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なぜサッカーに警察と国会が動くのか 現地で聞いた韓国"協会問題"の深層

ライター(ニュースコラム&ノンフィクション)
写真:ロイター/アフロ

サッカーたるもの。

民間がやる民間の"コンテンツ"のはずだ。むしろボトムアップの魅力がそれを支えてきた。

W杯最多の優勝回数を誇るブラジルはストリートサッカーが強さを支えてきた。よく知られてきた話だ。フランスのかの高名なサッカーアカデミー「クレールフォンテーヌ国立研究所」の設立は1988年。同国の最高傑作のジネディーヌ・ジダンはここでの教育は受けておらず、むしろ幼少期に柔道(11歳で茶帯を取得したとされる)を学んだことが独特の身のこなしを生み出した。そういう自由な風潮が本来的なサッカー文化の魅力の一つだと思うのだ。

ところが、韓国だ。北中米W杯でグループリーグ敗退後にこんな事態が起きている。

  • W杯代表監督について警察の捜査が入ろうとしている。
  • 国会でW杯時の協会会長と代表監督が聴聞に招集されようとしている。
  • 自国サッカーの診断と改革アイデアについて、国会で討論会が開かれる。国会議員も多く参加。
  • 自国のサッカー協会とは別に、政府による「Kサッカー革新委員会」なるものが結成され、改革案が提案・実行されようとしている。

政府に、警察。

なぜそんなことになっているのか。

政府傘下だから警察も国会も動く

結論を先に言うと、大韓サッカー協会の公共性の高さ、という点に行き着く。サッカー協会の位置が日本と少し違うのだ。

日本サッカー協会=政府から独立した公益財団法人
大韓サッカー協会=政府傘下の社団法人

それゆえ、政府は公共性の文脈から要職者の失態や不誠実を法的に問うことが出来る。要は「ちゃんとしてるか厳しくチェックできる」体制なのだ。同時に社会からも公共性の観点から告発される背景がある。

大韓サッカー協会のチョン・モンギュ元会長は、2024年7月、保守系の市民団体「庶民民生対策委員会」に告発された。韓国警察(ソウル警察庁)はこの件で告発8件を受理しながら、2年にわたり捜査を足踏みさせてきた。それがW杯敗退でこの市民団体などから一気に結論を迫られている。立件が視野に入るのは、以下の点だ。

業務妨害(監督選任の正規手続きを歪めて協会の業務を妨害した)」
業務上背任(ホン・ミョンボ監督の選任で協会に『財産上の損害』が生じた)」
職権乱用権利行使妨害(一部メディアが報道)」

KFA チョン・モンギュ元会長 たとえは難しいが日本の学校で言えば「勉強はできるけど、運動は特に出来ないし、面白くもない。だけどなぜか親の七光りで”一軍キャラ”の仲間にいて、裏で”二軍キャラ”に陰湿なことをするタイプ」だ。
KFA チョン・モンギュ元会長 たとえは難しいが日本の学校で言えば「勉強はできるけど、運動は特に出来ないし、面白くもない。だけどなぜか親の七光りで”一軍キャラ”の仲間にいて、裏で”二軍キャラ”に陰湿なことをするタイプ」だ。写真:REX/アフロ

この点の詳細は下記に記す。またホン・ミョンボ氏は当初、告発の対象ではなかった。それが2026年7月2日、同じ市民団体から強要・脅迫・業務妨害・業務上背任の疑いで告発されている。

参考:告発者の「庶民民生対策委員会」という市民団体の記者会見の様子

これらの告発もまた、7月22日に行われる「国会聴聞会」につながった。9日に開催が決定した。大韓サッカー協会に関わる責任者13人が召喚された。このうち注目を集めるのは、前出のチョン氏、ホン・ミョンボ元A代表監督、ホン氏に対して権限がないにも関わらずオファーをしたイ・イムセン元技術発展委員長の3人だ。

韓国国会の聴聞会とは、各委員会が「『国民の関心事』『憂慮される案件』について当事者を呼び、証言を求めるもの」。証言を通じて国会議員が状況をリアルに把握すること、証人・参考人の発言を国民に広く知らせることなどが目的だ。今回の場合、当然のごとく「警察に告発される事態」という点も考慮されたと見て自然だ。政府がチェックしないといけないと考えたのだ。

