ノット、アンハッピーバースデートゥーユー!
🦅さんお誕生日おめでとうございます!(大遅刻)
なのに12月30日に熱を出した☀️の話です。短いです。
🦅さん誕生日にポストされた🐺ちゃんとのやりとりを見て、🐺ちゃんのパーフェクトコミュニケーションっぷりに驚きました。
☀️くんもなかなか図々しいところがあるのでエゴです!くらいは言いそうだなと思いまして……。
※付き合っているふたり
※🦅さんの感情がわかりやすくなっております
12月30日に数年ぶりに熱を出しました。ひさしぶりだと余計しんどく感じますね!
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12月30日に熱を出した。
そういえば数日前にいきなり口内炎がみっつできたなあ、なんだか昨日から頭が痛い気がする、今日は身体がすこし重い、などなど、予兆はあったのだ。しかし司は自分の体力に自信があった。だるい日は栄養ドリンクを飲んだらすっきりするし、眠気は走れば飛んでく。試合の連続、しかも海外。絶対に倒れるわけにはいかず気合いで乗り切っていたツケがきた。
「自己管理ができていない」
39.4と表示された体温計を見て、本日誕生日の恋人が冷たく言い放つ。司はひさしく発熱をしていなかったこともあり、こんなにもしんどかったっけ、と熱いあたまで考えた。身体が熱いのに、寒い。不思議な気分だ。朝起きてすぐに行ったかかりつけの病院では、インフルエンザもコロナも陰性だったため、熱が下がれば明日の仕事には出られる。ウイルス性でなく過労からくるものだろうとのことだった。伝染るものじゃなくて良かった。年内最後のいのりのレッスンだ、かならず出たい。今日は元々休みをとっていたためアラームはかけていなかったのだが、寒気がひどく早朝に目覚めてしまった。そこからなかなか布団から出られない司を心配した夜鷹は、すぐに司の状態を察しててきぱきと看病の準備をし始め、病院に送り迎えをした。夜鷹ははじめこそ狼狽えた様子であったが、司があまりにも静かなことに不安になったのかあれこれと司の世話をした。そのあいだ、司は罪悪感と感謝でろくに話せなかった。いまは、処方された薬を飲んで、もういちど眠るまえに体温を測ったところだ。
「せっかくの夜鷹さんの誕生日なのに……」
今日は、同棲してはじめて一緒に迎える誕生日だった。プレゼントもなにもいらない、と夜鷹は言ったが、司はいつもと変わらない一日だとしても、どうしても彼とともに過ごしたかった。それなのに、本日の主役に看病をさせてしまうなんて。司は自分の不甲斐なさに涙が出てきた。
「……そういう習慣は好かないって言ったはずだ」
えぐえぐと司が泣いていると、誕生日という言葉を聞いた夜鷹が低い声で言った。1か月前、司が夜鷹に誕生日はなにかしたいことはありますか、と聞いたときにもおなじことを言っていた。
「……それでも、俺はあなたの誕生日がうれしい。うれしいから、一緒にいたい」
熱に浮かされたあたまの中で出てきた言葉が、そのまま口からまろび出る。ああ、こんな、自分の欲望だけじゃなくて、あなたをもっと喜ばせることを言いたいのに。誕生日だから……。夜鷹がこの日になんの感情も抱けなくとも、司は感謝したいのだ、夜鷹が生まれてくれたことに。
「ただのエゴだって、わかってます。だからこれは俺のためです……俺が、勝手にあなたのそばで、よろこびたかっただけ……」
1ピースのケーキだけでも用意したかったなあ。そう思った瞬間に、薬が効いてきたのか眠気が襲ってくる。まぶたが完全に落ちるまえに、「きみとあの子は似ているね」と聞こえた気がした。
目を覚ますと、12月30日の午後8時を過ぎたところだった。こまかい数字は覚えていなかったが、おそらく昼を過ぎた頃に薬を飲んだので、ずいぶんな時間を眠っていたようだ。寝汗をびっしりかいた跡があるが、あたまも身体もすっきりしていた。近くに置いてあった体温計で測ると37.2度。司の平熱だ。夜鷹に伝えようと部屋を出ると、キッチンからいい匂いが漂ってくる。
