飛行する節足動物に限定されていたため、昼行性の種や地上に生息する昆虫への影響もよくわかっていないとのこと。
とはいえ今回の研究は、屋外照明の光源を最適化することによって昆虫の誘引とそれに伴う個体数減少を抑え、環境被害を軽減できる可能性を示唆するものです。ScienceAlertは、「例えばホームセンターに行くだけでも、私たちの世界を少しでも昆虫にとって住みやすい場所にするための良いスタートとなるでしょう」と述べました。