日本の「国会証人喚問」にも近いものだが、必ずしも「犯罪に関わる人・その参考人」が呼ばれるわけではない。2024年にはNewJeansのハニが事務所との信頼問題について証言をしたことがある。また欠席に関する規定は若干緩い。健康問題のほか、海外出張などでも欠席が認められる。今回の7月22日の実施分は、上記13名の証人に対し、参考人としてパク・チソンのほか、ソン・フンミンやファン・ヒチャンといった現役選手も招集されたが、現役選手たちは欠席を明らかにしている。

クリンスマン独断とホン・ミョンボ「密室オファー」

筆者は6月28日から7月5日まで韓国にいたが、この話で持ちきりだった。「大韓サッカー協会には税金が入ってるんだから、ちゃんとしないと」という話を多く聞いた。なかには「もはやこの件で韓国人と話しても冷静じゃないから、いろいろ聞いても仕方ないぞ」(40代男性)という意見もあったくらいだ。

じゃあ上で記した3人は「何をしたのか」。厳密に読んでいくと、「北中米W杯での敗北」の 世論の怒りが、「2年の告発を蒸し返させている」という流れだ。これにより世論が爆発している。

写真:ロイター/アフロ

① 2022年カタールW杯でのベスト16入りまでは雰囲気が至ってよかった。

② しかしその後、当時のサッカー協会会長であり、現代(ヒョンデ)系の御曹司チョン・モンギュ氏が「調子に乗った」。

③ 2023年2月27日、新監督にユルゲン・クリンスマンを会長の独断で迎え入れた。大韓サッカー協会の所定の手続きを経ず、だ。本来は協会内の戦力強化委員会の推薦した人物を、理事会が承認するのが筋だ。じつはチョン会長がクリンスマンのファンだったとされる。

④ その後、2024年2月16日にクリンスマンは「カタールアジアカップベスト4敗退」の責任を問われ解任に。成績のほか「怠慢」も大きな理由だった。居住地の米国への滞在期間が長く、記者会見もオンラインで。こういった状態が続いていた。

⑤ ここからが「本論」。後任監督が決まらず6か月の時間が過ぎる。この間、監督人選の責任者ふたりが辞任する異例の事態に。本来は外国人監督を希望したがことごとく振られ、国内監督に旋回したが、有力候補に「いまさら」と切り捨てられる有様だった。

⑥ 慌てた協会。監督選任権限とは関係のないイ・イムセン氏が、当時、国内リーグの蔚山HDで好成績を収めていたホン・ミョンボ氏にオファー。2度目の接触でOKに。それもホン氏の家に行って依頼をするという形式だった。後にチョン会長、イ氏、そしてホン氏が日本の早稲田大学にも比せられる韓国の名門・高麗大学の出身であることから「カルテル」と指摘されることに。

⑦ この件について、当時の大韓サッカー協会の戦力強化委員会に在籍したパク・チュホ氏(かつて水戸、鹿島、磐田でもプレー)が内情を暴露。自分たちの全く知らないところでホン・ミョンボ監督に決まったことを明らかにした。

⑧ 2024年7月 これを受けて保守性向の市民団体「庶民民生対策委員会」が警察に告発。

⑨ 2024年9月 チョン氏、イ氏、ホン氏らは国会(文化体育観光委員会)に呼び出される。この時は「聴聞会」ではなく現案質疑という形式だった。

⑩ 2026年6月 今回のW杯での敗退により、この件が蒸し返されている。韓国各メディアによれば、警察はこの件の捜査を「2年間放置」していたことも明らかになった。

保守が告発し 革新が国会に呼ぶ

今回の「告発に対する捜査再加速から国会召喚」までの流れで、一つ外してはならないのはこのキーワードだ。

「不公平」

今の韓国の若者たちが最も忌み嫌う”地雷”を踏んでしまった。既存の韓国のイメージには「過酷な受験戦争」「過酷な就職の競争」というものがあるだろうが、近年はここに「不動産価格の高騰」が加わる。頑張って競争を勝ち抜いても、家が買えない。特に男性は結婚の際に家を準備するのが風習だから、高騰は人生の希望を失わせるものにもなる。

なぜ今回の件が「不公平」で恨まれる対象となるのか。全員が韓国屈指の名門・高麗大学の出身。しかもチョン・モンギュ氏は現代(ヒョンデ)グループ創業者の甥で、HDC現代産業開発の会長も務めた財閥の御曹司だ。恵まれた側が、身内で固めて監督人事を回した。この絵が、右も左も関係なく人々の神経を逆撫でする。