「夜鷹さん、ありがとうございました」
「もう平気なの」
「はい!おかげさまで!」
匂いの元をたどると、夜鷹がレトルトのおかゆを作って皿によそっているところだった。
「そろそろ薬を飲まないといけないから用意した」
そう言って出されたおかゆの上には梅干しがのっていた。司が買った覚えはない、夜鷹がわざわざ用意したのだろうか。
「珍しいですね、梅干しなんて」
「疲労回復や消化促進に効果があるって、慎一郎くんが」
「それで買ってきてくれたんですか?」
返事はなかったが、それが肯定だとわかった。そういえば、司の様子を見に部屋にきたあと、すぐにどこかへ電話をかけていたのを思い出した。きっと慎一郎に看病の仕方を聞いていたのだろう。夜鷹の気遣いがうれしい。できたばかりの湯気が立っているおかゆを見た。紅白だ。ショートケーキとおなじだ。めでたい色だ。
夜鷹は自分の誕生日を祝うという習慣を好かない。だから、司は自分だけのために、この日を大事にしようと、熱いおかゆを食べながら決めた。
「なんてこともあったなー……」
熱いあたまで数年前のことを思い出した。あれはたしか、同棲して初めての彼の誕生日だ。
12月30日に、ふたたび熱を出した。
「自己管理ができていない」
38.7度と表示された体温計を見て、本日誕生日の恋人が不機嫌な声と顔で言い放つ。シーズン真っ只中、連続の海外での試合により一気に疲労が襲ってきた。自身をぞんざいに扱ったつもりはなかったが、やはり30代にもなると体力にも限界がある。大事な今日この日は元気でいたかったのに。申し訳なく思いベッドから夜鷹を見上げると、むすっとした顔をしている。彼はここ数年で感情がおもてに出やすくなっていた。
「……今日はきみの大事な日なんだろう」
すねている……かわいい……。くちに出すことはしないので、思うことくらいは許してほしい。
司ははじめに熱を出したあの日から、12月30日は休みをとるようにしていた。なにをするわけでもない、夜鷹と過ごすために。彼がリビングにいれば隣で本を読み、部屋で休めばおなじ布団で寝る。彼が外に出かければともにゆき、用事があれば終わるまで待つ。12月30日はそれを毎年くり返していた。するとそのうちそれが当たり前になっていく。司はいまだに、誕生日おめでとうございます、とは言えなくて、ケーキも用意できなくて、プレゼントも渡せないでいるが、すねている彼を見るとこの日を大事にしてきて良かったと思った。それと同時に、ひどく自責の念に駆られた。せっかくの誕生日なのにまた看病をさせてしまうなんて……。
「すみません……こんな日に……」
「ほんとうにね。……薬飲んではやく寝なよ」
「はい……」
夜鷹から薬を受け取りすぐに飲み、ベッドに横になった。はやく元気になって、できるだけ彼のそばにいたい。夜鷹が司のあたまを撫でた。冷えた手が気持ちよくて、すぐにまぶたが落ちる。
目を覚ますと、もう夜だった。体温を測ると36.9度、身体もあたまもすっかり元気になり、腹も減った。なにか食べたくてキッチンに行くと、夜鷹がまたおかゆを温めてくれていた。いい匂いに腹が鳴いた。
「体調はどう?」
「すっかり元気です!ありがとうございます!」
「そう」
夜鷹が薬とおかゆをテーブルのうえに乗せたので、司もいすに座った。またおかゆのうえに梅干しがのっていて、見ていると自然に唾液が増えた。
夜鷹が司のむかいに座るのを待っていたが、彼は冷蔵庫からなにかを取り出してきた。また紅白だ、と思ったそれは、1ピースのショートケーキだった。
「なんで……夜鷹さんが買ったんですか?」
無言は肯定だ。おかゆの隣に置かれたケーキを見つめる。夜鷹は食べないので、司のためだけに買ってきてくれたのだ。
「きみが寝言を言っていたから」
「えっ、うそ、なんて?」
「ケーキが食べたいって」
