だれもしらないきみをみせて
よだつか事後。時々弱って子供返りするtksを甘やかしてお世話するのが案外好きなydkさんの話
以前ついったで流したものです。ぬるいですが多少の最中の描写を含みます。ydkさん激甘注意。
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ぱしゃ、と小さな水音が鳴る。
「ん……」
純の腕の中で、ほとんど目蓋を下ろしてしまった恋人が微かに身じろいだ。頬の赤みからして、もう逆上せてしまいそうなのだろう。
「司、そろそろ上がろうか」
優しく声を掛けて、浸かっていた広いバスタブから彼を支えて立ち上がる。
脱力した人間は重い。それが、己より10センチも身長が高く筋肉も一回り大きい相手なら尚更だ。だが純も場数を踏んでいるので、子供を宥めるように声を掛けながら彼を促し、肩を貸しながらゆっくりとバスルームを出る。脱衣場の簡易な椅子に彼を座らせ、丁寧に全身の雫をタオルで拭った。彼はうつらうつらしながらも、時折嬉しそうに、幼子のように笑う。
「純さん、やさしい」
「君にはね」
「おれだけ?」
「君だけだよ」
溶け掛けたアイスクリームみたいに脱力した恋人を言葉で甘やかしながら、今度は濡れた髪を丁寧に拭っていく。普段の彼が純にするように、髪を痛めないように包み込みながら水分を吸わせる。
濡れて色を濃くした彼の髪が、だんだんと元の太陽のような明るさを取り戻していくのを見るのが、純は存外好きだった。
「風、当てるね」
タオルドライが終わったら、今度はドライヤーの弱い温風で少しずつ乾かして行く。それが心地良かったのか、またこくりこくりと舟を漕ぎ始めた司に、柔らかく呼び掛ける。
「司、終わったよ。パジャマ着て、寝室へ行こうか」
「うん……」
「ん、いい子」
促されるままに立ち上がったご褒美に、頬の黒子に触れるだけのキスを落とせば、無邪気に微笑みながら抱きついてくる。その頭を時折撫でながら、純と色違いのナイトウェアを着せていく。柔らかいクリームイエローは純が選んだものだ。
「純さんも」
「うん」
おぼつかない動きで司からも純の黒のナイトウェアを着せ掛けてくれる。ありがとう、とまたご褒美のキスを贈ってから、ゆっくりと寝室へ向かった。
数ヶ月に一度、恋人の司はひどく弱る時がある。
普段は向日葵のように明るく、いつだって上を向いて生きているような男であるし、自分でも『一晩眠れば大体の嫌な事はリセットできます!』とからりと笑っていたけれど。
だけど純はもう、年下の恋人が案外複雑な人間であることを知っている。
自分自身でも気付かないまま、実際は処理しきれていない昏い感情を内へ内へと溜め込むような悪癖が司にはあった。
過去に負った傷、現在抱えている焦燥、未来への不安。
互いに違う人間である以上、司の心の内の全てを理解することは出来ないし、言葉で簡単に解決できる事でもない。それでも、何か少しでも、彼の助けになりたかった。
恋人になり、共に純のマンションで暮らすようになってからのある夜に、明らかに沈んだ様子の司にそう伝えると、彼は、どこか思い詰めたような瞳で純に告げた。
「純さん。今夜は俺のこと、手加減なしで滅茶苦茶に抱いてくれませんか」
「……理由を聞いてもいい?」
じっと見つめながら問いかければ、彼はその陽光に似た明るい色の瞳に影を落として俯く。
「時々、何をしても駄目で、何を考えても悪い風にしか思えなくて、眠ることも上手く出来なくなる日が、あって。今までは、夜通し走ったり、ひたすら夜間バイト詰め込んだり、とにかく疲れきってから眠るようにしてたんですけど」
「うん」
膝の上でぎゅっと握りこまれた彼の手を、大丈夫だよ、と励ますように上から包み込む。司は、少し泣きそうな顔で純を見返した。