そもそも大韓サッカー協会が政府と近い関係にある理由は、当然のごとく「近い方が有利」だからだ。理由を近現代史に求めるのなら「政府の力が大きいから」というより他ならない。北朝鮮との緊張関係から強烈なリーダーシップを持つ大統領、大きな政府のちからにより、速い決断と実行が求められてきた社会だ。

いっぽうもう少し、長いスパンの思想史に目を向けるのなら、その内容は小倉紀蔵氏の『韓国の行動原理』(PHP新書、2021年)が参考になる。

「韓国は法律より道徳を優先する国。朱子学の影響で道徳が敵を打ち倒す武器になる」「韓国の民主主義は道徳的に正しい社会を実現するためのシステム」

と論じている。つまりチョン・モンギュ氏らは公共性の高い大韓サッカー協会にあって、不正な手続きで代表監督選任を行った。それも財閥御曹司の力を利用して。この点が「道徳的に踏み外した」から怒りを買っているのだ。

政治家は「協会の自律性を尊重」とは言うが…

韓国内でも"多少の恥じらい"はある。7月9日、韓国国会で前述の2度目の聴聞会の開催が決定した。この際、開催を決めた文化体育観光委員会のイ・ジェジョン委員長(共に民主党国会議員)は以下の発言を行った。

大韓サッカー協会の現況に関する聴聞会実施計画書の採択の件を上程いたします。
この案件は、サッカー国家代表チームの監督選任手続きと、大韓サッカー協会の運営実態全般に表れた様々な問題点について、国会レベルで検証し、大韓サッカー協会の正常化方策を模索するためのものです。サッカー協会に対して、自律性は尊重し、専門性は尊重しつつも、サッカーが持つ公共性に鑑みて、我々国会の役割を後回しにすることはできませんでした。内容は、国会法第65条により、7月22日水曜日午前10時に聴聞会を開催しようとするもので、実施計画書は....

「日本とは違うから、おかしい」とは言い切れない。ただ世界のサッカーのトップたる欧州・南米にはなかなか見られない光景だろう。あるいはアジアが作り出すあたらしい形態になるのだろうか? ちなみに韓国は02年W杯の約半年前にも、成績不振だった当時の監督のフース・ヒディンクに対して国会から「解任も検討すべき」との意見が出たことがある。その後にベスト4入りを果たすのだから、まあ「結果が出た」という前例がないわけでもなく…。

【参考文献】

韓国国会法第65条(聴聞会)

① 委員会(小委員会を含む。以下、本条において同じ)は、重要な案件の審査ならびに国政監査および国政調査に必要な場合、証人・鑑定人・参考人から証言・陳述を聴取し、証拠を採択するため、委員会の議決により聴聞会を開くことができる。

② 第1項にかかわらず、法律案の審査のための聴聞会は、在籍委員の3分の1以上の要求により開会することができる。ただし、制定法律案および全部改正法律案の場合には、第58条第6項による。

③ 委員会は、聴聞会の開会5日前までに、案件・日時・場所・証人など必要な事項を公告しなければならない。

聴聞会は公開する。ただし、委員会の議決により、聴聞会の全部または一部を公開しないことができる。

⑤ 委員会は、必要な場合、国会事務処、国会予算政策処または国会立法調査処に所属する公務員や交渉団体の政策研究委員を指定し、または専門家を委嘱して、聴聞会に必要な事前調査を実施させることができる。

⑥ 聴聞会における発言・鑑定などについては、本法に定めるものを除き、「国会における証言・鑑定などに関する法律」による。

⑦ 聴聞会については、第64条第2項から第4項までを準用する。

⑧ その他、聴聞会の運営に必要な事項は、国会規則で定める。

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ありがとうございます。
ライター(ニュースコラム&ノンフィクション)

吉崎エイジーニョ サッカーおよび朝鮮半島地域研究。時事問題からK-POP、スポーツまで幅広く書きます。北九州市小倉北区出身、大阪外大(現阪大外国語学部)地域文化学科朝鮮語専攻卒。近著に「なぜ日本サッカーは強くなったのか」(徳間書店)。サッカー専門のつもりが人生ままならず。ペンネームはそのままでやっています。本名英治。「Yahoo! 個人」月間MVAを2度受賞。西南女学院大学人文学部非常勤講師。仕事ご依頼はXのDMまでお願いいたします。

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