いったいどんな夢を見たのか、思い出そうとしたができなかった。ずいぶん深い眠りに入っていたようだ。しかし以前、熱を出したときに、せめて1ピースのケーキでも用意できればなあ、と考えたことがある。今回ももしかすると無意識にくちから出ていたのかも。しかし、それはケーキが食べたい!と思ったのではなく、すこしでもお祝いらしいことをしたいなあ、と思っただけだった。とはいえ、夜鷹からすると食いしんぼうの寝言だ。恥ずかしかったが、甘いものは好きなのでありがたく頂くことにした。病み上がりに食べるものでもないが、せっかくの誕生日なので。
「それじゃあ、ありがたくいただきます……」
おかゆを食べきったあと、ケーキにフォークを刺した。ケーキを食べるそのあいだ、ずっと夜鷹は司を見ていた。どちらかというと、睨んでいる。機嫌が悪そうだ。これは、熱を出した司への、彼なりの甘え方なのだろうか。
ショートケーキのメインはいちごだ。いのりの最初の名港杯を思い出した。彼女はあのとき、ショートケーキではなくたい焼きを選んだ。いまのいのりはあの選択の地続きにいる。いまでもときおり『司先生みたいにきれいに踊れるように』と言ってくれる。司にとったら既に彼女の方が実力はあるのに。明日は年内最後のレッスンである。この一年もよく頑張った彼女を絶対に表彰したい。司はメインを残し、最後のひとくちを食べた。
「……この日に熱を出したうえに、あの子どものことを考えているなんて、きみはひどいやつだな」
「ぅえっ!?」
夜鷹は、司がいのりのことを考えているとすぐに察する。彼いわく、だらしない目をするからわかりやすいとのことだ。なんだ、だらしない目って。ひとはそれを優しい目と表現するのだが、夜鷹のほんのすこしの嫉妬が絶対にそうとは認めないというのを、司は知らない。
「ひどいって……いのりさんですよ。明日は年内最後だなって」
「そのうえケーキはぜんぶきみが食べたときた」
「ええ……だって夜鷹さん食べないでしょ……、あっ」
夜鷹は皿に残っていたいちごを指でつまんでくちに入れた。咀嚼し、嚥下し終わるまで司は呆然とした。あの夜鷹さんが自分からものを食べるなんて……。いままで司が勧めるとたまに食べることはあったが、自ら食べることは絶対になかった。今日の夜鷹はどうしたのだろう。機嫌がいいのか悪いのか、とんとわからない。
「……水っぽいな」夜鷹は顔を顰めた。
「……ケーキにのっているいちごは大抵そんな良いものじゃないらしいので……」
司は夜鷹の行動にまだ驚いていたがなんとか返答した。すねて、せめてもの仕返しとしていちごを奪ったのかな、と結論付けた。かわいい仕返しである。
「来年のこの日は、熱を出さないこと、あの子どものことを考えないこと、いちごは僕に残すこと」
いいね?と夜鷹は最後に言った。そこで司は気付く。かわいい仕返しじゃなく、夜鷹が自身の誕生日への向き合い方が変わったのだ。毎年、司だけが大事にしてきた12月30日。しかしちゃんと伝わっていた、いちごくらいは食べてやってもいいと思ってくれる程度には。
「……わかりました、約束します。その代わり、来年からはあなたへのプレゼントを用意してもいいですか?」
「勝手にしたら」
夜鷹の「勝手にしたら」は、肯定でなく快諾である、というのは最近知ったところだ。感情はおもてに出やすくなったが、言葉はまだまだ難解である。
いずれ氷上に乗れなくなる身体の衰えを、おそろしいことだと捉えている夜鷹は自分の誕生日を祝えない。だから司はいまだに、誕生日おめでとうございます、とは言えない。だけど、来年はプレゼントと、1ピースのショートケーキにのったいちごくらいは、受け取ってくれるらしい。
夜鷹の目じりのシワのように、範囲が広がっていく白髪のように、愛おしさも年々増えていく。それをあと数年かけて伝えていこう。そうすればいずれの日にか、12月30日におめでとうと言えるかもしれない。司は、そんな未来を期待した。
普段体力任せで動いている人が年末に過労で倒れるパターンありがちすぎて…!夜鷹さんの誕生日が嬉しいから一緒にいたい、勝手にあなたのそばでよろこびかったとえぐえぐしている司先生は可愛い恋人だな…としみじみしました。意外と(失礼)まともな看病できる夜鷹さんが好きです。