「貴方と一緒にいるのに、そんな風に一人で自分を追い込んだら、きっと怒るし悲しんでくれると、思ったから。だから」
縋り付く強さで、司が純に抱きついてくるのを受け止める。彼の体は、隠すことも出来ないくらいに不安に震えていた。
「貴方に助けて欲しい。何も考えられなくなるくらいに、俺をめちゃくちゃにしてください」
「いいよ」
──きっと彼は、『滅茶苦茶にする』という言葉を、乱暴に、独りよがりな欲をぶつけるように抱いていい、という意味で使ったのだろう。そういう自傷の色が、あからさまに彼の瞳や口調に滲んでいたから。
けれど純はその代わりに、初めての時よりもずっとずっと丁寧に、そして執拗に彼を抱いた。準備はしてあるからすぐに入れてもいい、なんて当たり前に言い放った彼の口をキスで塞いで、それから長い長い時間を前戯に費やした。もう辛い、はやく挿れてと彼が泣いても止めなかった。彼の望む通りにしただけだ。
司は純が中に入る頃にはもう、ぐずぐずに溶けきってまともな言葉も紡げなくなっていた。
ひたすらに甘くて意味をなさない喘ぎだけを溢す司を、何度も何度も暴いて──そうして、精も根も尽き果てた後に現れたのが、まるで幼い子供のように、純に甘える司だった。
キングサイズのベッドに、司を促して一緒に体を横たえる。上掛けを互いの肩まで引き上げると、司はとろんとした瞳で純を見つめている。
「純さん、ぎゅってして」
「うん、おいで」
促せば、すぐに司が純の胸元に顔を押し付けるように抱きついてくるから、両腕でしっかりと抱き込んでやった。そうすると、安堵に彼の肩からすっと力が抜けていく。
「起きるまでこうしててね」
「大丈夫だよ」
「ずっとそばにいてね」
「うん、離してあげないよ」
彼のつむじにキスを落とす。
しばらくすると、小さな寝息が胸元に当たる。そのくすぐったささえも愛おしかった。
自分よりもだいぶ年下とはいえ、彼は純よりも体格のいい立派な成人男性だ。その彼がこんなに可愛く思える日が来るのだから、人生というものは本当にわからない。
氷の上だけで生きていけなくなったら、後はもう、カラカラに乾いて朽ちて行くだけだと思っていた。
誰かの為に生きようと思う日が来るなんて、想像もしていなかった。
彼が願わなくたって、もう、手放せる筈がないのだ。
「ううううううううううう」
朝になると、あの可愛らしい幼い司はあっさり消えて、羞恥に身悶えるいつもの司が戻ってきていた。まあ、これはこれで可愛いのだけど。
「いつものことなんだから慣れなよ」
「純さんの順応性が俺は怖い……」
おれアラサーなのにほんとなんであんな幼児みたいに!と、しっかり記憶は残っているらしい司が朝から暴れるのも恒例のことだ。純からすれば、何が問題なのかさっぱりわからない。
「あ、あんな、ベタベタに甘やかさなくていいんです。どうせヘロヘロなんだから適当に寝かしておいてくれれば」
「嫌だよ。僕の楽しみを奪わないで」
「……純さんの趣味が悪すぎる」
「恋人を甘やかして何が悪いの」
「ううう朝から追撃しないで死んじゃう……」
「何言ってるの、死なせないよ」
顔を覆う両手を引き剥がして、少し潤んだ大きな瞳を覗き込んで。
「ちゃんと僕と長生きしてね。『ずっとそばにいてね』って言ったのは君だよ」
「……いっ、言いましたけど!」
「離してあげないから、安心して」
「~~~~~~~っ」
呻き声なのか悲鳴なのか、よくわからない声を上げて司は純の胸にぐりぐりと頭を擦り付けた。また昨夜の幼い司に戻ったような仕草に、小さく喉を鳴らして笑う。
「純さん」
「なに?」
「だいすきです」
「知ってるよ」
純はまた笑って、胸に抱き付いたままの恋人の赤く熟れた耳朶に、かぷりと噛み付いた。