サッカーW杯を欧州がボイコットへ、アジアも反発 FIFA子会社案

遠田寛生 ベルリン=藤原学思 ワシントン=中井大助
[PR]

 国際サッカー連盟(FIFA)が打ち出した子会社設立計画の撤回を求め、欧州サッカー連盟(UEFA)は7月30日、加盟する全55協会がワールドカップ(W杯)などのFIFA主催大会をボイコットする方針を全会一致で決めたと発表した。北中米カリブ海サッカー連盟(CONCACAF)も同日、FIFAの提案について「拒否する」との声明を発表した。

 UEFAは声明で「W杯は売り物ではない」とし、計画が取り下げられない限り大会には参加しないとしている。FIFAの収入の柱である男子のW杯は、次回は2030年にポルトガルスペイン、モロッコの3カ国を中心に行われる予定。また、女子W杯は27年にブラジルで開催される。

 FIFAは7月28日、子会社の設立計画を発表。W杯を含めた主催大会の運営と商業活動を担うとした。当初の株式評価額を200億ドル(約3兆2千億円)規模に設定し、最大2割の株式を投資家に売却するとしている。

 設立要件には、加盟協会の過半数の支持やFIFA理事会の承認が挙げられているが、UEFAは「外部の投資家がFIFA大会の所有権を得た瞬間から、サッカーは永遠に変わってしまう。商業的な利益は永続的な義務になり、投資家の期待は重圧に変わる」と警告した。

 UEFAは計画発表の過程にも反発。加盟協会に相談がなく、秘密裏に決められたことに対し、「無責任でとても正当化できない。民主的な決定ではなく、脅迫による統治だ」と痛烈に批判した。

 CONCACAFは29日にも、FIFAの計画を疑問視する声明を発表していた。30日には、加盟する41協会が緊急の会合を開いて対応を協議した。

 発表によると、FIFAの提案のプロセスなどについて各協会から重大な疑義が提起され、外部投資の必要性についても疑問が上がったという。CONCACAFは「提案を拒否する」としたうえで、インファンティノ会長がFIFAの規約に沿いながら、適切に組織運営するよう求めた。

 ロイター通信によると、アジアサッカー連盟(AFC)のサルマン会長もFIFAの計画に激怒し、加盟する47の協会に送った書簡で「全く受け入れられない」と訴えていたという。

「サッカーの守護者としての責務放棄」

 FIFAに加盟する211協会のうち、26%の55協会をUEFA加盟が占める。最新のFIFAランキングでは、世界トップ20のうち、男子、女子ともにそれぞれ11協会がUEFAに加盟する。それがW杯に出ないとなれば、影響は計り知れない。

 スイスに本部を置くFIFAは、1904年に設立された非営利の団体だ。しかし、28日に公表された計画では、新たに子会社「FIFAフォワード・エンタープライズ」(FFE)を立ち上げ、W杯の放映権やスポンサーシップなどを通じて、商業的な価値を最大限にすることをめざすとしている。

 UEFAは加盟全55協会とともに出した声明で、「世界サッカーの守護者としてのFIFAの責務の放棄だ」と強い言葉を使って非難した。

 UEFAはまた、外部の投資家が関与する問題点として、競技にとってではなく、株主にとって何が最善かで決定がなされると強調。「サッカーの未来が、経済的利益の最大化を第一の義務とする人びとの期待によって支配されることがあってはならない」と訴えた。

FIFA会長とトランプ氏周辺の関係

 UEFAがここまで強く反発する理由の一つに、FIFAのインファンティノ会長に対する不信感が増していることがある。

 19日に閉幕したW杯北中米大会では米国選手にレッドカードが出されたのに、トランプ大統領による介入を疑わせる行動の後、次戦出場停止の処分が猶予された。UEFAはこれに対し、「一線を越えた」「大会の信頼性が損なわれる」と非難する声明を発表。UEFAのチェフェリン会長は、決勝の観戦も見送った。

 また、FIFA子会社の投資家グループを主導すると名指しされているのは、トランプ氏の長女の夫、クシュナー氏の弟ジョシュア氏が率いる会社だ。

 米紙ウォールストリート・ジャーナルは「インファンティノ氏にとって、トランプ氏の周辺との関係をさらに深める絶好の機会だ」と皮肉交じりに伝えた。インファンティノ氏とジョシュア氏は、遅くとも昨年から計画について議論していたという。

欧州にとってのサッカーとは

 欧州の市民にとって、サッカーは娯楽やビジネスといった側面だけではなく、「公共財」としての性格が強い。

 20年時点で、UEFA内の登録選手は約2千万人。多くの選手が憧れる「5大リーグ」のチームだけではなく、各地域に「我がまちのクラブ」があり、プレーや観戦が生活の一部となっている。

 そうした公共性を損ないかねないFIFAの計画には反対の声が多く、英国のバーナム首相は28日、「サッカーは投資家のものではない」とSNSに投稿。「サッカーはファンのものだ。これまでもそうだったし、これからもそうだ」と訴えた。

 ドイツ政府の副報道官も29日、FIFAの計画について問われ、「スポーツには極めて重要な社会的意義がある」と指摘。「いかなる経済的利益がからもうが、大規模なスポーツイベントがファンにとって開かれたもので、社会的意義や人びとを結束させる力が維持されることが重要だ」と述べた。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

この記事を書いた人
遠田寛生
スポーツ部
専門・関心分野
大リーグなどスポーツ全般、アンチドーピング
藤原学思
ベルリン支局長
専門・関心分野
ウクライナ情勢、ドイツ、中欧、偽情報、陰謀論
  • commentatorHeader
    三牧聖子
    同志社大学大学院教授=米国政治外交
    視点いまなら試し読み

    新たに立ち上げられるFIFA子会社は「W杯の放映権やスポンサーシップなどを通じて、商業的な価値を最大限にすることをめざす」という。しかもこの子会社の投資家グループを率いるのは、トランプ米大統領の娘婿ジャレッド・クシュナーの弟、ジョシュア・クシュナーだ。記事によれば、インファンティノFIFA会長とクシュナーは、遅くとも昨年からこの計画について議論していた。 先日閉会した米・メキシコ・カナダ3カ国共同開催のW杯2026については、「あまりに商業化しすぎだ」との懸念や批判が多く寄せられた。不自然に長いハーフタイムショーや、CMを挿入するための水分補給休憩。その結果、150億ドル(約2兆4300億円)という史上最高となる収益を叩き出したが、FIFA子会社案なるものが持ち上がった今となっては、「W杯がいかに儲かるかを有力投資家に示し、彼らの投資を引き出すために仕組まれたW杯だったのではないか」との批判の声が続々とあがる。 民間の投資家がW杯の運営に大々的に参入すれば、商業利益の最大化を目指して極端な商業主義に走ることは想像に難くない。今回のW杯で問題となったチケット価格の高騰問題はさらに悪化し、試合を観戦できる人はますます一部の豊かな層に限定される。巨大な大会運営には費用がかかる以上、いかに収益をあげるかという問い自体は否定されるものではないが、FIFA子会社案が敢行されれば、W杯は「株主利益の最大化のためのW杯」へと決定的に変質してしまうのではないか。

    2026年7月31日 09:44

関連トピック・ジャンル

ジャンル